きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.8.5 長野
戦没画学生慰霊美術館「無言館」
 

2005.9.20(火)

 終日、会議・打合せで、結局20時までそんな状態でした。疲れたぁ。




橋渉二氏詩集『昇るしるし』
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2005.9.10
東京都大田区
ダニエル社刊
2400円+税
 

  <目次>
    T
   セビージャの夜 12    矢のしるし 16
   寄り道 18        ソル・イ・ソンブラ 22
   チャンバラ 26      バルセロナにて 30
   RONDAにて 34    影のバロック 38
   ホテル・マリナ 46    カスバの蝿 50
   変身のすすめ 54     
Un Momento 60

    U
   海浜スケッチ氏 68    珊瑚歌 74
   アキサミヨーナー 78   おまえはその嵐の手で 84
   贈物 90         忘れ物 94
   くせもの 98       捧げ物  102

    V
   南島ランダム  110    シーサイドホテル  116
   ちいさなものおと  122  卍  126
   波頭ダイヤル  130    まなざしひかり  136
   星光浴の日  140     天に本籍  144
   立てよ耳  150      昇るしるし  154

   初出一覧  160



    昇るしるし

   夕陽をみにゆく 空へ海へと放火する太陽を追ってはぜる日の燠火

     *

   人知をはるかに越えたものの力によって焼けおちる空 焼け跡の海
   ただただながめつづけている 永遠ということがわからなくなって

     *

   海 それこそ水の教理である と脱帽するほど謙虚にはなれない男
   さざ波は風におされて人が衆をなすときの虚しいちりめん敏とみる

     *

   苦難の荷を背負ってきたと錯誤する地に住む人々のおろか限りなく
   夜がくる 闇のマントは魔物 眠りは借り物 不眠症の島が浮かぶ

     *

   だれかの享楽でありだれかの狂気でありだれかの恐怖の沼である夜
   兵器にめかくしをしている島の闇 塗炭の闇はよなよな増産される

     *

   近所の敵が堕落の種をまき罪の芽をそだてているのがよくみえない
   たかが人間 ほら吹く思想の死の灰 その灰の目つぶしをくらって

     *

   海原へ脚をのばしてねたみあう 島と舟とは なかのわるい兄弟だ
   舟の脚 岬の脚 双方 慈母なるわだつみの腹を痛めてでる兄弟よ

     *

   海は姿見 べた凪の鏡になって 万天にまばたく星を泊めてくれる
   船出する満月お椀の舟ひかり舟こうこうと今宵月光浴の酒を下さい

     *

   みなみの海は箱海 絶世の美水 ラグーンの水の麻薬におぼれてさ
   死人のなかに水平線があるのかもしれない 塵に返る肉だとしても

     *

   踏絵という名の地上 罠も足枷も耐え忍んできたひとはさいわいだ
   迫害され砂塵にされたゆえに伝えられ広まることがある 地の塩よ

     *

   南の島にやってきた牧師さんひかりと風と雲の柱でできた牧師さん
   どうか説きあかして下さい 朝まで投獄されていた夜の夢の正体を

     *

   願わくは天に本籍 地は遺跡 くるだろう硝煙けぶるこの星の終り
   災い災い 地に海に災いと殺戮の高わらい だがまだ終りではない

     *

   朝日をみにゆく 海へ 太平洋へ 昇るしるしと目ざめよ目ざめよ
   焼きすてるべき世の闇の肌着まで裂いて のちの世に伝えるひかり

     *

   どうかあたらしい交わりにあたらしい命を その命に輝きを輝きを

 タイトルポエムを紹介してみました。天と海の曼陀羅とでも謂いましょうか、不思議な世界を創っていると思います。しかも、その主調は暗い…。それが一転して明るくなるのが最終部分です。「朝日をみにゆく 海へ 太平洋へ 昇るしるしと目ざめよ目ざめよ」というフレーズでタイトルとも呼吸を合せていて、「どうかあたらしい交わりにあたらしい命を その命に輝きを輝きを」がクライマックスとなります。この構成もさすがですね。
 本詩集中の幾編かはすでに拙HPで紹介していました。
「アキサミヨーナー」「くせもの」にはハイパーリンクを張っておきましたので、合せてご覧ください。




詩誌『へにあすま』30号
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2005.9.20
千葉県流山市
宮田登美子氏方・へすまにあの会 発行
300円
 

