きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.20 神奈川県真鶴半島・三ッ石




2007.9.13(木)


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 横浜詩人会賞について。9月1日に受賞の知らせを受けたときの第一声は「私でいいの?」でした。その理由は、横浜詩人会賞の対象が新人≠セったからです。もう40年も詩らしきものを書いていますし、今回の詩集は6冊目です。一般的にはトウが立ち過ぎているわナ。それで、なんで?となったわけですけど、じゃあ、ノミネートされたときに断ればいいじゃないか、ということになります。事実、もし受賞したら受けますか?という書面も来ました。そこで「否」に○をつければ良かったのですが、いつも通りに「諾」に○をつけて返信しました。
 自慢じゃありませんけど詩集を出すたびにどこかにノミネートされます。常に「諾」です。そして常に落選でした。これは自慢になるかな(^^;

 「諾」と書くには私なりの理由があります。選考経過を知りたいからです。どこでも、というわけではないでしょうが、例えば日本詩人クラブや横浜詩人会では選考経過が会報に載ります。各選考委員の所感も述べられます。これが非常に参考になるのです。どんな風に詠まれて、どんな印象を与えているかが判ります。それが知りたいために「諾」としているわけです。
 他人の評価など気にしないという人もいましょうし、私も基本的には評価≠ヘ気にしていません。ただ、どういう受け止め方をしてくれているかを知ることは、自分の作品を客観的に見る上で大事だと思っています。その願ってもない機会なので、それで常に「諾」なのです。
 しかし、まさか受賞するとは思ってもいませんでした。事務局の油本さんから電話があったときは、おっ、油本さんか、珍しいな! 程度にしか思いませんでした。受賞だと聞かされても半信半疑でしたね。事実と知って「私でいいの?」となったわけです。

 実はもうひとつ大きな賞にノミネートされていました。こちらは落選したのだと思います。ただ、うれしいのはどなたかが推してくれたらしいこと。そちらの事務局から、対象詩集を受け取りました、と葉書が来ました。私は送っていないのです。その賞は公募制ですから、自分から応募しなければなりません。以前は現職で働いていたこともあって、そういうものには一切応募しないことに決めていました。どなたかが私の代わって応募してくれたのでしょう。それはそれで素直にうれしいことです。少なくともその方は私の詩集を認めてくれたと解釈できますからね。力及ばず落選したようで、その方には申し訳ないことになりましたけど、お礼申し上げます。ありがとうございました! (出来れば名乗り出てほしいんですけど…)



築山多門氏詩集『流星群』
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2006.2.20 東京都新宿区
深夜叢書社刊  1800円+税

<目次>
流星群−その愛
妻の指…8                 お手玉…10
絵本…14                  生まれ出づる児へ…16
母と子…20                 鐡の里−今昔…22
誕生…26                  代ワレルモノナラ代ワッテヤリタイ…30
こわあいお噺し…34             ごめんね お兄ちゃん…38
子どもたちの薫り…42            ぬくもりとピアニッシモ…46
終の住処…52
流星群−その想
蜜豆…58                  想い出…60
心象…64                  君がいる世界では――…70
一本の虫歯…76               想い出すまゝに…80
風のことば…84               饒舌な孤独…86
わたしは歩く…92              通夜…96
流星群−その寂
雁書…100
.                 アネモネが花ひらくように…104
孤児院…106
.                吟遊詩人…108
亡くした 翼…112
.             秋の朝…116
老猫…122
.                 永劫の回帰…126
流星群−その諦
流星群の二十世紀…132
.           飢餓と飽食…140
ヒトでなくなった人間…144
.         あのおかたがお尋ねになった…148
自由…152
.                 オレは犬だ…156
わたしは大人になった…160
.         いま…166
檻の中…172
.                鎖の国境…176
あなたを罷免します…180
.          団塊世代…186
あとがき…192



 一本の虫歯

顔をしかめながら
上司に「早退願」を差し出す
――歯医者へ行くためか
わたしは右の頬を押さえ
――昨晩から痛くて
――歯が痛いくらいで早退するのか、何本?
――えっ
――いや、何本痛いのか聞いているんだ
――一本です
――たかが一本歯が痛むくらいで、早退は許可できない
わたしはびっくりして上司の目をのぞきこむ
冗談で言っているのだろうか、と
――とても痛いんです、我慢できないくらい
上司は指先で紙をひらひらさせ
冷たく言い放つ
――わたしはこれまで歯痛を経験したことがない。
  だから君の痛みは理解できない。
  理解できないものは許可できない
そうか、
経験したことのないことは理解できない、か
正直なんだ、この人は
わたしは妙に感心し、納得する

