きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.1 東京日仏学院




2007.8.4(土)


 6日までの予定で清里に行ってきました。詩友の女性が明日、ギャラリーをオープンしますので、その手伝いです。到着したのが15時過ぎでしたから、たいした手伝いも出来ず、夕食、宴会モードとなってしまいました。宿泊は近くに羽村市の自然休暇村のコテージを取ってくれていましたので、そこで男5人のドンチャン騒ぎ、、、と言ったら大げさですね、比較的静かに、楽しく呑みました。実はこの5人、ほとんどが初対面なんです。それにも関わらず、打ち解けました。だいたい年齢が近いということもありましたし、私以外は現職の大学教授や某県の高級官僚で、話が知的だったせいもあったと思います。お酒もどんどん進んで、初対面の意識なんかすぐに消えてしまいました。文学の話、建築の話と留まるところを知らず、いつしか夜もトップリと更けて…。実に気持ちの良い夜でした。皆さん、ありがとうございました。



宮田登美子氏詩集『竹藪の不思議』
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2007.8.12 東京都板橋区 コールサック社刊 2000円+税

<目次>
 T
閉じられる時 10   水辺 14       イカダの上で 16
帰ってきたひと 18  札所巡り 22     闇 26
雪 30
 U
風に囲まれて 34   仮面の貌 36     亀裂 38
星の祭り 40     十字路 44      急流 48
逃亡 52       帰郷 54       視線 58
 V
陶器の人形 64    道 68        わたしは誰? 72
手紙 76       竹藪の不思議 80   灰色の風景 84
土手の道 88
あとがき 92



 竹藪の不思議

 竹藪には面白いほど竹の子が出ていた。友人の小沢さんと競って
竹の子を掘った。ふと顔をあげると小沢さんが消えて骸骨が竹の子
を掘っている。竹の隙間からさっと差し込む光がレントゲンのよう
に骨だけを映しているのだった。

 竹藪の中で身体が骸骨に見えた瞬間をとらえてこの世にいない人
を呼ぶとその人に会えるのだと小沢さんは言って微笑んだ。すると
彼女の傍らに若い女性がすっと立った。「生まれて一週間も生きな
かったわたしの娘よ。三十四歳になるわ」と彼女にそっくりの娘さ
んをわたしに紹介した。

 「谷さん、チャンスよ。はるみさんを呼べば」小沢さんは旧姓で
わたしを呼んで促した。わたしの姿が骸骨に見えていることを知っ
たが、わたしは誰も呼ばなかった。呼べなかった。小沢さん親子の
再会で充分だった。はるみの命日には供え物を届け続けてくれてい
る彼女の娘さんへの想いが否というほどわたしには分かっていた。

 いつのまにかわたしは独り野原に来ていた。小沢さんたちはどう
したのだろうか。野原のいたるところに腰丈ほどの茎のさきに小さ
なひまわりが咲いていた。近寄れば、どこか悲しげな人の顔になっ
て俯いた。美術館で観たルドンの沼の花を想わせたがどれもこれも
見知った顔だった。考えても誰とも識別できなかったが近づくとひ
まわりは顔に変わり、通り過ぎると花に戻った。

 第6詩集ですが、第2詩集からは夢の詩ばかりで、これが5冊目の詩集とのこと。25年も夢に拘って書いてきたというのですから、その面ではおそらく日本でも随一の詩人だろうと思います。ここではタイトルポエムを紹介してみました。夢ですから何があってもおかしくないんですが、「竹藪の中で身体が骸骨に見えた瞬間をとらえてこの世にいない人/を呼ぶとその人に会える」という詩語には妙に説得力があります。肉親を亡くした体験のある人、私もそうですが、にとっては藁にも縋る思いで信じられそうです。しかし、ここで「わたしは誰も呼」びませんでした。「小沢さん親子の/再会で充分だった」のです。それは「はるみさん」への愛情の欠落ではなく、その必要がないほどの信頼と考えられるでしょう。
 最終連の「近づくと」「顔に変わり、通り過ぎると花に戻」る「ひまわり」もおもしろいですね。ただの夢とは片付けられない、人間の深層心理を描いているように思います。最近になくおもしろい詩集で、お薦めです。



詩誌『エウメニデス』30号
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2007.7.30 長野県佐久市
小島きみ子氏発行 500円

<目次>
パッサージュ 2 関 富士子
八枚の絵と創造的注釈――野田弘志、八つの小品から 6 宇佐美孝二
外道 10 伊武トーマ
((おお天使の羽がこぼれてくる)) 14 小島きみ子



 ((おお天使の羽がこぼれてくる))/小島きみ子



白い空、
白い空、
秘奥の薔薇いろの空、
水鳥が飛び立っていく湖のほとり、
((おお天使の羽がこぼれてくる))


