きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.2.3 千葉県鴨川市・仁右衛門島




2009.3.2(月)


 先月26日から開催された西さがみ文芸愛好会の第13回「西さがみ文芸展覧会」も今日が最終日。延べ220名ほどの来場者があって、会期が少し短いにも関わらず、昨年の230名に匹敵するほどの成功だったと思います。

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 私は、上の写真の正面に見える特別展「詩歌に詠われた西さがみ」の詩部門を担当し、西さがみと関係のある作品、佐藤春夫〈秋刀魚の歌〉、大木惇夫〈酒匂川〉、前田鐡之助〈真鶴〉、井上康文〈小田原の一月〉、蕗谷虹児〈県立山北高校校歌〉、三好達治〈鴎どり〉、志沢正躬〈枯野ツ原〉、茨木のり子〈根府川の海〉の8点を選んで展示しました。お客さんの中には「井上康文が出ている!」「有名な〈秋刀魚の歌〉が小田原で作られたんだ!」などの声もあり、担当者としては気分を良くしていました。そうそう、茨木のり子〈根府川の海〉は、会期が終了したら展示品をもらいたいという人まで現れて、これも嬉しい反応でした。もちろん差し上げました。A4原稿をA3に拡大コピーしただけのものですから(^^;

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 会期は12時で終了して、13時半からは打ち上げを兼ねて「『文芸作品に描かれた西さがみ』出版を祝う会」が小田原駅前の〈銀座ライオン〉で開かれました。昨年暮に出版した本ですけど、印刷会社の社長さん、編集会社の社長さん、販売してくれている書店の社長さんもおいでくださりました。会の編集委員からは、編集の裏話として、ある作家の著作使用許可を取るのが難しくて断念した話なども出て、笑いが渦巻いたなごやかなパーティーとなりました。
 写真は美女軍団に強引に割り込んだ男、というところでしょうか。まだお酒を呑む前だというのにずいぶん酔払っているような顔だなと、我ながら思います。今日は写真班でしたから、動き回って疲れたのかもしれません。トシだなあ(^^;




小田淳氏著
歴史作家 榊山潤 その人と作品
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2002.8.1 東京都文京区 叢文社刊 2000円+税

<目次>
歴史作家 榊山 潤 −その人と作品− 5
年譜 141
装幀/装画 山本美智代




 (帯文より)

 推薦のことば

 維新前後の歴史の変転の中の人間の運命を描く名作「歴史」(新潮社文芸賞)をはじめ、歴史小説作家として名を馳せまた硬骨の新聞記者として戦時には従軍。「文芸日本」「円卓」等の文芸誌では新人の育成に尽瘁し、趣味人としては文壇囲碁名人の地位を譲らず、といった異色の文人榊山潤の生涯を、その周辺の人間像をも含めて余すなく描き抜いた入魂の評伝。著者は直門の高弟のため行き届いて趣趣が盛られている。 ――伊藤桂一

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 横浜生まれの歴史作家・榊山潤(1900〜1980)の詳細な評伝です。上述の「『文芸作品に描かれた西さがみ』出版を祝う会」で著者より頂戴しました。伊藤桂一さんの「推薦のことば」にもありますように、まさに〈直門の高弟のため行き届いて趣趣が盛られている〉評伝と云えましょう。文中には榊山潤の周辺に集った伊藤桂一さんを始め、萩原葉子、浅野晃、外村繁、水谷清など、私にも馴染み深い詩人の名が見え、興味深く拝読しました。また、巻末の「年譜」は80年の生涯の詳細な文学記録であり、榊山潤研究には欠かせないものだと思います。




(ハン)成禮(ソンレ)氏詩集『光のドラマ』
21世紀海外詩人選書4
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2009.3.1 埼玉県所沢市 書肆青樹社刊 1800円+税

<目次>
 T
水子 10                  テンニンカラクサ 13
ロータリーは回る 16            野原の夕焼け 19
故郷の井戸 22               赤い門を通過して来た青い耳 25
野生馬保護地域 28             持ち物 30
共同墓地の土地文書 31           共有 34
コペルニクスの星 36            ジョン・ドウ(
John Doe)さん、本当に退屈だ! 39
 U
小鳥 44                  子供たちの宮殿 46
甕棺 48                  魚山を聴いて 51
その島には 54               タンポポと都市 56
ポインセチア 59              笑う花 62
光を呑み込んだ花びら 64          深海魚の目玉のきらめく水中都市 66
ワサビまたはコチュネンイ 68        川辺で 71
あごの線と喫水線 74            崩れた寺院跡で 77
光のドラマ 80
 あとがき 86




 
光のドラマ

その時 私は壁画の中の行列の
一番最後の女
丸いあごの線に頬がふっくらとして
ちょうど流行り始めたピンハス
の髪型から髪を何本か垂らし
腰の括れた扇子模様の裳裾にしきりに足がかかって
背中をしゃんと伸ばして歩かねばなりませんでした
歩いていく私たちの頭の上に
ずっと赤い太陽が付いてきて

その日の朝、銅鏡をのぞき見て
もう少しで涙をこぼすところでした
この眩しい美しさ
きっと二度と戻って来ない!

