きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.4.8 神奈川県真鶴岬




2007.5.1(火)


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 5月になったというのに寒いです。昨日はTシャツで過ごせるほどだったのに…。昨日と今日とでは10℃以上気温差があるようです。4月の後半はストーブを片付けようかと思ったほどでしたが、今日は夕方に点けてしまいました。ストーブを点けるという行為を忘れていて、なにで寒いんだろう? と書斎のドアを閉めて、、、あっ、そうか、暖房がないんだ! あわててストーブ点火。それほど寒さを忘れていたんですね。4月に夏日がやってきたり、5月初日に暖房が必要だったり、地球は少しずつ狂い始めたのかもしれません。



詩と評論・隔月刊『漉林』137号
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2007.6.1 川崎市川崎区
漉林書房・田川紀久雄氏発行 800円+税

<目次>
詩作品
浮き埠頭…成見歳広 4           刻印…池山吉彬 6
海からいちばん遠い地点…遠丸 立 8    共犯者たち…長谷川忍 10
瞽女 2…田川紀久雄 12          三つの地名…坂井のぶこ 14
短歌 朝の河原…保坂成夫 18
エッセイ
島村洋二郎の痕跡(33)…坂井信夫 22     逸見猶吉の満洲…西原和海 24
肉聲についての座談会のためのメモ…田川紀久雄 30
後記 35



 海からいちばん遠い地点/遠丸 立

JR小海線 野辺山駅に「一三七五米」の標識が建つ
日本でいちばん高い駅のしるし
「日本一」大好きな人間は ぎょうさんいるらしい
「日本一高地」の涼風もとめ 夏は押すな押すな

客寄せ作戦に必死 沿線市町村観光課
刺激を受けぬはずはない
「日本で海からいちばん遠い地点」
これだ!
とつぜん アイデアが閃めいた
臼田町役場 たぶん利れ者吏員さんの脳中
距離計当てがい机上の地図と悪戦苦闘しているさなか
「海無し長野」を逆手に取れ!

小生 七月一〇日 不老温泉に着くやいなや
係りの人から略地図コピイを手渡される
彼は臼田町役場の公務員氏
不老温泉・湖月荘は町営ゆえ

この宿から2・3キロ離れた東南の地
そこが「日本で海からいちばん遠い」んだと
曰く 日本海・太平洋から直線で………キロ余

来たれ 「日本で海からいちばん遠い地点」に立ってみたいひと
「日本一」渇仰信徒衆よ

 私事で恐縮ですが、むかしハンググライダーの練習で毎週菅平に通っていたころ、「JR小海線 野辺山駅に『一三七五米』の標識が建」っていることは知っていました。R141添いの「臼田町」も通り抜けていました。しかしそこが「日本で海からいちばん遠い地点」だとは知りませんでした。確かに「距離計当てがい机上の地図と悪戦苦闘して」みればそうなのかもしれませんね。
 作品は「『日本一』大好きな人間」を揶揄していますが、私もその一人なのかもしれません。積極的に出掛けてみようとまでは思いませんけど、通りすがりに「日本一」なんてあったら寄ってしまうでしょう。そんな他愛ない自分を発見させてくれた作品です。



詩とエッセイ『海嶺』28号
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2007.4.30 さいたま市南区
杜みち子氏代表・海嶺の会発行 非売品

<目次>
扉詩 桜井さざえ/春の手紙 1

杜みち子/きらきらと・森の話 4      植村秋江/残雪・天気予報は当った 10
河村靖子/駐輪場・わかっているから・蔓 14  桜井さざえ/産女・濡れ女 18
散歩道〈器〉
植村秋江/分に応じた楽しみ 23       杜みち子/身の回りの物 24
桜井さざえ/大皿 25            河村靖子/役目 27
雑記帳 28      編集後記 30     表紙絵・カット 杜みち子



 濡れ女/桜井さざえ

いきなり激しい雨が降ってくる
海面をたたき割り
びしょ濡れの女が現れて
礒岩に這い上がる

初之丞 磯釣りの糸を垂らしている
がっしり片足を掴まれて
よろけながら手繰りよせる
釣り針にひっかけた朱色のかたまり

妖態をくねらせて
濡れた声がする
「赤子をちよっと抱いて下さいな」
朱色の布に包まれた赤子

心優しい 初之丞
「おおよしよし泣くなや」あやせば
布は張り裂け
ずしり重い石になる

石を抱き仰向きに倒れ
覆いかぶさってくる牛鬼
さては 濡れ女は牛鬼の手先か
歯ぎしりする 初之丞

爺さまの一大事と おばばやん
椿の実をわし掴みにして
「黒髪が大事じゃろ呉れてやる」
椿の実を頭めがけて投げ続ける
「あのばばあだけは苦手じゃわい」
牛鬼の声は 濡れ女
自在に姿を変える妖怪も
惰の深いおばばやんには敵わない

