きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
070820.JPG
2007.8.20 神奈川県真鶴半島・三ッ石




2007.9.28(金)


 天童大人さん企画の「詩人たちの肉聲を聴く! ポエトリーヴォイスサーキット」も今夜は第118回。京橋の「ギャルリー東京ユマニテ」で19時から開催された、朗読・小川英晴さん、ギター・佐藤達男さんの詩とギターの夕べ≠ノ行ってきました。小川さんの詩集『クラシックな回想』を中心に、1時間半ほど、たっぷりと聴かせてもらいました。

070928.JPG

 写真は本番前のリハーサルです。最近、本番では極力写真を撮らないようにしています。朗読中にフラッシュ光やシャッター音が入るのはあまり良くないですからね。もちろん依頼されて撮る場合は別ですけど…。
 「ポエトリーヴォイスサーキット」は画廊でやるというのが一つのウリです。それに今回はギターが加わって、いつもとは一味違う雰囲気でした。小川さんの詩は幻想的な作品も多く、偶然ですが、背景の絵ともよく合っていたと思います。
 集まったのは60人ほどでしょうか、狭い画廊では身動きするのも困難なほどでした。小川さんが何かやると若い女性が多く集まるのも特徴の一つ。今回も半数はそんな女性たちでした。

 懇親会は何度か行ったことのある、銀座の「うおや一丁」。小川さんを始め、件の女性たちの何人かとお話しすることができました。詩人以外にもライヴをやっている人や絵描きさんが多いのも小川さんの交流の広さ、深さを物語っているようです。銀座の夜を楽しませてもらいました、ありがとうございました。



根本明氏詩集『未明、観覧車が』
mimei kanransha ga.JPG
2006.11.25 東京都世田谷区 七月堂刊 2000円+税

<目次>
T 光のくさり
光のくさり 8    ランナー 10     まばゆい日 14
破れめは 18     色無し 22      差し出されて、しずかに開き 26
はてだからか 30   廃の家で 34     私は知らないけれど 38
思い出せないままに 42           市蔵という名で 46
U 未明、観覧車が
蘆雪の朝顔なら 52  ヒマワリ 54     告げる者 58
鳥を聴く 62     渡来記 66      廃ザウルス案内 70
国道が果て、 74   時の層をもつ光の筒を 78
地母のふるえ 82   命名 86       遊行者たち 90
「猫恋」という題の下に 94          神田川 98
未明、観覧車が 102
あとがき 106



 未明、観覧車が

この夏、空にのぼりましたか
幼いものや愛しい人の手をとって
時の高みから
地や街の広がりに青やかに笑む
透明な飛翔の思いが薄れることはない

だからだろう、未明
失われて
いっさいの真紅を剥いだ観覧車が
水鳥の群れを低い雨雲のようにともなって
湾の沖を渡ることがある

それはかつて谷津の海辺で錆び立ったものだ
無数の歓呼を宙吊ったまま
陽と風に無残にさらされつづけた
閉ざされた遊園地で
鳥葬があったことだろう
埋め立てられていく水辺に
おびただしい千鳥やシギが舞って
みずからも失われつつ
観覧車を包み啼いたにちがいない

観覧車がかしぐ、暗転する火の車だ
きしみながら渡る後ろを
鳥群れが舞い降りて消えた遠浅の浜をかたどり
子供らの浮き輪や小舟、海苔を干す路地をたどって
きつい汐の香が私の夢を浅く波だたせるのだ

 第7詩集のようです。タイトルポエムを紹介してみました。「未明、観覧車が」「湾の沖を渡ることがある」というのは、表面的には「私の夢」とある通り未明に見た夢ということでしょうが、もちろんそれだけではありません。「埋め立てられていく水辺に/おびただしい千鳥やシギが舞って/みずからも失われ」ていくものや、「消えた遠浅の浜」への挽歌と採りました。おそらく著者はそれらを「子供」の頃から等身大で見続けて来たのでしょう。だから「きつい汐の香が私の夢を浅く波だたせるのだ」と思います。

 なお、巻頭の
「光のくさり」は拙HPですでに紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて根本明詩の世界をご鑑賞ください。



