きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.20 神奈川県真鶴半島・三ッ石




2007.9.8(土)


 日本詩人クラブの理事会・例会が東大駒場で開かれました。理事会では、先日開催された60周年記念事業準備委員会の決定事項が承認され、10月から開かれる「詩の学校」の入校状況などが報告されました。総務の私からは、事務所に電話・Fax・インターネットを接続したこと、パソコンなどの備品設置状況を報告しました。詩人クラブHPのアクセスが、先月は初めて月間1,000件を超えたことも報告しておきましたけど、従来の2倍で、私自身が驚いています。アクセスいただいた皆さん、ありがとうございました。

 例会はお二人の会員による詩の朗読と小スピーチのあと、佐藤伸宏氏の講演「口語自由詩の成立をめぐる諸問題」と、高橋良雄氏の講演「日本文学生成の風土」を拝聴しました。なかでも佐藤伸宏氏の講演はおもしろかったですね。特に萩原朔太郎の詩「竹」を巡って、5枚の手書き原稿のコピーが配布され、完成に至るまでの経緯が解説されました。これは滅多に聞ける話ではなく、実作の上でもとても参考になりました。

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 写真は懇親会会場にて。私の準備が悪くて、今回も私が司会をするハメになってしまいましたが、途中でフッと思いついて、我が総務の専門委員を紹介することにしました。いつもは一人ぐらい都合が悪くなるものですが、今日は4人全員が揃いましたので良い機会だと思ったのです。例会会場の受付や懇親会の会費徴収、お茶の買出しなどをやってくれています。地味な仕事ですが、その努力にはいつも頭が下がる思いをしています。特に男性お二人は、誰でも知っている大きな会社の高い地位の人たちですが、詩人の世界では無関係という昔からの習慣を悪用して(^^; 裏方をやってもらっています。例会においでになる皆さん、是非この4人へのご協力をお願いいたします。
 もちろん、この4人以外にもそれぞれの分野での専門委員が大勢います。そちらへのご協力もよろしく!



秋吉久紀夫氏著『飽食と飢餓』
七三一部隊からスーダン紛争まで
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2007.9.15 福岡市中央区 石風社刊 2000円+税

<目次>
悪魔の微笑み−七三一部隊と生物化学兵器 7
一、暴かれる一五年戦争の正体 7      二、なぜ生物化学兵器を遺棄隠匿したのか 9
三、生物化学兵器情報の暴露 12       四、生物化学兵器を使用した時期と場所 14
五、製造・実験そして責任者たちは 21    六、大量殺人兵器の今後の展望 27
八幡製鉄と中国革命 34
一、最近の新日鉄 34            二、記憶の中の溶鉱炉 35
三、八幡製鉄の歴史 38           四、八幡製鉄と中国との関係 42
五、中国革命と漢冶萍公司の労働者たち 50
戦争の民営化−増殖する民間軍事企業 55
一、イラクで暴露された傭兵部隊 55     二、イラクでの民間軍事企業の展開 58
三、世界に展開する民間軍事企業 61     四、民間軍事企業の発生 64
五、世界の主要な民間軍事企業 69      六、傭兵問題と今後 77
スーダン紛争の実体−その飽食と飢餓 82
一、最近のスーダン情勢 82         二、スーダンという国 85
三、スーダン紛争の素因 91         四、石油資源の発見と利権獲得戦争 94
五、スーダン西部ダルフール問題 103
.    六、飽食と飢餓 108
東シナ海で再燃する日中問題 115
一、燃え始めた天然ガス田 115
.       二、国際法規上での歴然としている事実 118
三、ガス田紛争と尖閣列島問題 123
.     四、尖閣列島の領有権論争 129
五、最近の尖閣列島情勢 138
.        六、東シナ海紛争の打開策 142
ベトナムでの植民地化の実体 l51
一、はじめに 151
.             二、ベトナムの自然と住民 155
三、ベトナムの歴史 157
.          四、ベトナム戦期の米軍の枯れ葉作戦 172
五、現在も決着しないベトナム戦後処理 181
. 六、米国の枯れ葉作戦計画と日本 186
講演時期・掲載誌 190
あとがき 191



