きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.9.16 群馬県榛東村「現代詩資料館・榛名まほろば」にて



2006.10.16(月)

 ようやく我が家にも光ファイバーが敷設されました。今日はNTTが来て工事をしていきました。光ファイバーで電話とインターネットを使いますが、今日は電話が開通しただけ。インターネットは明日、Niftyが来てパソコンの設定をやってくれます。有料なら自分でやろうと思っていましたけど、無料なのでお願いしました。最近、設定に失敗することもあって自信を無くしてますしね(^^;

 従って今日現在はネットに繋がっていません。このアップも明日になります。明日の午後は急に日本ペンクラブの会議が入ったので、下手をすると明日以降のアップになるかもしれません。ご了承のほどを。
 それにしても嬉しいなぁ。パソコン通信以来、ダイヤルアップで苦節15年(だったかな?)。ADSLも使えない地域に居ましたからね。これでやっと世間様と肩を並べられます。常時繋がっていますからメールの対応も早くなると思います、、、たぶん。これからも今まで以上のおつき合いのほど、よろしくお願いいたします。



森哲弥氏詩集『物・もの・思惟』
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2006.11.1 大阪市北区 編集工房ノア刊 2000円+税

<目次>
スリッパ 10      すりっぱ 14
地下足袋 16      じかたび 18
ドアノブ 20      どあのぶ 22
鞄 24         かばん 28
鉛筆 30        えんぴつ 32
タオル 34       たおる 38
硝子壜 40       がらすびん 44
腕時計 46       うでどけい 50
新聞 52        しんぶん 56
額縁 58        がくぶち 60
付箋 62        ふせん 66
ハンガー 68      はんがあ 72
薬罐 74        やかん 78
鋏 80         はさみ 84
植木鉢 86       うえきばち 88
出刃庖丁 90      でばぼうちょう 94
乾電池 96       かんでんち 100
ティッシュペーパー
.102 てぃっしゅペえぱあ 104
紙コップ 106
.     かみこっぷ 110
漏斗 112
.       じょうご 116
 *
遊び心に誘われて 加藤智恵美 120
あとがき 124
カバー装画 小嶋悠司/装幀 森本良成/写真 松田征夫



 新聞

彼からは硝煙の匂いも漂ってきた。人々の鳴咽の声も聞
こえた。と思えばアスリートの筋肉の咆哮も伝わってく
る。また彼の厚みのない体の上では街の美化運動に参加
して花壇に花の種を蒔く少女が微笑んでいるし、「今日の
一莱」と銘打たれた文字の生け簀の中では旬の魚が泳い
でいる。普通の顔をした残虐殺人者の写真の下には花罫
のショー・ウインドーの中、美肌効果抜群と喧伝された
化粧品が並んでいる。
そうだ「今日」という使命を果たすために、二十三時五
十九分五十九秒まで、彼は万余の活字を背負って、意味
として華々しく生きてきた。そして冷酷な「時の鈎爪」
で引き寄せられた次なる一秒のために「昨日」の烙印を
捺され、彼の運命は激転したのだ。彼の体にのっていた
活字は瞬時に生彩を失い無意味の幽谷へとザラザラとこ
ぼれ落ちた。
情報媒体としての彼は死んだ。が、紙として、材質とし
て彼は存えるのだ。日々配達されるこの材質はもはや庶
民の生活にはなくてはならないものとなっている。包装
紙として、断熱材として、緩衝材として、吸湿材として、
鍋敷きとして、気取らない天麩羅用のクッキングペーパ
ーとして彼は執拗に生き続ける。

朝まだき、玄関で音。「今日」の衣裳を纏って彼が来たの
だ。果たして情報として迎えられるか。はたまた生活用
品として迎えられるか。家人はまだ夢の中。


 しんぶん

あかちゃんが
きゅうにてをのばして
みるくびんをたおした

みるくが かつじのうえをながれる
なんごくのせんそうも
となりまちのさつじんじけんも
みるくいろにそまって
かつじとともにとけてしまう

みるくが
やがてじょうはつして
にじんだかつじがあらわれるまでの
すこしのあいだでも
せかいがおだやかであればいいのだが

あかちゃんがわらっている


 最初にお断りしておきます。紹介した「新聞」ではルビが多用されていますがHTM形式ではうまく表現できません。今までもルビを( )に入れたりして苦心して来ましたが、この散文詩の場合は美観を損ねます。今回はあえてルビを付けず下記に抜き出しておきました。変則的で申し訳ありませんがご海容ください。
鳴咽=おえつ、咆哮=ほうこう、簀=す、鈎爪=かぎづめ、存=ながら、纏=まと

 さて、本題です。非常におもしろい詩集で、楽しませていただきました。タイトルはものものしい≠ニいう意味に重ねているだろうと思いましたら、あとがきでもそのように書かれていました。
 目次でお判りのように漢字またはカタカナの詩と平仮名の詩が対になっています。最初は散文詩で、次に平仮名の詩が来ます。まず、この発想に驚かされました。しかも、ちゃんと内容が合っています。おそらくこんな詩集は初めてではないでしょうか。一例として「新聞」と「しんぶん」を紹介してみましたが、散文詩の特質、平仮名詩の特質がよく出ていて、感心しました。
 特に「しんぶん」は佳いですね。最終連に置かれた「あかちゃんがわらっている」という1行は、弱い赤ちゃんに大人が笑われていると採れますけど、それ以上に未来の大人に現在の大人が笑われているという意味が強いように思います。

