きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.10.15 箱根・湿生花園のコウホネ |
2007.11.23(金)
妹の嫁ぎ先のおばあさんが亡くなって1年、慰霊祭が御殿場市の教会と小山町の富士霊園で行われました。妹一家はプロテスタントですから、簡素な慰霊祭で、昼食も教会で仕出し弁当を親族20人ほどで食べるという簡単なもの。死者を悼むのは簡素な方が良いのかもしれません。
写真は教会の祭壇に飾られた遺影です。とても穏やかな人でしたから誰からも好かれていました。キリスト教徒のことはよく知りませんけど、宗教者というものはこういう人が本物なんだろうなと感じていたものです。エリザベトおばあさんのご冥福を改めて祈ります。天国でも元気にお過ごしください。
○廿楽順治氏詩集『たかくおよぐや』 |
2007.10.25 東京都新宿区 思潮社刊 2400円+税 |
<目次>
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T さかなまち
肴町 8 燃えるじてんしゃ店 10
とんかつスズキ 12 中村そばや 15
龍城酒家 18 ラード工場 22
かんのん食堂 25 にかいや 28
寺島 31 源七堂接骨院 34
堀理髪店 38 アパート 40
あさくさにいく 42 押上駅 45
曳舟小学校の怪 48 近藤重蔵商店のゆううつ 51
ぱり祭 55
U むすいどくげん
化身 60 青い 62
木のよう 64 晴れた 66
濃すぎる 68 オリオン座 70
草臥 72 中村川 74
朝 76 もしもし 78
さがさない 81. 『夢酔独言』 84
野比川 88 誘拐 91
ねむる 94 無呼吸。 97
たかくおよぐや 104. 県立こども医療センター 107
にいはしくんは生きているか 111. ばく 115
ころんでいくひと 119. りゅうた 124
跋 128. 題字=廿楽真人 装幀=思潮社装傾室
化身
(ちょいとなにすんだい)
なりかわってこえをかけてやったのである
衆生のあいだでよぶんな水分をだしていると
(なんまいだぶ)
いいかげん 正体をなのってしまおうか
というきぶんにもなる
(あんたもか)
(ちがうよ)
左右のおかしいにんげんもいるからな
だれだってすがたをあらわす技術にすこしくせがある
(あ ねじがない)
会話のとちゅうで ばらばら
くずれてしまいやしないか
ふあんでぶすっとじぶんの蒸気がもれてしまうのだ
まだひとさまからみえるつもりでいるのかねえ
みんなちがって
みんなきもちわるい
(やだ このおじさん)
衆生にばれてしまっちゃあせんかたない
ららら とうたって
電柱から電柱へと
(なにやってんだ おれ)
衣をむいみにひろげてとんでいくのである
著者は、最近いただくようになった詩誌『ガーネット』の同人で、特異な言語感覚に注目している詩人です。お名前はつづらさんとお読みします。ここでは「化身」を紹介してみました。何に化身したかは直接わかりませんけど、私は幽霊でよいのかなと思っています。「よぶんな水分をだしている」ことや「じぶんの蒸気がもれてしまう」ことなどから別の化身も考えられますけど、それはあまり固執する必要はないのかもしれません。私たちが何かに化身している、化身させられているのではないかという感覚を持つ必要性を、ここでは謂っているように思います。「みんなちがって/みんなきもちわるい」は、おそらくみんなちがって みんないい≠フパクリだと思いますが、そんなところも魅力です。
本詩集中の巻頭作品、「肴町」はすでに拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて廿楽順治詩の世界をお楽しみください。
○詩誌『谷神』10号 |
2007.11.15 千葉市稲毛区 楓舎・中村洋子氏発行 非売品 |
<目次>
触診/中村洋子 1 野の花/増田恭子 2
マグリットの心/増田恭子 4 悪夢/田中憲子 6
盗人/田中憲子 8 慈しむ風景の地/石村柳三 10
きるきるきるきるるん/肱岡晢子 12 十月十四日に/中村洋子 14
楓舎の窓 16
あとがき
盗人/田中憲子
花どろぼうは罪にはならない
母はため息まじりに言っていた
父が丹精した薔薇を
薔薇が似合わない隣のおばさんは
よく盗っていった
カルメンになりたかったのだろうか
人さまのものを盗ってはいけません
母の口癖だった
人さまの気になる金銀財宝
人さまの私にない才能
人さまの盗ってはいけない数々が
私を虜にする
あの人のたいせつなものを
欲しかったけれど
盗めなかった
母の教えは形にならなかったが
深く根付いていた
いま私の感性は壊れて回路が塞がれて
ことばにならない
人さまのことばを盗んでマス目に埋め込んでみた
言葉は死んでしまった
ときめかない
躍らない
私の薔薇はいつ咲くのだろう
「人さまの盗ってはいけない数々」の中でも「人さまの私にない才能」というのは、やはり気になるものですね。ここでは「人さまのことばを盗んでマス目に埋め込んでみた」わけですけど、「言葉は死んでしまった/ときめかない/躍らない」となってしまいました。貧しくとも自分の言葉で書く大事さを教えてもらったように思います。乏しい語彙であってもいつかは「私の薔薇」が咲くのでしょう。単純明快な佳品だと思いました。
○詩誌『衣』12号 |
2007.11.20
栃木県下都賀郡壬生町 700円 森田海径子氏方「衣」の会・山本十四尾氏発行 |
<目次>
雛のいのち/岩崎和子 2 あやめ沼/うおずみ千尋 3
そのままにして/江口智代 4 袋/豊福みどり 5
秘密/石川早苗 6 炎と氷(訳詩)/大山真善美(ますみ) 7
下痢/千本 勳 8 日の目/葛原りょう 9
夏の夜の戯れ歌/山田篤朗 10 砂漠/大原勝人 11
小夜語り その三/岡山晴彦(はるよし) 12 夕焼けの道/大磯瑞己 13
幸せ者/鶴田加奈美 14 揺れる/相場栄子 15
二人の丈夫(ますらお)の歌/喜多美子 16. 足裏/佐々木春美 17
素直/上原季絵 18 愛/桂木沙江子 19
シン/月燈(つきひ)ナユタ 20. 新世界/高畠 恵 21
爪紅−つまくれない/森田海径子(かつこ) 22. 笙について/山本十四尾 23
同人近況 24・25・26 同人詩集紹介 26
後記 27 住所録 28
表紙「衣」書 川又南岳
炎と氷/ロバート・フロスト 訳
大山真善美
世界は業火に焼かれて終る
はたまた氷に閉ざされ終る
どうされたいのか考えたら
炎に焼かれる方に賛成です
もしも二度滅びる運命(さだめ)なら
氷の破壊もオツなものです
満足しますって言えるほど
憎しみを満喫するでしょう
Fire and Ice
Some say the world will end in fire,
Some say in ice.
From what I've tasted of desire
I hold with those who favor fire.
But if it had to perish twice,
I think I know enough of hate
To say that for destruction ice
Is also great
And would suffice.
おもしろい作品なので、今号では翻訳詩を紹介してみました。「炎と氷」と、どう殺されたいかという設問に、どちらも良いと言っているわけですね。「満足しますって言えるほど/憎しみを満喫するでしょう」という発想は日本人にはないように思います。ちなみに原文も載せておきました。私は英語は不得意なので何とも言えないところがありますが、意訳の妙もあるのでしょう、楽しめました。
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