成田林氏著『チリコ物語』
chiriko monogatari.JPG
2007.8.1改訂版 千葉市中央区 私家版 500円

<目次>
一 1        二 14        三 25
四 37        五 43        六 49
七 55        八 72        九 77
十 80        一一 89       一二 93
一三 99       一四 110
.      一五 125
一六 135
.      十七 145.      一八 154
一九 158



 自治体のごみ処理には限界があり、資源の有効利用が叫ばれるようになりひさしくなりました。中身の正体を隠していたごみ袋は半透明になり、分別の細分化はさらに進み秩序が保たれようとしています。それまでの集積場は、生ごみは元よりありとあらゆる不要品が投げすてられ、山盛りになって悪臭をはなっていました。私はそのごみの中に埋もれていたことがあります。

--------------------

 紹介したのは小説の書き出し部分です。このあとから「一」が始まります。本文に断りはありませんが、タイトルの「チリコ」とはチリ紙交換の略であることが、読み進めるうちにだんだん分かってきます。
 学生時代に内ゲバ事件に巻き込まれて逃走し、20代をヨーロッパ放浪で過ごした岡本は、帰国後も日雇いを繰り返していました。少しはマシな仕事をと勤めた先がチリ紙交換。ボロアパートに住み、様々な事件に巻き込まれながらもチリ紙交換の仕事に慣れた頃に知らされた、意外な事実…。日本の社会は実は二つの世界から成り立っている…。法律や行政という表の世界を操る、裏の世界。普通の市民として暮らしているように見えて、多くの人は裏の世界と繋がって、お互いに監視しているのだという発想はおもしろいんですが、リアリティーがあって不気味です。しかも、その裏の世界の主役たちは、表立って政治にも経済にも大きく関与しています。まるでユダヤ人世界のように。いかにも事実と思わせるエピソードには説得力がありました。お薦めの一冊です。

 本著は作者宛に代金を振り込めば1週間程度で本が届くそうです。口座番号が載っていましたので転載します。興味を覚えた方は取り寄せてみてください。税込み価格500円は、内容から考えると絶対お得です。
 郵便振替口座 00170・9・502366



岡田響氏詩集
『キプリスモルフォ変奏曲』
kipurisumorupho hensokyoku.JPG
2007.9.15 横浜市泉区 書肆詩神刊 1800円

<目次>
報告、青空 1    被告席より 2    舟の人 3
セレネの首輪 4   戴冠の繭 5     ネロッサの死神 6
羊小屋にて 7    詩集「聖婚」8    老ユダ 9
ヴァニッツの予言 10  エチュード 11    天使九階段 12
復活 13       
キプリスモルフォ変奏曲 14  聖ダナエ病院にて 15
化石の眠り 16    眼、その殺人について17 午後の鹿の訪れ 18
汚れたる者 19    娼婦の舟 20     牧神、微笑む 21
樹の歌、葉の韻 22  死の城 23      目覚めるものへ 24
親殺し 25      記憶を脱ぐ瞳 26   道化師 27
蛇、その溺れるものへ28 カルディアの雅歌 29 ヘシオドスの石 30
海の匂いの殺人者 31 半島の金の午後 32  沖合いの闇の門 33
不在証明 34     眠りの城 35     無罪 36
永遠の夏至 37    眼の人 38      イカロス降臨 39
竪琴を鳴らす日 40  兵士レヴィ 41    初演前夜 42
オベリスク 43    詩人の城 44     書記官の妻 45
一角獣 46      聖母子 47      天体の音楽 48
執刀 49       洪水の記憶 50    リヴェリツァ 51
両腕切断 52     領事館 53      交響曲第一番 54
アンチ・アンティゴネ 55    死者を刻む永遠 56  叢園にて 57
アディ福音書 58   オルガニスト 59   四月七日 60
創世記 61      時間の誘拐 62    女神 63
詩人の死 64     人体の海図 65    ペルセフォネ発声法 66
贋の戴冠 67     井戸水の重い渇き 68  ラプテアの天使の家 69
星の庭園 70     監獄記 71      山荘にて 72
蝶の片翼 73     箱舟を降りて 74   アルペジオ 75
磔刑の土曜日 76   贋年代記 77     エシュリオンの丘 78
ナイフ 79      森の道 80      マルタのピアノ 81
二人のマリア 82   マティアの雫 83   花瓶 84
無伴奏 85      父、ロヌイユ 86   シャコンヌ 87
目覚めの死 88    ナダウ戦記 89    イチゴ病 90
深海の果実 91    天の川架橋 92    翡翠の眼差し 93
円環する未来 94   作曲家の仕事 95   男子誕生 96
塔のなかの海の正午97 トッリアの聖典 98  柔らかい水の触手 99
園丁の花嫁 100
.   ヨハネの接吻 101.  叛逆罪に問われた胎児への弁護 102
シナモンの沈黙 103
. 狂王の祈り 104.   野苺を双子の脣に 105
ラヴェリア 106.   眠りの母の揺り籠.107 或る神の子 108
肖像画家 109
.    水の城の噴水 110.  洪水 111
聖トマスの鐘 112.  夜想曲 113.     執行者 114
火炎樹 115
.     ヨブロ家の晩餐 116. 森の狩人 117
巡礼の年 118
.    海のヴァイオリン.119 城館にて 120
聖家族 121
.     刺客 122.      ヴァッキオの帳簿 123
湖畔にて 124
.    過越祭 125.     ヤブヤ記 126
ピナモの叛乱 127
.  ある神話 128.    遷都計画 129
テツァーレ紀行 130
あとがき



