きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.1 東京日仏学院




2007.8.28(火)


 拙HPのアクセスカウンターが10万を超えました。8年半ほどで10万件というのは、多いか少ないか判りませんけど、くだらない日記やピントを外した読書感想文を呆れながらもお読みくださっている皆さまのお陰です。ありがとうございました。
 2、3日前から何人かの方といつ超えるんだろうとメールのやり取りをしていました。誰が10万人目だろうということもやり合っていたのですが、10万人目のご本人から申告(^^; があって、どなたかは分かっています。ただ、ご本人にもお伝えしたのですが、賞品も賞金もありません、悪しからず(今度お会いしたときにコーヒーぐらい奢るかな?)。100万件のときは盛大にやりましょう! って、何十年後だ、それ?

 今日はそれ以外に大きな動きがありました。NTTから電話があって、日本詩人クラブ事務所の電話番号が決まりました。経費を増やさないためFax番号と一緒にしましたが、まだ公表しません。9月初旬に工事をやりますから、それ以降に詩人クラブHPに載せます。たかが電話の一つですけど、事務所に電話が入れば、それだけでも事務所らしくなります。素直に嬉しいです。
 うん、でも、その前に電話を買いに行かなければいけないな。



山本博道氏詩集『ダチュラの花咲く頃』
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2007.8.30 東京都豊島区 書肆山田刊 2500円+税

<目次>

雨の日とその翌日 10            秋の終わりの朝 14
散歩がてらのこと 18            大虐殺の手記を読んで 24
カブトムシと初詣 28            人間論 32
死生観 36
**
金色の雨 42                朝の窓辺 46
ホテル小景 50               夜の窓辺 56
旅の心得 62
***
ジグソーパズル 68             雨と風の話 72
本棚の話 76                時間論 82
地上の人びと 86              異論はないけれど 90
世界のたった一日 96            ダチュラの花咲く頃 102
夢を生むために 108



 雨の日とその翌日

ぼくはくたびれた
全国には二十七万人の医師がいて
入院患者は百五十万人で外来患者は八百八十万人
公務員は五百四十万人いて火災は年間六万件起きている
そして失業者が四百万人以上もいるというのに
プロスポーツ選手が一万四千人もいる
そうしたことを
手を変え品を変えて
延々と書きつづけることに
ぼくはくたびれた

何を書いても時代はびくともしないから
言葉なんて無力なのかもしれない
この国の新刊本は年間八万点だって?
今日は朝から降り止まない雨だ

ゴッホもダリも本物は観たことがない
美術館はいつも雨の日のように混んでいる
だからショパンも家で聴く
本棚に収まりきらなくなった詩の本は
ひまをみて段ボール箱に詰めて行く
ふだんのぼくの一日は
アポリネールに会うことではじまる
ミラボー橋の下を流れる遠いわれらの恋?
通勤時の水道橋を流れる濁った神田川だ
川の水が逆流する大雨の翌日は
東京湾からの潮の匂いがした
ときおり見かける白い鴎に
文具店の片隅が書店を兼ねていて
それだけでも夢が凋みそうだった
少年時代の海辺の町が浮かんで来る
ここはいったいどこだろう?

橋の上で昔を思い出し
空の鴎を眺めていると
その下で生きているぼくが
砂時計の砂の粒に見えて来る

 紹介したくなる作品が次々と出てくる詩集で、詩を読む喜びを味わっています。ここでは巻頭作品を紹介してみました。時代と世界への関係性を「くたびれ」るほど問う詩集の、典型的な作品だと云えます。「二十七万人の医師」などの具体的な数字が生きています。また、「何を書いても時代はびくともしないから/言葉なんて無力なのかもしれない」というのは、多くの詩人の本音でしょう。よくぞ書いたと思います。「文具店の片隅が書店を兼ねていて/それだけでも夢が凋みそうだった」というフレーズも多くの人が感じていることでしょうが、これも書かれてこなかったように思います。技術的にはその前の「東京湾からの潮の匂いがした/ときおり見かける白い鴎に」との繋がりがおもしろいところです。それらが「雨の日とその翌日」という日常を背景に描かれていて、拡がりと深さを効果的に出している作品と云えましょう。お薦めの1冊です。
 なお「鴎」は正字になっていますが、ここでは略字を使わせてもらいました。ご了承ください。



○大西規子氏詩集『ときの雫 ときの錘』
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2007.8.20 東京都新宿区 思潮社刊 2200円+税

<目次>
ときの雫
石の記憶 8     マイム 12      水府 16
はじまり 20     旅 22        再会 24
空 28        抱える 32      手 36
指を切る 40     かたち 44      樹を抱く 48
パンドラの箱 52   帰る処 56
ときの錘
魚葬 62       存在の証明 66    帰りたい 70
震える人 74     戦う人 78      噴く 82
落人の村 86
あとがき 91     装幀=思潮社装幀室



 落人の村

拡張された県道を左に折れると
忘れられたような村がある
今は廃屋の茶屋を廻るようにして
裏から続く道をのぼる
幾つもの橋を渡り
曲がりくねった草の道を行く
すれ違う村人は
変に素知らぬふりをして
城壁のような塀の中に消えていく
この辺りの家はすべて
ぶ厚い石積みの塀を四方に巡らし
道より一段と低くなった屋敷では
屋根が覗いているだけだ
苔むした石積みの塀は
よそ者をかたく拒んでいる

