きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.1 東京日仏学院




2007.8.23(木)


 午後から神楽坂の日本詩人クラブ事務所に行ってきました。ヤマト運輸との契約書に詩人クラブの銀行届出印を押さなければいけないんですけど、それは会計担当理事が持っています。わざわざご足労願って押印してもらいました。その足で隣のビルのヤマト配送センターに契約書を届けてオシマイ。

 その間、わずか15分ほど。それで帰ったのではもったいないんで、会計さんには帰ってもらって私だけ買い物に出ました。天神町の事務所から飯田橋駅まで往復して、商店街をじっくりと見て歩きました。傘立てや下駄箱が欲しかったんですけど、ありませんでした。買えたのは百均で靴ベラとテープカッター程度。家具屋さんなんてありませんね。リサイクルショップ、文房具店、電気店は今後も行きそうですけど、あとは洋品店、お菓子屋さんなどなど。当然呑み屋さんは多いですけど、今日はパス。庶民の生活する街ですから、事務所用品はないのがよく判りました。それが判っただけでも良かったかな。今度は乗り換え駅の新宿や高田馬場あたりを散策しておこうと思います。



新・日本現代詩文庫49『成田敦詩集』
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2007.9.10 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 1400円+税

<目次>
詩集『紙の椅子』より
 T
紙の鶴・10      無の鳥・11      ある夕景・12
ある爽快・13
 U
春の雨・14      雪と花と・14     青い暮色・15
 V
翼の生える魚・16   青闇・17       石仏・18
断片・19       北を撃つ・20     黄いろい沈黙・21
北を汲む・22
詩集『水の年輪』より
水の年輪・23     夏のゆうぐれ・24   古井戸・25
緋の雪・26      手ぶくろ・27     声あかり・28
月夜・29       寒い夏・30      雪暗・31
地球儀へ・33     緋の頬・34      水立ちぬ・35
詩集『水の発芽』全篇
 T
土塀・36       橋の眺め・37     おぼろ月・38
通る・39       地下現(うつつ)・40  夏も深く・41
蝉・42        月光・43       切り紙・44
柿焔ら・45      ゆめの砂漠・46    雪のうさぎ・47
紙の蝶・48      流氷のように・49   生霊・50
 U
雀・51        夕ごころ・52     水の身振・53
こおろぎ・54     水の発芽・55     夢を摘む・56
残雪・57
詩集『ゆめ雪の繭』全篇
[春]
水あかり・58     溶ける花・59     春の眺め・60
歩道橋にて・61    通夜・62       晩春残景・63
ゆめの香り・64
[夏]
初夏暮景・65     苺・66        紙の奏で・67
砂あそび・68     道・69        忘れた宿題のように・70
蚊帳幻想・71     北へ・73
[秋]
鳴かない蟋蟀・74   秋の蝶・76      切り口・77
古い階段・78     抽斗・79       古い人形・81
晩秋挽景・82     みずすまし・83
[冬]
烏瓜・83       日暮れどき・85    古今・86
心の遠くに・87    北に聴く・88     雪の繭・89
詩集『初蝉』全篇
 T
山の湯・90      天の蝶・91      山ざくら・92
桜闇・93       夕月・95
 U
蛍とぶ・96      古い壺・97      初蝉・98
鳥総(とぶさ)立て・99 老木・101
.      薄暮の蝶・102
夕映え・103
.     蝉を掃く・105
 V
彼岸花・106
.     虫の栞・107.     夜店・108
涸れ葉・109
.     あの家・110.     白い闇・111
 W
島・112
.       冬の日・113.     踏切にて・114
削り花・115
未刊詩集『つまに』
つきのひかり・117
.  その日が来ると・118. 百ケ日・119
たったいま・120
別離
 蛍・121
.       人あかり・122.    月夜・123
雪を抱く・125
雪の眺め
 寒月・126
.      白鷺・127
わが蛍
 渡し舟・128
.     蛍、一つ・129
月に発つ・130
.    星月夜・132.     体温・133
月に凭れて・134
.   零れ灯(び)・136.   朝の食卓・138
飛び石・139
.     夢わが家・140
エッセイ
光の二重奏・144
自然と言葉−その硬質な沈黙・151
詩と読者との間・152
詩の存在をめぐる小感・154
台風のおとずれ・155
解説
石原 武 「水の発芽」の秘儀 成田 敦の詩に就いて・158
冨長覚梁 闇の水をぴしりと打つ魂のしぶき・163
追悼集
新川和江 しずけさの中心に座していた詩人・168
前原正治 美への巡礼詩人 成田 敦・169
北畑光男 静謐で温かかった詩人・成田 敦さん・171
冨長覚梁 微熱の詩人成田 敦さん・175
略年譜・177



 みずすまし

夕暮れの
小川によりかかり
みずすましの回遊を
じっとみつめていた
まるで水の発芽のような
眺めに
その深まる水の青さが
眼に沁みた
水面にきき耳をたてると
みずすましのこわれるようなしずけさが
わたしに触れて消えた
水と水のつなぎめから
赤い血が幻に流れている
水の焦げる匂いに思えた
水に暗闇みなぎり
晩秋光る小川へ
わたしは水の発芽に満ちていく
遠く
消えいりそうに満ちている

