きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.1 東京日仏学院




2007.8.27(月)


 父親の介護保険更新のため訪問調査があるというので、実家に帰りました。2人の調査員が見えましたが、一人は以前会っていますし、ご亭主が私の同級生だということで気楽なものでした。結果は分かりませんけど、まあ、現状のランクが維持されそうです。
 2人の話を伺っていて、父親の意外な面を知らされました。週2回ヘルパーさんが来てくれていますが、相当わがままなようです。若いときにわがままだったのは当然知っていました。しかし脳梗塞をやってから、それは鳴りを潜めていると思っていました。特に私の前では大人しいものでしたから、誰に対してもそんな風になったんだろうと思い込んでいました。でもヘルパーさんにはそうではないとのことで驚いています。私の前では猫を被っていたんだ!
 若いときの性癖というのはトシを取っても変わらないものかと、ちょっと愕然としています。私も親父のことばかり言えませんけどね。波はあるでしょうが、人間ってそうそう変われるものではないのかもしれません。



羽室よし子氏詩集『雨の向こうから明日は』
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2007.7.31 和歌山県和歌山市 出発社刊 1200円+税

<目次>
恋におちた 6               花 8
霜降の夜 10                夜明け 12
一瞬の今≠ノ願いをこめて 14       雨の向こうから明日は 18
水仙の花咲く丘で 20            サクラチル 24
あしあと 26                四十九日 28
楔 32                   羽化 34
空色の空 38                さわがしい夜 42
梅雨の休み 46               夏の終わりのたいくつな午後 48
Moderato 50                かたむきかけた陽の中で 54
白い湖国を訪れて 58            時間の軌跡 62
 *
あとがき 66



 雨の向こうから明日は

降りだした雨が
濡れたスフアルトの匂いを撒き散らして
懐かしい思い出が
私の中に漂い始める

昨日よりも今日
今日よりも明日
あなたへの想いは
大きくなっていくものだと
信じてやまなかった
あの日々

大きな雨粒が
窓に当たっては落ちて
懐かしい思い出も
私の中で鮮やかに蘇っては
消えてゆく

明日がうまれない恋を
あなたと二人
雨の中で破り捨てた時
懐かしいあの日々は雨に溶け
その向こうから再び
明日がうまれるようになったのだった

 第1詩集です。ご出版おめでとうございます。若い女性の恋を描いた詩集で、私のようなトシになると懐かしい感情だなと思ってしまいます。紹介したのはタイトルポエムで、特に最終連が佳いですね。「明日がうまれない恋を」「明日がうまれるように」したのだと採りました。恋愛詩は多く描かれていますけど、この視点は初めて見ました。新しい感性と云えましょう。
 本詩集中の
「白い湖国を訪れて」は拙HPですでに紹介しています。ハイパーリンクを張っておきました。合わせて瑞々しい感性をご鑑賞ください。今後のご活躍を祈念しています。



松尾靜子氏詩集『恋ひうた2007』
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2007.6.30 長崎県諌早市 私家版 非売品

<目次>
 3
三月 4       桜 5        青年 6
四月 8       若い友 9      蛇 10
 11
少年 12       カーテン 13     こもれび 15
蜥蜴 16       みずうみ 17     芝生 18
晩夏 20
 21
月秋芋草 22     形 23        砂漠 24
 25
十二月 26      二月 27       レコード 28
あとがき 30



 レコード

父の私への贈り物
童謡のレコードだった

もう今日は遅いから明日聞きなさい
私はそのレコードをすぐに聞きたい欲求を両親に遮られたが
素直に頷き床に就いた
妹はまだ生まれていない
私が三歳の頃だ
枕の下にレコードを敷いていた
翌朝レコードはきれいに割れていた
父は私の行為を訝った
母は私を庇った

父の愛を
母の愛を
確かめては自身の姿を見詰めるような子供だった

私は走ってくるバスに向かってふらふらと走り出したことがある
落としていた人形を取りに行くように振舞っていた
 違っていた
父が飛び込んで私を抱きかかえ
バスは急ブレーキをかけ父のすぐ横で止まった
私は胸に人形を抱いて父に抱かれていた
私は冷ややかだった

かくれんぼをしては
迷子になった
走っても走っても家がない
身の丈以上もある麦畑に迷い込んで
一人走り続けた
太陽は頭上高くにあった
夕刻
遠く離れた住宅地で
お家がないの
と言って
問われるまま
父の名前と勤務先を告げた
父が運転するトラックの荷台に乗って家に戻った
夕闇が濃くなっていた
母の白いエプロンが見えた

今、誰の愛を確かめればいいのだろう

母は三年前に亡くなった
年老いた父は少しばかり優しい目をして私を見るようになった

 第1詩集です。ご出版おめでとうございます。鋭敏な感受性が見てとれる詩集で、ここでは最後に置かれた「レコード」を紹介してみました。著者は私と同年代のようです。「三歳の頃」の「レコード」の価値は、今の若い人には想像もつかないかもしれませんが、非常に高価なものでした。大雑把には普通のサラリーマンの給料の半分と考えてよいでしょう。そんな高価なものを三歳児に与えられるほど恵まれた家庭で育ちながら「父の愛を/母の愛を/確かめては自身の姿を見詰めるような子供だった」「私」の「今、誰の愛を確かめればいいのだろう」という言葉に、人間の不思議さ面白さを感じます。今後のご活躍を祈念しています。