 六、飽食と飢餓

 ここ数年米国ブッシュ政権は、アフリカに対して政治的にも軍事的にも大いに関心を示し始めている。南北和平合意のために二〇〇一年、スーダンに派遣したダンフォース特使が、米国国連大使に昇格したのは先ずその証拠である。二〇〇三年七月にはブッシュ大統領自身はわざわざセネガル、ナイジェリア、ボツワナ、ウガンダ、南アフリカを訪問した。また二〇〇四年三月、サヘル地域つまり北アフリカの油田地帯とギニア湾岸の間に横たわる油田地帯との緩衝地区の四ヶ国(マリ、チャド、ニジェール、アルジェリア)が実施した「布教と聖戦のためのサラフィスト集団(
GSPC)に対する各国の軍事行動に、米国は三五〇名の部隊をスペインにあるロタ空軍基地から空輸し、援護部隊としてCIAと関係をもつ第三五二特殊作戦グループをも派遣した。そして同月二三日と二四日、ドイツのシュツットガルトに本部のある欧州およびアフリカの大半を管轄区域とする米国欧州軍司令部(HUCOM)が、アフリカ八ヶ国(チャド、マリ、モーリタニア、モロッコ、ニジェール、セネガル、アルジェリア、チュニジア)の参謀総長を招き「テロに対するグローバルな戦いにおける軍事協力」を協議している。

 フランスのピエール・アブラモヴィシ(
Pierre Abramovici)氏は、「アフリカにおける米国の軍事政策再編」で次のように論評する。「米国の関心は、当然アフリカの石油にある。二〇〇二年九月五日にパウエル国務長官は、ヨハネスブルグの地球サミットに参加した帰路、産油国であるアンゴラのルアンダとガボンのリーブルヴィルに立ち寄っている。専門家たちは、一〇年後には中東に次いでアフリカ大陸が第二の石油の輸出元になり、天然ガスについても同様となる可能性があると断言している。……米国の軍事筋は、西アフリカのチャド=カメルーン間のパイプラインと東アフリカのヘグリグ=ポートスーダン間のパイプラインの二本を戦略的ラインとみている。さらにチャド=スーダン間にもパイプライン建設計画があるといわれている」と。

 以上、スーダン紛争にまつわる事柄を追究して来たが、このアフリカの一国スーダンの紛争は、ただ単なるその地域単位の問題ではない。パレスチナやイラクでの戦いと次元の同じ現代の課題をさらけ出しているのである。『創世記』に「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない」(一一章六節)とある。バベルの塔の建設である。

 グローバルな現代資本主義経済が、資本の論理で支配されているかぎり、この地球上での貧富の差は必然的な趨勢で、富が極端に集中すればするほど、貧者の数は止めどない。富める者は飽食し貧しい者は飢餓となる。それに反対の声をあげ抵抗する者が居れば、「民主主義の理念」に反すると、相手の言い分も聞かず強引に経済制裁を課し、果ては武力を行使して抹殺する。これはまさに人権の侵害に他ならない。これをこそ「ジェノサイド」と呼ぶ。 (二〇〇五年四月二五日記)

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 本著は九州大学名誉教授・詩人の著者が、2005年5月から2007年5月までの2年間に講演した記録を主にまとめたものです。現代史の興味深い事件を、民主主義と平和を守るという観点から書かれた好著で、一気に拝読しました。
 紹介したのは本著のタイトルともなっている章です。スーダン紛争の実体を論評した後のまとめの部分にあたります。「富める者は飽食し貧しい者は飢餓となる」という一文に現在の世界情勢が収斂されていると云えましょう。21世紀の現在を考える上で、第2次世界大戦は抜くことはできません。そこから説き起こされる論考には納得させられます。お薦めの1冊です。是非お手にとって読んでみてください。



中原道夫氏詩集『人指し指』
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2007.8.15 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊  2500円+税

<目次>
 T
人指し指 10     赤い背中 13     はためくもの 16
花 19        夕焼け 22      野の花 25
銃 28        焼夷弾 31      オリオン 34
千人針 38      聞こえてこないか 41  赤紙幻想 44
蜥蜴 47       試し斬り 50     黒い布 53
犬の声 56      BSアンテナ 60   火の玉 63
自動小銃 66     石碑 69
 U
婦人専用電車 74   マネキン 77
「ベロニカ」 80    老人ホーム 83    ティッシュペーパー 86
プラネタリウム 89  道端の石 92     日曜日の午後 95
チューリップ 98   納豆 101
.      声 104
コスモス 107.    コーヒーカップの湯気の向こうで 110
神話 113.      くりすますいぶ 116. 石の涙 119
あとがき 122
.    装画 荘司邦幸



 人指し指

自分の人指し指より
人を殺す痛さのほうが怖かった
だから納屋で鉈を見つけると
右人指し指を打っ切った

全身痺れるような激痛が
稲妻のように走ったが
大きな痛みを避けるためには
それに耐えなければならなかった

――この戦時下に怪我をするとはなんという不忠者!

