きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.6.11 軽井沢タリアセン・塩沢湖




2007.7.21(土)


 日本詩人クラブの雑誌『詩界』の編集委員会が神楽坂の事務所で開かれました。会議の冒頭、会長名の「委嘱状」が渡されて、おうおうと思いましたね。そういえば日本ペンクラブの委員を務めるときも、そんな委嘱状がありました。法人になるということはそういうことかと変なところで感心しました。任期は2009年の3月31日までとのこと、がんばります。
 会議の内容は主に次号・251号原稿の精読と、その次の号・252号の編集です。252号は誰に何を書いてもらうかがだいたい決まりましたので、該当者には執筆依頼が行きます。該当者の皆さん、その節はよろしくお願いいたします。

 研究会の日程も決まりまして、私の担当するオンライン作品研究会は12月1日と来年2月2日、6月7日となりましたが、もう1日やりたいと希望を出して認められました。今年の10月6日を予定しています。メーリングリスト参加者の皆さまにはいずれ通知を出しますけど、今のうちに予定に入れておいていただけると嬉しいです。
 今期はオフラインの作品研究会も復活。11月3日と来年4月5日です。オンもオフも会員・会友の皆さまからの希望が多くて、嬉しい悲鳴です。これからも会員・会友のみならず詩を愛する全国の皆さまに貢献できるクラブにしていきたいと思っています。



月刊詩誌『歴程』542号
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2007.7.31 静岡県熱海市
歴程社・新藤涼子氏発行 476円+税

<目次>

段々畑のぶどうと二人の手…朝倉 勇 2   胸騒ぎ…高見沢隆 5
骨格…小笠原鳥類 8            小茂内まで 二編/安水稔和 12
花咲く港/酒井蜜男 14
エッセイ 詩の皮フに纏う服…芦田みゆき 16
絵…岩佐なを
〜2007 歴程・夏の詩のセミナーご案内〜



 段々畑のぶどうと二人の手/朝倉 勇

   −ジェノヴァの南にチンクエテッレと呼ばれる小さな村がある−

切り立つ断崖の段々畑
千年かけて二本の手が石垣を積み
さらに積み
さらに積み上げて作った細い段々畑
その石垣に
一見頼りなげな
細いぶどうの木が連なって
若緑の葉を五月の陽光に揺らし
等高線を描く段々畑の上から
地中海を眺めている

千年とはどういう時間だったのか
機械文明は役立たず
手でつかむわずかな道具だけで
石を積み 土を運び入れ 畑を開き
柵を巡らせ ぶどうを這わせ ワインを作ってきた
その日々の繰りかえしの千年
希少なワイン「ヴィノ チンクエテッレ」は
古文書にも記されている
領主 王侯 そして
東方や世界の珍客に供されたという

ああ
手の仕事 手と自然の仕事 手と手と手と
天と地の恵みの仕事
夫婦の 村人たちの 支え合いの
陽光にきらめく金色のワインに
その労働の日々の成果が溶けている

リーゼ
と妻の名を呼ぶ声がする
リーゼがふり向くとバルトロメオは招く
ごらん あの時植えた苗に初めて花がついたよ
まあ 歩きはじめた子どもみたいね
そうだ 厳しく育てるぞ
いいか 急ぐんじゃないぞ
太陽に聞き 土に学び
雨や海風に鍛えられて
ゆっくり一人前になるんだ
お前は
現代のヴィノ チンクエテッレになるんだからな

バルトロメオは
初めて花を付けた細い柄を持ち上げながら
ぶどうの苗木に語りかける
二人の肌は地中海の光と風に彩色され
輝くようなブロンズだ
石垣を積んできた二人の手がすべてを知っている
その手に
チンクエテッレ千年がしみ込んでいるのだ
ジェノヴァ公国の歴史が刻み込まれているのだ