今朝、駅で
交通遺児のための募金をしていたっけ
わたしはその前を素通りした
わたしの貧弱な想像力

 昨年出版された第1詩集です。結婚から定年退職直前までの作品を集めた、半生の記録と云えましょう。父として夫として、そして国語教師として家庭や社会を見る眼が深い詩集です。ここでは「一本の虫歯」を紹介してみました。「貧弱な想像力」の「上司」を「正直なんだ、この人は」と捉え、「交通遺児のための募金」の「その前を素通りした」「わたし」に結びつけた点が見事です。普通ならば無理解な上司に腹を立てた詩を書いて終わるところですが、それを自分に照り返す思考は詩集全体に通低しています。今後のご活躍を祈念しています。



二人誌『すぴんくす』4号
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2007.9.15 東京都板橋区
海埜今日子氏発行  250円

<目次>
寄稿 時空の戯れ 池田 實…2
睡眠の軌跡 佐伯多美子…7
ひにいるむし/虹を鳥に蔓を 海埜今日子…11
Bastet’s Room
表紙 フェルナン・クノップフ《ヴェレーランとともに 天使》(一八八九年)



 都心から少し外れたこの街は、まだ街になりきれていない煩雑さと活気のある、
ある不完全さを感じとった。多分民はこの不完全さに居場所を求めたのではないか、
と讀はぼんやり思った。しかし、街からは現在、精神病院にいる民を想像すること
ができなかった。だいたい不完全だが小椅麗に取り繕っているこの街のすぐそこの
裏手の一角でダニが大量発生しているなど信じられるものではないだろう。と思っ
てみた。
 民は子供のころよく泣いた。火がついたように泣き出すと畳に大の字になって側
にあるものを片っ端から蹴飛ばしてごろごろ転がるさまは、さながら得体の知れな
い獣の子供が暴れているようであった。というより、大声で泣き叫びながら獣を吐
き出しているようでもあった。そんな時、母、石
(いそ)は慣れているようでいつものよう
に、台所の片付けや縫い物の手を休めなかった。叱りもせず機嫌をとるでもなく、
なすがままにさせていた。いつもの虫がはじまった、とくらいに思っていた。そん
な時、宥めにはいるのが讀である。幼児ことばで赤ん坊をあやすように、
「いい子、いい子」
となだめすかす。すると、民も幼児に還ったように臍のあたりがだらりと垂れ下が
っていくような感触を覚えて泣く気力が失せる。ある時、いつまでも泣き止まない
民に、父、梅が怒って当時庭の隅にあった、防火用水に放り込んだ。民はその時の
恐怖をずっと後、成人してからも暗部として引きずっている。

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 紹介したのは佐伯多美子さんの散文詩「睡眠の軌跡」の、第1連後半部分です。主人公・讀(とく)は民(たみ)の姉という設定で、「ダニが大量発生している」のは民が借りていたアパートの部屋のことです。ここでは、ストーリーの面白さもさることながら、「まだ街になりきれていない煩雑さと活気のある、/ある不完全さ」と、「幼児に還ったように臍のあたりがだらりと垂れ下が/っていくような感触」の二つのフレーズに注目しました。前者では衛星都市やベッドタウンを、後者では人間の感覚を見事に表現していると思いました。
 佐伯さんは散文詩「睡眠の軌跡」を、次に紹介する詩誌『カラ』にも連作で書き続けています。いずれ1冊にまとめてくれるものと期待しています。おもしろい詩集になるでしょう。




詩誌『カラ』5号
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2007.9.1 東京都国立市 松原牧子氏発行 400円

<目次>
睡眠の軌跡/佐伯多美子
BLUE VOICE/鷹山いずみ
アンダー・コンストラクション・アンダー/外山功雄
満ちる/石関善治郎
GALAXY/鳴海 宥
思い込み/松原牧子
母の裸/支倉隆子
題字・絵 支倉隆子



 BLUE VOICE/鷹山いずみ

薄暗い部屋で目が覚める。
女の眼にうつるのは、カーテンの隙間からの青い色である。
夜と朝の間を眠っていた女は、
目を覚まして八割がた朝になった空を見つめている。
横になったまま。
魚が跳ねる音がする。飲んだ水が残っている。
少し乱れた女の髪は、そのまま、毛布と一緒に横たわる。
女が見ているのは青である。
昔、女の部屋で死んだ青い魚、
ターコイズの石、どこかで揺れる海の色である。
夜は明ける。街が動き出す。
しかし部屋の時間は止まったまま、
女は横たわっている。空を見る。
男が寝言を呟いて、寝返りをうつ。
一番青いのは、男の声である。
深い海の底から響く、深海魚の声である。
空はだんだんと明るくなる。普通の世界の、普通の空になる。
どこからか、ウッドベースの音がする。
部屋は暗いまま、女は横たわったまま、
男はまた何か呟いて
部屋には青い色が広がって
外では、夜が、終わりを告げる。

 朝の気だるい雰囲気が伝わってきます。そこに「青」が効果的に遣われていると云えましょう。特に「一番青いのは、男の声である。」というフレーズが良いですね。もちろんタイトルとも呼応しています。この英語のタイトルも奏功していると思います。部屋の描写も見事で、絵を見ているようです。そして「ウッドベースの音」。ぼんやりとして感じがよく出ている作品だと思いました。



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