きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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百日紅(さるすべり)




2007.4.3(火)


  その1  
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 愛犬百個(ももこ)の美容院の日。迎えに行ったらケージに入れられていて、私の顔を見てワンワンと吠え出しました。珍しいことです。いつもは尻尾を激しく振るだけ。トリマーも「カット中は吠えなくてイイコなんですけどね、嬉しいんですかね」と言っていました。吠えないというのはその通りだったんでしょう。家の中でも滅多に吠えません。
 おそらくトシのせいだろうと思います。吠えないということは自分を抑えていること。加齢とともにその抑えが効かなくなってきたのかもしれません。人間も同じです。加齢とともに怒りっぽくなる人がいますが、抑えがだんだん効かなくなってきているのです。私自身を考えると、よーく分かります(^^; 慰めあいながら帰って来ました。



詩誌『馬車』36号
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2007.4.5 千葉市美浜区
久宗睦子氏発行 非売品

<目次>
扉詩…影 ついきひろこ
A・指導の顛末… 洋子 4
花を摘みに 暗い森に入っていったのです…春木節子 8
カルカソンヌ・ガラスの中…ついきひろこ 11
アイスクリーム・鮠…山本みち子  14
七頭の子羊・かくれんぼ・知の翼時空の船…住連木律 18
深夜の電話・牛…馬場晴世 22
青池・鴬…丸山乃里子 26
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招待席
桜に寄せるソネット・日没…大八木敦彦 30
除夜…中村不二夫 32
〔詩集評〕山本みち子詩集「オムレツの日」に寄せて…小城江壮智 34
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水の入れ子…堀田のぞみ 36
rhapsody in blue・テナーサックス・夜の…久宗睦子 38
あかねぞら・言霊…田中順三 42
〔評論〕Aqua Meets Bioliterature(水と生物文学の出会い)…堀田のぞみ 46
果樹園日乗・抄(Y)…本多 寿 50
MEETING ROOM、
後記・同人名簿



 深夜の電話/馬場晴世

深夜電話がなった 出ると
明日伺いますから
聞き覚えのない女の声ですぐ切れた
誰だろう
明日はイエイツの講義に行くから留守にするのに
わりと爽やかな声だ
えっ死神?

幼い子や若者が事故で死ぬ
病でこの世を去る友人や知人
死はすぐ傍らにあると思いながら寝たからだろう

死神が来るという翌日は
冷たい風が吹いていたが快晴で
死の影はどこにもないかに見えた
大勢の人が生き生きと歩いている
市ヶ谷に着くと
総武線が人身事故で不通だという
ああ一人やられた

死神なら場所も時も問わずにやって来る
講義のあとは食事会で
数日前に亡くなったイエイツの息子の
マイケルのことが話題になったが
死神のことは忘れて過ごし
夜床に入って思い出した
黄泉への舟は来なかった
鐘の音も聞こえない
電話のかけ間違いだったのだろう
でも一日彼女に近づいたと思うと
静かに雨の音がしてきた

 「電話のかけ間違いだった」かもしれませんが、私たちは着実に「一日彼女に近づい」ています。最終連、最後の1行「静かに雨の音がしてきた」は、「聞き覚えのない女の声」なのかもしれません。怖いですね。怖いけどなぜか「わりと爽やかな」印象を受けます。作者の語り口のあっさりしたところがそういう印象を与えるのでしょう。「でも一日彼女に近づいたと思うと」というフレーズは、本来なら思う≠ナ切るか、思うと…≠ニするところですが、そうではないところにこの作品の面白さを感じました。そこも爽やかさに繋がっているように思いました。



詩誌『貝の火』16(終刊)号
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2007.3.21 神戸市須磨区
月草舎・紫野京子氏発行 800円

<目次>
「月の火」によせて/竹内敏信 2
<詩> 稀れびと抄/田中清光 4
追悼*村岡空 19
村岡空*小詩集 20
追悼文 鈴木漠・関塚昇・中上哲夫・皆川効之・小柳玲子・小林重樹・紫野京子・斉藤直巳 40
追悼詩 中正敏・香山雅代 62
村岡空とのこと 村岡行悦 66
詩集『かきくけこ』への書簡から抜粋 71
追悼*高野喜久雄 77
高野喜久雄*小詩集 78
追悼文 松本康子・
Pierluigi Bacchini 96
追悼詩 
Daniele Cavicchia 100
追悼文 
Pasquale del CimmutoPaolo LagazziRenato MinorePlinil PerilliGiancarlo Pontiggia・古田嘉彦・紫野京子 102
コンサートレポート 雨宮テイコ 119
追悼詩 岡島弘子・本多寿 120
「貝の火」終刊に寄せて 清水茂・後藤信幸・雨宮ティコ・小出眞理・岡島弘子・西岡光秋・淺山泰美 127
<エッセイ> しめくくり/杉山平一 146
<詩> 指・芸術家に何ができるか/朝倉 勇 148
   幻花・風の芍薬/紫野京子 154
終刊にあたって/紫野京子 158
「月の火」全目次一覧 162
表紙画 難波田龍起/扉写真 竹内敏信/挿画 難波田龍起・武内寛・紫野京子



