きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.6.11 軽井沢タリアセン・塩沢湖




2007.7.31(火)


 私が住む神奈川県南足柄市の隣に松田町というところがあります。そこに寒田神社という社があることは知っていましたが、この時期に開催される夏祭りに「禊(みそぎ)」と称して神輿が酒匂川に入るという奇祭があるとは知りませんでした。松田町に勤める人が昨日から誘ってくれていました。今日の午前中は静岡県小山町の実家に帰って、庭に除草剤を撒くという仕事が入っていましたので、それをあわてて済ませてとりあえず松田町に向かってみました。
 残念ながら禊は終わって、神輿はのんびりと町内を練り歩いているところだけを見ました。一応写真は撮りましたけど、どうも面白くない…。で、その人のデジカメを見ると、しっかり撮ってあるじゃあありませんか!

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 さっそく送ってもらったのがこの写真です。2分の1に縮小しましたからちょっと迫力に欠けますけど、なるほどしっかり酒匂川に入っていますね。左上にちょっと見えるのは小田急線の橋桁だと思います。そこまで撮るとはニクいアングル。来年は自分のカメラでしっかり撮ってみたいと思いますが、この写真を超えられるかどうか自信はありません。

 そうそう、今日は私の誕生日でした。このトシになると本人も気にしませんし回りも気づきません(^^; 連れて行ってくれた人にももちろん言いませんでしたが、神輿を追いかけた時間とこの写真は何よりのプレゼントだったと思います。ありがとうございました。



やまもとあつこ氏詩集『まじめなひび』
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2007.8.1 神戸市北区 空とぶキリン社刊 1500円

<目次>
ここは 8      霧で 12       落葉樹林 14
自転車 16      通学電車 18     ぼそぼそ 22
駅鳩 24       小学校女子トイレ 28  くすんだ茶緑 32
耐寒マラソン 36   玉出のおばちゃん 40  デート 44
ふたりのり 48    そう 50       ひめへ 52
車道の人 54     朝 58        昼下がり 62
十三回忌 66
あとがき 70     表紙及扉絵 吉田尚令



 車道の人

国道25号線
車ではしっていると
むこうから
車道を人が歩いてくる
はしる車ぎりぎりに人が歩いてくる
黄色い服の人

私はスピードをゆるめ
近づいて
近づいて

顔が

はっきり
見えた

泣いている

どうしようもなく
泣いている

涙もなく
泣いている

声もなく

泣きながらも同じ歩調で前を見つめ
私の横を通りすぎる

サイドミラーの中に黄色い後姿

私にも
泣けるだろうか

ひきつるほどの力で
真面目な日々を
泣きたく
なった

 2000年の第1詩集
『子犬のしっぽをかみたくなった日』以来、7年ぶりの第2詩集です。ご出版おめでとうございます。
 本詩集のタイトルである「まじめなひび」という作品はありません。紹介した詩の最終連の「真面目な日々を」から採ったのではないかと思います。著者のこの7年間を2冊の詩集や同人誌の作品から推測するのは愚かというものですけど、それでも作品からは真面目な日々≠ナあったように受け止められます。それはいわゆる良い子≠ニいう意味ではなく、表面的には生真面目さを装わなければ生きられない、現実の世の日々が内在しているという意味です。そんな日々が「泣きながらも同じ歩調で前を見つめ」続けなければいけない、あるいは、やっとそうやって自分の感情を出すことができた「黄色い服の人」に見事に仮託していると云えるでしょう。

 本詩集中の
「耐寒マラソン」はすでに拙HPで紹介していました。本詩集とは後半がちょっと違っていますが本質的には同じだと思います。前詩集とともにハイパーリンクを張っておきました。合わせてやまもとあつこ詩の世界を鑑賞してみてください。日本の詩界に新しい風を吹き込んでくれる詩人だと思っています。



詩誌『青い階段』84号
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2007.8.1 横浜市西区 浅野章子氏発行 500円

<目次>
父の言葉/荒船健次 2           ↑ 矢印マーク/小沢千恵 4
木の実/廣野弘子 6            梯形
(ていけい)の空/浅野章子 8
猫が運んでいる/鈴木どるかす 10      通勤・朝/森口祥子 12
きょう/坂多瑩子 14            唯我独尊/福井すみ代 16
エッセイ/荒船健次 18
ピロティ 鈴木どるかす・廣野弘子・坂多瑩子
編集後記
表紙 水橋 晋



 猫が運んでいる/鈴木どるかす

多すぎると言われた髪が
少なくなった
あれこれ考えて
指で梳く
どうしてこんなに軽いの
仕付け糸のようにすぐ千切れそうだ

うとうとしている と
私の胸の上で 猫が
体をだらりと長くして眠っていた

猫の小さないびきが
止んだかと思うと
体をよじって ずるずるっと
上の方へ這いずり
猫は私の頭で爪を研いでいるらしい

捕まえようとしても
仕返ししようとしても 私の両手が動かない

私は頭をもたげ
ベッドから降りた猫が
向かいの義母の部屋に入っていくのを見ていた

薄暗がりの廊下から
すーっとした匂いが
私の好みのミントハーブ
猫の爪に刈り取られた髪の匂いだ

朝になり 義母が猫といっしょにやってきた
ミントハーブの匂いを漂わせ
おはよう
と 晴れやかに言う
義母の髪がふさふさとしている

 「私」の「多すぎると言われた髪が/少なくなった」のは、「猫の爪に刈り取られ」て「義母の髪」として「猫が運んでいる」からだ、という着想のおもしろい作品です。そこまでの鑑賞でも作品として充分に成り立ちますが、もうちょっと愚考してみました。年配の人が若い人から吸収するエネルギー、という観点です。現実にはそういうことは多々あり、そこでは若い人のエネルギーが「こんなに軽」くなるということは理屈の上ではありません。しかし、そうとばかりは言えないなぁとも思います。エネルギーを吸い取った年配の人の前で、吸い取られた若い人はなぜか萎縮してしまう、そういう図式もこれまた多々見られるように感じるのです。
 作者の意図からはおそらく外れているでしょう。読者の読み方の自由、と言ってしまうと不遜になりますが、そんなことまで読み取らせる佳品だと思いました。