黒髪なびかせて海中に消えていく
石はゆっくり浮上して
海面の水輪を 振りむき振りかえり
空の果ての 果てまで上っていく

 素材が面白いと思います。実在の民話や伝説から採ったのか創作なのかは判りませんけど、現代詩としては珍しいし、かつ現代的だとも思います。「惰の深いおばばやんには敵わない」というのはいかにも昔風ですが、実は現代への批判とも採れます。もちろん現在でも「爺さまの一大事と」「椿の実を頭めがけて投げ続ける」「おばばやん」は多くいるはずです。しかし世相は夫婦間で保険金を掛け合う時代。何が大事なのかを教えてくれているように思うのです。あまり教訓的になってはいけませんけど、こういう手法で今を照らすということを現代詩人は考えた方がよいのかもしれません。



詩誌Void13号
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2007.4.30 東京都八王子市
松方俊氏他発行 500円

<目次>
<詩>
なずきの、闇がたり…原田道子 2      慈しみに変わってゆくところ…中田昭太郎 4
女たち 茶のみ会…浦田フミ子 6      連絡船の上で…森田タカ子 8
<小論>
寄贈詩誌から…中田昭太郎 11
<詩>
二人三脚は足の引っぱりあい…中田昭太郎 12 峠観音…小島昭男 18
勝浦・室戸岬…松方 俊 22
後記…森田タカ子・中田昭太郎・小島昭男・松方 俊 26



 連絡船の上で/森田タカ子

冬の海がどうだったか
春の海がどうだったか
そんなことをおさえこんで
一五万トン 三百三〇米のタンカーが
ゆったりと視点をさらった

<巨大な孤独>

ゆるゆる向きを変えた先は
ペルシャ湾

数々の数限りない神秘のかくされた海
近くの波のざわめき
潮騒の幻聴

空を切り裂く
迫害の下の幼な子の叫びの映像

私のきしかたの孤独が波のように盛り上り
引き潮のように海中に沈み
あとかたもなく消えようとしている
あとからあとからそれは膨らみ

エーゲ海の水の色はそんなに美しくはなかっ
た ナイルは泥色

が どれも微動していた
瞬間も同じ色はなく同じ波濤もなく
気ままなちぎれ雲のように
ゆらいで 在る

船の上の男も女もゆれている
向きあえば大きくなる距離
ゆれている 生きている
タンカーは鉄錆の孤独の塊を置く

 「そんなことをおさえこんで」、「ゆったりと視点をさらった」などの言い回しが面白いと思います。言語感覚の鋭い詩人のようです。「タンカー」への視線も独特で、「<巨大な孤独>」、「鉄錆の孤独の塊」はほとんど装飾のないタンカーの姿を見事に言い得ています。「船の上の男も女もゆれている/向きあえば大きくなる距離」というフレーズも佳いですね。特に「向きあえば大きくなる距離」は男女の本質を言っているのかもしれません。「連絡船の上」から見た光景でしょうが、感覚的な語り口に魅了されました。



季刊『詩と創造』59号
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2007.4.30 東京都東村山市
書肆青樹社・丸地守氏発行 750円

