きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.5.6 群馬県榛東村にて

 


2006.5.15(月)

 日本ペンクラブの電子文藝館委員会に出席してきました。15時からの予定でしたが共謀罪新設法案に反対する緊急の記者会見が開かれることになり、わが委員会は16時からとなってしまいました。それはまあどうでも良いのですが、井上ひさし会長のアピールをできるだけ宣伝してくれとの依頼がありましたので、まずそれを全文掲載します。

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*「共謀罪新設法案に反対し、与党による強行採決の自制を求める」 
    社団法人 日本ペンクラブ会長 井上ひさし
    二〇〇六年五月十五日
 いままさに日本の法体系に、さらにこの国の民主主義に、共謀罪という黒い影が覆いかぶさろうとしている。自民・公明の両与党は衆議院法務委員会において、一両日中にも共謀罪導入のための法案の強行採決を行なうつもりだという。
 私たち日本ペンクラブは、文筆活動を通じ、人間の内奥の不可思議と、それらを抱え持つ個々人によって成り立つ世の中の来し方行く末を描くことに携わってきた者として、この事態に対して、深い憂慮と強い反対の意思を表明するものである。
 いま審議されている共謀罪法案は、与党が準備中と伝えられるその修正案も含めて、どのような「団体」であれ、また実際に犯罪行為をなしたか否かにかかわりなく、その構成員がある犯罪に「資する行為」があったとされるだけで逮捕拘禁し、厳罰を科すと定めている。法案の「団体」の限定はまったく不十分であり、また「資する行為」が何を指すのかの定義も曖昧であり、時の権力によっていくらでも恣意的に運用できるようになっている。
 このような共謀罪の導入がこの世の中と、そこで暮らす一人ひとりの人間に何をもたらすかは、あらためて指摘するまでもない。民主主義社会における思想・信条・結社の自由を侵すことはもちろんのこと、人間が人間であるがゆえにめぐらす数々の心象や想念にまで介入し、また他者との関係のなかで生きる人間が本来的に持つ共同性への意思それ自体を寸断するものとなるだろう。
 この国の戦前戦中の歴史は、人間の心象や意思や思想を罪過とする法律が、いかに悲惨な現実と結末を現出させるかを具体的に教えている。私たちはこのことを忘れてはいないし、また忘れるべきでもない。
 そもそも今回の共謀罪法案は、国連総会で採択された「国連越境組織犯罪防止条約」に基づいて国内法を整備する必要から制定されるというものであるが、条約の趣旨からいって、人間の内心の自由や市民的活動に法網をかぶせるなど、あってはならないことである。にもかかわらず、法案は六百にもおよぶ法律にかかわり、この時代、この社会に暮らすすべての人間を捕捉し、その自由を束縛し、個々人の内心に土足で踏み込むような内容となっている。
 このような法案に対しては、本来、自由と民主を言明し、公明を唱える政党・政治家こそが率先して反対すべきである。だが、与党各党はそれどころか、共謀罪の詳細が広く知れ渡ることを恐れるかのように、そそくさとおざなりな議論をしただけで、強行採決に持ち込もうとしている。こうした政治手法が政治それ自体への信頼を失わせ、この社会の劣化を招くことに、政治家たる者は気がつかなければならない。
 私たちは、いま審議されている共謀罪に強く反対する。
 私たちは、与党各党が行なおうとしている共謀罪強行採決を強く批判し、猛省を求める。

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 以上が全文ですが、まったくとんでもない法案で、頭数さえ揃えれば何をやっても構わないという小泉内閣の不見識の際たるものだと思います。ぜひ廃案になってほしいものです。

