きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
070208sarusuberi.JPG
百日紅(さるすべり)




2007.4.3(火)


  その2  
その1へ



詩誌『黒豹』114号
kurohyo 114.JPG
2007.3.30 千葉県館山市
諫川正臣氏方・黒豹社発行 非売品

<目次>
諫川正臣/渚にて 2            諫川正臣/頼んまっせ 3
西田 繁/背中 4             西田 繁/独り旅 5
よしだおさむ/化石の街で 6        よしだおさむ/空っぽ 7
前原 武/絵の年賀状 8          前原 武/一杯飲み屋で隣の人が 9
山口静雄/クリスマス 10          富田和夫/プラハにて 11
杉浦将江/光る 12             杉浦将江/神戸 13
本間義人/「地獄の門」に真向って 14     本間義人/眠る男 15
編集後記 16



 眠る男/本間義人

時計が九時を回っていた
朝ごとの忙
(せわ)しない日課をよそに
男がひとり
いつまでも光を浴びて眠り続けた

顔の真ん中のあたり
堆く盛上がった白布の下で楽々と

「おいっ」と呼んでも返事がない
猫がきょとんと座っている
何事だろう
出社時間はとうに過ぎてしまったのに

 二十五年間
 鉄やなまりで武装して
 時間は常に外部から急き立てて来た

 顔を洗う 飯を食う 靴を履く
 そんな何気ない営みも
 ひとつ一つが予定の鎖に縛られて
 他人の所有に仕組まれていた

 他人の日常を忠実に生きるために
 それだけが恰も生甲斐のように
 「仕事」の山の直中に
 我とわが身を捧げつづけた
 このサラリーマンの実直な歴史よ

この男が 今日は様子が違っている
日が陰っても黙っている
時間の外にあっけらかんと寝そべって
上司の訪問に挨拶も返さない

垣根にカラスが寄って来た
庭のcosmosが揺れていて
どこかで囁く声もする
――「もういいのよ」と

 長い間「サラリーマン」を続けた私にはよく判る作品です。「ひとつ一つが予定の鎖に縛られて」「他人の日常を忠実に生きるために」「我とわが身を捧げつづけ」てきたのだなと改めて思います。その代償として多寡はともかく賃金を受け取ってきたのですから文句は言えないのかもしれませんけど、やっぱり「鉄やなまりで武装し」た生活だったなと思います。
 この作品の最終連・最終行「――『もういいのよ』と」というフレーズに救われる思いがしたのは、私ひとりではないでしょう。「実直な歴史」を今も続けるサラリーマン諸氏への応援歌と受け止めました。



詩誌『詩区 かつしか』91号
shiku katsushika 91.JPG
2007.3.23 東京都葛飾区 池澤秀和氏連絡先 非売品

<目次>
そうだったのか/堀越睦子          古い我家/青山晴江
人間79 リルケ脳乱/まつだひでお      人間80 ルージュ/まつだひでお
法子の呟き/小川哲史            再会/小川哲史
いいかげん/小林徳明            待ったなし/小林徳明
あと さき −それから−/池沢京子     三月十二日/みゆき杏子
サンシャインの彼方に3/しま・ようこ    負けず嫌い/工藤憲治
お別れ/工藤憲治              めだかの小道/内藤セツコ
夜空/池澤秀和               椿/石川逸子



 古い我家/青山晴江

大きく揺れれば
わらわらと くずれ落ちそうな
古い我家をどうしよう
ぴかぴかの
新築なった隣の家に招かれて
いいですねぇと 相槌を打ちながら
我家の屋根を見下ろせば
これはこれは
ペンキも剥げて ひどいありさま
アルミサッシの薄いガラスを通して
老母・息子・私――三人の暮らしが
いじらしく透けて見えてくる
ネズミがチョロチョロ
ヤモリがひたひた
小さな生き物たちが戸をたたく家だ

遠く見渡せば
ぎっしりと連なる家という家
いろいろな形
それぞれの暮らし

夕暮れの雲間から
光の筋が降りてくる
空が両の腕
(かいな)を差し伸べているようだ
さわさわと
風が路地を吹き抜けていく

日没まで
まだ陽はあるけれど
今夜は早めに
灯りをともそう

 「ぴかぴかの/新築なった隣の家」に比べると、何とまあ「わらわらと くずれ落ちそうな/古い我家」! しかし其処には「光の筋が降りて」きて、「空が両の腕を差し伸べているよう」なのです。「我家の屋根を見下ろせば」とありますから、「隣の家」は二階家で「我家」は平屋なのでしょう。もう一方の隣の家も二階家なのかもしれません。両側の二階家に挟まれた平屋には、しかし、「空が両の腕を差し伸べて」くるのです。この描写は佳いと思います。
 最終連の「今夜は早めに/灯りをともそう」も佳いですね。「古い我家」であるからこそ、あたたかい灯りを早く点そうという健気さに救われる思いをしました。