湖に奇蹟の物語を映す灰色の森、
まぶしい空は、
水鏡の深奥に、
有情なるものの感情を隠蔽すると同時に、
表層の仮面を剥がしてゆく。
実相を揺らすたゆたう湖の聖なる水鏡、
剥がれ落ちる表層の上に付加される仮装のペルソナをもって、
変容する森の陰影。

 この後の3から散文詩になって13まで続きます。註釈を加えると16頁にもなる長い作品ですので、冒頭の2までを紹介してみました。謂わば序の部分ですから、これだけではまだ何か判らないと思いますけど、作品の持つ思想性は伝わるかもしれません。すなわち「有情なるものの感情を隠蔽すると同時に、/表層の仮面を剥がしてゆく。」というフレーズに端的に出ています。その「剥がれ落ちる表層の上に付加される仮装のペルソナをもって、/変容する」のは、私たちのこの世の「陰影」だろうと読み取りました。機会のある人はぜひ全編を通して読んでみてください。硬質な詩情の中にも女性らしいナイーブさを感じてもらえると思います。



個人誌『せおん』6号
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2007.8.1 愛媛県今治市
柳原省三氏発行  非売品

<目次>
霊のいる浜辺     詩と酒と
牛蛙の宴       巨木
あとがき



 巨木

若々しい大木を切った
開墾した畑の日陰になるので
正月明けに根元を切断し
そのまま傍に転がせたのだ

横倒しになった大木は
何事もなかったように芽を吹いて
見事な緑を繁らせている
やがて枯れるだろうと呆れていたが
いつまでたっても衰えないのだ

八月になった今も変わらない
それを見るたび心が痛む

外国航路の船員であった父が
豪州の港からジェット機を乗り継ぎ
帰り着くのを待つかのように
脳死後数日間を動き続けた
二男の心臓を思ってしまう

大木を愛する心に異存はないが
老木にこけら脅しの伝説をつけ
祭り上げたりするのはいただけない
比較的若い大木を
頑張る息子の心臓を思い
その生命力を愛していたいもの
同じ巨大な将来ある命なのだから

ぼくの記憶の原野には
若々しい巨木が空を見上げ
いつまでもいつまでも立ち続けている

 巨木・大木というのは「こけら脅しの伝説をつけ」たような「老木」ばかりかと思っていましたけど、そうではないようです。「横倒しになっ」ても「何事もなかったように芽を吹いて/見事な緑を繁らせ」る「若々しい大木」があるのですね。その「比較的若い大木」と「頑張る息子の心臓」を関連づけたところに、「息子」を亡くした「ぼく」の心境がうまく被さっていると思います。最終連の親としての気構えも、哀しいけれど見事です。子を持つ親として共感した作品です。



文藝同人誌『金澤文學』23号
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2007.8.1 石川県金沢市
金沢文学会・千葉龍氏発行  1600円+税

<目次>
扉の詩 そのひと、人たち/千葉 龍…1
評論・エッセイ
ポリフォニーの誘惑−『書物合戦』から 自分流「音楽合戦」へ/谷かずえ…11
「昭和の日と「美しい国、日本」そして金沢/島田昌彦…21
Soul to Soul/堀井重雄…23
詩賓席(国内)
永遠の声/堀井重雄…25           春一番/中山純子…26
金沢−四万六千日の日と其の前後−の歌、抄/吉岡 治…27
特集 誌上小詩集 高橋協子
椅子/無辺在へ/おめめ/石/風の布/梅花藻/ふきのとう/猫のひげ…28
創造の苦楽…33
小説
太閤の赤い糸−異性への憧憬・第二部−/玉川久榮…34
雜草原−青師校内から外部で新結成された石川青年詩人会機関誌として再出発−/下林昭司…52
紫陽花色の思い出/清沼 覚…68       主よ御許に近づかん/北村ともひで…75
童話 カラスの宅配便/西村彼呂子…91
詩賓席(海外)
金宣佑(キム・ソンウ)訳・韓成禮(ハン・ソンレ)蓮華草の花園で黒い山羊と遊ぶ/ある対話/多くのご飯の比喩…94
韓成禮(ハン・ソンレ)あごの線と喫水線/共同墓地の土地文書/共有…97
小説
ある結末/喜尚晃子…99           不確かな噂/杉本利男…101
先生のバトン/尾木沢響子…111
.       ミチルの庭/吉村まど…116
ハケンの気持ち/吉本加代子…124
.      恭介を待つ/畔地里美……130

