きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.8.1 東京日仏学院 |
2007.8.3(金)
3ヵ月ぶりに四谷コタンに行って、奥野祐子さんのライヴを楽しんできました。いつも通りにライヴの前は「太平山」で夕食がてら呑んで、いつも通りしたたかに酔ってしまいました。銘酒「太平山」を呑みすぎたようです。
コタンでは、これまたいつも通りバーボンを呑んで、自分で酩酊していくのが分かりましたね。でも写真は携帯でしっかり撮って、ちょっと前ピンになっていますけど、まあ、なんとか見られるかな。重い一眼レフを持たずとも、この程度に撮れれば上出来でしょう。パーティーモードで撮ったか、夜景モードだったか忘れましたが、最近の、とは言って3年前の機種ですけれど、携帯もバカにはできないようです。
バーボンに酔って、歌声に酔って、とても気持ちの良い夜でした。最後にリクエストまでやって、ちょっとはしゃぎ過ぎたかなと反省しています。でも、気持ちの昂ぶりは抑えられませんでしたね。奥野さん、ありがとうございました!
○飯嶋武太郎氏・志賀喜美子氏訳 金光林エッセイ集『自由の涙』 |
2007.8.12 東京都板橋区 コールサック社刊 2000円+税 |
<目次>
序章
・詩で書いた詩人論 10
一章
・春がくる街角で 22
春がくる街角で 22
・わたしの登壇時代 25
「門風紙」から「橋辺」まで 25
・私の代表詩 33
私の代表詩 A 33 アイロニーへの接近 34
私の代表詩 B 36
二章
・自殺その気まぐれな行動 40
問題提起 40 自殺することができる葦 42
自殺は自己破壊の芸術 43 シルヴィア・プラスの場合 46
パウル・ツェランの場合 47 生き残った証拠――作品行為 49
悪魔の指図を受けてこそ 51 日本は自殺のメッカ? 53
芸術家は名声に寄生する勿れ 55 どのように死ねるか 58
不可知論 64
三章
・脱出から死境を越えてまで 68
講義は腰に拳銃をぶら下げて 68 漢灘江をこえて行く道 72
町をさすらう運命 78 居候の食事の辛さ 82
ひっくり返った世の中で 88 消耗品の人間として 92
戦争の悪と悲惨 99
・二人の恩人と一人の怨鬼 104
・隠れて暮らす人の優しい心 113
・堂々として気品と重みのあった一茅 125
・精神的水彩画家 朴木月 132
・二通の手紙 141
・龍仁の谷に埋まった青鹿 M
・純粋を固執していた作家 146
・長い沈黙の果ての健筆を願い 149
四章
・詩に表現された韓民族の痛みと平和の意識 156
反戦の詩こそ真の「戦争詩」 156. 「処容の歌」と韓国人の性情 157
同族を殺した兵長の告白 158. 死者にも生者にも安住がない 160
一匹の魚を分断の象徴に 161. 飛ばした鳥が戻ってこない 163
刑罰に痛めつけられた歳月 165. 短い団欒にも平和を意識 166
・深まってきた韓・日現代詩の交流 168
・一つの踏み台で 174
世界詩人たちの訃報に接して 174. 歴史の転換点に立って 182
世界詩の一つの堂々たるパ-トナ-として.185
・韓国の詩・日本の詩 199
無償の行為者 199 《荒地》と《列島》 200
『地球』と民衆一世代 202. 韓国詩の紹介 204
戦争協力に対する反省 206
・小海永二氏について 208
・恐怖と戦慄の衝撃的なビジョン 214
・推し量り越えて行かねばならぬオマージユ――戦争協力と権力追従の場合 217
アジア現代詩の展開の様相(志賀訳)235
愛≠語る発想の相違点(志賀訳)236
「鳥」を通して見た発想の相似点(志賀訳)239
抵抗詩の展開様相(志賀訳) 243
詩における東洋・西洋的なものと、その出会い(志賀訳) 248
詩のための私の遍歴 256
五章
・人類は滅亡するのか 268
ピラミッドの驚くべき謎 268. 霊界への関心 275
隠されているものの発見(志賀訳).280 宇宙の神秘をかいま見る(志賀訳) 286
石は無心か(志賀訳).294 文明の始末書(志賀訳) 300
六章
・画家李仲撃を描く(志賀訳) 310
秋が深まる頃(飯嶋訳).310 私が見た絵の中の李仲ソプの詩(志賀訳) 312
燃やせなかった絵(志賀訳).317 気にかかること(志賀訳) 331
何に なったのか(志賀訳).335
解説
金光林詩人の文学的遍歴 340. 金光林論 352
あとがき 360. 訳者あとがき 366
約、十里ぐらい歩いただろうか。
「ヘーイ、コッチ コイ!」
外国の兵隊たちが通りを守っていた。背の高い米軍兵士を私は初めて見た。北でたくさん見た、ロシアの軍人に比べると洗練されているようだった。