 2000年9月に亡くなった成田敦さんの詩集です。紹介した詩は1988年刊の第3詩集『ゆめ雪の繭』に収められているようです。「みずすましの回遊を」「まるで水の発芽のような」とする感性、「水面にきき耳をたてると/みずすましのこわれるようなしずけさが/わたしに触れて消えた」というフレーズの繊細さに改めて感服しています。
 拙HPでは未刊詩集『つまに』の
「つきのひかり」をすでに紹介していました。これも佳い詩です。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて成田敦詩の世界をご鑑賞いただければと思います。改めてご冥福をお祈りいたします。



詩と批評『岩礁』132号
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2007.9.1 静岡県三島市
岩礁社・大井康暢氏発行  700円

<目次> 表紙:岩井昭児 作品N  扉カット:増田朱躬
評論
二〇世紀研究 サルマチアの詩人・ボブロフスキー/神品芳夫 四
一八五四年以前の日本におけるフランス/アンベルクロード、滝沢忠義訳 四〇
二〇世紀研究 バロック音楽とオネゲル/大井康暢 五〇
岩礁一三一号総括/栗和 実、卜部昭二 五六
二〇世紀研究 今・萩原朔太郎を読む(三)/斉田朋雄 九〇

詩とは、せめてもの/柿添 元 一二     煙草/金 光林 一六
慟哭のかなた/中村日哲 一八        雲と青空/桑原真夫 二〇
高石 貴小詩集/高石 貴 二二       いくじなし 意気地なし、仮説/栗和 実 二四
詩六篇/門林岩雄 二六           五月の憧憬/竹内オリエ 二八
桜/市川つた 三〇             野辺の送り/丸山全友 三二
梅雨/井上和子 三四            壺、輪を描く/小城江壮智 三六
夏の示談、夢の中の挿話/西川敏之 三八   石/大塚欽一 六二
決然と生きる/近藤友一 六四        朝の平和/佐竹重生 六六
砂の精/相良俊子 九六           雨は あたしは/北条敦子 九八
タバコと資本主義/坂本梧朗 一〇〇     真実と虚構、闇・諸行無常/佐藤鶴麿 一〇二
夜想曲、町の入口、町に帰る/関 中子 一〇六  6月のくらし/望月道世 一〇八
大樹の人/戸上寛子 一一〇         磯子 逗子 マリーナ/緒方喜久子 一一二
ロストロポーヴィツチの死、他/大井康暢 二四
点滴 一五      谺 六一       始点 七五      窓 八九
声 一〇五      座標 一三九     椅子 一五三     社会 表二
編集室 表四
名詩鑑賞 富永太郎「無題」「手」「秋の悲歎」/相良俊子 一一八
ポエムパーク 六八
カルカッソンヌ便り(二六)/増田朱躬 七六
寄贈詩誌紹介 三八
詩集評
谷口 謙詩集『漁師』/門林岩雄 一二〇
高橋渉二詩集『とんちんかん』/小城江壮智 一二一
森口祥子詩集『冬の薔薇』/市川つた 一二二
大原勝人詩集『通りゃんすな』/坂本梧朗 一二三
前川幸雄詩集『西安悠遊』/高石 貴 一二四
佐古祐二詩集『ラス・パルマス』/栗和 実 一二五
藤谷恵一郎詩集『風を孕まず 風となり』/佐竹重雄 一二六
猪谷美和子詩集『亀と夕刻』/井上和子 一二七
坂本梧朗詩集『おれの場所』の花束/おだじろう、他 一三〇
小説 危機(一)/斉藤正志 一三四
小説 残花哀抄/原石 寛 一四〇
二〇世紀研究資料・小説二十五時/コンスタンチン・ゲオルギウ、河盛好蔵訳 一五四
住所録 一七〇  編集後記 一七三



 タバコと資本主義/坂本梧朗

たばこが消えていく

広がり続ける禁煙区域
屋内から屋外へ
さらに敷地外へ追いやられ
テレビからも閉め出された

なるほど
その害が知れ渡れば
売らんかな
の資本主義社会でも
排除されるのだ

では
資本主義という
経済システム自体はどうだ

その害は
欠陥自動車の放置
薬害
原発事故
電車の脱線衝突事故
耐震偽装
有害食品・偽装表示
塵肺・アスベスト肺がん中皮腫
水俣病・四日市喘息
規制緩和・垂れ流し
献金・収賄
リストラ・失業
ワーキングプア
勤勉な貧乏人

安全なんて
命なんて
人間なんて

お上品に取り澄ました
口上を一皮剥けば
最大限利潤に飢え渇く
黄金色の豺狼が
牙を剥いている

「タバコの害について」
は効果をあげた
「資本主義の害悪について」
のキャンペーンが
次の緊要事では

 「タバコの害について」云々するなら、「次の緊要事」は「資本主義の害悪について」ではないかとする面白い作品です。私は愛煙家ですので、それを盾に賞賛するわけではありませんけど、確かに一理ある作品だと思います。煙草の害と「資本主義という/経済システム自体」の害を単純に比較すると、目糞鼻糞になって議論は深まりませんが、発端としては好例と言えるかもしれません。「お上品に取り澄ました/口上を一皮剥」いて考えてみたいものです。



