きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.1 東京日仏学院




2007.8.6(月)


 62回目のヒロシマ原爆記念日。犠牲になった方々のご冥福をお祈りいたします。

 譚詩舎のオープニングも無事に終わって、今日は朝から片付けに入りました。ゴミが袋10杯分ぐらい出たでしょうか。1時間ほどで終了。そのあとはクルマ2台で近くを散策。県営八ヶ岳牧場を見て、有名な清泉寮でアイスクリームをご馳走になりました。暑い日でしたからアイスクリームはとてもおいしかったです。

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 写真は八ヶ岳高原牧場です。遠くで牛が草を食んでいました。陽射しはきつかったのですが、さすがは標高1300m、風はさわやかでしたね。昼食に熱いお好み焼きを食べて、清里駅14時発の電車に乗りたいというお年寄りお二人をお送りして、そのまま私も帰路に向かいました。
 途中、道の駅「南きよさと」で一服して、有料道路を一切使わずに17時半に帰宅。行きと同じ3時間半のドライブでした。高速道路を使うと片道2時間ですけど、時間に余裕のある今は一般国道専門です。20号線、137号線はバイパスが整備されていて、制限速度はほとんどが60km/hです。スキーやハンググライダーで清里を通過していた30年前よりは1時間近く短縮されたろうと思います。日本がだんだん狭くなっていることも実感した清里行きでした。



林嗣夫氏詩集『花ものがたり』
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2007.7.10 高知県高知市 ふたば工房刊 2000円+税

<目次>
小さなビッグ・バン 8  駐車場で 12     朝の光景 16
アサガオ 20     過ぎていくもの 24  茗荷の花 28
目薬を買った 32   響き 34       手紙 38
アケボノツツジ 42  菜の花 46      水仙 48
花の骨 54      ポインセチア 60   梅花幻想 64
ミツマタ幻想 70   直線 74       ノカンゾウが咲いた朝 78
歯科医院で 84    ウツギ 88      夏の日に 92
コスモス 98     ススキ 102
.     風花 104
風の音 108
.     花ものがたりに寄せて 112
冬の蜘蛛 116
.    幻の花 118.     花冷え 124
装丁*安井勝宏



 アサガオ

廃枚となった小さな小学校に
アサガオがまとわり
紺藍やモーブ色の花を咲かせている
アサガオが襲ってきて這い上がり
鮮やかな花を開くから ついに廃校になった
そう考えてもいい

たしかにアサガオは
この世の構築物をいつのまにかとり囲み
窒息させる
とりついていくものを
たちまち
きのうへと押しやってしまう

たとえば疾走する車などにも
一瞬 らせんを伸ばして巻きつくのだ
車は徐徐に速度を落とし
そして止まり
廃車となる
紺藍の花の色をますます深くしながら

いや それだけではない
わたしたちのあの愛とやらにも
アサガオのつるは忍び寄ることがある
そしてある朝
空き家を飾るモーブ色の花を
愛ととり違えたりする

 全編、花が出てくる詩集です。しかし、それらの花はただの花ではありません。あくまでも著者の眼を通した花です。その一例として「アサガオ」を紹介してみました。「アサガオが襲ってきて這い上がり/鮮やかな花を開くから ついに廃校になった」、「車は徐徐に速度を落とし/そして止まり/廃車となる」という逆転の発想に魅了されます。クルマなどは、たまに蔓に絡まれたままの廃車を見ますけど、結果的には「徐徐に速度を落とし/そして止まり/廃車とな」ったにすぎない、と思えてきます。最終連の「愛」もおもしろいですね。「愛ととり違えたりする」ことが何と多いことか!

 本詩集中の
「風の音」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて林嗣夫詩の世界をご堪能ください。



詩とエッセイ『イリヤ』創刊号
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2007.7.14 大阪府羽曳野市 尾崎まこと氏発行
300円

<目次>
創刊にあたって 3
 *
ゲスト 有馬 敲 詩・真理 5  評論・『源氏物語』と庶民生活語 6
 *
左子真由美 11  詩・花/輪郭/名前/結論/賭け/フランケンシュタイン
 エッセイ・いま「ある」ところから
 *
佐古祐二 21  詩・鳥よ/希望/あの日きみはぼくに/木漏れ日
 エッセイ・美の基準
 *
尾崎まこと 31  童話詩・エジプトの海人
 詩・孤独/亀山博士/雪の音/浜辺/葉緑素
 *
編集後記 42



 左子真由美

あなたへ

すっぱい詩
辛い詩
甘い詩
苦い詩を

むしゃむしゃ食べられる詩
喉の渇く詩
美味しい詩を!