詩とエッセイ『千年樹』31号
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2007.8.22 長崎県諌早市 岡耕秋氏発行 500円

<目次>

写真展にて・沼・朝の皿/松尾靜子 2    コミュニケーション・ありのままに/さき登紀子 8
火消壺/和田文雄 12            犬吠埼の海鳴り・ウランバートル六月の空/早藤 猛 14
病床二題/江崎ミツヱ 18          集まりのあとには・河原にて/わたなべえいこ 22
剣客・秘伝書/竜崎富次郎 26        ばら二題/岡 耕秋 30
エッセイほか
全国「川の日ワークショップ」に参加して/佐藤悦子 34
自由の鐘(四)/日高誠一 36         古き佳き日々(二八)/三谷晋一 40
二人の女性の詩集/岡 耕秋 43       菊池川流域の民話(二五)/下田良吉 48
樹蔭雑考/岡 耕秋 61           『千年樹』受贈詩集・詩誌等一覧 62
編集後記ほか/岡 耕秋 64
表紙デザイン/土田恵子



 秘伝書/竜崎富次郎

競艇場を出ると
数字を書いた紙がひろげてあり
予想紙もいっしょに
並んでいた

− さっきのあのレースを見たか 大本命が
飛んで 大穴になった 万コロや 万コロ!
それがこの本には ちゃんと出てる
ホラ! ここに出てるやろ
これ一冊あれば
大儲けまちがいなし
銀行頭金なんて バカらしくて出来んよ
それに出したい時はいつでも出せる
全部 ここに出てる

ここにおいてる当たり券
よう見てや 本物の当たり券や
本物やで ホンモノ

人だかりがしてきたなかで
その言葉に魅入られたボクは
買っていたのだ
なんだか一つ
夢がかなうような気がして
この秘伝書を握りしめた

そして買ってみたのだ
ポケットの金をはたいて……
だがしかし
かすりもしてなかった
翌日いくと
同じ男がまた
同じ口上で
秘伝書を売っていた

――この通り買うても 当たらんやないか
文句をいうと
しばらく黙りこんでいたが
やがてこういった
――兄さん
これからは 気ィつけて買いや……。

 私はギャンブルというものをやったことはないのですが、近くの小田原競輪場で予想屋と呼ばれる人が客を集めているところを何度か見たことがあります。おそらくそれと同じなのだろうと思って拝読しました。予想屋がどういうシステムで儲けているのか、それほど当たるなら自分で買えばいいのに、と思っていましたが、「秘伝書を売」ることで稼いでいたわけなんですね。
 最終連には笑ってしまいました。予想屋が何と言おうと「気ィつけて買」うのが客の責任ということなのでしょう。ギャンブルで一番儲かるのは胴元である自治体と聞きました。予想屋と客の背後でニンマリしている顔が浮かんできています。



季刊文芸同人誌『青娥』124号
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2007.8.25 大分県大分市 河野俊一氏発行 500円

<目次>

あなたの夢/河野俊一 2          朝の手前に/河野俊一 4
「ねじ」/河野俊一 8           秋の朝/河野俊一 12
論考 ペンネームの使用を巡って/河野俊一 16
「青娥」三十年記念短期連載 「青娥」思い出の作品5/河野俊一 18
青娥のうごき 24
編集後記 24
表紙(聖路加タワーよりのぞむ隅田川・東京都中央区)写真 河野俊一



 「ねじ」/河野俊一

六行目に
「ねじ」という文字が出てきた
「ねじ」は
「ね」にアクセントを置くのか
「じ」にアクセントを置くのか

いったんこだわってしまえば
日がな一日
「ねじ」が
胸に巣食う

気分を変えようと
プラットホームの端にさらされた
喫煙所に行く
灰皿の上には
煙草が心臓や肺に悪く
死に至ることがあるということを
くどくど繰り返し書いてあるが
下手な詩の方がまだましだ

列車に乗り込み
コーヒーを飲めば
コーヒーのカフェインが
神経に障る場合もある
(と書かれているような気がする)
メモを取るボールペンの
インクが指先に付けば
インクの成分が
肌に害を及ぼす場合もある
(と書かれているような気がする)
深呼吸をすれば
列車内のよどんだ空気が
呼吸器に悪い影響を与える場合もある
(と書かれているような気がする)
窓の外に目を向ければ
窓から差し込む紫外線が
目の機能を低下させる場合もある
(と書かれているような気がする)

全ては
「ねじ」なのだな
と思う
「ねじ」も
気をつけて回さねば
指の筋を痛める場合だってある

 「ねじ」の話から「煙草」「コーヒー」「インク」「空気」「紫外線」と、どんどん拡大していって、どうなっちゃうんだろうと思いましたが、「気をつけて回さねば」で収束しました。お見事! この発端、拡大、そして一気に収束という手法は見習いたいものです。ところで、第1連の「アクセント」の件、この作品では決着はついていません。しかし、それはそれで良いのだと思います。発端としての役割を与えるだけで、疑問を解決する場ではありませんから。あとは言語学者にお任せで良いでしょう。作品とは関係のないことですが、詩人と学者の役割の違いまで考えさせられました。



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