  <目次>
   夏の月     米川  征 2
   静かな部屋   小林  稔 4
   底       高山利三郎 6
   墓       千木  頁 8
   帰ってきたひと 宮田登美子 10
   あとがき          12



    墓    千木 頁

   キネンということばを
   祈念と理会したものだから
   あ、そんなものかと思ったが
   メモリアル、メモリアルと吹聴したので
   あ、記念
   そいつは困ると思ったのだ
   石屋は
   文字を刻んでいくらだから
   自然石を選んで
   そのままでいいという私を
   キネン、キネンと威して
   それなら墓とだけ刻んで――
   と私も妥協したのだった
   墓
   そいつはキネンにならないね
   生きた証しにはならないね
   せめて姓名つけて
   ――の墓あるいは――之墓
   「の」にするか「之」にするか
   どうしてもそこへ話を進めようとする
   既に孫もあろうかという年令の
   腕に自慢の石屋なら
   さもあらん
   墓とだけは刻めないという訳だ
   骨壷の目印にしかすぎない
   と思っている
   私とは意見が合わない道理
   漬物石の沢庵さんなら
   石だけでもメモリアルだが
   あるかなしかの人生を送った者には
   せめて墓石に生死を刻んで
   後世に残せと言うのだった

   残してどうする
   残してどうする
   誰のキネンにもならないものを

 「理会」は理解≠フ間違いかと思ったのですが、違いました。理解は<物事の道理をさとり知ること。意味をのみこむこと。物事がわかること>、理会は<事の道理を会得すること>。勉強になりました。
 作品は「祈念」と「記念」の違い主軸に「誰のキネンにもならないものを」「残してどうする」と結びますが、これこそ詩人の生き方の真骨頂でしょうか。私も「墓とだけ刻んで」みたいものです。




総合文芸誌『中央文學』468号
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2005.9.25
東京都品川区
日本中央文学会 発行
400円
 

  <目次>
   ◆小 説◆イタリアヘ行く/柳沢 京子/2
         ある村の雑笑譜/曽根 聖/13

      ◆詩作品◆北へ南へ/田島 三男/17
        遥かなる山岳/佐々木 義勝/21
       皆 既 月 食/佐々木 義勝/23
             空 転/朽木 寛/27

    ◆俳 句◆そぞろある記/黒沢 和夫/29
    ◆手 記◆厳冬のシベリア/本多 爽/30
          ●編集後記―――――――34

   ●表紙写真●イタリア/タオルミーナ市/古代ギリシア虚像●



    遥かなる山岳    佐々木義勝

        いちばん 高い山を登ってきたはずなのに
       頂きに立つと
      山のむこうに 再び 高い山が 現われる
     その 高い山を 登りきってみても
    また 遥
(はる)か 遠くに
   さらに 高い山が 出現する

     それでも 登山者は より 高い山をめざし
     深い雪を 踏んで 白い起伏を 登って行く

   振り返って見ると 雪原に 曲がりくねって
   足跡がずっと続いている

   登山者は 途中で
    その 乱れた 足跡が
     一瞬 すべて 猛吹雪に かき消されても
      峠で雪庇
(せっぴ)を踏み外し 道が 墜ちて 行き先を見喪っても
        決して 戻ることをしない
        決して 急ぐことも 焦ることもしない
      衰えた足を 励まし
     断崖絶壁の 荒涼とした尾根を
    吃立する 白い崖を 岩を
   ひたすら よじ登る

     登って 頂上に立てば
     また さらなる 高い山が現われ
     登攣
(とはん)を繰り返すことになるかもしれない

   だが 登山者 荒れて 険しい この山を
   この道を あえて登る

    たぶん 山頂近くまで たどり着けば
   しだいに 山が晴れ 視界がひらけ
   晴れ間が訪れて 必ず 絶景が 望めるはずだ!

 山は人生に譬えられますが「再び 高い山が 現われ」「さらに 高い山が 出現する」というのは、人生の苦難そのもののようです。しかし、登山者が「晴れ間が訪れて 必ず 絶景が 望めるはずだ!」と期待するように、わが人生にもいずれは光明が訪れるのでしょう。そういう希望も抱かせてくれる作品です。
 横書きでは判り難いのですが、縦書きの原文では文字が山脈のように連なって面白い効果を出していました。




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