詩誌『環』125号
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2007.7.30 名古屋市守山区
若山紀子氏方・「環」の会発行 500円

<目次>
若山紀子/脈絡 2             菱田ゑつ子/青梅のころ 4
加藤栄子/ばらばら 6           東山かつこ/ブーメラン 8
安井さとし/殺意(私の場合) 11       神谷鮎美/こよみ 14
鈴木哲雄/龍の川 16            さとうますみ/イワナガヒメ 18
<かふえてらす>
 菱田ゑつ子 さとうますみ 神谷鮎美 加藤栄子 安井さとし
<あとがき> 若山紀子
表紙絵 上杉孝行



 青梅のころ/菱田ゑつ子

限りなく穏やかな風景のなかに
その庭はあり
諂いのない自然が
ていねいに行き亙っている

おおきく根を張る太い木は
深深と枝葉を伸ばし
いよいよ輪郭を視えにくくするが
揺らぐことはない

少しく湿りを帯びたここちに
黒みがかった土壌を拡げ
己が影を重ねながら
朝市のように坐っていればいい

木漏れ日の匂いのする
山桃の下
つまり木陰で

詩と歩きつづけるひとの
びろーどのこえが
ほんのいっとき 酔芙蓉に揺れて
ジャム作りの話しに夢中だった午後

実が
重く小さな音を立てるのを
澄みわたる空に聞いたのだが
はたして

 最終連が印象的な作品です。特に最後に置いた「はたして」が効いていると思います。この言葉があることによって、何度も前の行、前の連へと読者を誘う効果があります。1語、1行の重みを感じさせる言葉と云えましょう。
 第1連の「諂いのない自然が/ていねいに行き亙っている」というフレーズにも魅了されますね。主題は後ろから2連目にありますけど、それを取り巻く各連の詩語が浮ついておらず、構成上も見事な作品だと思いました。



詩誌『衣』11号
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2007.7.20 栃木県下都賀郡壬生町  700円
森田海径子氏方「衣」の会・山本十四尾氏発行

<目次>
おすそわけ/壷阪輝代 2          山本十四尾詩集『鬼捜し』について 図子英雄 3・4
蚕蛾/大磯瑞己 5             夢 −これも一つのレクイエム/葛原りょう 6
琴爪入れ/四宮弘子 7           イヤリング/うおずみ千尋 8
魔女/豊福みどり 9            昼顔/岡山晴彦
(はるよし) 10
情炎の京人形/大原勝人 11         心/桂木沙江子 12
遠くへ(訳詩)/大山真善美(ますみ) 13・14  黄昏に/江口智代 15
満月の音/山田篤朗 16           よしみ/佐々木春美 17
犠牲/高畠 恵 18             嵐/月燈(つきひ)ナユタ 19
僕の色/千本 勲 20            始動/上原季絵 21
天意(五題)/喜多美子 22          独楽/相場栄子 23
薬味/森田海径子(かつこ) 24        散花 −秋季/山本十四尾 26
同人近況 26・27・28
同人詩集紹介 28
後記 29
住所録 30
表紙「衣」書 川又南岳



 蚕蛾/大磯瑞己

はらみたいという衝動があった

桑の芽が芽吹くにあわせて 春蚕がいっせいに孵化してくる
農家の二階で雨の音をたてて桑を食み
あめ色に太って 絹糸をはきだしつつ
はきだしつつ 眠る

産みたいという衝動もあった

繭を煮て ちいさなほうきでさあっとなでると
みごとにふんわりと糸口が生まれ
つながり続ける一本がまきとられたあと
茶色のさなぎは家畜の餌になった
羽化してしまった蚕蛾は
繭を体液で茶色く染めながら
ヴヴヴヴ…と羽をかわかすのだ とべない羽

 こうなるとくず繭だね
 糸はとれねえし この色は落ちないし
 捨てるしかないんだよ
桑の重みで腰のまがったばあちゃんの話を聞いたのはもう
二十年も前だ

こどもを産んだ女の二の腕は
蚕蛾の腹のようになめらかになるものだ
と 気づくとき
自分の来たほうに 巨大なくず繭をみつけ なでまわし
どこかにまだ使えるところがあるんじゃないかと
必死になって探すけれど
しがみつくほどに汚れが染み付いて ああ
乾いた血の色

蚕蛾は一生を箱の中で過ごし
交尾し やがて砂粒のような卵をびっしりと産みつけて死ぬ

今年も春一番がやってくる
無数の蚕がいっせいにまた桑を食いはじめる

 このトシになって恥ずかしい話ですが、蚕は最終的には蛾になるのだと改めて気づかされました。本の中での知識しか持ち合わせていませんので「茶色のさなぎは家畜の餌になった」ということさえ初めて知った次第です。しかし、第6連の「自分の来たほうに 巨大なくず繭をみつけ なでまわし/どこかにまだ使えるところがあるんじゃないかと/必死になって探すけれど」というフレーズは、そんな知識は無用で、私たちの性癖を見事に言い表していると思います。結果は「繭を体液で茶色く染め」たように「乾いた血の色」があるのみ。そうやって私たちは生きているのかもしれません。珍しい素材を上手く使った作品だと思いました。



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