きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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百日紅(さるすべり)




2007.4.18(水)


 所要があって新宿に出ました。帰りに寿司屋に寄って、今日は珍しい日本酒を呑みました。青森の「田酒」。知る人ぞ知るらしいお酒らしいんですが、私好みの口当たりの良さです。日本酒は3000とも5000とも言われる蔵元がありますから、私が知らないお酒があるのは当然なんですけど、それにしても佳い酒が多いなと思います。続いて珍しく燗酒の秋田「どっから」というのも呑んでみました。これも善かったです。燗はマズイ酒がするものという先入観があったのですが、ちょっと考え直しましたね。そういえば「八海山」はヌル燗が最高でした。38℃ぐらいの人肌。
 日本酒は冷、常温、ヌル燗、熱燗といろいろに楽しめます。こういうお酒は世界でも珍しいんじゃないでしょうか。良い国に生れたと思います。わさわざ美しい日本≠ネんて言う必要はありません。美しい日本酒、こういきましょう!



北村愛子氏詩集『お墓の意思表明』
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2007.4.15 東京都中央区 OFFICE KON刊 1500円

<目次>
あんぱん・くりーむぱん 6         もっとやわらかく煮てーな 8
夕陽 10                  医師はわたしの顔を見る 12
長い隧道をぬけると青い空があった 14    母親の顔 18
意識不明 20                その時思った 22
祈る 26                  右目があいた 28
意思表示 32                母の永眠前後 34
お墓の意思表明 36             母の声 40
呼び名 42                 朝 44
小鳥 46                  スルメイカ 48
包丁と砥石 50               孫の手紙 52
のたまう 54                秋の日に 56
あとがき 58
装幀・近野十志夫



 お墓の意思表明

母の新しいお墓は
洋型のお墓です
墓石の表面には「へいわ」ときざまれています
一九一三年生まれの母の一生は
戦争にあけくれました
焼夷弾の降る中を
懸命に逃げて生きのびましたが
家は全焼
焼けぼっくいで立てた掘っ立て小屋に住み
母の弟はフィリッピンで
二人とも戦死
戦地から帰ってきた夫は
肺結核が重く十センチもの空洞で
手術の甲斐もなく死亡

女手一つで子どもを育てた
母の一番のぞんだことは
戦争のない「へいわ」な社会です

この新しい霊園には
もう一つ「平和」ときざまれた
お墓があります
そのお墓の前を通ると
仲間にめぐりあったような
うれしさを覚えます

「へいわ」を守ろう
「平和」を守ろう
とお墓が呼びかけているのです

この霊園には
「やすらかに」「和」「憩い」
「ゴルフ場の絵を描いた」
洋型のお墓があります

ゴルフがとても好きだった故人なのだ
と微笑ましくなります
平和でなければゴルフも出来ない
と言っているようです

新しい霊園では
お墓も意思表明をしているのです

 昨年92歳で亡くなった母上への追悼詩集です。表題となった作品を紹介してみました。「へいわ」と刻まれた「お墓の意思表明」がよく伝わってきます。「平和でなければゴルフも出来ない」というフレーズも佳いですね。仕事も遊びも平和の上に成り立っているのだとつくづく思います。
 この詩集の中では
「もっとやわらかく煮てーな」を拙HPですでに紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、生前の母上の姿を偲んでみてください。改めてご冥福をお祈りいたします。



詩誌『プリズム』2号
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2007.4 堺市東区 西きくこ氏代表 非売品

<目次>
東尾緯子…花がらつみ 1、土 3、母の庭 5
福岡公子…魂 7、食卓 9、時の足跡 11
吉田国厚…軽口 13、都会 15、いじめ 17
西きくこ…一歩先 19、顔 21、松ぼっくり 23
波長 芽 27
表紙・カット 吉田一之



