きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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満天星 2005.1.8 自宅庭にて

2006.2.2(木)

 関連会社との定例会議で東陽町まで出張してきました。会議は順調に終わり、最後に、この4月いっぱいで早期退職する旨を伝えたらさすがに驚いていました。が、弊社が世界中で5000人のリストラをすることは知っていました。まさか私が手を挙げるとは思っていなかったようで、そのことを驚いていました。
 次回の会議は4月に予定されていますが、私の退職間際ではマズイので早めにしようということになりました。初旬に設定してくれましたけど、私はおそらく出席しないだろうと思います。出席すればお別れ会ということになりかねません。引継ぎ者も決まった頃でしょうからその者に行ってもらうつもりです。好意は素直に受けますが気持だけで充分。正直な話、仕事で呑む酒はもういいですね。気の合った仲間と自腹で呑む、これが一番です。



伊藤幸也氏遺稿詩集
火星(マルス)、頭上にきらめいて
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2006.1.23 さいたま市桜区 竜骨の会刊 1500円+税

<目次>
 T
日没 …………………………………… 8   悼 ………………………………… 10
火星(マルス)、頭上にきらめいて … 12   放電 ……………………………… 14
境涯 …………………………………… 16   地球よ 臆せずに 怒れ! …… 18
合図(サイン) ………………………… 20   秋日和 …………………………… 22
 U
春を迎えて …………………………… 28   早春賦 …………………………… 30
早苗歌 ………………………………… 32   ことば …………………………… 34
ふるさとの野山 ……………………… 35   みちのく慕情 …………………… 36
稟賦 …………………………………… 38   口上 ……………………………… 42
おそるべし 少年 十七歳 ………… 44
 V
ラバの唄 ……………………………… 50   下水 ……………………………… 56
兎 ……………………………………… 58   ぼくはセールスマン …………… 60
被災地 ………………………………… 62   あれから一年 …………………… 66
岩 ……………………………………… 70

あとがき 伊藤ちよ 73
装幀/伊藤京  栞/木暮克彦・今入惇・松本建彦・渋谷直子



 マルス
 火星、頭上にきらめいて
                        
マルス
うすぐもりの晩に、伊豆の最南端下田の町から、突如火星と
おぼしい赤い星が眺められた。
山頂のホテルの露天風呂に浸かりながら、八月末の夜空はうっ
すらと赤みをにじませ、炎症を起こした白眼のように、妙に
イタイタしく見えていた。
かんぱつ
 おやっと目を見はると、間髪をいれずに
「おかしな星……。あの赤いやつ一個きりで、あたりは雲だら
けじゃないか」
なっと
「そうだね、 直人くん――でも、しっかりと見給え!
 あれは、確か火星という星だよ。十五年ないし十七年ごとに
この地球に大接近して、はらはらさせたり、あるいはあの星を
熱心に見ている人びとをえらんで、向こうから飛び込んでくる
という、謂れのある星だ。
 それに、火星は太陽系の中で四番目の惑星と言われているか
ら、衝突したら、地球だって半分は持ってゆかれるな……。」
 と、孫の小学生をけしかけると、直人くんはじいっと夜空を
見上げて、気負いのいりまじる、それでいて何とも困ったよう
な表情になっていた。
「直人くんは、きっと火星に見込まれたんだ――すばらしい天
運に恵まれていると思うよ……」
 と語りかけたその瞬間、わたしの右眼が鞭打たれたかのよう
に火花を散らして、激痛が走った。 
マルス
 そして、その眼窩には、すっぽりと火星が填まりこんでいた。

 2004年12月に亡くなった、『竜骨』『セコイア』同人の伊藤幸也氏の遺稿詩集です。同人の手でまとめられ、あとがきは奥様がお書きになっていることから、好かれた詩人であったことが判ります。
 紹介した作品はタイトルポエムで、詩集タイトルとして生前の入退院中に決まっていたものだそうです。現実の世界から異次元の世界へと跳躍したような最終部がおもしろいと思いました。「孫の小学生」の「直人くん」への眼差しも軟らかく、よく観察していると云えるでしょう。
 詩集に収められた作品のうち
「放電」 「秋日和」は拙HPですでに紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので合わせてご覧いただければと思います。なお「秋日和」は初出では「菊日和」となっていました。



詩誌ONL83号
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2006.1.30 高知県四万十市
山本衞氏発行 350円