非国民のレッテルは
津津浦浦まで広がったが
銃を撃てないこの男の兵役検査は不合格
父は震え、母は泣いたが
その真意は他人には判らなかった

戦争は激しくなった
甲種でもなく乙種でもなく
その虚弱な体を詰られていた丙種合格の縁者にも
ついに「赤紙」がやってきた
(銃を撃つ右人指し指があったから)

非国民、不忠者の汚名を雪いでほしい
一族の期待は歓呼の声で「日の丸」を振った

けれど戦地に赴いた虚弱な体は
一度も銃の引き金に手を掛けることもなく
迫撃砲をまともに受けて昇天した

名誉の戦死! 天皇陛下万歳!
(犬死になんてだれも言わなかった)

帰ってきた骨壺の中は空だった
それは人指し指よりも軽い命の帰還であった

 あとがきに「一章は平和への願いで書いた作品で構成し、二章は現実の社会生活から掘り起こした作品を集めた」と書かれている通り、平和への願いと社会の問題を庶民の視線で抉った作品集です。ここではタイトルポエムで、かつ巻頭作品の「人差し指」を紹介してみました。60年以上前の平均的な国民の意識と「この男」の決意が詩化されていますが、21世紀の現代にこそ通用する作品だと思っています。「非国民、不忠者の汚名を雪いでほしい」と願う「一族」こそいなくなったものの、そう画策する権力はますます力を強めているように思います。それを突いている作品と云えましょう。

 本詩集中の「赤い背中」と「花」はすでに拙HPで紹介しています。
「赤い背中」は終連が一部変わり、「花」は原題が花のようにとなっているものの基本的な内容は変わっていません。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて中原道夫詩の世界をご鑑賞ください。



詩誌『石の詩』68号
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2007.9.20 三重県伊勢市
渡辺正也氏方・石の詩会発行 1000円

<目次>
各駅停車…濱條智里 1           ラジオ体操の朝…北川朱実 2
わが百歩/作品…真岡太朗 3        茨…加藤眞妙 4
魔女宣言 ]XXXU…濱條智里 5     記号譚…米倉雅久 6
永遠のコドモ会 \…高澤靜香 7      深い處から/夜鳴鳥の反歌…東 俊郎 8
百年の客…キム・リジャ 9         柔らかな手の中で…谷本州子 10
怠惰…落合花子 11
三度のめしより(二十二) こんなんでええんかもしれへんで…北川朱実 12

私をとめて…浜口 拓 16          熊野古道…澤山すみへ 17
古稀…坂本幸子 18             ライフ…橋本和彦 20
苺の日…奥田守四郎 22           扉…西出新三郎 23
捨てる…渡辺正也 25
■石の詩会CORNER 25         題字・渡辺正也



 ラジオ体操の朝/北川朱実

踏切りを渡ったとたんに
なにかとても大事だったことが
どうでもよくなった

伊藤組の前で
ニッカズボンをはいた男たちが
五、六人
ボリュームをあげて
ラジオ体操をしている

誰のものでもない夜明けの空を
ひとりぶんずつ与えられて

旭山動物園のキングペンギンは
運動不足の解消のために
まいにち 早朝散歩があるけれど
あくまでも自由参加で
無理強いはしないのだという

気が向かないペンギンは
整列に加わらずに
反対向きに歩いていったりするのだが

ラジオ体操の
あの誰かの使いのような
すこやかで礼儀正しい言葉を聞くと
理由
(わけ)もなくあやまりたくなる

きょう一日
名前と住所だけはきちんと書いて
誰にも迷惑をかけずに生きてゆきます
と宣言したくなる

私にも
あんなふうに時を止めて
大きな声で
空や山に聞かしてやりたいことがあった

詩の行分けのように
片腕分の間をあけて
手足をふり回すフリをしていた若者が

できたてのかなしみみたいな鼻水をたらして
今もあの朝に
とり残されている気がして

石けんで手をきれいに洗う

それから
人の物語がはじまる前の
すこしふくらんだ地球を
ゆっくりと手で回す

 主題の「ラジオ体操」に関する連が申し分なくおもしろく、挿入されている「旭山動物園のキングペンギン」や「詩の行分けのように/片腕分の間をあけて/手足をふり回すフリをしていた若者」も効果的な作品だと思います。もちろん全てが「体操」と「朝」につながっています。このやわらかな発想といい構成の妙といい、さすがは『石の詩』の巻頭作品と敬服しました。
 「ラジオ体操の/あの誰かの使いのような/すこやかで礼儀正しい言葉を聞くと/理由もなくあやまりたくなる」という連も、続く「きょう一日/名前と住所だけはきちんと書いて/誰にも迷惑をかけずに生きてゆきます/と宣言したくなる」というのも佳いですね。「石けんで手をきれいに洗う」は最高! 詩のおもしろみと深さを楽しませていただいた作品です。



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