きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.2.3 千葉県鴨川市・仁右衛門島 |
2009.3.30(月)
特に予定のない日。終日いただいた本を拝読していました。
○小説と評論『カプリチオ』29号 |
2009.3.24 東京都世田谷区 二都文学の会発行・言海書房発売 667円+税 |
<目次>
特集 小谷剛 〈書く〉という闘いを生きる 文学の季節だったあの頃――
ストイックな偽悪家 草原 克芳 5 「作家」周辺そして「不断煩悩」 山下智恵子 18
「小説入園」再読. 津木林 洋 21 小谷剛の中の無骨な社会派 谷口 葉子 25
今はもう偲ぶだけ 本多美智子 29
創作
青梅真言宗通円寺縁起 塚田 吉昭 53 モノクロームに捧ぐ 加藤 京子 72
はらから・愛と相克 川口 明子 95
詩 山の湖/ロープ 荻 悦子 48
告知板
編集後記
山の湖/荻
悦子
雪渓が
湖のすぐ近くに迫っている
生まれたばかりの雪解け水が
細い谷から弾け飛び
土が露わな野を
あちらへ
こちらへ
狂喜して走り抜ける
谷の水が
逆巻いて走る
強く引かれる釣り糸を迫って
谷の岸を
樺の木にぶつかりながら
釣り人も走る
鎮まりかえっていた湖は
若い谷水に急に襲われ
あわてふためいて
たぎり出す
湖面にはり出た東屋の床が
大きく揺すられ
その床で
素足の少年たちも
揺られるまま
あちらへ
こちらへ
釣り糸を垂らし
踝をざぶざぶ波に洗われる
拙HPでは初めてになる雑誌です。副題の通り〈小説と評論〉が主でした。ここでは荻さんの詩を紹介してみました。〈山の湖〉というタイトルからは〈鎮まりかえってい〉る〈湖〉をイメージしたのですが、違いました。〈生まれたばかりの雪解け水〉に始まって、〈逆巻いて走る〉〈谷の水〉や〈樺の木にぶつかりながら〉〈走る〉〈釣り人〉と、賑やかです。この、イメージの裏切られ方がまず面白かったです。そして圧巻は最終連ですね。〈湖面にはり出た東屋の床〉さえも〈大きく揺すられ〉てしまう〈若い谷水〉の〈たぎり出〉しよう。〈素足の少年たち〉の若さの象徴とも採れるでしょう。さらに現実の混沌と採ることもできると思います。コップの中の嵐と採ってもよいかもしれません。いろいろに考えられる作品だと思いました。
○詩とエッセイ『雨期』52号 |
2009.2.25 埼玉県所沢市 雨期編集部・須永紀子氏発行 500円 |
<目次>
◆poem
標本 4国境 2 古内美也子 標本 5サーモン 4 古内美也子
COSMIC 6 原口哲也 送迎船 10 荻 悦子
しずかな歌 14 渡辺 洋 スマイル 16 渡辺 洋
ウキナ石鹸 18 山岸光人 ターミナル 22 北野英昭
刺草の夜 26 須永紀子
◆supplement
名文とは? 30 荻 悦子/原口哲也/渡辺 洋/北野英昭/須永紀子
◆essay
短篇通信27 44 須永紀子
◆postscript 48
送迎船/荻
悦子
船は
まっすぐに進まない
何を避けるのか
バックし
大きく廻り
ゆるゆると小さな岬に向かう
木の椅子に揺られ
俯いている
ふと耳に入ってきた会話に
あと一人
いや二人くらいの
私の知らない
むかしの私らしい少女の影が
ゆらめいている
話している人たちに
見覚えがない
壁にもたれ
話している人たちも
そばに座っている私に気づかない
この私の他に
知らない私の影が
同じ船で
同じ会場へ運ばれている
あの人たちの物語には
そういう少女がいるらしい
顔は知らない
名前はよく聞いたけど
今日
そのひとが来るから……
遠いむかしの
私の噂に揺られながら
ベンチの隅で
重ねた自分の手を見つめている
湾の内側
海水は濁っていて
船の動きは重い
窓に飛沫がぶつかる
散らばる滴を
スタッカート
音符のように拾ってみる
こちらも初めての紹介になる詩とエッセイ誌です。荻さんの作品はこれまでに10篇ほどしか拝読していませんが、続けて2篇拝読して、独特の世界があるのだなと改めて思います。紹介した「送迎船」にもそれを感じます。〈私の知らない/むかしの私らしい少女の影が/ゆらめいている〉世界が底辺にあるのかもしれませんね。これはまさに詩でしか描けない世界と謂ってよいでしょう。〈まっすぐに進まない〉〈船〉の造形に荻悦子という詩人が凝縮されているようにも思います。「送迎船」というタイトル、最終連の〈散らばる滴を/スタッカート/音符のように拾ってみる〉というフレーズも見事な作品だと思いました。
○季刊詩誌『竜骨』72号 |
2009.3.25 さいたま市桜区 高橋次夫氏方・竜骨の会発行 600円 |
目次
〈作品〉
ぞっこん 松本建彦 4 武蔵野睦月 篠崎道子 6
野生 庭野富吉 8 いまを… 長津功三良 10
何処へ 今川 洋 12 あの山準えて 木暮克彦 14
満ちてくるもの 上田由美子 16 宇宙最後の日 松崎 粲 18
渚にて 森 清 20 はたしてどちらか 内藤喜美子 22
事務服エレジー 対馬正子 24 羽衣の行方 高野保治 26
源氏物語ごっこ 島崎文緒 28 日々是?日 横田恵津 30
あしたと言う日 河趣潤子 32 啓蟄 高橋次夫 34
タックリ回想 友枝 力 36
羅針儀
今の若い男性は何を…? 他一篇 長津功三良 38
釧路の夜 今川 洋 41
蛍になった友 上田由美子 42
本所・深川、隅田川(五) 高野保治 44
書窓
南邦和詩集『神話』 森 清 46
冨長覚梁詩集『庭、深む』 高橋次夫 47
海嘯 ある楽観論について 友枝 力 1
編集後記 48
題字 野島祥亭
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