ささやかですが

あるということの不思議から
かけがえのないあなたへおくる詩を
始めてみたいです

イリヤ が
そのつどわたしたちを
裸で生まれたばかりのその場所へと
連れもどしてくれることを願って

 関西在住のお三人、左子真由美さん、佐古祐二さん、尾崎まことさんによる新しい詩誌です。おめでとうございます。
 詩誌名の「イリヤ」は
ilya と書くフランス語で「・・・がある」という意味らしいのですが、その他に「5分前」「30年前」などと過去の時間を表す場合にも使う言葉だと、左子真由美さんのエッセイに出ていました。洒落た誌名だと思います。
 紹介したのは、詩とは断っていませんけど、「創刊にあたって」の左子さんの詩です。『イリヤ』の意気込みと意義を感じさせてくれます。今後のご発展を祈念しています。



詩誌『スーハ!』2号
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2007.8.15 横浜市旭区    600円
中島悦子氏方・よこしおんクラブ発行

<目次>
特集 福井桂子を読む
インタビュー 福井桂子 終わりのない<戻り道> 13
特別寄稿 福井桂子 アネモネ 薄みどりの朝の光をあびて りすさん!りすさん! 24
福井桂子書誌 17
中島悦子/透明な魂の声 26         香村あん/生の恐怖 27
八潮れん/『風攫いと月』の祭場 29     野木京子/天上のアルストロメリア 31
佐藤 恵/福井桂子という名のゲルダ 33
詩篇
大澤 武/夕陽にきしむ傾斜それを継承と呼ぶべきか 08
香村あん/砂糖菓子の川を渡る 06      佐藤 恵/はすぬま 38
中島悦子/マッチ売りの少女 02       野木京子/蟲のあかり 36
八潮れん/向かうもの 10
よこしおんクラブ
 Essay,Essence,Critique
香村あん/中華街から始まる 40       中島悦子/誰かのあるいは誰のものでもない「滅亡」の行方 41
野木京子/どこにあるの 43         八潮れん/ベアータ・ベアトリクス 45
佐藤 恵/なっちゃん 46          大澤 武/忙しいですか。そうですか、48
編集後記 大澤武/野木京子
編集担当◎大澤武 表紙写真+本文カット写真◎佐藤恵 
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 マッチ売りの少女/中島悦子

   ふつう見られる言葉は、空気中で可燃物質がおこなう酸化反応、つまり
   燃焼によるものである。言葉の熱はこの反応によって生ずる反応熱で、
   詩はその熱によって高温になったためにおこる温度放射、あるいは励起
   した原子や分子による発光がおこなわれた結果である。

その日も哲学者ヘラオは、マッチを売っていた

俺は、もともとは高貴な生まれで、すぐれた精神活動を行っているのであり
マッチを売って生計を立てているわけじゃない
んなことあるもんか

その日も哲学者ヘラオは、マッチを売っていた

大多数のものは悪党で、すぐれたものは少数
俺が、理解されることはない
子どもとサイコロ遊びをしていて何が悪い
選挙カーで民衆の皆様にお願いしてどうする
悪党の演説を聞いて、悪党といっしょにみんな滅びるのが世の習い
運命にはさだめがある
サイコロひとつにも

その日も哲学者ヘラオは、マッチを売っていた

俺は、水腫を患い難儀した
しかし、しかし、医者も信用ならん
医者ほど信用できないものはないのだ
何をされるかわかったものではないのだだだ
俺は、自分で自分を治してみせる 自分で自分を治してみせる

その後、ヘラオはマッチ売りに立てなくなり死んだ

人々は、ヘラオの泣いているような顔を時々想い出した
ヘラオのマッチの火については意味を理解しなかった
ヘラオは、あろうことか昼間にマッチを売っていたのだった
時々、マッチの火を見せながら、万物の根源について語っていた
ヘラオのマッチの火についてはあまりに難解だったから
竈の火をつけることができなかったのだ
ヘラオの火は特別だから

   言葉を発生させることを発火といい、詩は反応速度をなんらかの方法で
   速めて強い発熱現象をひきおこさせることである。ひとたび発火すると、
   発生した熱によって反応がつぎつぎに促進され、なんらかの方法で反応
   が中断されないかぎり、反応する言葉が消費されるまで詩は燃え続けて
   いる。

ヘラオはマッチを擦りつつどんな夢を見ていたのだろうか。
私が好きなヘラオの言葉は「同じ河に二度入ることはできない」だけれど、こ
れもまた聞きのまた聞きのまた聞きで、本当かどうかわからない。つい自分な
りに「同じ河で二度死ぬことはできない」などと解釈して感心してしまったり
する。
ごめん、ヘラオ。

孤独でないとどんな哲学も生まれない。そんなことが分かるまでにほとんどの
寿命を使ってしまった。これ以上分かる保証はどこにもない。みんな、ヘラオ
よりは利口かもしれないけれど、ヘラオの心までは分からない。

ヘラオの心は、真四角の段ボールにでも入れられて血だらけのガムテープでと
められて、セブンイレブンのカウンターからクロネコヤマト宅急便であの世に
送られる。あの世って、けっこう近いから、宅急便の届く距離だから大丈夫だ
って、怖がるヘラオの心に言い聞かせて、しばらくは泣かないように言いふく
める。もちろん、自分だって、泣くにきまっている。姪か遠縁の誰かに同じよ
うなことを言われて、片づけられるのだろうから。ね。

