きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.1 東京日仏学院




2007.8.13(月)


  その1  
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 1年ぶりぐらいに駐在が訪ねて来て、しばらく話して帰りました。駐在というのは駐在所の略で、お巡りさんです。都会では珍しいでしょうが、田舎では警官が家族で常駐している駐在所があります。地域と密着して防犯活動をするという、日本が世界に誇る制度と言われていて、犯罪が少ないのはそのためだ、と昔は信じられていました。今は一概にそう言えないかもしれませんね。
 一人の警察官が一つの地域に長く居ると癒着しやすくなるためでしょうか、だいたい3〜4年で交代しているようです。今度のお巡りさんは昨年着任、けっこうマメに地域を廻っているようです。

 たいした話をするわけではありませんけど、そうやって地域を廻ることによってお互いの信頼関係が生まれるのも事実です。国家権力の最たるものですから、本来なら私は口も利かないでしょうが、末端のお巡りさんに対する感情は別です。政府としてのアメリカはけしからんと思っていますけど、アメリカ国民にはそんな感情を持っていません。それと同じですね。
 最近、この地域で空き巣が発生しました。10年ぶりぐらいでしょうか。彼は「だから外出の時は戸締りしてくれと言ってるのに、この辺の人はだれもやらないんだよね」と小言を言ってましたけど、笑いながらでした。10年に一度空き巣に入られるぐらいなら、あとの9年364日を信頼関係で過ごした方が精神的に楽、と、これは私の解釈。ま、この平和がいつまでも続いてほしいものです。



眞有澄香氏著『泉鏡花−人と文学
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2007.8.31 東京都千代田区 勉誠出版刊 2000円+税

<目次>
はじめに
T 泉鏡花小伝
@ 生い立ち 17
  職人一家/亡母憧憬
A 上京、そして玄関番時代 26
  小説家を志して/尾崎紅葉との出会い
B <鏡花世界> への飛翔 35
  亡母への想い/薄幸な美女たち/紅葉の死/逗子へ
C 成熟期を迎えて 47
  鏡花文学の再評価/演劇界での活躍
D 清澄な晩年 52
  関東大震災以後/懐古の日々
E 没後余話 57
  「天才」の養女になるということ
U 教科書からみた鏡花批評史
@ 教科書に載った鏡花作品 63
  「天才」という評価/教科書に載った鏡花作品一覧表/作品集と教材化/編纂意図と教授法/教育界の動向
A 戦後の教材化 80
  鏡花作品の再評価/戦後の教育界
B 昭和三〇年前後 86
  昭和三〇年前後の「高野聖」/教科書に載らない作家
V 教材化された鏡花作品
@ 「七宝の柱」 97
  高等女学校用「読本」/「駒の話」の教材化/中学校用「読本」/「読本」の編者たち/鏡花の教材観
A 「高野聖」 120
  同時代評価/教材「高野聖」/新制高等学校の国語科/文学教育の重視/時枝誠記の国語教育観/消えた教材「高野聖」/教科書批判の高まり/教材としての可能性
W 作品案内
  外科室 151/照葉狂言 152/龍潭譚 153/化鳥 154/高野聖 155/証文帳 156/薬草取 157/春昼・春昼後刻 158/草迷宮 159/歌行燈 160/歌仙彫 161/海神別荘 162/日本橋 163/天守物語 164/芍薬の歌 166/由縁の女 167/夫人利生記 168/貝の穴に河童の居る事 169/薄紅梅 170/縷紅新草 171
泉鏡花 年譜 173
主要参考文献 195
おわりに 201



 はじめに

 生きながらにして「天才」と称されたり、「日本語の魔術師」と賞賛された泉鏡花
(いずみきょうか)は、生まれ故郷の金沢に帰省すると古い知人たちには「字を書く職人」と自称したという。「魔術師」も「職人」も、才能と努力なしに一家を成すことはできない。それからすれば、やはり鏡花は凡人ではなかったといえようが、「天才」の宿命であるかのように鏡花文学は異彩を放つ、孤高の存在であった。長い間、鏡花文学が「異端」や「傍流」といった位置づけしか与えられてこなかったのは、その個性があまりにも強烈だったからである。

 ことにその文体は鏡花文学の真髄ともいうべきものであり、他の追随を許さなかったといっていい。鏡花文学のよき理解者であった三島由紀夫が、「数少ない日本語(言霊)のミーディアム」と鏡花を評したことはよく知られているが、日本語に宿る不思議な霊力を信じていた鏡花は、その霊威を最大限に活かすための創作活動に生涯を捧げたのである。