橋を四つ渡って
横輪を過ぎた
五つ目の橋を越えて 下村
ここまでは誰も追ってこなかったのだろう
家は道に面し
玄関が見える
こいのぼりが泳いでいる

また橋を越えて 菖蒲
朝から薄い霧だ
この村はぼんやりとした風景が似合う
上村を過ぎる頃
霧があがった

川に沿って村はひっそりと在る
この村は 今も
日の出と共に目ざめ
月と共に眠る
刻はゆっくりと動いているのだ
木を切る人は
菖蒲が咲き乱れている沼を廻り
山に入る
朝 バスは出発するが町までゆかない
夕方 又同じ人を乗せてバスが戻ってくる

バス停に丸太が一本転がっている
その丸太に腰を下ろして
帰ることのない息子を待っていた老婆は
バスが車庫に入るのを見届けて
ゆっくりと立ち上がる
老婆が消えて
床の木に人の気配はない

傾く時間の中で
わたしも傾く
みぎもひだりもまえもうしろも
若芽新芽の山に囲まれ
今にも窒息しそうだ

 * 横輪・下村・菖蒲・上村・床の木、いずれも村落の名。

 23年ぶりの第2詩集だそうです。詩集タイトルの「
ときの雫 ときの錘」は、23年という時間への思いも込められているのかもしれません。紹介した作品は詩集の最後に置かれていましたが、「落人の村」そのものも「ときの雫 ときの錘」の具体だと感じました。具体という面では「横輪・下村・菖蒲・上村・床の木」という地名が生きています。おそらく実際の地名でしょうが、それはそれとして私は私なりの「落人の村」を思い浮かべながら鑑賞することができました。読者にそういう効果を与えてくれます。
 最終連も佳いですね。一般的には「若芽新芽」は希望や成長をイメージさせますけど、それを「今にも窒息しそうだ」としたところに著者の視点の良さを感じました。



○保坂登志子氏編
韓国と日本の子どもの詩
『こだま』
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2007.8.30 京都市右京区 洛西書院刊 1800円+税

<目次>
はじめに…李在徹
『韓日子ども詩集』の発刊に際して…梅田博之
韓国の子ども
ぼくの友だちの顔・鏡…チョン デ ウォン(一年)・13
朝顔…キム ヂョン ヒョン(一年)・18    雨ふる日…ク スル ギ(二年)・20
草地…イ スル ビ(二年)・22        お日さま…パク ス ヨン(三年)・24
たいやき親子…カン ジ ス(三年)・26    池…チョン ソ ヨン(三年)・28
落書き…チェ ヨ ビ(三年)・30       鏡のふたご…ナ ユン ジュ(四年)・32
砂時計…チョン ミン ソク(四年)・34    春…キム ジ ヒョン(四年)・36
おばあさんのしわ…ホ ジ フン(四年)・38  十一歳のママ…アン セ ウン(四年)・40
虎先生…クォン スン ジェ(五年)・42    春…コン デ ヨン(五年)・44
夏の友だち…カン ヂョン ウォン(五年)・46 おじいさんの靴一足…ペ ジ ミン(六年)・48
草の葉はね…ムン ジェ ウォン(六年)・52  モザイク…チェ クン ミ(六年)・54
日本の子ども
とり…長岡祐子(一年)・59         じてんしゃ…平田綾香(一年)・60
あさ ひる ばん…中島梨紗(一年)・61   かこ…平田実紗(二年)・62
けんか…島村彩楓(二年)・63        雨…原 梓(二年)・64
がいこつ…杉田達哉(二年)・66       心…安道礼実(三年)・68
料理をしているお母さん…横山菜々(三年)・70 あいさつ…渡辺亜紀(三年)・72
なぐさめ…並河晶子(四年)・73       雪…岡嶋 萌(四年)・74
幸せ…長岡政幸(四年)・76         目の中の私…山田奈央(五年)・77
うそ…山埜誠太(五年)・78         にせものの心…清水宏実(五年)・79
自分自身の色…森嶋 舞(五年)・80     ものさし…福岡亜沙江(六年)・82
自分だけの休日…熊谷龍之助(六年)・83   夏休みの休日…河野啓介(六年)・84
あとがき…保坂登志子・85



 春/キム ジ ヒョン 四年

ネコの足音のように
こっそりこっそり 来るからって
だれも知らないと思うの?
軒先
(のきさき)を通る時
ポチャン ポチャン
雨だれを踏
(ふ)んでいくのに

芝生にかくれて
かくれんぼしたからって
だれも知らないと思うの?
新芽たちが
青々と知らせてくれるのに

そろりと
氷の上をすべるからって
だれも知らないと思うの?
とけていく川の水が
パチパチ 手をたたきながら
喜んで行くのに


 とり/長岡祐子 一年

とりはなぜ はねがあるの
そらをじゆうに とんでいけるから
にんげんは しなないと
はねがはえてこないね


 世界の子どもの詩の雑誌『こだま』を発行している保坂登志子さん編の、韓国と日本の子どものアンソロジーです。日本語とハングルでちょうど半分になっていました。監修は韓国児童文学学会会長の李在徹氏、翻訳は徐正子氏です。
 ここでは韓国・日本からそれぞれ1編ずつを紹介してみました。「春」は上手い詩です。春が「ネコの足音のように/こっそりこっそり 来」ても、「芝生にかくれて/かくれんぼし」ても、「そろりと/氷の上をすべ」っても、それぞれの理由で判ってしまうのだというのは、大人顔負けの技巧です。また「とり」は、「にんげんは し」んでやっと「はねがはえて」くるという発想で、この純粋性は1年生ならではのものでしょうか。
 残念ながらハングルは読めませんが、翻訳も的確なものなのでしょう、楽しめました。皆さんもどうぞ手に取って読んでみてください。



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