 「千年かけて二本の手が石垣を積み」というフレーズでハッとして、「機械文明は役立たず」というところで納得しました。「切り立つ断崖の段々畑」では確かにトラクターもクレーンも入り込めそうにありません。あくまでも「二本の手」が頼りなんですね。つい機械力を思い浮かべてします私自身の狭量さを感じた次第です。
 「あの時植えた苗に初めて花がつい」て、それを「厳しく育てるぞ/いいか 急ぐんじゃないぞ」と語る夫婦にも力強さを感じました。「太陽に聞き 土に学び/雨や海風に鍛えられて/ゆっくり一人前になる」思想を千年も受け継いできたのでしょう。ワインを呑むときの姿勢まで変わってしまいそうな作品です。



季刊詩誌『天山牧歌』76号
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2007.7.20 北九州市八幡西区
天山牧歌社・秋吉久紀夫氏発行 非売品

<目次>
戦争期日本の拉致と強制労働…秋吉久紀夫…2
(内容)
 1,最近の戦後補償を巡る動向       2,中国人の訴えた戦後補償裁判とは
 3,日本への拉致と強制労働        4,中国での拉致と強制労働
 5,戦後補償と今後の展望
中東イスラムの圏の詩(8)…秋吉久紀夫訳
(イランの詩2篇)
 大きな悲しみ…ハディー・ムナワリ…17   珍しい枝…ムタファー・アリブル…18
(詩篇)イリオモテヤマネコ…秋吉久紀夫…20  抜歯…稲田美穂…22
世界文学情報…23   受贈書誌…23     編集後記…24



 イリオモテヤマネコ/秋吉久紀夫

猫と聞くと、わたしはとたんに、
以前、家に飼っていた三毛猫の顔を思い出す。
ニャオニャオと、いつまでも瞳孔を針のように細め、
わたしのからだに額をすり寄せて啼く仕草は、
障子を開けて庭に出して欲しい時。

しかし、猫とはいえ、地球上で、
八重山諸島の西表島
(いりおもてじま)にだけいるイリオモテヤマネコに、
そんな習性は少しも期待してはならない。
むろん奴は明らかに猫科に属しているけれど、
虎や豹と同じく獰猛な原始的な野生の猫だから。

わたしはこの山猫にぜひ遇いたいものと、
打ち寄せる波しぶきを全身に浴びながら、
念願の西表島の大原港を船出して、仲間川を逆上る。
めざすは生息地と伝えられる御座岳
(みざだけ)の麓。
行手は遥か右も左も限りないマングローブの林。

黄色の蝶が飛び、小鳥は心地好く囀るけれど、
一歩踏み込めば、二度とは舞い戻れない密林のなか。
奴は毒蛇のハブや牙剥く琉球猪ですら、
尻込みしないで格闘の未、口にするというが、
この身も鋭い嗅覚で恐らく捕捉されているだろう。

わたしがあの一度とて島の外に出たことのない奴に、
問い質したいのはただ一つ、太平洋戦争中に、
国のためという名の下、日本軍に脅迫され、
マラリアの猩獗
(しょうけつ)していたこの島に、
強引に移住させられ死滅した人々の真相だ。 (2007.7.18)

 今号も論文「戦争期日本の拉致と強制労働」には考えさせられました。現在の日本国政府のごまかしへの論考ですが、新聞や本、防衛庁(当時)防衛研究所の叢書までも駆使しての説得力のある論を展開しています。
 その流れで詩作品「イリオモテヤマネコ」を拝読して、おや?優雅な!と思ったのですが、最終連でそうではないことが判りました。西表島にも「強引に移住させられ死滅した人々」がいたのですね。義務教育の教科書には出てこないとは言え、不明を恥じなければなりません。それと同時に是非このことも書いていただきたいと思います。イリオモテヤマネコに「問い質し」て何が明らかにされるのか、期待させられている作品です。



蔭山辰子氏詩集
『ヘリオトロープの花たち』
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2007.8.1 大阪市北区 竹林館刊 2000円+税

