きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
090818.JPG
2009.8.18 佐渡・沢崎鼻にて




2009.9.30(水)


 特に外出予定のない日。終日いただいた本を読んで過ごしました。




橋本征子氏詩集『秘祭』
hisai.JPG
2009.9.10 埼玉県所沢市 書肆青樹社刊
2200円+税

<目次>
苺 6         アスパラガス 8    桃 12
爛熟の春 16      アドカボ 20      にんにく 24
無花果 28       メロン 32       レモン 36
パンプキン 40     缶詰 44        ほうれん草 48
コルニッション 52   葡萄 56        チコリア・ビアンカ 56
晩秋の薔薇 64     ナタ・デ・ココ 68   カラーピーマン 72




 
パンプキン

まだらな眠りは 雀蜂の巣のかたちに広
がった天井のしみに重なり わたしの体
をゆっくりと縛ってゆく 耳だけが鋭く
研ぎすまされている 幼い頃に住んでい
た家 もうとっくに他人の手に渡ってい
るのに 雪虫の飛び交う夕方 すっかり
歯を失った老人たちに導き入れられたの
だった 黴の匂いのする古い客間の初冬
の一夜

地下室の方から 何かが小刻みに動いて
いる音がする ひんやりとする階段を下
りてゆくと 奥の棚の上 熟しきって張
り裂けんばかりのかぼちゃがひとつ 膨
らんだり縮んだりしている 地表をうね
うね這い回りやっと辿り着いた安堵の場
所 触れると薄緑色の斑紋から亀裂が入
ってばりっとふたつに割れる

輝く太陽の半球 果肉にびっしりと食い
込んだ白い種 スクラムを組んだ歯の隊
列がわたしに挑んでくる 思わずえぐり
取って冷水で一粒ずつ洗う ぬめりをと
ると ぱっと現れた真っ白いすこやかな
歯 しなやかな弾力が掌に伝わってくる
生きていたときには持ち得なかった死者
たちの歯のすずやかさ かつて 燃えた
ぎるほどの憤怒 声を失うほどの慟哭
殺意に変わるほどの愛を 噛み殺した死
者たちの砕けた歯は 今 美しくやわら
かな黄金色の果肉のなかで 生え変った
ばかりの歯となって光っている

暗い電灯の下 影のない死者たちと円陣
を組んでかぼちゃを食べる 暗い洞穴の
口のなかにほっくりと煮た真黄色のかぼ
ちゃを放り込み 歯茎で咀嚼する わた
しも食べる 噛むたびに 痛くもないの
に歯がぽろぽろと抜けてゆく 吐き出し
てみると白いかぼちゃの種 死者たちは
わたしをみてやさしく微笑む 滅びたも
のたちの祝祭 供物 かぼちゃ

 第4詩集のようですが、拙HPでは初めての紹介になります。全編散文詩という詩集です。タイトルの「秘祭」という作品はありません。紹介した詩に〈祝祭〉という言葉が使われ、他の詩でも同じ言葉がありますから、それらから採ったのではないかと思います。詩集全体としても“秘密の祭”を暗示しているように受け止めました。〈生きていたときには持ち得なかった死者/たちの歯のすずやかさ〉、〈滅びたも/のたちの祝祭〉、これらの視点が詩集全体を通しても感じられました。




詩誌『石の詩』152号
ishi no mori 152.JPG
2009.10.1 大阪府交野市
美濃千鶴氏編集・発行 非売品

<目次>
白い半月/夏山なおみ 1            疑惑のイブ/美濃千鶴 2
迷子/山田春香 3               
World Word/山田春香 4
先立つ言葉/西岡彩乃 5            雪の温もり/西岡彩乃 6
身体/上野 彩 6               使命/石晴香 7
鮎返しの瀧/金堀則夫 8
太宰治「眉山」を読む 美濃千鶴 9
金堀則夫詩集『神出来』−地に潜った血流の行方− 田中眞由美 11
石の声 夏山なおみ 12
《交野が原通信》二六七号 金堀則夫記 13    編集後記






   
前の頁  次の頁

   back(9月の部屋へ戻る)

   
home