きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
  tentoumushi.JPG    
 
 
 
2005.6.5
「宇都宮美術館」にて
 

2005.6.21(火)

 久しぶりに実験らしい実験をやって、満足しています。技術課在籍時代から比べれば実験≠ネんて言えないほどの内容なんですが、液を調合して、分光光度計で濃度を測定して……、それだけで嬉しいんです。毎日デスクワークで数字と睨めっこ、報告書の作成、だけではやっぱり飽きますね。液の匂い、液の温度、分光光度計の発するオゾンの匂い、波長の動きを見ていると本当に恍惚としてきます(^^;
 ま、そういう楽しい時間は後輩に譲って、老兵は数字と文字の森で格闘していろ、ということなのかもしれませんね。




詩誌『梢』38号
    kozue 38.JPG    
 
 
 
 
2005.6.20
東京都西東京市
事務局・山岡和範氏方 井上賢治氏 発行
300円
 

  <目次>
  「追悼 朝香進一さん」………………………………2
  「追悼 朝香進一さん−同人の想い出」……………10
  「スイちゃんの対話」他3編 山岡和範……………16
  「いのちの九〇秒」他2編 山田典子………………21
  「職人Sさん」他1編 井上賢治……………………25
  「戦犯弾劾」 上原章三………………………………30
  「明るい五月の日に」 江崎友香……………………32
  「神様もう一度」他3編 北村愛子…………………34
  「誤植」他6編 日高のぼる…………………………40
  「久しぶりのデモ行進」藤田紀………………………48
  「春の雨あがり」他1編 牧葉りひろ………………52
  「悲しみの向こうで」 宮崎由紀……………………55
    「梢」 37号感想紹介……………………………57
    事務局だより………………………………………60



    洗炭場    朝香進一

   合図のベルはなり
   数十のモーターは いっせいに うなりだす

   スクラムを組み チップラーへ突進する炭車は
   横腹を見せ 転倒する
   ベルトコンベアーは 黒光りする 炭(たん)をのせ
   いきおいよく 走り出す

   金属はすれ合い
   ベルトはスリップし
   石炭はぶつかり
   耳を聾せんばかりに わめきたてる
   むらさき あお ちゃ あか………
   ネッカチーフが もぅもぅと立ち込める炭塵の中で
   オウー!
   いきいきと うごいている
   うごいている

   振りおろすハンマー 伸びる手
   彼女たちの口元は
   りりしく 怒りっぽく結ばれている

   水洗機は リズミカルな 波動をえがく
   腕まくりした選炭工が バルブのハンドルを 握りしめ
   浮動する中塊に するどい凝視を浴びせる

   バケットは
   水々しい炭をのせ斜面を はいあがる
   一瞬――
   三角の容器群は いっせいに
   首をかしげる

   ぬれた炭のつぶては 小気味よい音とともに
   キラキラ 光ながら 落下してゆく………

                    (1948・5・16)−道炭労・ヤマの友−

 この3月に87歳で亡くなった同人・朝香進一氏の追悼号になっていました。朝香氏の作品は1986年の「ムスメと地球儀」、1955年「余され者」、1963年「波打つ屋根の下(T)」、そして上で紹介した作品の計4編が載せられていました。ここでは載せられた作品のうち、最も古い作品を紹介してみましたが、1948と云えば私がまだ生れていない頃のことです。しかし10歳までの8年ほどを父親の一族がいる福島県・常磐炭田で暮らしていましたから、「洗炭場」の様子などもかすかに覚えています。
 作品の主役は「石炭」でしょうが、「彼女たち」「選炭工」が佳く描かれていると思います。「りりしく 怒りっぽく結ばれている」「彼女たちの口元」、「浮動する中塊に するどい凝視を浴びせる」「腕まくりした選炭工」などは、真剣に仕事に取り組む労働者の姿が描かれていて、爽やかささえ覚えます。この詩が書かれた57年前といえば作者は30歳になるかならない頃です。そんな若い時分から人間を視る確かな眼を持っていた作者に驚きます。ご冥福をお祈りいたします。
 なお「擬視」は凝視≠フ誤植と思い、訂正してあります。




詩誌『濤』7号
    tou 7.JPG    
 
 
 
 
2005.6.28
千葉県山武郡成東町
いちぢ・よしあき氏方 濤の会 発行
500円
 

  <目次>
   広告 山口惣司詩集『天の花』               2
   訳詩 開くんじゃない 他 ルネ・シャール 水田喜一朗 訳 4
   作品 墓参                  川奈  静 6
      紐                   伊地知 元 8
      記憶の底                伊藤 ふみ 10
   特集(第三回)  山口惣司  私の詩の変遷 V      12
   作品 メロポエム・ルウマ        いちぢ・よしあき 16
      昨今 X  長電話           山口 惣司 22
   濤雪 こだわり(3)          いちぢ・よしあき 24
                           受信御礼 25
                           編集後記 26
                        表紙 林 一人