燃えるように身の熟したその瞬間
光の蓋が開き
氾濫する光が整然と私の体に蹴上がり
帝国主義の歴史学者は
光の絞りを開いて永遠に向かい
私を逆さまにしたのです
たった一度しか撮ることのできない私たちのドラマ
将軍塚
は旅に出る準備で慌ただしく
どくどくと零れ落ちて来た光の洪水は
私たちの胸を濡らして溢れたのです
光でいっぱいに満たされた発光体の宇宙
明るくなる光の心臓

一日一日は延命ではなく、光に撮られていくこと
とても遠い時間から飛んで来た隕石の飛行のようなもの
透明な緯線と経線が集まって一点を成すように
光は一瞬を虚空に浮かべたのです
鋭い破片のように四方に弾んだのです

強烈に耳元を流れるあらゆる音
常に聞いても一向に聞き慣れなかった
瓦屋根の向こうの無数の響き
私たちに伸びた最初の光は
その日 どこかのページに入って
一行として染み込んだのでしょう
押し寄せて来て以来 光は私たちを限りなく凌辱しながら
休まずにドラマを撮って行くけれども
ばっさり切られたり ひらりと解かれて行く映像

正午の日差しが脳天に突き刺されば
すでに一日を終える準備が始まり
胸の壁に埋めた光の残骸を 大切そうに掃き出すのです
少しずつ燃え上がる焦点
時々 それぞれに客体化される闇

うねる光で
無数の今日の消失点を写して行き
消えた光の記憶を手探りし
消滅するものの美しさと悲しみを
巻き戻して再生するのです
ドアがあいたその瞬間から カチャカチャと撮られ始めた
私たちのとても長い光のドラマ

*ピンハスの髪型‥耳の上から頬のほうに髪を長く垂らす髪型
*通溝十二号将軍塚‥一九三七年総督府博物官長藤田隆作京城帝国大学教授によって初めて発掘作業が成された古墳。中国吉林省集安県通溝平野にある高句麗のクンネ城時代の石陵。三世紀の初めから四二七年まで、約二〇〇年間高句麗の都だった所。広開土大王陵碑と高句麗最大の墓である太王陵、四神塚など石陵と土墳など、周辺に三万基を越える高句麗の古墳が群集している。外形がほとんど完全に残っている将軍塚を、古くからここの人々は「皇帝墓」と呼んだ。主人公は広開土大王という説もあるが、長寿王という説が有力だ。実際は将軍塚には壁画がない。

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 韓国語の日本語への翻訳、あるいは日本語の韓国語への翻訳で知られる著者の、個人詩集としては第3詩集のようです。韓国語への翻訳としては村上龍・柳美里・塩野七生・丸山健二などの小説、宮澤賢治の童話、辻井喬・柴田三吉・本多寿・小池昌代などの詩集などがあり、日本語への翻訳には崔泳美・高炯烈など韓国の若手の詩集が翻訳されています。
 ここではタイトルポエムを紹介してみましたが、〈光のドラマ〉の一つとして写真を挙げることができると思います。〈私たちに伸びた最初の光は/その日 どこかのページに入って/一行として染み込んだのでしょう〉などのフレーズに、翻訳者だけではない著者の詩人としての力量を感じます。背景にある韓国の歴史も感じさせる佳品と云えましょう。お薦めです。




詩誌『ガーネット』57号
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2009.3.1 神戸市北区
空とぶキリン社・高階杞一氏発行 500円

<目次>

高階杞一 草の実/菜の花 4        神尾和寿 福耳/子宝 8
廿楽順治 抜伝/棍鳴/舌禍 12       池田順子 みち/草とり 18
阿瀧 康 去年今年 28           嵯峨恵子 忘れっぽい男/ダチュラの見える風景/食足りて礼節廃る 34
大橋政人 蔵出しユーモア詩集 42      やまもとあつこ ふーっ/もう 54
1編の詩から(28) 犬塚 堯 嵯峨恵子 23
シリーズ〈今、わたしの関心事〉NO.57 はたちよしこ/宇田川新聞/眞神 博/中ムラサトコ 26
詩集から NO.55 高階紀一 58
●詩片●受贈図書一覧
ガーネット・タイム 68
散文が… 廿楽順治             空からのお便り 池田順子
加湿器 嵯峨恵子              指で覚える 高階杞一
「ねこ新聞」のこと 大橋政人        新しい生活 やまもとあつこ
秋から冬へ 阿瀧 康            駅伝にて思うこと 神尾和寿
同人著書リスト 75
あとがき 76



   
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