 非在/村岡 空

「非在」という言葉は
如何なる辞書にも載っていない
だが しかし
「不在」という言葉とは
何処か微妙に違ってはいないか

「在ルニハ非ズ」と訓読すれば
「在ラ不」と断定するよりも
あえかなる悲しみが伝わって来る

そして その悲しみは
草庵のつららの如く
幾重にも列なり
人の世の死へと結び付く

今朝
古い墓場の石の地蔵尊を拝み
その「非在」の悲哀が分かった
首が落ちても
にっこりと

 詩集『かきくけこ』より

 残念なことに終刊号です。年に一度のペースながら良質な散文・詩作品の多い詩誌でしたから、送られてくるのを密かに楽しみにしていました。今号は2005年3月に70歳で亡くなった村岡空さん、2006年5月に79歳で亡くなった高野喜久雄さんの追悼号ともなっています。ここでは村岡空さんの遺稿詩集に収められているという「非在」を紹介してみました。最終連の「首が落ちても/にっこりと」というフレーズに僧侶でもあった作者の非凡さを感じます。お二人のご冥福をお祈りいたします。




うおずみ千尋氏詩集『牡丹雪幻想』
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2007.4.25 東京都板橋区 コールサック社刊 2000円+税

<目次>
第一章 牡丹雪幻想
牡丹雪幻想 8    覚醒 12       泳ぐ 16
小橋 18       波頭 20       春雪 22
飛ぶ 24       蛍 28        湖底 32
百日紅 36      囲炉裏 40      積雪の夢 44
第二章 シーラ カムイ
シーラ カムイ 48  啓示の雨 52     大銀杏 56
風衣 60       はなびら餅 64    風の中 66
ジャム・トースト 68  鳥 72        贈り物 74
朝 76        寒水仙 78      二月の海 82
あとがき 87



 牡丹雪幻想

届いてしまいそうな空を見上げ
傘を開く
いつの間にか
花びらに似た雪片が
肩に
袂に降りかかり
錆朱色
(さびしゅいろ)の細い矢模様の先に 瞬間留まっては
小さな
水滴になる

通りの向こうのバス停にも
雪は舞っている
垂れ落ちた窪みから零れ出て
何と
軽やかな片々

バスを降りて来た男
(ひと)
黒いコートに降りかかる
胸に裾に降りかかる
城下町の凍てる石畳
向こう側と
こちら側
佇ち尽くす無言の距離に
白い花が
舞っている

 1998年の第2詩集校正後に失明したという著者の第5詩集です。失明しても3年に一度の割で詩集を出し続ける著者に、まず敬服しました。紹介した詩はタイトルポエムで、かつ巻頭作品です。失明ということを知らずに拝読していて、第1行の「届いてしまいそうな空」という詩語に思わず惹きこまれてしまいました。低い雪雲を自分の手の範囲として捉えた名言です。そして、失明を知ったあとにもう一度考えました。失明前後、どちらの状態で見た空なのかと。しかしそれはまったくの愚考だとすぐに判りました。この詩人にとっての詩は、失明とは関係がないのです。詩は詩としてのみ詩人の内部に屹立しています。
 最終連の「バスを降りて来た男」は、夫君を亡くされているとのことですからご主人のイメージなのかもしれません。おそらく「錆朱色」が好みだったご主人と、今は静かに語り合っている、そんな情景が伝わってきます。著者の作品は『COAL SACK』などで何度か拝見していますが、まとまった詩集という形で今回初めて拝読して、その詩精神の高さに胸打たれました。多くの人に読んでいただきたい詩集です。



大畑善夫氏詩画集
『石ころ達の夢』
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埼玉県蓮田市 私家版 非売品

<目次>
兎のピクニック 4  深い海に眠る 6   通せんぼ 8
落ちこぼれ 10    忘れられたものたち12 届かなかったもの 14
寂しい実験 16    夢の中で 18
人間以外の夢
 蝶の夢 20      犬の夢 21      魚の夢 22
 ムカデの夢 23    雀の夢 24      ミズスマシの夢 25
 金魚の夢 26
大きくなったら
 ドジョウ他 28    小石 29
小さくなったら
 ライオンの場合 30  恐竜の場合 31    火山の場合 32
 太平洋の場合 33   太陽系の場合 34   神様お願い
子鹿のお願い 36   蚊のお願い 37    兎のお願い 38
狼のお願い 39    ゴキブリのお願い40  今日の儲けもの 41
藁人形と5寸釘 42  人間滅びなさい 44  地球滅びなさい 46
宇宙蛙 48      帰る 42       幸せを数える 50
生態系上位 52    生態系下位 54    砂の人形 56
帰る 58       明日また 59
楽譜
読んでくれた方へのお願い



 兎のピクニック

今日は朝からよい天気
お出かけするには良い天気
御弁当要らない季節です
おいしい草が何処にでも

時々兎が立ち止まる
お耳をたてて注意する
深い草には蛇がいる
兎は蛇のお弁当
油断も隙もありゃしない

か げ
岩陰から狐もねらっている
頭の上には豹がいる
水辺はワニが狙ってる
兎はみんなのお弁当
油断も隙もありゃしない

青いお空にゃ鳶や鷲
花咲く野原に寝ころべば
鳶も鷲も急降下
逃げるひまなどありゃしない

兎は時々立ち止まる
長いお耳をたてながら
草をたべたべ考える
明日天気にしておくれ

 娘さんの絵やご自身で撮った顕微鏡写真が添えられた楽しい詩画集です。手造りの良い味も出ています。紹介した詩は巻頭作品で、可愛いピンクの兎の絵も添えられていました。兎にとっての「御弁当」は「おいしい草」ですが、「蛇」や「豹」「ワニ」、それに「鳶や鷲」にしてみれば兎が「みんなのお弁当」というちょっと怖い視点がユニークです。しかし作品はどこまでも爽やか。著者の生死を達観した姿勢からそう見えるのかもしれません。詩と絵を眺めて、楽しませていただきました。



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