    墓参    川奈 静

    ここから行くんです
   正装をした一行に
   ヒルよけの長靴をはかせ
   山道のわきの茂みを分けて
   薮に入れと言う
   「山猫」の手紙のようだ
   別の世界に行ってしまった友に
   会える感じだったけれど
    ここに散骨しました
   天に近い山巓
   花もお供えしてはいけないそうだ
   秋の気配がして
   白い風がアブラカシの葉を裏返した

   何にもないってことは
   一つところに縛られるのではなく
   天空を流れている感じだから
   どこにでもいるってことになる
   すがすがしいと言ったら申し訳ないけれど
   石の重しのないのも

   悲しみが吹っ切れた
   アブラカシの実を拾ってきた

 「天に近い山巓」に「散骨」され「別の世界に行ってしまった友」の「墓参」の様子ですが、確かに「すがすがしい」ものがあるのかもしれませんね。「何にもないってことは」「どこにでもいるってことになる」という詩句が効いていると思います。「正装をした一行」が「ヒルよけの長靴をは」いて「山道のわきの茂みを分けて/薮に入」るという具体性の向こうにある精神世界、という二重構造も見えておもしろい作品だと思いました。




新・現代詩文庫30『和田文雄詩集』
    wada fumio shisyu.JPG    
 
 
 
 
2005.6.30
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
1400円+税

  <目次>
   詩集『恋歌』(一九八八年)全篇
    T              黯い雨・33
   窓辺そして海・12        冬の日・34
   夜更け・13           無雑な夜・35
   青いろの川・14         残像・35
   酔いの醒めて・15        時の失せて・36
   陰陽のさだめ・16
   海底からの輝き・17        U
   花の枯れて・17         雪降りしきる・37
   追憶・18            冬のかげろう・37
   塘にて・20           寒い夜・38
   過ぎた日・21          徘徊・39
   爐・22             坂の道・40
   鳰無情・23           匂い・41
   橋・24             寒燈・42
   木ぬれ陽・26          蹲る・43
   草いきれ・27          下燃え・44
   花・28             冬の蒼空・44
   塘にて・28           安堵する・45
   沸々たるもの・29        期待・46
   辿る・30            火群ら・46
   異形の人・20          無聊・47
   曳船・31            時間・48
   異形の結界・31         驟雨・48
   執着・32            眠り・49
   形象・33

   詩集『女神』(一九八九年)全篇
    女神             二十九(落合川の流れ)・75
   一(女神を信仰して)・50    三十(女神は羅の)・76
   二(落合川の清流)・51     三十一(海なりとろしあ風)・77
   三(威貌冠をかぶった)・51   三十二(こりでえるの毛)・78
   四(神々しい女神)・52     三十三(いちめんの青)・79
   五(女神の乳房)・53      三十四(女神のはだし)・79
   六(女神の沐浴)・53      三十五(女御は襦を)・80
   七(夕ぐれの霧)・54
   八(二月に磐城)・54       斉庭断章
   九(旭川に海は)・55      星の夜・81
   十(女神がながした)・55    ゆうかい・82
   十一(神殿の廻廊)・56     夜の風景・82
   十二(弁慶橋の欄杆)・57    女神の祭壇・82
   十三(大宝山の石魂)・58    舞い・83
   十四(赤い船渠)・58      冠毛・83
   十五(駅舎の屋根)・59     狼狽・84
   十六(夜間瀬川の近く)・59   ふくろうと魍魎・84
   十七(女神は神殿)・61     対称・86
   十八(女神の見送り)・62    みぞれ降る・86
   十九(広瀬川をわたって)・63  富木・86
   二十(杜へぬける路道)・64   巌門・87
   二十一(女神が黒い履を)・65  若宮八幡・88
   二十二(女神が列島北部へ)・66 夏の祭・88
   二十三(月の砂漠)・67     ひのはら・88
   二十四(石生の水分れ)・68   やぶこうじ・89
   二十五(いま武蔵は)・69    芒・90
   二十六(女神に捧げる)・72   梢・90
   二十七(都府楼の礎石)・73   思い草・91
   二十八(この宇宙)・74

