きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.4.8 神奈川県真鶴岬




2007.5.20(日)


 大好きな栃木県へ遊びに行ってきました。栃木県詩人協会会長の森羅一さんはプロの陶芸家で、益子町のギャラリーで陶展をやっているというので、午前中はそれを観て、午後は栃木市の「烈風舎」を訪問しました。いずれも懇意にしていただいている地元の詩人のクルマに乗せてもらって、広い栃木県を駆け巡りました。
 森さんの陶展は中国・景徳鎮を訪問したときに入手した小碗に想を得たというものです。灰緑色の地肌に青い文様の入った美しい器や皿が並べられていました。陶器にはまったくの門外漢ですが、手に馴染む質量は益子焼ならではのものだろうと思います。小さなグイ呑みを求めましたので、しばらくはこれで日本酒を楽しみながら呑めそうです。

 以前から行ってみたいと思っていた「烈風舎」は栃木駅から徒歩15分ぐらいの処にありました。今のところ日曜日しか開いていないとのことで、今日はたまたま作品研究会とも重なっていました。10人ほどの参加で、全員作品をコピーして持って来ましたけど、私は聞いていませんでしたので無罪(^^; もっぱら批評役に回らせてもらいました。水準の高い作品が多くて、ついつい熱中してしまいました。

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 写真は烈風舎の外観です。帰り際に撮りましたので外は夕暮れ近く、内部には照明、ガラスには道の反対側の蔵が反射しています。間口は狭いのですが奥行きはあります。奥に15人ほどがゆったり座れる座敷と、その奥には更に蔵がありました。オーナーは日本詩人クラブ会員でもあり、詩誌『烈風圏』主宰者でもある本郷武夫さん。しかし、まったくの自費設立だそうで詩誌『烈風圏』とは関係がないとのことでした。いずれにしろ個人で詩の資料館やギャラリーを経営するというのは大変なものだろうと思います。機会があったら皆さまにも訪れてほしいのですが、ただし開館日には気をつけてください。

 夕食は近くの蕎麦屋さん。良い店らしいので私も二度連れて行ってもらっていますが、二度とも満員で入れませんでした。三度目の正直でやっと入れて、、、しかし、蕎麦は食べずにもっぱら焼酎蕎麦湯割り。メニューには出ていませんでしたけど、絶対にあると確信していました。そのくらい他のことも確信を持ってやればいいんですけどね(^^;
 今回は新幹線を使わずに新宿から湘南新宿ラインで宇都宮に出て、帰りは小山から湘南新宿ラインで新宿に出ました。東北新幹線を使うより1時間ぐらい余計に掛かってしまいますけど、その安さには驚きです。退職して以前よりは時間がありますから、今後も在来線をなるべく使おうと思います。新幹線ならアッという間に通り過ぎてしまう小さな駅も楽しめます。宇都宮線を初めて通ったことになりますが、車窓からの広大な眺めも小旅行の楽しみなんだなと改めて感じました。



栃木県詩人協会編
 ANTHOLOGY2007年版
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2007.5.15 栃木県宇都宮市
神山暁美氏方事務局・森羅一氏発行 1200円

<目次>
「アンソロジー2007」発刊に寄せて/代表世話人・森 羅一…2
青い翼/大岡 武…6            蒼い部屋にて/野澤正憲…8
絵描さん/菊元敏江…10           エゴの実流し/水無月ようこ…12
影/松本ミチ子…14             木/戸井みちお…16
景徳鎮/森 羅一…18            さつき/笹沼享子…20
雑草/菊地礼子…22             少女と鳩/深津朝雄…24
早産/上原季絵…26             大陸の岸壁で/本郷武夫…28
(旅)/原 始…30             点滅/大木てるよ…32
ドッペルゲンガー/松井し織…34       南天/和田正子…36
晩鐘/白沢英子…38             ふたつの影/神山暁美…40
冬の栴檀/螺良君枝…42           ぶんしろう/遠藤秋津…44
水の機(再考)/山形照美…46        ミッドナイト・エクスプレス/綾部健二…48
酔うほどに/岡田泰代…50          忘れ物/斉藤さち子…52
あとがき 54
アンソロジー2007参加者名簿 55
※装帳など/森 羅一・綾部健二
*表紙について
 アルチュール・ランボー(1854〜1891)
 (ヴェルレーヌによって見いだされたフランス象徴派詩人)
 十七歳の肖像を楽焼きのタブローに作成しデザインした。