無告の地平/琵琶湖巡礼/翼…池田星爾…135
. 名古屋の駅で…畔地里美…137
峠の欅…越田 茂…138
.           石ころ…中嶋 充…139
晒布踊り…下林昭司…140
.          この街…南 邦和…142
あの女/さかな/いもうと/通夜…清崎進一…143
 願い/子熊の詩…上田政代…146
あいさつ…ハンダシンカズ…148
エッセイ
人生なるプレゼント/清沼 覚…149
.     人生は弥陀に賜りし御題なり/井上裕夫…152
生かされている/村雨晴彦…153
       「雨上がる」を見て/平野幸彦…155
生きる/柴田昭雄…157
連載特集6 その人と文学の故郷 藤澤C造/柴田みひろ…164
エッセイ
宇佐見英治さんのこと…三木英治…171
.    晩秋のある日…木下径子…175
台湾旅行随感…吉岡昌昭…182
.        二人の孫…池田星爾…191
杉並だよりV 都会の銭湯事情…中条佑弥…192
.「パパ早よ 起きてっ」…研まち子…194
柊…高橋協子…196
.             私の詩の軌跡/奈良詩壇絵図…外村文象…197
北海道と私−北の無名碑−加賀移民の足跡をたどって(北海道開拓村で講演)…池瑞大二…202

病床日記/夏の病棟/雲と遊ぶ…外村文象…208
. イランの娘…名古きよえ…210
「地球の扉−海の太陽」/天を背負って走れ…柳沢むつ子…211
時間のきりぎし…おしだとしこ…213
.     赤い大きな富士林檎…清沼 覚…214
過ぎた夏の蝉を…大湊一郎…216
.       なお いのち許されて−結びへの旅立ちに−/この星に生きて…井上裕夫…217
とりあえず…向井成子…220
.         毒虫…池端一江…221
エッセイ
北前船主の墓/池端一江…222
.        百日紅−さるすべり−/高橋はる美…223
箱根駅伝/山形紗和代…225
.         人生第二のステージヘ/中田邦雄…226
一日の名残/秋葉 遼…227
.         フランスの勲章/伊勢彦信…229
感動のザ・ウォ-クフォアハンガ-/西村薫…231 夢二式美人画に潜むもの/松井郁子…233
短歌 此岸在浄土/井上裕夫…234
川柳 新庄引退/上田政代…234

頬づえ/長尾まみり…235
.          変人と云はれても/山形紗和代…237
思いのかね/野村道子…238
.         ある夏の日/川野謙一郎…239
空虚な遊戯/坂 勤…240
.          日常のイメージ/東 淳子…241
本の批評
『中山純子句集』を読んで/中川雅雪…242

『ぼくの弟 志郎』(杉本利男著)/蒲原康正…246
てらいのない佇まい(高橋協子詩集『カサブランカ』)/なたとしこ…248
展望(詩と小説)
詩誌東西南北/谷かずえ…250
.        誌界・読点/吉岡昌昭…257
●グラビア…2 ●広告索引…8 ●バックナンバー…262 ●「残心(ざんしん)」あとがき……273
●金沢文学会のきまり(会員募集のしおり)…284 ●入会申込書…285 ●原稿募集…286
【題字】竹中晴子(同人。書家=石川県かほく市)
【表紙の絵】外村文象(同人。詩人,画家=大阪府高槻市)



 石/高橋協子

いつだったか 浜辺で拾ってきた石
丸くって平たくって手ごろな大きさなので
紙押さえにしている
締切日の迫った書き物のたぐい
目を通さねばならない他人の原稿の束
そして
散逸しそうになる思考の上
出奔を企てる心の上に

石はいつも未完の上に置かれているので
拗ねて無表情であった
だから
クレヨンで描いてあげた
笹で切ったような目と
葉っぱのような口を
それからだ
石がしゃべるようになったのは

ある夜 わたしは
すらすら詩を書き 歌を作った
文章もできた 手紙も書き終えた
小鳥の声が聞こえ爽やかな心地でいると
目が覚めた
机の上には相変わらずの紙片が乱れ
その真ん中で石が細い目をさらに細めて
「イッシシー」と
イシわるに笑った
くやしくて 捨てるぞーと脅すと
「意志を捨ててはいけない」と言う
では捨てぬかわりに願いを叶えろと言えば
「聴く耳がない」と言う
それでは耳を描いてやろう
耳石は平衡感覚をつかさどるのだ
石の両側にふっくらとした耳を描き
石神様のご誕生とあいなった

では石神様
夢のように事が運びますように と願うと
「石の上にも三年 精進せい」と宣うた

いつか石の下に匿われる日まで
精進することを約束してしまった

 「特集 誌上小詩集」の中の1編です。「散逸しそうになる思考の上/出奔を企てる心の上に」「押さえにしている」というところがまず面白いと思いました。しかし「『イッシシー』と/イシわるに」、「意志を捨ててはいけない」、「聴く耳がない」は下手をすると駄洒落の謗りがあるかもしれません。でも、第4連や最終連でそうは言えなくなると思います。第4連は格言を上手く使って、最終連で見事に収めてしまいました。特に最終連は有終の人間を表現して、何やらモノ哀しささえ感じさせますが、表面はあくまでも揶揄。この落差を2行に込めたところはさすがと云えましょう。特集を組んでもらえるだけのことはあると思った作品です。



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