 報告、青空

ヴァルバ研究員はその朝、絶滅種指定の哺乳類、鳥類を合めた七
種の受胎、二百年前に消失した種の復活に成功した。トマス・ア
クィナスの問題八十番第五節、肉体復活の論考を手懸りに遺伝子
操作の贖罪と栄誉を、ヴァルバは予感した。ナルツァビル諸島は
豊穣な海洋資源に恵まれ、独立国家を形成、維持し、自然環境の
保護と育成に潤沢な資金を投入した。動物保健局は地下七十三階、
地上五百六十七層から成り、研究員、調査員、資料分類、編纂部
門は知の最高水準を動員した。各階の巣箱にはスマトラ虎の胎児
やオロロン鳥の雛が納まり、繁殖した。国は蘇生、再生した動物
達に一島を与え、生育に傾注した。動物保護局に調査員から一報
が入った。黒海沖に落ちた黝く煮え立つ隕石の微粒子が、ミネル
バ海流をカナリア海流を汚染し、地中海をバルト海を紅海を循環
した。隕石の微粒子を合む海水に触れた船員、漁民は瞬時に体内
の水分を失い、髪や皮膚が太陽の光を受けて燃え上がった。赫く
爛れた臓物を海鳥の群れが啄ばみ、無人の甲板には粉塵と化した
白骨の跡が僅かに残った。魚類や人間以外の哺乳類には影響はな
く、主人を亡くした犬が遠く吼えた。ナルツァビル諸島は各海流
の圏外に位置したため災厄を免れたが、貿易船の一部に被害者が
出た。諸島はヴァルバの種の復活理論を、各国の研究機関に伝達
した。死者の数は、否生者の痕跡を留めた人数は数千万とも数億
人とも言われた。海上は静けさが支配した。沿岸都市や海抜以下
の市街からは人影が消え、山岳地帯の居住者も微粒子を含んだ雨
に擲たれ、生者の状態で木乃伊となり、立葵の陰に午睡する少年
を少女を永遠に導いた。鐘楼を撞く者、騾馬を牽き野菜を売る者、
市庁舎や銀行、市街電車や自転車を繰る者達が悉くその姿を消し
た。調査員によると、ナルツァビル諸島を除く各国の無線は途絶
え、青空の密度が増した事実をヴァルバに報告した。

 一大叙事詩と呼べる作品群です。130篇の詩篇はそれぞれ単独の作品とも、1篇の作品とも読めます。タイトルの「
キプリスモルフォ」とは中米南部から南米北部に生息する蝶の名のようです。
 ここでは冒頭の作品を紹介してみました。この詩集の始まりを告げているわけですが、以下の作品を拘束しているものでもありません。「報告、青空」に戻りつ離れつ、自由に世界をうたいあげます。



   back(9月の部屋へ戻る)

   
home