 木/戸井みちお

木は他人の空を犯さない
空いた空めざして
しなやかに
その枝はのびている
そして しっかりと
自分の空をつかんでいる

木は争わない
その枝の曲りようは
実にきれいだ
無駄がない
他人をよけて
時に握手しながら
自分の位置をしっかりと確保している

木は泣かない
嵐の中でも たおやかに
身をまかせ
時々は痛みにたえながら
ゆれるにまかせ
ゆれている

木は動かない
動けないのではなく
動かない
悲しみを糧に
ひそやかに 地中に
始原の糸をひろげて
どれだけ空に近づけるか
水の流れをきいている

 私も樹木は大好きなのですが、作者は良く木を観察していると思います。各連の先頭に置かれた「木は他人の空を犯さない」「木は争わない」「木は泣かない」「木は動かない」という詩語にそれは端的に現れています。そして第1連と最終連を「空」で結んだ点も見事と云えましょう。私たちは樹木を利用することばかりを考えてきましたが、この作品のように樹木から学ぶことも大切だろうと思います。



隔月刊詩誌RIVIERE92号
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2007.5.15 堺市南区 横田英子氏発行 500円

<目次>
見えない力/平野裕子 (4)         青海湖から/清水一郎 (6)
初夏のたくらみ/釣部与志 (8)       ハーモニカを吹く少年/永井ますみ (10)
うん でも変えてみたい/泉本真里 (12)   孤独な想い/後 恵子 (14)
成功/安心院祐一 (16)           深海魚T・一行詩/藤本 肇 (18)
菜種梅雨の頃菜横田英子 (20)
RIVIERE/せせらぎ (22)〜(25)    横田英子/石村勇二/永井ますみ/河井洋
観覧車のある風景/内藤文雄 (26)      愛と希望の国(日韓異聞)/河井 洋 (28)
風のとなりで/松本 映 (30)        マニラの告白(四)贈る言葉/蘆野つづみ (32)
辛かった時代/戸田和樹 (34)        ゆうやけ/山下俊子 (36)
通り坂 曲り坂/ますおかやよい (38)    時代/石村勇二 (40)
受贈誌一(42)
同人住所録 (43)
編集ノート/石村勇二            表紙の写真と詩・釣部与志



 時代/石村勇二

年寄りは若者に
いい世の中を残せない時代になった
若者は年寄りの
面倒など見ていられない時代になった

軍事費は増やしても
福祉予算は削る方向にあるので
国家や行政はあてに出来ない

より元気な年寄りがそうでない年寄りの世話をし
より軽い障害者がより重い障害者をサポートする
そうでもしなければ
仲間を守れない時代がやってくる

今でも若者に
いい世の中を残そうと頑張っている
年寄りがいる
今でも年寄りや障害者の
暮らしやすい世の中を作るために
頑張っている若者がいる

鬼畜米英 打ちてしやまん
あの戦争のさなかでも
反戦のために闘い
逮捕され 拷問にかけられ
死んでいった人たちがいた

選挙制度はまやかしではなかろうか
セクハラや汚職をするような人が
知事に当選するようでは信頼するに当たらない
逮捕されることも 拷問を受けることもないが
弱者の願いや思いはいつも隅に置かれる

だから頑張れる人は頑張れる範囲内で頑張る
国民の多くが戦争へと突き進んでいたとき
戦争反対で闘った人たちが
時代の良心として残るように

 確かに「年寄りは若者に/いい世の中を残せない時代になった/若者は年寄りの/面倒など見ていられない時代になった」ことを実感します。まさに「国家や行政はあてに出来ない」時代です。しかし作者は「今でも若者に/いい世の中を残そうと頑張っている/年寄りがい」て「今でも年寄りや障害者の/暮らしやすい世の中を作るために/頑張っている若者がいる」と言います。ここには自身の病気とも闘いながら前向きに世の中を見ようという作者の強い意志を感じます。それが「頑張れる人は頑張れる範囲内で頑張」ろうじゃないかという呼びかけになっていると思います。教えられる作品です。



詩誌『路』16号
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2007.6.1 東京都小平市
森田勝世氏方・路の会発行 500円

<目次>
鈴木亨先生詩抄 鶴/花輪線/健康/帰郷/突風 4
鈴木亨先生年譜 10

先生そちらは春ですか/都会…小林憲子 12  迷路/あの時のように…市川紀久子 14
朝のひととき/詩はうたうもの…小倉和代 16 友だち/ある夏の日…鈴木千枝子 18
別れた駅/メモ…牧野淑子 20        摘み草…植木百合子 22
ある幻想…小島仁美 24           横顔…伊藤順子 26
桃の花咲く…辰巳信子 28          瑠璃茉莉…本間雪衣 30
感謝の花束…芳田玲好 32          ベンチ…森田勝世 34
五月晴れの空の下を…根本資子 36      海辺の夏のお昼です…石渡あおい 38
先生の詩を朗読した思い出…石井真智子 40
市村博子詩抄 森の行方 42
随想
はるばる祖国にたどり着いた詩友よ…根本資子 44
挽歌…小林資子 44             お揃いのショルダーバッグ…芳田玲好 45
ネムの花…石渡あおい 45          突然亡くなられ…市川紀久子 46
島に誘われて…辰巳信子 46         父と母と…伊藤順子 47
お月さん…石井真智子 47          藍…植木百合子 48
旅のつれづれ…小倉和代 48         蛙…小島仁美 49
優しさ…鈴木千枝子 49           コミュニケート…本間雪衣 50
手縫い…森田勝世 50
編集後記 51