 そうした日本語に対する信頼や愛着から生み出された鏡花作品の一語一句は、読むものを迷宮へと誘う。その独特なリズムや華麗で豊かな語彙に導かれて鏡花作品を読み進めていくとき、「遠い古代の物思い」といった柳田国男の言説や「鏡花の魂からは逃れられるものだろうか」といった小林秀雄の嘆息などを実感するであろう。日本語という〈ことば〉に対する鏡花の畏怖は、単に〈言霊
(ことだま)〉といった霊威に対してだけでなく、人間が生き、死んでいくという不思議や不可視の世界、あるいは、死生観や世界観に連なるものである。いわば、そうした生死や運命を支配する絶対的な存在に対する深い畏敬の念を文章や作品に込めながら、「字を書く職人」に徹したのが泉鏡花という作家なのである。

 古語や修飾語の多用といった難解な文章を持ち味とする鏡花作品は、一読しただけでその内容を理解することはきわめて難しい。鏡花作品を読む醍醐味は、新たな〈ことば〉との出会いを楽しみ、〈ことば〉の歴史に触れながら、作者の世界観を垣間見ることにある。そうして一文ずつ読み解きながら一つ一つの作品を読破していくことは、〈読書を楽しむ〉という行為がらすれば煩わしさを感じるかもしれないが、やがては、多少なりとも「古代の物思い」を感受したり、「鏡花の魂」といったものに近づくことができるはずである。
 明治・大正・昭和という三代に亘って活躍した泉鏡花の人となりやその作品についての入門書として、本書が鏡花文学へのささやかな手引書となれば幸いである。

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 日本ペンクラブの電子文藝館委員会でご一緒している著者より頂戴しました、ありがとうございます。市販されている本ですから詳細な内容には触れられませんけど、目次でおおよその中身はお分かりいただけると思います。それと「はじめに」の全文を紹介してみました。本著の内容が端的に述べられています。泉鏡花は「高野聖」程度しか知りませんでしたが、実は多彩な作家です。「W 作品案内」では代表的な作品を簡潔に紹介していて、これから鏡花を読んでみようという人には打ってつけの案内です。

 さらに本著の特徴は「U 教科書からみた鏡花批評史」と「V 教材化された鏡花作品」にあると言えます。著者は教育学博士号を持つ学者で、戦前・戦中・戦後の教科書で扱われた鏡花作品の変遷を述べています。時代によって作品はどのように歪められているかを検証したこの部分は、まさに教育界の嚆矢ではないかと思います。教科書と著作権の関係は、日本文藝家協會ですらこの数年で手をつけたほどですからタイムリーな問題提起でもあります。鏡花研究のみならず、教科書問題、著作権問題に関係する人には是非読んでいただきたい部分です。

 20年ほど泉鏡花研究会にも席を置いているという著者の、「入門書」「手引書」としての本著には、学者特有の堅苦しさはありません。気軽に読めますが、しかし文章は硬質です。その硬質さも私には心地よく感じました。お薦めの1冊です。是非お手に取って読んでみてください。



阿部忠俊氏詩集『試誘(まどわし)
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2007.8.15 横浜市西区 福田正夫詩の会刊 1500円

<目次>
 T
虐げられる人々 9  共存 12       始原の世界 14
煩悩 16       所有 19       時間 22
死 24        刺客 26       望郷 28
歴史 30
 U
お水取り 35     錯乱の人 38     あくなき欲望 40
死なれてみると 42  現実 44       人 46
宗教 48       淘汰寸前 50     秋に向って 52
影 54        哲学 57
 V
望み 63       幻の月 66      風土 68
春 70        古人 72       狩り 74
新たな発見 76    良寛 78       幻想 80
献身 82
 W
夏 87        うれい 90      倒錯 92
試誘(まどわし) 94  時間 96
          自然(じねん) 98
初秋 100
.      老いに向かって 102. 素人 105

