きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.8.1 東京日仏学院 |
2007.8.16(木)
午後から日本詩人クラブの事務所に出向いて、1000枚近くの9月研究会・例会の案内状発送をやってきました。前回、前々回の案内状は葉書でしたので宛名シールを貼るだけでした。私一人でやりましたけど、それでも1回に2時間ほど。今回は封筒に2枚の案内状を入れて、それから宛名シールを貼って、さらに封印するという作業になります。とても一人でこなせる量ではないと判断して関係者に集まってもらいました。珍しく正しい判断をしたようで、瞬間最大風速で7人の人が来てくれましたけど、それでも4時間半も掛かってしまいました。
ついでに隣のビルのヤマトさんの宅急便センターに行って、送料の交渉をしてきました。郵送料もメール便も送料は同じ80円なんです。封筒には「料金別納」がすでに印刷されています。郵便局ならこのまま出せますけど、メール便にするとシールを貼るという手間が掛かります。宛名シールの経験から、さらに2時間の時間が必要になるわけです。メール便の値段が安ければメリットがありますが、同じ値段なら郵便局の方が良いということですね。事務所から歩いて1分ほどの所に郵便局はあって、私としては郵便局の方が良いかなと思っていました。
そのことを正直に話しましたら、即答はもらえませんでしたが、後日、交渉成立! 営業上のこともあるでしょうから、ここで具体的な金額は避けますけど、安くなりました。年間1万通のメール便ですからね。それにしても、さすがは民間! ん? そういえば郵便局も10月からは民間になるんだっけ? 今度は郵便局とも交渉してみようかな…。過疎地の郵便局は大変だとは聞いていますけど、東京の郵便局なら体力があるでしょう。
ちなみに、個人的にはダンピング交渉は苦手ですし、相手にしてもらえませんからやりません。会員・会友の皆さんからお預かりしたお金だからやっています。そこをご理解いただければ幸いです。
○詩・小説・エッセー『青い花』57号 |
2007.7.30 東京都東村山市 丸地守氏発行 500円 |
<目次>
巻頭言 トリスタン・ツァラ『狼の泉』管見/丸地 守 表2
詩
葦登り/木津川昭夫 4 あなたに似た人/野仲美弥子 6
橋の上の人/北川朱実 10 我が師/伊勢山峻 13
鏡/岩下 夏 16 異形の旅人/布川 鴇 18
海/竹内美智代 20 傾く家/鈴木哲雄 22
少年忌/吉田幸子 25 色彩考−明度高き黄色−/山本倫子 28
詩二題/草間真一 30 看取る/おしだとしこ 32
その声は/宮尾壽里子 35 その夜の桜/さとうますみ 38
英彦山/柏木恵美子 40 波打際で/こもた小夜子 42
限界集落/河上 鴨 44 青い花(ブラウエ・ブルーメ)/山本龍生 46
書評
高められた生命観・宇宙観−草間真一詩集『沈黙する水』/勝山久美子 48
迷宮(ラビュリントス)の海 羊水に浮く胎児の東洋的叡智 古代ギリシャの語源を追って
−森田薫「詩想的エッセイ・Aροτηζ」−耕す人−/寺内忠夫 50
小説 奇妙な哄笑/平田好輝 53
エッセイ
きのうのこと/森田 薫 60 放奏のための二段詩−作品とわらべ唄を辿って−/寺内忠夫 66
評論 詩論ノート 装置としての詩空間(26)−非詩亦は散文という形式の意味/溝口 章 70
ショート・エッセイ 79
西岡光秋「詩魂断章」・さとうますみ「伊馬春部(鶏平)先生のこと」・相良蒼生夫「風のかけたるしがらみは」・坂本登美「追憶にひそむ味覚」(15)
詩画 宇宙 丸地守/大嶋彰 85
詩
幼児の庭(1)/比留間一成 86 星しずく/橋爪さち子 88
池のある村 内藤紀久枝 91 めぐり会う瞬間(とき)/武田弘子 94
暖冬/相良蒼生夫 96 想像力/古田豊治 100
峠/高山利三郎 103. 散歩の理由/菊池柚二 106
突然の事情/埋田昇二 108. 愛についてのクロッキー/坂本登美 110
春の点描画/古賀博文 112. 美しい光に包まれた橋/本郷武夫 114
澪/真崎希代 116. 待合室/高橋玖未子 118
牧志公設市場で/悠紀あきこ 120. 釣糸を垂らして 男と女の日記/寺内忠夫 122
乱反射考 旅にて/丸地 守 129
詩書評
小柳玲子詩集『夜の小さな標』・篠崎勝巳詩集『悲歌』
小川英晴詩集『カーマインエクスタシー』・永谷悠紀子詩集『冬の家』/埋田昇二 132