私は彼らの前に近づき、「アイ ゴー ソウル」と言った。私が早口で英語を話すと、私を取り囲んできた。背中に背負ったリュックサックの中を調べるためであった。烏賊の臭いがするらしく、米軍は鼻をつまんで顔をしかめた。
「ゴー、ゴー!」
手を振って はやく消えてしまえ、という振りをした。
「サンキュウ、サンキュウ」
検問も無事に終えたので、もう、いいと思った。市場で烏賊を処分すると、七千ウォン余りになった。この金は、当時一人で暮らすのに二カ月分の生活費に相当した。越南の最初の関門を通過し、旅費も用意できたので、もう汽車に乗ってソウルへ上京するだけだった。心は、春風に乗ったような気分だった。通行人に訊き訊きして、東豆川(トンドチョン)駅に辿り着いた。
「おい、そこのおまえ ちょっと こっちへ来なさい」
誰かが、私を呼んでいる声が聞こえて来た。首を回すと派出所のようなところで、面識のない青年が私に向かって手を振っていた。何の用なのかと思ってそこへ行った。黒いジャンパー姿の青年が数人たむろしていた。私を呼んでいた青年が、固い木の椅子に、座れ、といった。
「どこから来ましたか?」
「以北から来ました」
服に、土が付いた跡がそのまま残っているので、越南してきたのは明白だ。
すると、すぐに言葉遣いが粗雑になった。
「何の用事で来たのか。正直に告白しなければ、これで……」
と言って、私の後頭部に拳銃を突きつけた。
私はおじけづいたというより、全く呆れてしまった。いろいろ苦労を重ねて、やっと三十八度線を越えて来たのに、不純分子扱いをされているようだった。何か、密命でも受けてきたスパイのように思われているのかも知れなかった。呆れ果てて黙って座っていたが、涙がぽとぽと両頬に流れた。
この光景を見ていた取調べの男が、今度は非常に優しい語調で、
「あなたの涙が、ほんとうに自由が恋しくて来たのを証明した」と言って私を慰めてくれた。そうして、ソウル行きの汽車の時間まで親切に教えてくれた。立ち上がりながら、その人の顔と手に持ったものを見つめると、おもちゃの拳銃だった。
後にソウルヘ来てから聞くところによると、彼らは越南してきた人たちを検問する、西北青年会の隊員達であった。
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韓国の国民的詩人・金光林氏の初めての日本語訳エッセイ集です。紹介したのは「三章・脱出から死境を越えてまで」の中の「漢灘江をこえて行く道」の最終部分です。エッセイ集タイトルの「自由の涙」はここから採られているようです。金光林氏については共訳者の一人、飯嶋武太郎氏の個人誌『むくげ通信』で毎号のように詩やエッセイを拝読していましたから、それなりに判っているつもりでいましたけど、こうやって360頁を超えるエッセイ集を読むと、まだまだ知らないことばっかりだったのだなと改めて思います。脱北の経緯もそうですし、「四章・詩に表現された韓民族の痛みと平和の意識」では「反戦の詩こそ真の『戦争詩』」という主張に驚かされます。これは言葉通り、「戦争詩」とは戦争協力詩・讃美詩ではない、反戦の詩こそ真の戦争詩だというもので、固定観念で固まった日本人の私たちには意外な言葉でした。また、「五章・人類は滅亡するのか」ではオカルトに触れていて、これまた意外な印象を受けました。氏の著作を翻訳と言えども全てを拝読しているわけではありませんから、当然と言えば当然なんですけど、かなり奥の深い詩人と思いました。金光林研究、あるいは韓国現代詩研究には欠かせない、お薦めの1冊です。
○わたなべ えいこ氏詩集『刻を越えて』 |
2007.7 神奈川県小田原市 ゆめゆめ工房刊 非売品 |
<目次>
T ひととき
椿のアクセサリー 6
愚痴 9 静まる 12
ゆずり葉 15 新盆 18 壊れゆく 20
出発 24 魚 26 収集車と事件 28
ひととき 30 サプリメント 33 水の音 36
U 刻を越えて
潮騒の墓地 40 占い 44 再生 46
迷い 49 ここだけの話 52 刻を越えて 54
封じる 56 留守番電話 58 雪の空港 60
朝の語らい 63
あとがき 66
刻を越えて
和服の縫い目に鋏を入れる
一目ずつ丁寧に解いていく
裏地は布地が透けて
時代を感じる
糸を引っ張ると
ピーッという絹の叫びが走る
同時に
私の身体にも
電気が触れたような痛みが走る
両袖 衿 身頃
身体を覆っていた和服は
一枚の長い布に還る
私の洋服にリフォームしよう
残った布は
絞りの兵児帯と合わせて
ベストがつくれるだろう
あとは古布小物を
先代の残した着物から
刻を越えた
私がいる