 健康/鈴木 亨

一病息災というが
さしずめ いまのわたしは
五病息災といったところだろう

根こそぎ直腸を切り取られた術後
視力が異常になって 細字の読み書きが
不自由になった 以来 心ならずも
ルーペとワープロのお世話になっている

大小さまざまなルーペが いつも周囲で
待機してくれているのは ありがたい
毎日のように叩かせてもらっている
ワープロの平仮名はもう指の一部だ

そんな内証も知らずに あるひとは
その指先から生まれた手紙なぞ
失礼だと言って 読んでくれない
はかない息災が支払う これは代償か

健康とは幻想で 実在しない
「地球は憩いの場所ではない
健康と幸福を人間に  

永遠にあたえる公式はない」という

ルーペとワープロを従えた
おお 五病息災のドン・キホーテ
ならば戦え 災厄のまっただ中で!

 * ルネ・デュボス『健康という幻想』(田多井吉之介訳)より。
 <詩集『火の家』(一九九七年六月、花神社)より>

 昨年12月に88歳で亡くなった鈴木亨さんの追悼号になっていました。紹介した詩は1997年刊行詩集の作品ですが、作られたのはその数年前ではないかと推測されます。今でも「そんな内証も知らずに あるひとは/その指先から生まれた手紙なぞ/失礼だと言って 読んでくれない」ことがあるようですが、十数年前はもっと酷かったものです。ITは弱者の弱点を補完する有力な道具になることは、コンピュータの先駆けだった私たちは知っていました。その通りになるだろうと思って、その通りになったのが現在です。これからももっと進みます。相手の置かれた立場、この場合は「視力が異常になって 細字の読み書きが/不自由になった」ことですが、それを考えないで自分の価値観だけを押し付けてくる人が意外に多いのです。さすがに今時パソコンに文句をつける人はいなくなったと思いますが、対象が変われば同じようなことになるでしょう。この作品はそこまで踏み込んで読む必要があります。それが10年後に改めて読む意味だろうと思います。

 詩誌『木々』、『青衣』と鈴木亨さんの追悼特集が次々と組まれてきました。それだけ重要な詩人であったわけで、また愛された人だったのだと思います。改めてご冥福をお祈りいたします。



石井春香氏詩集『贅沢な休日』
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2007.5.3 東京都板橋区 待望社刊 2000円+税

<目次>
 T
摘みたての朝 6   花の歳月 10
化粧 14       夕暮れて 16
ネックレス 18    零れる萩 22
けものを飼う 26   花手毯 30
彼岸花揺れて 34   ブルームーン 36
枝豆 40       ある写真展 44
水の記憶 48     草原の部屋 52
 U
乾いた秋 58     蒼い時間 62
春の匂い 66     昼寝のあと 68
青虫 70       まだまだ 72
CTスキャン 74   ユトリロの声 78
年の暮れ 82     捨てる時 86
蜉蝣(かげろう) 90  髪を切る 92
贅沢な休日 96    水の影 100
雨あがり 102
あとがき 106



 摘みたての朝

みどりのさざ波を打ち寄せて
さわやかな朝を連れてきたグリーンリーフ
夢の名残りを抱いたまま
初心な時間が小刻みに震える

さざ波が揺れるたび
波のうえで弾けて転がるプチトマト
甘くて酸っぱい小さな期待

今日という手付かずの時間に
限りない未来を畳んで皿に広がるみどりの海
コーンの粒をダイヤのように散りばめて
一日を貫く筋の通ったセロリの潔さとを
舌にのせる

近くの教会から聞こえてくる調べが
食卓からリビングへと響いてくる
やわらかな陽差しが
バルコニーの花々に注ぐ

自分らしい生き方を決めた朝も
こんなふうに晴れがましかったから
今日は絵を描こうと ふいに思う
摘みたての朝を
あふれるほど画布に盛ろう

 6年ぶりの第3詩集です。巻頭作品の「摘みたての朝」を紹介してみました。「摘みたての朝」という詩語に惹かれます。「グリーンリーフ」は「皿に広がるみどりの海」だったという処にも新鮮さを感じます。最終連の「摘みたての朝を/あふれるほど画布に盛ろう」というフレーズも佳いですね。明るく清潔な、まさに巻頭にふさわしい作品と云えましょう。
 なお、本詩集中の
「CTスキャン」はすでに拙HPで紹介しています。詩集では若干手直ししたようですが、ハイパーリンクを張っておきましたので合わせて石井春香詩の世界をご鑑賞ください。



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