阿部忠俊詩集について 金子秀夫 108
あとがき 阿部忠俊 112
表紙画・装画 福田達夫
レイアウト 福田正夫詩の会



 まどわし
 
試誘

水辺にあわい緑の柳が芽ぶき、朝日が川の水面を照らしていた。
萌えいずる春の主役は新芽、その美しさに酔いしれる。
又今年も試誘の時、受難節を迎えている。
今の世の、こざかしい知恵では計りしれない神の恩寵、選ばれたマ
リアとユダ、役割があまりに対照的だけに蹟きもある。
はしため
悩むマリアには最初から天使が付添い、わたしは主の婢女ですとい
わしめるまで励まし続けたのに、銀貨三十枚でイエスを売ったユダ
には、みせしめのように厳しく、自殺する道しか示さなかった。
旧約の予言を成就するため選ばれた二人なのに、マリアは今でも聖
母として崇められ、方やユダは裏切り者として烙印を押し続けられ
る境遇、どう理解すればいいのだろう。
信仰とは、超越そのものだといわれても、ユダがあわれで仕方がな
い。
人間的には、死はあらゆるものの終りだが、永遠の生命の内部では、
ほんの些細な出来事、完璧に役割をはたしたユダを、神が祝福して
いる可能性もある。
死の中の無限の可能性を信じるか、現世的な解釈にこだわるか、試
誘は復活祭まで続きそうだ。

 40歳を過ぎてから詩を書き始め、この20年ほどの作品をまとめたという第1詩集です。ご出版おめでとうございます。
 紹介したのはタイトルポエムですが、浅学にして「試誘」の正確な意味をまだ掴めないでいます。作品から「
受難節」と関係がありそうなこと、手持ちの聖書やネットの検索でいざない≠ニも読むこと、試練≠フ意味もあるらしいこと、などが判った程度です。それらが統合された言葉として拝読しました。この作品でおもしろいと感じたのは「人間的には、死はあらゆるものの終りだが、永遠の生命の内部では、/ほんの些細な出来事、完璧に役割をはたしたユダを、神が祝福して/いる可能性もある。」というフレーズです。理屈の上ではその通りで、キリスト教に詳しいわけではないのですが、新しい見方ではないかと思いました。

 著者は理科系出身の詩人だそうで、私には興味深い詩集でした。Tの「時間」、Uの「死なれてみると」、「淘汰寸前」「影」、そしてVの「試誘」などが佳品です。詩集はすべて散文詩で、理系の人らしい探求の姿勢が新しく感じられました。今後のご活躍を祈念しています。



総合文芸誌『秋桜』創刊号
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2007.4.30 大阪府交野市 志田静枝氏発行
500円

<目次>
夢見る若者/司 由衣…4          音沙汰/司 由衣…5
蝶/山下俊子…6              あしだかぐも/山下俊子…7
和むために/伴 隆志…8          チューニング中/伴 隆志…9
カエル/江口レラ…10            六月の黄バラ/江口レラ…11
特攻花の咲く丘(キンケイ菊)/
志田静枝…12  夜景/志田静枝…13
神々の代理戦争/稲葉淑子…14        自立への旅/堀 諭…16
白い展覧会/堀 諭…17           あったか大和心/堀 諭…18
播州平野を読む/川内久栄…19        影走る/川内久栄…20
イタリアン・スケッチ抄/堀 諭…21     故郷の風/
志田静枝…23
*編集後記



 音沙汰/司 由衣

ひさしぶりに訪ねてきた友人から
お金を貸してくれと頼まれて
嫌とも言えずに
如何ほどと訊ねると
差詰め三万円ばかり…と言う
こちらのふところ具合を
知ってか
知らないでか
それくらいなら妥当な額で

なけなしのわたしから借りたのだから
約束の期日が来たら
返済するのが友情ってもんだから
信じて待っていたら
いつまでたっても音沙汰がない

人にお金を貸すときは
差し上げるつもりで貸しなさいと
どこかで聞いたような気もするが
おけらのわたしは
そうもいかずに

とはいうものの
友人から取り立てるからには
それはその…
手みやげの一つも提げて
頭も下げて

 関西在住の人たち、8人の新しい文芸誌です。創刊おめでとうございます。今後のご発展を祈念しています。
 紹介した作品はよくある話で、特に「人にお金を貸すときは/差し上げるつもりで貸しなさい」とは言われますね。もちろん私も「おけら」ですから、「そうもいかず」ほとんど貸しません。ま、借りに来る人もいませんけどね(^^;
 この作品の見事なところは最終連です。失礼ながら思わず笑ってしまいましたけど、この締めは上手いです。こうやって書いてもらえると、不愉快な話も愉快にやり過ごせます。タイトルも優れた佳品だと思いました。



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