 食卓/福岡公子

六人がけのテーブルを
いつも四人で囲んでいた
夫婦が隣同士に並び
向かい側に小雀のような娘たちがいた

一人減り 二人減り
ついに二人だけになってからも
なんの疑問もなく
隣に座り続けていた

夫婦は長年
娘たちの顔ばかり見て暮らしてきた
ようやく目の前の空白の
その不必要さに気付き
とても久しぶりに
向かい合って座った

忘れかけていた
白いスタートラインのように

 「なんの疑問もなく/隣に座り続けていた」というのがよく判る作品です。そして「とても久しぶりに/向かい合って座った」というのも判って、新鮮に写りました。「夫婦」なんてそんなものかもしれませんね。どちらに座ろうと「二人だけ」の世界がちゃんとあって微笑ましくなります。
 最終連もよく効いています。「白いスタートライン」という言葉が眩しく迫ってきました。日常の何気ない風景が見事に詩化された作品と云えましょう。



詩誌23号
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2007.4.10 埼玉県所沢市
書肆芳芬舎・中原道夫氏発行 700円

<目次>
詩作品
扉詩 祈り…山尾三省 1
杉にもたれて…金 鎮湖 4         近況…王 秀英 6
昔 むかし あるところに…築山多門 8   火の玉…中原道夫 10
夜明け前・大樹に…門林岩雄 12       就眠儀式…青野三男 14
紅富台別荘地…忍城春宣 16         一枚のパンフを手に…江口あけみ 18
冥王星(プルートー)させる…平野秀哉 20   ひっつめ髪…肌勢とみ子 28
湖水に沈んだ村…香野広一 30        橋を渡る…向井千代子 32
賭け・畑…北野明治 34           夜明け…北村朱美 36
傾く海…浅野 浩 38            擬態…後藤基宗子 40
見ていた人…みせけい 42          留置場…竹下義雄 44
逝く道に…吉見みち 46           退化…二瓶 徹 48
山百合…浅井たけの 50           いなり寿司…長谷川昭子 52
隅田川の月…小野正和 54          秘密…月谷小夜子 56
エッセー
生きることから生まれる詩…中原道夫 22   優しい位置と認識と(江口あけみ詩集について)…三田 洋 26
「時」…北村朱美 28             国語に住む…小野正和 30
平成の子守唄…後藤基宗子 32        両刃の剣…二瓶 徹 34
丁亥(ひのと)年は華やいで…浅井たけの 36  自覚…竹下義雄 38
新商売…肌勢とみ子 40           櫻雑感…北野明治 42
五十肩だと思っていたら…月谷小夜子 44   吟遊詩人の旅−坂井のぶこ…浅野 浩 46
ど根性苦瓜…長谷川昭子 48         武蔵野の面影を求めて…香野広一 50
喜怒子さん その七…吉見みち 52      さぎなみ考…向井千代子 54
バリアフリー…みせけい 55
の本棚(書評)…平野秀哉 58       戦禍の残像が投影している(詩誌評)…香野広一 60
の窓…62                 題字・表紙目次装画…中原道夫



 留置場/竹下義雄

まばたき一つしない
天井の明かり

満員でも言えない
御礼
国際色ゆたかでも
万国旗は
はためかない

上げ膳
据え膳
戸締りは万全

競り合う
いびき
歯ぎしり

いらだちの爪が
壁に刻んだ
おくやみの文字

サイレンを置き去りにして
遠ざかるパトカー
いつまでも点滅している回転灯

寝付くまでの
フィナーレ

 現代詩の中では珍しい素材と云えましょう。今号の作者のエッセイ「自覚」によると、作者は警視庁の警察官だったようです。私は一度だけ地方裁判所の「留置場」を見学したことがありますが、確かに「戸締りは万全」でしたね。第2連の「満員でも言えない/御礼」には失礼ながら笑ってしまいました。しかし「国際色ゆたかでも/万国旗は/はためかない」というフレーズでは外国人の犯罪が多いことが想起され、そう笑ってばかりもいられないぞと思いました。いずれにしろ、普段我々が眼にしないこういう光景はもっと書かれても良いと感じています。文学は人間を描くもの。その意味でも我々が書けない分野を、書ける人はどんどん書いていただきたいものです。



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