田村雅之詩集『エーヴリカ』・池上耶素子詩集『如月の昼下がり』
岡野絵里子詩集『発話』・草間真一詩集『沈黙する水』/高山利三郎 134
後記…西岡・木津川・比留間・丸地 136
表紙デザイン・カット/大嶋 彰
氷/草間真一
本当は走りだしたいのに
躊躇っている内に、
水はその意欲を失う。
そして、そこに留まる。
ずっとそんなことを繰り返している内に
水は走り去る方向も
走り切る能力も
ついに無くしてしまう。
怒りだけを太らせながら
水は表面から静かに凍る。
「詩二題」と題して「氷」「滝」の2編が収められていました。いずれも水に関する作品です。ここでは冒頭の「氷」を紹介してみました。擬人法ですが上手く言い表すものだなと感心しています。水が凍る様が手に取るように判って、その上、人間になぞらえた態様が見事です。古今、水に関する詩は多くあるでしょうけど、その中でも群を抜く作品ではないでしょうか。短詩であることも成功の鍵だろうと思いました。
○詩誌『花筏』13号 |
2007.4.20
東京都練馬区 花筏の会・伊藤桂一氏 発行 700円 |
<目次>
<詩の勉強> 私の詩的体験(十一)
*詩の伝達と普及…伊藤桂一 52
*花筏通信 58
<エッセイ>
虫にきびしく人にやさしい…住吉千代美 22 貧乏と独立…門田照子 24
冥加にわるい…秋山千恵子 26 ギリシャの旅…宮田澄子 26
アライグマ…谷本州子 27 ブルキナファソへの旅…唐澤瑞穂 28
(詩)
(扉詩) 生成…伊藤桂一 1 筏…竹内美智代 2
また…谷本州子 4 夏草…彦坂まり 6
伏流水…小西たか子 8 街角のイエス…中野百合子 10
流れる水…上田万紀子 12 美しき未来…住吉千代美 14
ここに…月村 香 16 空間…田代光枝 18
癖(四)…宮田澄子 20 惜春…秋山千恵子 30
もうすぐ…藤本敦子 32 摩周湖…在間洋子 34
辣韮…山名 才 36 スイス建国記念日…門田照子 38
岬の天主堂…小町よしこ 40 姿見…唐渾瑞穂 42
いま私は…小原久子 44 ペアウォッチ…中原緋佐子 46
カレンダー…山田由紀乃 48 良夜…帆足みゆき 50
*〔連詩〕石の思想…58 捌き(伊藤桂一)
あとがき…表紙の三 住所録…表紙の四
<表紙・扉絵>…帆足まおり <カット>…谷本州子
<挿絵>…伊藤桂一
筏/竹内美智代
沈黙に満ちたホスピスの窓
真っ青な暖冬の空を
筏がゆっくり流れて行く
戦でとうの昔に視力を失ったベッドの男は
見えない大きな目を更に大きく見開いてよく笑っていた
今は意識もなく静かに横たわっているが
人間なんて沈むほうが多い
でも時々は浮き上がるんだよ
一度沈めば二度目はこわくない
そう言って何事にも向かっていった
沈黙が続くホスピスの窓
真っ青な暖冬の空に
まだ筏は見える
男がかつて戦った戦地中国の大きな川で
わたしは木材をくくった筏に乗る漁師を目にした
人を宇宙へ送り出すほど豊かな技術をもつ国で
まだあの頃と変わりなく
捕れた魚を女達が天秤棒でかつぎ売り歩く
その貧しい足元を
ゆっくり穏やかな時間が流れていた
どうやらヤマは越えました と医師の声
いつの間にか筏は流れて行った
まだ眠り続けている男を乗せず に
「真っ青な暖冬の空を」「ゆっくり流れて行く」「筏」は雲と考えてよいかもしれません。その空の筏と「中国の大きな川」の「木材をくくった筏」との対比が見事です。日本の空と中国の大河が時空を越えて結ばれていると言ってよいでしょう。さらにそれが現実の「戦でとうの昔に視力を失ったベッドの男」につながりますが、この関連は非常に素直で、さすがに上手いなと思いました。最終連は言うまでもありません。最後の「に」の置き方も技巧的ですが、ここにも無理はありません。本号、実質の巻頭作、実力のほどを見せ付けられました。
○一枚誌『てん』44号 |
2007.5.18 山形県鶴岡市 万里小路譲氏発行 非売品 |
<目次>
詩 かくれんぼ/尾崎まりえ
エッセイ 吉野弘詩集『北入曽』(1977)より/尾崎まりえ
エッセイ 北原千代詩集『ローカル列車を待ちながら』(2005)より/万里小路譲
訳詩 夢のまつり・一日の終わり/万里小路譲
かくれんぼ/尾崎まりえ
はじめての寺は
ヒンヤリとよそよそしく
ここに こうして
初対面のお方の遺影に
町内会の役目で手を合わせる
おとといの新聞の<おくやみ>の欄
このお方の隣に
あの子を 見つけてしまった
氏名…まさか、
住所…ウソでしょ!
年齢…どうして?