詩誌『衣』10号
koromo 10.JPG
2007.3.20 栃木県下都賀郡壬生町  700円
森田海径子氏方「衣」の会・山本十四尾氏発行

<目次>
「衣」十号によせて/山本十四尾 2      階段について/山本泰生 3・4
有刺鉄線/山田篤朗 5           拝む/葛原りょう 6
回天 砕け散る/大原勝人 7        雑草/豊福みどり 8
水の音色/桂木沙江子 9          優佳良織/相場栄子 10
春/大磯瑞己 11              Vサイン/四宮弘子 12
形象/おしだとしこ 13           反逆/佐々木春美 14
届かぬ愛/喜多美子 15           ヒガンバナ/江口智代 16
狂った秒針/千本 勲 17          カラクリゲントウキ/月燈(つきひ)ナユタ 18
造花/鶴田如奈美 19            雨模様の空/上原季絵 20
小夜(さよ)語り その二/岡山晴彦(はるよし)21 金(きん)はとこしえにあたわず/大山真善美(ますみ) 22
春雪/うおずみ千尋 23           眉月/森田海径子(かつこ) 24
鬼捜し/山本十四尾 25
同人詩集紹介 26              同人近況 27・28
後記 29                  住所録 30



 雑草/豊福みどり

小さな庭にも春が来た
風が庭を吹き抜けるたび
いたる所から草の芽が顔を出し
ひと雨ごとに勢いづく

窓越しに
草たちの生育を眺めながら
長閑な春日が過ぎていく
雑草は ひたひたと着実に
庭を占領し始め
うろたえる私

或る日とうとう意を決し
草むしりをするにあたり
雑草の名前を調べる

ははこぐさ  ほとけのざ たつなみそう おおばこ こばんそう  ねじりばな
母子草 仏の座 立浪草 大葉子 小判草 捻り花

おどりこそう なずな にしきぐさ みみなぐさ ときわはぜ つゆくさ  はこべ
踊子草 薺  錦草 耳菜草 常磐櫨 露草 繁縷

かやつりそう
  せいようたんぽぽ  かきどお  おひしば  すずめかたぴら
蚊屋吊草 西洋蒲公英 垣通し 雄日芝 雀の帷子

やはずそう
 どくだみ かたばみ すべりひゆ おおいぬ ふぐり  のぽろぎく
矢筈草 草 酢漿 滑 大犬の陰嚢 野襤褸菊

この庭には
そうそうたる名前の雑草が居並ぶ
それぞれに生きる姿がある
私の心算では
とても抜けやしない

 雑草という草はない、あるいは雑草という名の草はない、ということはよく言われることですが、それにしてもこんなに「そうそうたる名前の雑草」があるとは思いもしませんでした。そこに眼をつけた秀作と云えましょう。最終連の「私の心算では/とても抜けやしない」というフレーズも、「雑草の名前を調べ」て愛着が湧いてしまった「私」の気持が出ていて微笑ましく思いました。草花の名前はカタカナで書くことになっていますが、やっぱり漢字の方が良いですね。草たちの姿が立ち上がってきます。カタカナ語への反発という面もあるのかなと感じました。
 表記で一部で見苦しい漢字があって申し訳ありません。一般のパソコンでは表現できない文字ですので、特殊なソフトを使っています。ご了承ください。



会報
『中四国詩人会ニューズレター』20号
chushikoku shijinkai news letter 20.JPG
2007.3.1 徳島県阿南市 宮田小夜子氏事務局・扶川茂氏発行

<目次>
中四国詩人会第13回理事会報告 1
受贈詩集等(06/12〜07/2) 2



 1面に第7回中四国詩人賞の募集要項が載っていました。対象は2006年5月1日より2007年4月30日までに出版された詩集で、応募期間は2007年4月1日より5月15日まで。応募先は事務局長の宮田小夜子氏宛。氏の住所は記載しませんが、公募の賞ですので我こそはと思われる方は応募してみてはいかがでしょうか。過去には質の高い詩集が受賞しています。
 同じく1面で日本詩人クラブの長野大会を宣伝してくださっていました。主催者側の一員として御礼申し上げます。ありがとうございました。



   その2  
その1へ

   back(4月の部屋へ戻る)

   
home