 委員会の方は、私が推薦した新委員も出席してくれて1時間半ほどで終りました。総会へ向けての資料確認、今月末にドイツで開催される国際ペン大会に出席する委員の報告などがありました。時間の制約が無くなった私もいずれ国際ペン大会には出たいと思っていますから、その委員の話を注意深く聞きましたけど、日本ペンから派遣されたわけではなく、一会員として出席する場合はちょっと大変そうですね。ま、その時期になったら詳しく調べてみるつもりです。
 委員会が終ったあとは、新委員の歓迎ということで秦館長に連れられて有志の歓迎会に行きました。銀座1丁目の京料理のお店。店の雰囲気も料理も良かったけど、お酒はイマイチでしたね。どうも京都には旨いお酒がないようです。丹後あたりに小さな造り酒屋があって、それなんか旨そうな気がするのですが、探し方が悪いのでしょう。京都人の名誉のためにも探しておきたいものです。



個人詩誌『夜凍河』7号
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2006.5 兵庫県西宮市
滝 悦子氏 発行 非売品

<目次>
「共有」



 「共有」

坂を上りつめると
運河があった

面会謝絶
高い所にあるのに くっきり読めて
ポプラが成長するのはこういうことだと
Aの手紙を思い出す
(だれ?)
彼らの視線にさらされながら
眠っているAの
固く握り締められた指を
こじ開けるが
どうしても薬指が開かない

彼らのテーブルで
皿が配られる音
指を揃える音
箸置きがずれる、と
いっせいに立ち上がる
高い天井の蛍光灯が切れていて
梯子を上りかけると
Aの喉元から赤い傷痕が見える
泣くやつがあるか
髪を撫でられるたびに
Aの指が確実に磨り減ってゆくのがわかる

きょうも、優しい言葉をかけられなかったが
とうに汽車は着いて
行先は裏返された
運河に沿って
旗が並んでいるよ
もうじき選挙がはじまるね
雲の名前を思い出せなくて
はじめから知らなかったかもしれないと
Aに打ち明ける
(なぜ?)
声もなく問うのは決まって彼らだ

テーブルを囲んで
彼らはそれぞれの線を引く
乗り換えた駅はどこかと近づくと
いっせいに手袋を投げ捨てる
窓にちらつくポプラの葉影
運河の水を掻き分けて
一台の車がやってくる
あんなに浅いのに
汽車が向こうにいるのはどういうことだろう

Aは眠っている
Aが眠っている

 この作品のポイントは「共有」というタイトルにあると思います。「A」と共有した日々と風景、あるいは「面会謝絶」になっている現在の場所を共有していると読み取れるでしょう。また、もう一方では「彼ら」と共有していると云えるかもしれません。かなり難しい作品ですがそれらを切り口に読んでみました。



隔月刊詩誌
サロン・デ・ポエート261号
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2006.4.25 名古屋市名東区
中部詩人サロン編集・滝澤和枝氏 発行 300円

<目次>
佐藤經雄遺影………………………………………………………………………………………………………………4
 詩 夏の坂………………………………………………………………………………………………………………4
 年 譜  ………………………………………………………………………………………………………………5
追悼文 ……………………………………………………………………………………………………………………8
 安藤勝美・大竹 尹・川田 茂・木下信三・久野 治・黒沢義輝・小宮隆弘・佐々木登美子・田渕千恵子
 中根涼香・平野晴子・藤古川麦・松田達男・森島信子・山中以都子・足立すみ子・荒井幸子・伊藤康子
 稲葉忠行・高橋芳美・滝澤和枝・野老比左子
作 品
天空の詩人展 −悼詩 ……… 野老比左子 …23   笠寺の口 −悼佐藤經雄 …… 古賀 大助 …24
春 な の に ……………… 横井 光枝 …25   旅から帰って ………………… 伊藤 康子 …26
あげまきや どんど …… みくちけんすけ …27     L  ……………………… 三尾みつ子 …28
老犬ホーム …………………… 足立すみ子 …29   飛躍し続ける人 ……………… 阿部 堅磐 …30
小   閑 …………………… 甲斐 久子 …32   揺 れ る …………………… 滝澤 和枝 …33
生前の死亡通知 ……………… 高橋 芳美 …34   夢 の 柱 …………………… 及川  純 …35
散 文
『鈴木亨詩集』を読む ……… 阿部 竪磐 …36   天神さんのオペラ …………… 野老比左子 …37
コトバ・レンジャー(6)最終回            同 人 閑 話 ……………… 諸   家 …39
 時に浮かぶ船 ……………… 古賀 大助 …38   詩話会レポート ……………………………………42
受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記
目次カット …………………… 甲斐 久子      表紙(写真)…………………… 夫馬  勲