   詩集『花鎮め』(一九八九年)全篇
    花鎮め            幣帛・10
   野分け・92
   穂すすき・92           谷慈郷
   寮歌惜情・93          T(ヤマタイコクが消えた……)・102
   流浪の遍路・93         U(新田
(しんでん)の麻のつちが……)・103
   女郎蜘蛛・94          V(三眠までつめで摘んだ……)・104
   晩秋・94            W(半夏生に大蒜を刻んで……)・105
   木枯・94            X(ぬるでの葉にあかが……)・106
   木がらし・95          Y(振馬鍬
(ふりまんが)にあたった石が……)・107
   こがらし・95
   師走の土・96           谷地川
   冬の夜・96           T(男はのどをわずらって……)・108
   みそっちょ・97         U(谷地川のいちばん下流
(しも)の……)・109
   かざはな・97          V(谷地川の曲りかどは……)・110
   かたつむりねむる・98      W(村社の祭りは九月……)・110
   小正月・98           X(尋常科の生徒たちが……)・111
   節分・99            Y(ヨソドメの実はすっぱかった……)・112
   夜・99             Z(前の山の段丘が……)・113
   花鎮め・100           [(八日に市のたつ日に……)・113
   ぬばたま・100          \(龍光寺の板碑は……)・114
   めはじき・101          ](谷地川は右に曲り……)・115
   野火・101

   詩集『うこの沙汰』(一九九七年)全篇
   能登島にて           暑い日・131
    1 冬の不実・117       ハリフダ・132
    2 港夜明け・117       茶ノハタケ・132
    3 島めぐり・118       氓
(タミ)・132
   春日楽天・119          凍った家
(つか)・133
   萌える・121           ふきのはな・134
   山国暮色・122          蓮華笠・135
   土蔵・123            雁の木ぎれ・136
   凍土・124            蠱・137
   元朝雨降山・125         粗なれども・137
   窓外の眺め・126         濠ばたの夕景・138
   竹の花・128           霞関趾・139
   うこの沙汰・129         野の風・139

   詩集『理想の国をとおりすぎ』(一九九八年)より
   クリオネの住むところ・140    虚無僧の乞食
(こつじき)がゆく・142

   詩集『村』(一九九九年)全篇
    T              希望・158
   沈んだ村・143          山かい・158
   しわよせ・145          問い・159
   医者のいない村・146       しがらみ・160
   離村・147            きぶし・160
   ちちははの死・148
   潟干し・150            V
   雪国のうたうたい・151      木・161
   虞れ・152            旅・161
   蠕動・153            春望・163
                   興醒め・164
    U              否定的な主張・167
   炭やく版画・155         碑・169
   炭やきの祈り・156        葦・169
   燠・157             菜の花は咲いているか・171
   甘露・157            いのり・172
   拝む・157

   詩集『失われたのちのことば』(二〇〇二年)全篇
   首尾・173            重い石・188
   もどらない・175         荒らし作り・190
   気比丸・178           さとうきびばたけ・192
   木が伐られ・182         シベリアのひとかた・195
   水滴れ・183           魂迎え・200
   児の墓・185

   解説 寿岳文章 書簡・204
      松永伍一 山河愛惜・204
      斎藤まもる 詩集『村』跋文・206
      古賀博文 ものいわぬものたちに憑依する感性・208
           
詩集『失われたのちのことば』評
   年譜・215



    曳船

   いまは動くことのなくなった
   巨大な外国航路の鉄船に
   灯りがついてまったく満艦飾の夕景となる
   いるみねいしょんのかげりに
   泌みいるように靄のわいて
   鉄船の眠る
   舫いを探す曳舟のひとつ
   空間のみの港内をゆけば
   焼玉と灯りの交錯となる
   あああの焼玉の音は
   どこかで聞いた遠い想い出
   地球ができるまえだったろうか
   旗と革と鉄あぶらのいきれのなかだったろうか
   ただ懐かしかった検疫停泊の日だったろうか
   あれから 夏も冬もくりかえし
   靄と灯りの丸窓にみた
   人のまなざし闇にとけて
   曳船の澪すじにのまれてきえた

 昨年12月刊行の『毛野(けぬ)』を除いた全詩集の全貌が判ります。著者の作品は拙HPでも何度か紹介していますが、この詩集にもありました。『村』の
「炭やきの祈り」「拝む」、『失われたのちのことば』の「魂迎え」はハイパーリンクを張っておきましたのでご覧ください。
 今回紹介した作品は1988年刊行の『恋歌』に収められたものです。「いまは動くことのなくなった/巨大な外国航路の鉄船」は横浜・山下公園に繋留されている氷川丸をイメージしてみました。氷川丸はこれまでも詩になり歌になりしているのですが、その動かない船の「舫いを探す曳舟」の方をテーマにする視点に驚きます。著者の基本的な姿勢が判る作品と云えましょう。和田文雄詩研究には欠かせない一冊です。




   back(6月の部屋へ戻る)

   
home