きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.10.22 山梨県立美術館




2006.11.7(火)


 世田谷美術館へ行って「ルソー展」を観てきました。正確には「ルソーの見た夢、ルソーに見る夢」というタイトルでしたが、ルソーの作品は22点しかありませんでした。他にルソーに関係する画家や影響を受けた人たちの作品が120点ほど。それでタイトルの「ルソーに見る夢」という意味が判りました。40歳を過ぎてから描き始めたルソーですから、もともと作品が少ないんでしょうね。NHKの世界遺産の番組で有名になった「熱帯風景、オレンジの森の猿たち」も展示されていました。200号ぐらいでしょうか、意外に大きな絵でした。

 展示場で意外なことを発見。シルクスクリーンでは第一人者だと思っている靉嘔の絵がありましたけど、「嘔」の字は違うのではないかと思います。私も彼のシルクスクリーンを2枚持っていますが、20年ほど前に買ったときは雲ヘンに区だったと記憶しています。区は本字の中が口3つですけど…。サインは ay-o ですから別人ではないと思います。
 ま、どうでも良いことですけど、絵を観る別の楽しみ、というところでしょうか。



坂多瑩子氏詩集『スプーンと塩壺』
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2006.11.20 東京都文京区 詩学社刊 1200円+税

<目次>
歯車 6        ヤギ 11
ゆがんだ円について 12 カラス 14
シチュー 16      一日 18
ぼうぼう生えて 22   セミ 24
廊下 28        一枚の絵のように 32
失せもの 34      いもうと 36
柱時計 40       影ぼうし 42
魚 44         朝 46
キャシー 48



 一日

何かの拍子に
終らない一日が始まると
夜がきて そのまま
朝になっても
私は同じ場所にすわっている

それでも
ほんの少しずつずれ落ちながら
朝がきて
夜になるものだから
私のからだはゆがみはじめ
私のこころはゆがみはじめ

ある日 とうとう
見えないものも
見える
なんて言ってしまうのだ
台所の暗がりで
もういない大伯母が白瓜をつけているとか

それから
素知らぬ顔をして 朝
起きると何も起らなかったかのように 昼の
なかに立っている

といってもそう単純でもない

何かの拍子に
スプーンとか塩壷とか
見えているものが見えなくなり
裏返しの一日が始まり
台所の暗がりに探しにいく

 3年ぶりの第2詩集です。詩集タイトルの「スプーンと塩壺」という作品はなく、紹介した詩の「スプーンとか塩壷」から採っていると思います。なかなか憎いタイトルの付け方ですね。
 この作品は今回の詩集の性格を良く現していると思います。「見えないもの」が「見え」てしまう、「見えているものが見えなくなり/裏返しの一日が始ま」ってしまうということが詩集の大きなテーマのように感じています。
 この詩集の中ではちょっと異質ですが
「影ぼうし」という作品があります。すでに紹介していましたのでハイパーリンクを張っておきました。本詩集とは最終連がちょっと違っていますけど、私が一番好きな作品です。合わせてご鑑賞ください。



大重徳洋氏詩集『丘の時間』
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2006.10.30 東京都豊島区 舷燈社刊 2000円+税

<目次>
蝶と遠雷
谷地へ 9      距離 10
蛇 11        古い日の歌 12
ムラサキシジミ 13  アオスジアゲハ 14
ウラナミアカシジミ15 ウラギンシジミ 16
モンキアゲハ 17   カヤキリ 18
視線 19       夏の夜の訪問者 20
螢 21        虹と蝶 22
カンタン 23     夢の口 24
カワセミ 25     踏切番 26
遠雷 27       山繭蛾 28
足跡 29       兎 30
青い提督 31     初秋 32
虫もいろいろ 33   秋の光 34
野の匂い 35     ジョウビタキ 36
ルリビタキ 37    イタチ 38
谷津田 39      冬の日 40
天からの火 41    カマキリの卵 42
繭 43        コミミズク 44
タゲリ 45      越冬の蝶 46
春の目覚まし 47   揚雲雀 48
早苗時 49      青い弾丸 50
巣箱 51       カマドウマ 52
イラガ 53      古い扉 54
難解なパズル 55   密会 56

丘の時間
開墾 59       草地 60
点描 61       キジのいる丘 62
羽ばたき 63     雨後の朝 64
侵入者 65      五月 66
豚菜 67       サシバの帰還 68
野兎と青大将 69   蝶道 70
通い路 71      夏至 72
夏の学習 73     畑で 74
蝶の舌 75      西洋薄荷亭 76
クマバチ 77     丘の衛兵 78
ウスバカゲロウ 79  オクラ讃 80
八月十六日 81    天のしぶき 82
処世 83       空中散歩 84
草取り 85      機械仕掛けの尻尾 86
カタバミの散弾 87  連行 88
見ている 89     サーファー 90
サトイモの葉の上で91 ムクドリの巣 92
モグラ 93      雪上の消息 94
雪垂り 95      土遊び 96
丘の風 97      丘の時間 98
あとがき 99