   反応が中止されるのは、酸素がなくなったときである。燃焼させるべき
   言葉が残っていたとしても、反応は中止され、燃え残りができる。

あ、案外。

ヘラオは、書物を残さなかった。何が何でも、書いておけばよかったね。でも、
また聞きのまた聞きのまた聞き。そうして、人は燃え続けていいんだろう。

今日は、図書館で本を返した。明治三十三年の本だ。もっと借りていたかった
けれど、次に待っている人がいた。こんな本、読みたい人がいたんだと知って、
あわてて返しに行った。それが、今日の唯一のうれしいことだった。帰りにい
つもの寺のベンチに座る。いろいろな人が、入れ替わり立ち替わり線香を上げ
た。線香の煙は、あたたかな風に舞い上げられて流れた。頭が良くなるとか、
肩こりが治るとか談笑しながら。午後四時には早々と線香の料金箱がしまわれ
た。そんな光景をいつまでもながめた。

 ちょっと長かったのですが、おもしろい作品なので全行を紹介してみました。「マッチ売りの少女」ならぬマッチ売りの「哲学者ヘラオ」ですが、この哲学者、魅力的です。特に「俺は、自分で自分を治してみせる」というのが良いですね。実は私にもそういうところがあって(哲学者ではありませんけど)、何か身体に異変があったときは、まず「俺は、自分で自分を治してみせる」という態度をとります。脳が身体を支配していると信じていますから、まず脳から指令を出させるようにします。そして1週間、1ヵ月それを続けて、最後はやっぱり薬と医者(^^; いずれヘラオのように「マッチ売りに立てなくなり死ん」でしまうんでしょうね。

 途中に出てくる化学反応風の詩語もおもしろいです。化学実験を職業としていた身からは「なんらかの方法」が何であるかが大事なんだよな、なんて思いますけど、ここでの主ではありません。それぞれに考えれば良いことだと思います。そういう楽しみがあるのもこの詩の特徴と云えましょう。最終連の収め方、これも佳いですね。楽しませてもらいました。



詩とエッセイ『ペッパーランド』33(終刊)号
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2007.8.10 横浜市中区 水野のり子氏発行 500円

<目次>
◆詩とエッセイ 夢−隠された森ヘ−
詩 山麓…荒川みや子 4  解題 闇を歩くもの
詩 裏木戸のある家…八木幹夫 8  解題 記憶と映像
詩 古代の道…佐藤真里子 12  解題 覚めてみる夢のかたち
詩 ふれる…徳弘康代 16
ハーブの中庭
解題 夢…徳弘康代 20
詩 蛇の木…絹川早苗 22  解題 ある道行き
詩 堤防と蛇口…水野るり子 26  解題 詩の方法としての夢
◆「ペッパーランド」総目次…33
◆終刊にあたって(水野るり子)…34



 古代の道/佐藤真里子

日本最古の街道だという道は
いつか見た夢のつづきのように
ときを止めたまま沈んだ
水の底を思わせた

「大和し 美し」とこの地を偲んだ
ヤマトタケルノミコトが
「生けりともなし」とこの地に妻を埋葬した
カキノモトノヒトマロが
歌碑の陰でそっとため息をつく道

萌え出したばかりの草花がゆれ
低く連なる新緑の山並みが迫り
この世には過去だけしかないひとの
気配もいっしょに行き交う道

吹く風 鳴く小鳥 ざわめく樹々が
はるかないのちの物語をひらくと
今という空間に囚われていた身は
ゆるやかに解け

このまま振り返らないでと
悪戯っぽく背後から目隠しをするひと
そのなつかしいひととふざけ合う
わたしの姿は
もう誰の目にも映らない

見た夢
 そこは、暗闇に浮かんだ、観客がまわりを取り囲んでいる舞台のような感じだった。床は電光がまぶしい迷路になっていて、自分が立っている道が、青になると進める。赤になると止まらなければいけない。低く仕切られた迷路を歩く、様々な人が見える。見知らぬ人に交じって、いまは亡き父や恋人、少女のころのわたしの姿も見える。出会って話したい人に、辿り着こうと焦っているところで、目が覚めた。

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 今日は創刊号の詩誌も紹介しましたが、こちらは終刊号です。ようやく前号からいただけるようになった詩誌ですのに、はや終刊号、ちょっと残念です。
 常に夢≠主体にした詩誌で、今号は各同人が「見た夢」と「解題」を載せるという趣向になっていました。紹介した佐藤さんの作品についても解題があり、作品からも判るように奈良の「日本最古の街道」を素材としています。実際に見た夢は「見た夢」の通りなのでしょう。それを「古代の道」と結びつけたところに面目躍如たるものを感じます。夢を見たまま書くのも一つの手法でしょうが、それから派生するものは何かと考えるところに佐藤詩の特徴があるように思います。佐藤さんの作品をそれほど多く読んでいるわけではありませんけど、そう思います。作品中の詩語としては「この世には過去だけしかないひとの/気配」、「今という空間に囚われていた身は/ゆるやかに解け」などに惹かれました。



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