<目次>
巻頭号 詩作者の<詩人>/原子 修 4
詩篇
無量力/嶋岡 晨 6            地霊頌(ゲニウス・ロキしょう)−月光・恋塚/内海康也 8
りんご 耳かき/山本沖子 10        私のために/岡島弘子 12
果物籠/清水 茂 14            時間盗人/西出新三郎 16
白樺の木/原子 修 20           水神の森/岡山晴彦 25
烏島/高岡 修 28             にんにく/橋本征子 30
吐・息/山田隆昭 34            風花の坂を/鈴木哲雄 36
手紙/橋爪さち子 40            筒/宇佐美孝二 43
ばけもんオンゴーイング 岡崎康一 46    天に生まれて/渡辺めぐみ 49
手/高塚かず子 52             王墓の春/古賀博文 56
樫と口(連祷・ぶなの森で5)/川中子義勝 58  系譜/丸地 守 60
エッセイ
ミニマリズムの彼方へ/嶋岡 晨 63
<詩>の在り処を求めて(五)/清水 茂 69
屹立する精神 シェイマス・ヒーニーの詩(10)/水崎野里子 74
感想的エセー「海の風景−海やまのあいだ」T/岡本勝人 83
スイス・ドイツ「詩の朗読の旅」から/鈴木 俊 90
Ελυθερの丘/森田 薫 95
この詩人・この一編
道吉昭治「街・風は歌うね」/鈴木有美子 101
エミリ・ブロンテ「わたしの魂は怯懦ではない」の内包するもの/紫 圭子 104
原子修「ポプラの馬」−凍土に楔を打ち込む詩人−/若宮明彦 106
プロムナード
『こどもすき?』/こたきこなみ 108
詩は分類できない/黒羽英二 109
美術館の椅子 『写真家・細江英公の世界』を見て/牧田久未 110
現代詩時評 詩における〈新人〉とはなにか?/古賀博文 112
海外の詩
ただ これだけ/リタヘ他 キャスリン・レイン 佐藤健治訳 119
穴熊/「ものたちを見る」より他 シェイマス・ヒーニー 水崎野里子訳 123
詩集『民族のための詩』(一九六八)より ペドロ・シモセ 細野豊訳 126
詩人/生 他 チョン・ホスン(鄭浩承) 韓成禮訳 130
あまりにも多くの口/風に吹かれる他 チャン・ヤヒン(千良姫)
丸い雨/言葉の国に降る雨他 パク・ジュテク(朴柱澤)
詩集『その後のテッドとシルヴィア』(その一) クリスタル・ハードル 野仲美弥子訳 136
新鋭推薦作品
「詩と創造」2007新鋭推薦作品 144
涯/日月のうた 葛原りょう  その声は/宮尾壽里子
研究会作品 選・評 丸地 守・山田隆昭 149
冬の木 弘津 亨/赤いきもの 清水弘子/忍び路 四宮弘子/器 おしだとしこ/春の影 山田篤朗/淵 吉永正/西の窓 高橋玖末子/布団 太田美智代/壁 仁田昭子/こんな夜 金屋敷文代/不思議の中心 一潟千里/不安 豊福みどり/For(あなた)you 大山真善美/オフィスの海豹 松本ミチ子/祖母 佐藤史子/Wish 今唯ケンタロウ/生きる 牧野慶子/めぐりあい 伊藤静/猫とわたし 万亀住子
全国同人詩誌評 評 こたきこなみ 169



 時間盗人/西出新三郎

どうしても会いたい人であろうと
よんどころなく会わねばならぬ人であろうと
人を待つことは
自分の時間を
差し出すこと

もしかすると
余命十週間かもしれない患者も
来てくれるかもしれない見舞いの人に
夜の明けるのを待って
短い自身の時間の大部分を
差し出してしまう

もちろん故意にではないが
教師はごくまれに
十分ないし十五分もおくれて
教室へ行くことがある
一教室に四十名の高校生がいるとして
十分待たせたことは
六時間以上も
若い人々の時間を盗んだことに
ならないか

柔軟で優れた頭脳が
濃密な六時間をかけて
考えつめたなら
どれほどの鮮烈で壮大な世界が
構築されたことだろう

今まで
一番多くの時間を盗んだのは
母からだ
つわりが始まって
産声を聴く日まで
母は絶え間ない苦渋の
おびただしい時間を差し出した
生れてくる者のために

迷子預り所に
見も知らぬ人が
自分の息子を届けてくれるのを
待っていた母

だめかもしれないと言う息子の
大学合格の発表を
待ちつづけた母

息子の緑内障の癒えるのを祈って
百日の茶絶ちをした母

マンションのローンを
息子が完済するのを
二十年待った母

母は今年九十二歳で逝ったが
自分はおそらく
母の五十年近くを
盗んでしまったにちがいない

雪降りしきる駅頭で
たぶん来ないだろう人を
もうそんなに多くも残っていない
自分の時間を差し出して
外套の中にたたずみながら
待ちつづけている

 「人を待つ」という行為から「時間」を盗まれたと派生させた作品ですが、特に第3連の「六時間以上」という計算が面白いですね。製品の原価計算ではよく使われていますけど高校の授業に適用したのは初めてではないでしょうか。そこから翻って「今まで/一番多くの時間を盗んだのは/母からだ」としたことろにこの詩人の誠実さを感じます。他人から被害≠蒙ることには誰もが敏感ですが、他人に被害を与えていることはなかなか気付かないもの。まして「自分はおそらく/母の五十年近くを/盗んでしまったにちがいない」とは、まず思わないでしょう。教えられた作品です。



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