九十七歳、七十八歳、八十五歳、…
五十一歳になったあの子が そこにいた
かくれんぼして遊んだのは
般若心経が聞こえる寺の幼稚園
やせっぽっちの少年は
よく墓石の隙間に吸い込まれ
おかっぱの少女が
「お弁当を残すから強くなれないのよ」と
いつも両手をつないで引き戻した
手をつないでいたのはいくつまでか
詰め襟とセーラー服に分かれたら
なにか都合でもわるいみたいに通り過ぎ
やがて仕事や家庭にかくれんぼしたっきり……
実家の近くで見かける
めっぽう恰幅のいいおじさんに
「ダイエットしないと病気になるわよ」と
遠くから 囁いてはいたが……
読経に乗って焼香台が廻されてくる
なじみのない経文が
抹香の匂いに溶けて般若心経となり
すすり泣く声でのぼせた耳に流れ込む
幼稚園のあの寺では
やせっぽっちの少年が
かくれんぼしている頃だろう
おかっぱの少女は
ここで こうして
じっと目を閉じ
差しのべる手を合わせたまま
泣きべそをかいている
(あの子が 見つからない)
訣別の鐘が鳴り
遺影のお方が浄土へと旅立つ
合掌をとけば
中から ふわりと
(いちぬけたぁ)
小さな手の温もりが逃げて
あの子のもとへ 還っていった
私が「新聞の<おくやみ>の欄」を意識して見るようになったのはいつからだったでしょうか。もう10年も20年も前からのような気がします。そして「九十七歳、七十八歳、八十五歳」と没年を見るたびに何か安堵感を覚えるのでした。そんな中で作者は「五十一歳になったあの子」を見てしまったわけです。「般若心経が聞こえる寺の幼稚園」に通っていた時代から「詰め襟とセーラー服に分かれた」時代。そして「めっぽう恰幅のいいおじさん」になった現在。その50年を通じて彼はいつも「かくれんぼ」していたのですが、今度はとうとう「浄土へと旅立」ってしまいました。同じ時代を生きた幼馴染への思いが痛いほど伝わってくる作品です。最後の「(いちぬけたぁ)/小さな手の温もりが逃げて/あの子のもとへ 還っていった」というフレーズが良く効いていると思いました。
○万里小路譲氏論集『言語という秘蹟』 −E.E.カミングスの創造的企投− |
2007.6.30 東北公益文科総合研究論集第12号抜刷 非売品 |
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(from 95 Poems)
not
と読み始めると、後が続かない。途中で
son,on,at
など既成の語を読み取ってしまっても、解読はできない。深層というよりは表層構造をまず捉えなければ、作品の像は浮かび上がってはこない。しかしながら、謎解きにも似た読解は、実は数理によってつまびらかに示されている。
全体像においては、1・5・1・5・1行と配列される連の構成にまず相称(symmetry)がある。それに、奇数連における1・2・1字という行構成、空きマスも1字と数えるとして、偶数連の第2連における6・10・12・8・4字、及び第4連における8・12・14・10・6字という山なりのような偶数字数による盛り上がりにもある種の相称が見て取れる。それに細部を眺めれば、この詩篇はある種の法則によって生成されていることがわかる。空きマス及び改連によって、アルファベットの語群は1からの整数の序列によって分けられているからだ。すなわち、1・2・3・4・5・6・5・4・3・2・1・2・3・4・5・6・7・6・5・4・3・2・1字というように。そのように配列される前にあった元の語群は、次のようなものであると推察される。
note the old almost lady feebly hurling crumbs one by one at two three four five&six english sparrows
注
目あ
れ、老貴
婦人が弱々し
くパン屑
を投
げつ
けてい
る、二、三、
四、五、六羽の英国
すずめに、ひ
とつず
つ
老貴婦人が、晩秋のある晴れた日に、六羽のすずめに餌を施している。弱々しくも餌を投げかける仕草に、彼女の生き物を気遣う思いやりが窺える。よくあることなのであろう。野生の鳥がひとに慣れ親しんでいるからだ。慈しみにあふれた配慮は、彼女の人生そのものを物語るだろう。生あるものが他の生あるものに気を配る。対他存在としての生命は、ひとばかりではなく、こうして鳥とさえ共存していく。老貴婦人が生きた人生は、内省のうちにある。誰のせいでもなく立ち現れた世界の創成に、気づくのは晩秋の、つまり人生の実りある時間のあとに振り返られる幻像である。
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研究論文ですから万里小路さんの本名で書かれていますけど、ここでは筆名で紹介してみました。視覚によって受け止められる詩で、形象詩と言うんだそうです。そう言われてみると一頃流行った時期がありました。E.E.カミングスは1894年生、1962年没ですから、1950年代のことだったのではないかと思います。学問として研究すると、こういうことになるのかと納得しています。
紹介したのは最初の作品ですが、この後に8編ほど続きます。全体で丸くなる詩など意外におもしろいです。現代詩の混迷に新たな一石になるかもしれません。まさに温故知新、研究に敬意を表します。
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