<目次>
現代詩作品
水口里子/椋鳥 1             徳廣早苗/雪がふる 2
横山厚美/道 4              名本英樹/小さな隙間 5
岩合 秋/命いっぱい 6          柳原省三/人魚になった若者 8
小松二三子/遺されしもの 10        西森 茂/歴戦の勇士 12
土志田英介/半心 14            宮崎真理子/米寿の母 16
浜田 啓/母の鏡台 17           山本歳巳/ゆでたまご 18
福本明美/明けがた 20           河内良澄/夢は不思議 21
北代任子/ボストンの想い出 22       大森ちさと/雲の上 24
丸山全友/省略 25             土居廣之/毒りんご 26
山本 衛/戯詩我人伝/他  27
俳句作品
香乃葉/忘年会 30             瀬戸谷はるか/寒卵 31
随想作品
芝野晴男/安い! 33            葦 流介/幸徳秋水と漢詩2 34
秋山田鶴子/どんぐり 35
後書き 36
執筆者名簿
表紙 田辺陶豊《アンテナ》



 半心−天女の一説−/土志田英介

おどれざんまい生きざからうて
子ん目見てみよ かかん目見て見よ
嫁にも恥づかしゅうないか
おどれん目あどこえついちょるがぞ
おまけに親あ あまりもんのように云うて
いったいぜんたい
この世の光 誰にもらうたと思うちょりゃあ

(おばあちゃん お義父
(とう)さんはね
まだ半心蘇っていないのです)
外地の戦場で抵抗人
(レジスタンス)の男女二人が捕らえられ
何故か彼は隊長からその銃刺殺
(さしころし)を命じられた
殺し殺される銃弾の修羅場を潜り抜けた義父
でも目の前の生身の人間を此の手で殺すとは
義父は断った
何 俺の命令天皇の命令がきけんと云うのか
命令だ殺
(や)れ さもなくば営倉か貴様も銃殺だ

玉蜀黍酒
(チャンチュウ)五合一気にあふりこみ
銃剣さしこんで ぐでんぐでん酔拳の様
大きな焼け柱に目隠し縛られ若手の男女二人
目の前の風景は朦朧 よろめきヤオーと叫ぶ
でも俺はの その姿と柱はしっかり見ていた
なんで俺がお前らを殺さにゃならんのだ
ヤオー ええい ぢどりよどりの銃剣は
焼け柱めがけてぐさりつっ込んでいた
彼はどたりとその前にぶっ倒れた

隊長怒るまいことか
この野郎酔うたふりしてわざと外したな
おのれー 抜刀すっ飛び彼を斬らうとした
その時 ばさっと云う雪もよいの中の闇の音
周りの兵隊の銃剣は一斉に隊長を狙っていた
じおり隊長は身を引いた
おばあちゃん
あの人はまだ半分夢の中にいるの
お義父さんの半心蘇りは
わたしが引き受けます 力を貸して下さい

 内容も構成もおもしろい作品だと思います。「周りの兵隊の銃剣は一斉に隊長を狙っていた」というのは事実かどうか判りませんが、一日本人としては事実であってほしいと念じます。強い者には従順な日本人の、抵抗の姿を見て感動しています。
 構成上は「お義父さん」と「わたし」が入り混じって、一見、判り難いように見えますが、私はこれで良いと思います。作品の持っている迫力が小ざかしい構成を打ち破っていると云えます。シリーズ物ならもっと読みたいと感じた作品です。



詩と随筆スポリア18号
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2006.1.31 愛知県知多郡武豊町
スポリアの会・坂口優子氏発行 非売品

<目次>
ぽえむらんど ソネット128(シェクスピア作) おおはしいさむ訳 2

秋のコンサート/長谷賢一 4        水溜り/森美智子 6
東ヨーーロツパからの便り二/大橋 勇 8
随筆 新美南吉の詩の世界(その三) 坂口優子 12
詩《「樹」を巡る》
屋久杉/熊崎輝日古 18           秋のしおり/星 水 20
随筆《私のメモリー》わたしのアンデルセン 星 水 22

君の瞳の中の君に/村田しのぶ 24      夏至祭り/星 水 26
虹のスケッチ/坂口優子 28
随筆 ギリシャへの旅(その十七) 坂口優子 30
編集後記



 屋久杉/熊崎輝日古

重い足を引きずり
やっとたどり着いた目の前に
あなたは確かに立っていた

どんなに本を読んでも
だれに話をきいても
決して解けなかった問いを携えて
私はここへ来たのだった

だが
何を問うても
あなたは答えてくれなかった
ただ
この国の歴史よりも長い時間を
樹皮に刻み付けて
そこに立っていた

………

答えないことが
あなたの答えなのだと気付くのに
いったい何年経ってしまったのか

私は今も
問いを持ち続けながら
日々を暮らしている
そして今度は
問いを持てなくなったときに
またあなたに
会いに行こうと思っている

 「答えないことが/あなたの答えなのだ」というフレーズが佳いですね。禅問答ではありませんけど、縄文杉の答はそうなんだろうと思いますし、そこに回答を見つけていく作者に敬服します。「問いを持てなくなったとき」と想定することにも作者の思想性の高さを感じます。問が無くなったときは人間として失格なのかもしれません。
 「屋久杉」にはまだお目にかかったことはなく、いずれ行ってみたいと思っていましたが、その感をさらに強くさせられた作品です。



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