<目次>
 T
初冬 10                  寒中風景 12
野鳥の沼 14                ふと ふり返る 16
赤い欄干 18                白い花 20
遠い風 22                 醒ヶ井湧水にて 24
鏡王女 26                 夢のあとさき 30
室堂幻想 32                ルナ・ロッサ 34
シチダンカの咲くころ 36          夏水仙 38
湖北 麦秋のころ 40
 *
ころころころろ なんの音 44        ギャロップでスキップ 46
六月のメランコリー 48           風に押されて 50
クリオネ 52
 U
公孫樹 58                 つばめ 62
秋月祭 64                 スカーレット・クリムソン 66
マーズに夢を託して 68           ヘリオトロープの花たち 70
 *
ペルシャメロン 74             レクイエム・エテルナム 78
時を戻して 82               カブールの雪 84
私たちを忘れないで 86           喧騒な車の流れ 88
1/2の幸せ 90               九・一一の偏頭痛 94
 *
フミ子からの便り 98            豊かな愛の人へ 102
たまゆらの風 106
.             柚香菊 110
もう少し待っていて下さい 114
.       影の重なる時 118
近況を語る −あとがきにかえて 123
カバー絵*武市りえ
装幀*工房エピュイ



 ヘリオトロープの花たち

むらさき色のパンジー
ピーチ色のさくら草
黄色のラナンキュラス
道端の花たち
みんな こっちを見ている

「どの家も上手に咲かせているわ
 みんな私をみているわ」
「花はみんなヘリオトロープなのだ」
「ヘリオトロープって香水のことじゃないの」
「花はみんな太陽に向かって咲くものだ」
香水で有名なヘリオトロープ
木立ち瑠璃草
ニオイスミレのこと
向月性 ギリシャ語で「ヘリオトロープ」
太陽に向かうという意味
花言葉は献身的な愛≠「つもあなたを見ている
私の好きなヘリオトロープは三色すみれ
花言葉は私を見てください

春の進んだ昼下がり
夫とのたわいない会話で歩む
今日は
時間がゆっくり流れた

 3年ぶりの第3詩集のようです。タイトルポエムを紹介してみました。植物には疎く、花など3ッ4ッしか名前が判らないという私ですが、その花々を愛する著者のやさしい心根は伝わってきます。特に最終連が良いですね。「春の進んだ昼下がり」という詩語も佳いですし、「夫」という人間が登場してきたことで作品の幅が拡がったように思います。「花言葉」は人間が勝手に作り出したものですが、やはりそこに生身の人間が介在することで生きると云えましょう。「時間がゆっくり流れた」なかでの「献身的な愛=v「私を見てください=vに深い意味を感じます。
 本詩集中の
「もう少し待っていて下さい」はすでに拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせてご鑑賞いただければと思います。



金子秀夫氏著『福田正夫・ペンの農夫』
小田原ライブラリー 17
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2007.7.20 神奈川県秦野市 夢工房刊 1200円+税

<目次>
口絵 2
はしがき 5
一、詩集『農民の言葉』より 12
  加瀬の山から 13 農民の言葉 19 黒い土 22 大漁のよろこび 23
二、詩集『世界の魂』 29
 「魂の歌」「孤独の歌」29 序詩 魂の歌 30 魂の帆の歌−魂の歌のあとに− 37 「孤独の歌」38 孤独の歌序詩「月光哀曲」38 「人間の歌」40 戦闘曲 42
三、詩誌『民衆』その一 46
  暗夜三章 47 渡辺順三の歌 49 地球 54 芽生 55 花岡謙二・樹木の家 58 渡辺順三・貧乏の歌 61
四、詩誌『民衆』その二 64
  白鳥省吾・殺戮の殿堂 68 小田原風景 72 鶴 78
五、詩「夏まつり」「石工の歌」82
  夏まつり 82 石工の歌 85
六、関東大震災の詩篇 89
  足音 90 母性 92 草の芽 94
七、小熊秀雄の発言 96
  虚無に翔ける 98
八、アンケートから−文学の境地 102
  死の子守唄 106
九、『武相の若草』 115
一〇、『焔』の時代 118
  沼 122 俺の十二時 125 荒い接吻 127 豹 129 鱗 131 重圧 134 螢 136
一一、戦後の朗唱 139
  青い夢・追憶吟 141 洩日 142 哀傷偶作 143 秋の渚 145 多摩のほとりにて 146 辻放送の詩
(うた) 150 心象風景 153  水を生かす農夫 155 ふるさとの海辺にて 160
一二、略年譜 161
 参考文献 166