 夏の坂/佐藤經雄

足早に――は
もう無理というもの
まして日盛りの坂
きみよ なにを急ぐ

おしくらまんじゅうの
家並
浮腫の足あらわに
女は水を撒く
きみはただ
犬のように渇くか

滝みちの涼風を
この狭い門口に
呼んでいる
鉢植の水引草
きみはかすれた口笛に苛立つ

遠くで蝉が鳴いている
必死に――
この坂をのぼれば
そこがきみとの岐れ路である

 昨年末に93歳で亡くなった佐藤經雄氏の追悼号になっていました。紹介した詩は遺影とともに載せられていた作品です。書かれて年代は判りませんが「足早に――は/もう無理というもの」というフレーズから、かなり高齢になってからの作品ではないかと思います。最終連の「この坂をのぼれば/そこがきみとの岐れ路である」というフレーズが良く効いていて、中部詩壇の指導的な立場だった詩人の力量が判る作品です。ご冥福をお祈りいたします。



湯村倭文子氏詩集『雪明り』
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2006.4.8 さいたま市見沼区 柳桃社刊 1905円+税

<目次>
 T
赤平(あかびら)駅……………………8  雪明り……………………………12
手紙……………………………………16  ななかまど………………………20
芯の糸…………………………………22  菊の花束…………………………26
冬まぢか………………………………30  春風………………………………34
リキ……………………………………38  歌志内(うたしない)・雪………40
燐火(おきび)…………………………44  最後の夜…………………………46
 U
小鉾岸川(おふけしがわ)のほとり…50  冬の底……………………………52
冬のつつじ……………………………54  塩梅(あんばい)…………………58
雪融け…………………………………60  目印………………………………62
希望……………………………………66  帰心………………………………68
 V
科(しな)の木…………………………72  アイヌ模様………………………74
運河……………………………………78  知床峠……………………………80
鮭………………………………………84

詩集「雪明り」に寄せて……………88  あとがき…………………………90
表紙画  佐藤睦郎「雪降る街」



 雪明り

吹雪が軒先に唸り
バラックの工場を震わせ
父の浮き出たあばら骨を軋ませて
去ったあとの
しずかな雪明り
群青の空にこうこうと月はある

大家族を背負っていた父は戦後
生活のために背広を脱いだ
トタン屋根の底寒い工場で塗料にまみれ
小さな町の商店街の四季を
絵や文字で飾っていた

工場にいく度も厳しい風が吹く
喉元を白い影が塞いでいた
 生くべきや寒月研鎌のごとかかる
手帳に遺された句は
青いインクがとぎれてかすれて
寒さにこごえている

時がこぼれ落ちてまた冬
父の果たせなかった思いを鎮めて
雪が降り積む
工場につづく道の角に佇てば
青くてしずかな雪明りだ

 第一詩集です。ご出版おめでとうございます。ここではタイトルポエムを紹介してみました。著者は北海道生まれで25年前から埼玉在住。私も北海道生まれですが生後すぐに父の生地に福島県に帰っています。その後、小学校の3年から4年の1年間だけ芦別に住んだことがあり、その記憶で詩集を拝読しました。雪の降らない地方の人には判り辛いかもしれませんが、本当に「青くてしずかな雪明り」になるのです。神秘的ですらあります。その光景をバックに俳人でもあった「父」上の肖像が浮き彫りになった作品だと云えましょう。挿入句も佳いですね。
 詩集中の
「冬の底」「帰心」は拙HPですでに紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので、合せて湯村倭文子詩の世界を鑑賞していただけばと思います。今後のご活躍を祈念しています。




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