詩誌『木偶』70号
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2007.8.20 東京都小金井市
増田幸太郎氏編集・木偶の会発行 400円

<目次>
老いるということ 落下論(11)/中上哲夫 1 まだ3年/天内友加理 3
ねじれた這松か空を指差し/田中健太郎 5  浮世語り/川端 進 10
家に帰れない/荒船健次 13         影ふみ/広瀬 弓 15
一九四○年辰年の記憶(9) ある朝のショパン/土倉ヒロ子 18
初夏のそよぎ/落合成吉 21         樹/仁料 理 23
ウメ子/乾 夏生 25            手紙/野澤睦子 27
コンサート/藤森重紀 29          頭蓋骨か砕かれた/増田幸太郎 31
視点 田中健太郎・朗読会に出席して/土倉ヒロ子 39
受贈誌一覧 42



 老いるということ/中上哲夫

   年をとるとは、退歩を受け入れて、老年に向かって
   成長することだ。――メイ・サートン『海辺の家』


老いはある日とつぜんノックもせずに入ってくる暴漢だ

測溝や工事現場の穴に落ちた日に
家や駅の階段から落ちた日に
梯子や脚立から落ちた日に
馬から落ちた日に
自転車から落ちた日に
バーのストゥールからすべり落ちた日に
ほんとうはとうに始まっていたのだ
柿の木から落ちた日から
屋根から落ちた日から・
ぶらんこやすべり台から落ちた日から
鉄棒から落ちた日から
跳び箱から落ちた日から
ジャングルジムから落ちた日から

空を飛ぶことはあっても
ぼくらは落ちることをまぬがれることはできないのだ
生きているかぎりは

ビートニックとして生きること

ぼくらにできるのは
せいぜい受け身に習熟すること
老練な柔道家のように
            −落下論(11)

 「老いはある日とつぜんノックもせずに入ってくる暴漢」ですが、「ほんとうはとうに始まっていたのだ」と言われると、確かにそうだなと思います。私が記憶にある「落ちた日」は「自転車から落ちた日」と「バーのストゥールからすべり落ちた日」程度でしょうか。ハンググライダーやパラグライダーの練習で空から落ちた日≠ヘ数知れずですが、これはちょっと別格。そこで感じたのは、やはり「受け身に習熟すること」でした。この作品では身体的な受身を言っていますけど、もちろん精神的なことにまで拡大解釈できるでしょう。一般的には初老に近づいたいま、冒頭の「メイ・サートン」の言葉に勇気づけられています。



個人誌『弦』39号
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2007.9.1 札幌市白石区
渡辺宗子氏発行 非売品

<目次>
論理と情緒5 土着の思想/畑野信太郎
水琴の邑X/渡辺宗子
鍵老人のマザーグース(十四)/渡辺宗子
童話のほとりV/渡辺宗子



 水琴の邑X/渡辺宗子

道のりを失くして
遼い というのは
沈みすぎた時間の
走りすぎた時代の
きわどい淵

恐怖の道ずれは
会話をしなかった
耳のない彼らの
軍靴の行進
不気味な鉄鋲の地鳴りがして
丸坊主の少年が毀された
 踏みつけないで
絆いだ手を散り散りに放して叫んだけれど
行進は往ってしまった
よくない運命の方へ
はぐれてさまよった わたしたちの
むさぼった井戸 いま
何色の水になっているか

肉声を喰いちぎって
錯綜する回線
 電子音に服従するなよ
あの丸坊主の少年の声だ
洞窟から滲むしたたり
淡い光の束に乗った
柔らかな若い魂の会処
傷つけ合った出来事
あの時に死と交換した兄弟
 替換
(かわり)に何を−
そばだつ耳が生き
地上のさまが識れたのだ
 絶望もせずによくいたね
 ここに終りはないからさ

通じる一筋の音色
どこのどの辺りだろう
(はるか)に遠い国だけれど
純素に響く
透きとおった語り
長いながい悲歌の
旋律の噴きあがるところ
青白いあかりになって瀝
(したた)れてくる
死友たちの集り
 ここから奥はないんだね
 悲歌は、永遠だろうか
死を生きる叙事詩の
曲想をつらぬく水琴のしずく
幾層も不条理を濾して
深く巣ごもった邑の象
(かたち)

 「水琴の邑」もXになって、もう一度Tから読み通してみました(Tには実際は番号が振られていません)。戦中戦後を通しての壮大な「叙事詩」という思いを新たにしています。このXにもそれはよく現れていて、直接的には「軍靴の行進」「丸坊主の少年」などにそれを見ることができると思います。してみると「水琴の邑」は「死友たちの集り」の場所と捉えてよいでしょう。そして過去の「沈みすぎた時間の/走りすぎた時代の」現代への警告と考えられます。「あの時に死と交換した兄弟」が再現されようとしている今、芸術性高くうたいあげる佳品と改めて感じています。



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