2年ぶりの第5詩集だそうです。ここではタイトルポエムを紹介してみました。「先代の残した着物から/刻を越えた/私がいる」というのは日本女性特有の感覚なのかもしれません。皆無ではないでしょうが、男が「先代の残した着物から」ということを聞いたことがありません。女性用和服の華やかさ、質の良さから「洋服にリフォーム」できることなのかもしれませんけど、女性が綿々と家族を伝えてきたという、日本文化の一側面をも感じさせます。時空を超える女性文化を見事に表出させた作品と云えましょう。
本詩集中の「潮騒の墓地」はすでに拙HPで紹介しています。初出から若干改作していますが、基本的な変更はありません。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせてご鑑賞ください。こちらも佳い作品です。
○文芸誌『彗星』2号 |
2007.7 静岡県掛川市 土屋智宏氏編集・彗星の会発行 500円 |
<目次>
父の一分/河原治夫 1 樹木葬/美濃和哥 4
手紙−胸の奥の声−/土屋智宏 6 フルコース/井村たづ子 11
凛としずかなその内臓を/美濃和哥 13 銀色の雨/石岡 雲 15
ジョバンニへの手紙 U/土屋智宏 19
なつかしき、切なき想いのまなざし 河原治夫『風の譜/忘れ音』/土屋智宏 64
編集後記
題字:鈴木蝶光/表紙絵:斉藤永良/挿し絵:青崖(掛軸)
かたち/井村たづ子
空を焦がすさんぜんたる夕日
犯してもない罪を
ぶちまけたくなる赤い色だ
目の前を隠者が通り過ぎていく
追いかけて認めてもよかった
見失っても認めてもよかった
すべてを
人間はどんなかたちをしていましたか
魂はどんな色で塗られていましたか
私は薄くただれて消えていくだけで
いいと思った
この作品は<目次>には出てきていませんが巻頭詩です。「犯してもない罪を/ぶちまけたくなる赤い色だ」というフレーズに作者の性向が出ているように思います。それは背徳的でも諦念的でもなく、言葉は悪いのですがある種の開き直り≠感じさせます。終連の「私は薄くただれて消えていくだけで/いいと思った」にも同様なことが云えましょう。そんなところには執着しないという強烈な意思を感じます。おもしろい作品です。後ろ向きな作品が多い現代詩に、パンチを与えているのかもしれませんね。
○隔月刊詩誌『叢生』151号 |
2007.8.1 大阪府豊中市 叢生詩社・島田陽子氏発行 400円 |
<目次>
詩
糧/曽我部昭美 1 財布/原 和子 2
母/藤谷恵一郎 3 どこまでも 他/福岡公子 4
えらいおがってたなあ/麦 朝夫 5 変幻と激動そして/毛利真佐樹 6
鬼伝説/八ッ口生子 7 泣きやめ方/山本 衞 8
町にて/由良恵介 9 緑のスクリーン/吉川朔子 10
籠/竜崎富次郎 11 心模様/秋野光子 12
山の小さな駅/江口 節 13 偶成/姨嶋とし子 14
難儀な事/木下幸三 15 自律神経出張中/佐山 啓 16
けやき坂/島田陽子 17 暮れてゆく/下村和子 18
本の時間 19 小径 20 編集後記 21
同人住所録・例会案内 22
表紙・題字:前原孝治 絵:森本良成
財布/原和子
気になっていた いろいろのことを
やっと済ませて
郵便局を出て
ほっ、とこころが軽くなると
財布のほうも 軽くなっている
うまくできてるなぁ、と感心する
財布を 重いままにしておこう
と 思うと
こころも
いつまでも 重いままでいる
こころは 朗らかに軽く
財布は 重くなる方法を
いっしょうけんめい
考えてみるが
ない
こうやって にんげんは
自分の流儀で
目の前に起こってくる できごとを
踏み越え 踏み越えしていくものだが
財布の だんだん軽くなっていくひとと
財布の だんだん重くなっていくひととに
分れていく
ふしぎだなぁ
と いまさら感心している
ここが考えどころか と思いながら
今日も
遠い親戚へ送る 香奠を
いくらにしようか と
財布から
出したり 入れたりしている
これはよく判る作品ですね。「ほっ、とこころが軽くなると/財布のほうも 軽くなっている」とは、言い得て妙です。ただ、「財布を 重いままにしておこう/と 思うと/こころも/いつまでも 重いままでいる」というのは、財布が重くなったことがありませんので、ちょっと実感に乏しいのですが、「いっしょうけんめい/考えてみるが/ない」とは、確かに言い切れます。「財布の だんだん軽くなっていくひとと/財布の だんだん重くなっていくひととに/分れていく」というのも実感。基本的には国の政策の誤りに起因するのでしょうが、こうやって笑い飛ばすことで庶民の底力も見せられた思いです。少し、スカッとしました。
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