 

豹の瞳
(め)は燃えてゐる。身に炎の影を織り出して、
原始林をその本能で焼かうとする、
かくれ、沈み、伏しながら、
終にしつかりと、身を以て炎の本質をつかむまで。
――静かな怒りは、やがて大いなるものに、生れ変つて行くぞ!
豹はすみやかな足に、荊棘
(いばら)の刺をふんで走る。

するどい知恵は体験にとぎすまされる。
豹は感能の芽生を食ふ、
はてしなく成長する、思想への情熱を苦しんで、
幻の火花のひらめく瞬間、
飛躍の刹那をはげしくねらひすます、
恐ろしい跳躍を以て、生命
(いのち)をつかむ日までの充実!

待つものは、現実への力の表示、
衝撃へ転化する苦悩は、光への望みに生きて、
正しい待望の夢をむき出しにしてしまふ、
倒れるまでも、豹は求めようとする、つかまうとする、
それでいて、――豹の瞳
(め)は烈しく燃えてゐる、
身を以て、あらゆるものを炎にしようとしてゐる。

 「豹」は、正夫詩のこの時期のものではよくまとまった作品である。全体の構成がバランスがよく、〈豹〉の野性のもつ強さ、ばねのある走り方のすばらしさに仮託しているものを読んでみれば、この軍国主義化に傾斜していく日本の時勢にあらがっているくるしみや静かな怒りがよくわかるのである。そしてまたこの詩には、言葉にこめられた力が感じられる。言葉のモザイクづくりや思想をあらわさない〈時代の詩〉に、あらがって〈思想への情熱〉に苦しんでいる正夫自身の思想のかたちなのである。この「豹」は、一九三〇年代の世界大不況と日中戦争に深く傾斜し、やがて太平洋戦争の泥沼に入っていく、そうした〈時代〉へのさからいをふくませていることを感じる。福田正夫の三十代から四十代の働きざかりの時である。
 私は二年ばかりかけて、戦前の『焔』誌全冊から、各同人の作品をよみ各同人の詩を一篇ずつを選んだ。その時、福田正夫のこの「豹」を私は選んだ。なお、「豹」は『焔』七月号(一九三一年)に発表された。

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 副題に「詩作品鑑賞を中心に」と付いている通り、日本の詩史に名を遺す民衆詩派の指導者・福田正夫の作品鑑賞と生涯の紹介です。転載させていただいた詩と評は、「一〇、『焔』の時代 荒い接吻」に載っていたものです。「〈豹〉の野性のもつ強さ、ばねのある走り方のすばらしさに仮託しているもの」がよく感じ取れると思います。「軍国主義化に傾斜していく日本の時勢にあらがっているくるしみや静かな怒り」は、日本の現在にそのまま当てはめることができましょう。

 1893(明治26)年に小田原で生まれた福田正夫は、日本詩人クラブ創設当初からの会員でもあり、詩誌『民衆』や第1詩集『農民の言葉』などで日本の詩壇に大きな足跡を遺しました。本著はその紹介ですが、ガイドブックという位置づけになろうかと思います。この本をきっかけに、比較的入手しやすい『福田正夫全詩集』(1984年教育出版センター刊)や『民衆』再復刻版(1983年教育出版センター刊)などで福田正夫の詩業に触れていただければと思っています。



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