 著者は2000年刊行の詩集『幻想思考理科室』で第51回H氏賞を受賞した詩人です。贈呈式には私も出席させてもらいましたが「受賞の言葉」で印象深い挨拶をしていました。今回の詩集も大きな賞の対象となるのではないかと愚考しています。お薦めの詩集です。



清ア進一氏詩集『眠れない時代』
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2006.10.12 東京都杉並区 本の森刊 880円+税

<目次>
路地裏…6        こわれていくのは…10
空…12          鬼瓦の敏ちゃん…14
傷…18          呼ぶ声…22
泣く…24         蛾…25
ともだちの死…28     眠れない時代…32
絵…36          住処…38
他人…40         出会い…42
昨日までの朝のように…44 プライド…46
ごめんね…48       螢…50
プラットホームで…52   五月…54
まどろみ…56       七夕…58
夏の庭…60        星への旅…61
冬空…64         夕焼けとかげ…66
命のゼンマイ…68     こうもり…70
海が、呼ぶ。…72     初恋…74
まばゆい光…76      花が枯れている…78
佐伯先生の言葉…82    この海のかなしみ…86
三月の童話…90



    
びん
 鬼瓦の敏ちゃん

鬼瓦の敏ちゃんは そのあだ名のとおり
ギョロリと睨まれただけでも
大のおとなが お漏らししてしまうほど
強烈な いかつい面構えをしていたが
実のところ 本当に気の毒なほど
気の弱い チンピラだった

ある時 弁天様の彫り物を
胸に入れようとしたのはいいが
あまりの激痛に耐えかねて
途中で ほっぽりだしてしまったと聞いた時
ぼくは一日中 家の中で笑い転げていた

ヤクザ失格の烙印を押されて
組事務所を追い出された鬼瓦の敏ちゃんを
次に見たのは 高校の近くの工事現場で
慣れない手つきで つるはしを
振りかざしているところだった

ぼくと 年端も違わないような若造に
顎でこき使われながら ペコペコと
頭を下げている鬼瓦の敏ちゃんの
ランニングシャツから見え隠れする
中途半端な弁天様がひどく哀しかった

だけど そんな鬼瓦の敏ちゃんの
唯一の自慢はといえば
とびっきり かわいいお嫁さんをもらったことで
ふたり仲良く 手をつなぎながら
コンビニあたりで
買い物している姿を
ぼくは 何度も目撃している

そうして

桜の花びらが散って 緑の風が吹いた
ある日の朝 長屋造りのいちばん端っこの
鬼瓦の敏ちゃんの住まいの玄関先に
ちっちゃな ちっちゃな
こいのぼりが 立った

 ほんのり甘くて、ホッとして、そして何がしかの哀愁を感じさせる詩集です。第2詩集とのことですが、おそらく第1詩集から純粋な視座が続いているのだろうと思います。紹介した作品は「鬼瓦の敏ちゃん」という人間が良く描けていますね。「気の弱い チンピラ」を見ている「ぼく」の視線もあたたかで、これは著者の生来のものでしょう。
 本詩集の中の
「傷」とタイトルポエムの「眠れない時代」は拙HPですでに紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので合わせてご覧いただければと思います。まだ40代の、将来が楽しみな詩人の作品を味わってみてください。



隔月刊紙『新・原詩人』8号
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2006.10 東京都多摩市
江原茂雄氏方事務局 200円

<目次>
《この詩 Y》滝/宗左近 紹介・解説/大井康暢 1
読者の声 2
詩 オカマの詩/小林忠明 白山の祈り/山田塊也 『礫』20より/山本日出夫 3
  真赤な柿/井ノ川けいこ 悲しみ/長谷川修児 らぶれたあ/佐相憲一 こごえた手に/大橋晴夫 4
  戦記/竹内元 初心/墨微
川柳 柳心広円 5
狂歌 乱鬼龍 5
初公判/重信房子 6
詩「風」/さと子(小4) 6
陳千武さんからの便り−(事務局) 6
事務局より 6



 「風」/さと子(小4)

走るときは
わたしから 風に
  ふかれようとする

歩くときは
風からわたしに近づこうとしている

でも風は気まぐれで
わたしが走っているときに
 近づいてくるときがある

わたしは そんな風が 大すきだ

  (学級通信「太ようの子」NO.10より)

 小学校4年生の女の子のしなやかな感性に驚かされます。おそらく意識はしていないでしょうが「風」を自動詞、他動詞と使い分けて見事です。それが「走るとき」と「歩くとき」で変わることを発見したのは大人でもいないでしょうね。いや、子供だから発見できたのかもしれません。その上「風」の「気まぐれ」までちゃんと把握していて、すごいものだなと思いました。大人になってもこの感性は失ってほしくないですね。



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