 夏の学習

夏のあいだ夢中になって調べた昆虫の名を
秋が終る頃には すっかり忘れている
畑には今年も 虫たちが次々やってくる
それで 私の夏は忙しい


 空中散歩

金属光沢の竹とんぼが 上昇して林の梢に消えた
前羽を真横にひろげた玉虫だ
噴射推進装置を背中につけた未来人が
都会の空を浮遊する絵が 昔の少年雑誌にあったな


 機械仕掛けの尻尾

振り下ろした鍬が 巣穴のトカゲを不意打ちした
本体は逃げて 切り離した尻尾が跳ね動く
敵の注意を誘う機械仕掛けのパフォーマンス
五分後に バッテリー切れで ひっそりと止まった


 丘の時間

たかだか二十メートルの高さなのに
斜面林の細道をのぼり 丘に立つと
そこに吹くのは丘の風
流れるのは丘の時間

 2部構成の詩集で、全て4行詩です。第1部の「蝶と遠雷」は抄として
文芸誌『獣神』30号に9編が載せられています。「谷地へ」「距離」「ウラギンシジミ」「カヤキリ」「視線」「虫もいろいろ」「カマキリの卵」「カマドウマ」「イラガ」の9編です。ハイパーリンクを張っておきましたので「蝶と遠雷」の雰囲気はそちらでお楽しみください。
 ここでは第2部で詩集タイトルでもある「丘の時間」から4編を紹介してみました。詩「丘の時間」は詩集の最後に置かれていて、詩集の特徴を良く現した作品だと思います。「丘の風」を感じ取りながら過ごす著者の「丘の時間」は、一種の理想郷と云えましょう。その理想郷から生み出された作品は、いずれも動植物に対するあたたかな視線であふれ、近頃では稀有な詩集だと思いました。



同人誌『佃』創刊号
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2006年・秋 さいたま市浦和区
山岡遊氏発行 300円

<目次>
北野 丘/貝とうまれて人に眠る・1     夢の文法・5
村田マチネ/真夏のシックスティーズ・13
山岡 遊/十三月の(為)・19        帆・24
《あとがき》 31



 十三月の(為)/山岡 遊

女は二度泣いた
雨が上がるまで
この女のように
たとえば他者の為に何かを行なう心にすがりつくものや
ボリューム抜群のシンメトリーな肉体は
一刻も早く
出てゆくべきなのだ
この
過失と欠如を美の宝とする地帯から

−わたしのような者の言葉でも
 お役にたてるならと精いっぱい努力いたしました−
二〇〇六年六月
民事法廷から出てきた南国育ちの背の低い女は疲れ切った声で答えた
三年前に発生した
エレべ−ター事故で
植物人間に追いやられた職場仲間Aのために
証言台に立ったのである
                    しもうさため
仕方ないじゃないか、名前が「下総為」なのだから 逃れる心理を追う論理のため 二度と起
き上がれないもののため 下心など無いけど浮ついていた だれかひとのためだ、と言いなが
らしょせん自己まんぷくのためじゃあないか、と陰口たたくなら、一度くらい自己まんぷくで
満面の顔を見せてから死んでみろよおまえ、と鬱の牧場でため口をかみ殺すため

破れ月が照らすこの国の野外ストリップ劇場では
いびつな踊り子たちがからだを開く
小児麻痺の後遺症で
片方だけひと回り小さくなった
黒タイツの足を月に向って蹴り上げる
その網の付け根のむこうには
歪んで女陰が
生きよ、と歌う
湿り気を絶えず補充する ぬるぬるする
ぬるぬるするものこそが
わたしたちに野を与えるのです

「ため」というの名は
売れない詩人であった父がつけたもの
それは、自分の詩があまりに
何の 役にも
だれの ためにも
ならなかったという
父の思い上がった悔恨の現れだった
父さん、
詩とはひとり幻想を共同幻想にすりかえるためにあったはずでしょ

七月
Aの家族から手紙が届いた
封筒には「底なし沼」の消印が押してある
ためは、思う
わたしはだれかのためではないし
じぶんのためを失っていたためかもしれない
わたしは また
自分の思いの確かな表現方法を知らないため時々こうして「ムー」と泣く
悩めるその一場面は
ダフィット・テニールスの絵画「聖アントニウスの誘惑」をイメージして欲しい
蛙を乗せた細長い魚が宙を飛び
鳥が地上で茶を飲む
いつも獣の骨を眺めながら
相談者として
死神が隣に座る

ための頭の周りを
夥しい蝿のような飛翔体が飛んでいる
やがてそれは集合し研ぎ澄まされ二つに凝縮される
「為」に濁点
「為」に濁点
下総だめ 五十歳
昨夜は久しぶりに腰を突き出し両足開いて歌った
耳元で
闇の水底から弾かれ浮上するものがある
それは夜船
事実と捏造の波間
十二ケ月の国から十三月の領海へ向う
進めよ剥離
割れるさ!
必ず
海は
ふたつに割れる!

 中堅詩人お三人の新同人誌です。詩誌と銘打たず、詩は2編、あとはエッセイと創作でした。しかし散文も詩的で、楽しんで拝読しました。
 紹介した詩は発行者の山岡さんの作品です。「為」の存在とともに「売れない詩人であった父」も存在感がありますね。「詩とはひとり幻想を共同幻想にすりかえるためにあった」は名言。最終連の「必ず/海は/ふたつに割れる!」はモーゼを想起させ、この同人誌の未来を暗示していると採ったら読み過ぎでしょうか。ともあれ『佃』の今後のご発展を祈念しております。



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