きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.20 神奈川県真鶴半島・三ッ石




2007.9.17(月)


 宣伝です。東京・板橋区では毎年、区民文化祭をやっていて、毎回「詩のつどい」も開かれています。今年は私にも自作詩の朗読をやらないかという依頼があり、受けました。プログラムは下記の通りです。興味のある方はどうぞおいでください。


 2007年区民文化祭 
詩のつどい  入場無料

場所 板橋区立文化会館大会議室
    板橋区大山東町51-1 TEL 03-3579-2222
日時 2007年10月28日(日)午後1時開場 1時30分開会
主催 板橋区・板橋詩人連盟・板橋文化団体連合会
後援 日本現代詩人会・日本詩人クラブ

=プログラム=          司会:吉田義昭 上村節子
開会の挨拶―――――――――――板橋詩人連盟会長 中原道夫
主催者の挨拶―――――――――――――――――――板橋区長
来賓の紹介と挨拶――――日本現代詩人会・日本詩人クラブ代表
選考経過と受賞者の発表――――――――選考委員長 内藤健治
受賞者の表彰―――――――――――――板橋区・板橋詩人連盟
受賞作品の朗読―――――――――――――――――――受賞者
講演「身近にある詩」―――――――――――――――菊地貞三
詩の朗読――――――――日本現代詩人会・日本詩人クラブ有志
  新井豊吉 田中眞由美 長谷川忍 常木みや子 平野秀哉
  水島美津江 村山精二 山本みち子 ギター演奏 加藤孝信
コーラス「千の風になって」――コーラスグループ“あかしあ”
閉会の言葉――――――――――板橋詩人連盟理事長 山川久三

閉会後、来賓の詩人を囲んで懇親会を開きます。会費3,000円。
ご参加下さい。
会場はグリーンホール地下レストラン「サンイチ」です。

 板橋詩人連盟   事務局 山川久三方



○金井雄二氏詩集『にぎる。』
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2007.8.25 東京都新宿区 思潮社刊 2200円+税

<目次>
箪笥 10                  いつまでたっても 12
初夏の砂浜の上で 14            キャベツ畑 18
グレン・グールドの盤 22          夜から朝へ  26
巨大な乳房であった。 30          ベレー帽をかぶったおばあさん 34
握っていてください 40           白桃 44
きみの場所だよね 48            やさしい木陰 52
ぼくのゆるやかな時 56           風の音は雨の音にも似ている 60
泡がでている 64              もう少し 68
あとがき 72
初出一覧 76                装画 矢野静明



 握っていてください

蛇口をひねるあなたの手で。包丁を持つあなたの手で。ミトンの鍋
つかみの中に手を入れるあなたの手で。赤ちゃんの手を握るように。
やつれた母親の背中をさするように。開いた傷口にそっと薬をぬり
こむように。ぼくの陽の当たらない寂しげな部分にあなたの手をそ
えてやってくださいませんか。

日陰者のわりにはいつもあたたかい場所なのです。ぼくはいつも眠
る前に必ず一度は握るのです。ものごころつくころから ずっと。
ずっと ものごころつくころからのご縁なのです。切ろうとしても
切れない遮二無二あり続ける塊なのです。最近では無理矢理に断ち
切ってしまう方もいらっしゃるようですが多くの人たちはしっかり
とそこに存在しているみたいなのです。またぼくも例外ではござい
ません。人間そのものの根源とに誓っていつもやさしく握りしめて
いるのです。
できればしっかりと見つめてほしいのです。人が話しをするときに
人の眼をしっかりとみつめているように。あなたの眼がかがやくよ
うに。そしてぼく自身もしっかりと起立していたいのです。あなた
の視線でどうかぼくを縛りつけてください。やさしさのかたまりで
ぼくはすべてを支えてもらえることでしょう。そうしてからあなた
の五本の指をぼくのたよりないものに絡みつかせてほしいのです。

いつになっても帽子が脱げませんでした。夏のあいだは陽を避ける
ために。冬の寒い日には耳まで覆いかぶさる毛糸の帽子を。北風の
ときにはあごにゴムひもまでくくりつけてぼくは帽子をぬぐことが
できませんでした。春一番にも秋の木枯らしも。いえいえ落下する
異物にたいしても帽子は非常に意義あるものでした。ぼくはいつも
目深に帽子で頭を覆っていたのです。あなたは帽子をやさしくとっ
てくださいましたね。

あなたが触れようとするものはあなたも大事なもの。そしてぼくの
命にかかわるもの。人に触れさせたことがないもの。他人に見せた
ことがないもの。ぼくはこれを大切に毎日さわって確かめている。
やわらかくてときにかたいもの。熱いもの。涙もふくむ ぼくのや
るせなく苦しい 皺がいっぱいの。
あなたのその手で ぼくのを握っていてください。
あなたのその手で ぼくのを握っていてください。

 第4詩集です。「にぎる。」という作品はありません。おそらく、紹介した「握っていてください」から採ったのだろうと思います。「ぼくの陽の当たらない寂しげな部分」は何かと言うと、これは男性器でよいと思います。第3連の「帽子」は避妊具でしょうか。それで全ての詩語の説明ができると思います。
 別の見方では「ぼく自身もしっかりと起立していたい」「やさしさのかたまりで/ぼくはすべてを支えてもらえることでしょう」などから、「ぼく」の心根という捉え方もできましょう。どちらも「人間そのものの根源とに誓って」言えるもの、存在するものです。ちょっと見にはユーモアさえ感じさせますが、なかなか怖い詩だなと思いました。



田中順三氏詩集『あかねぞら』
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2007.9.20 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊  2000円+税

<目次>
 T
幼友だち(一) 8   幼友だち(二) 12   赤い帽子 16
成人の日 18     薄日 22       うたたね 26
散歩 30       蒼い空 34      つゆの晴れ間 38
真昼どき 42
 U
不在 46       炎 48        夕立 50
枝おろし 54     埋火 58       晩秋 60
木枯らし 64     酒宴 68       後ろ姿 72
八ヶ岳余情 74
 V
ふたり 78      落日 80       風の便り 82
風の音 84      家族 88       休日 90
雲 92        初秋 96       満月 98
あかねぞら 100
.   言霊 104.      遠雷 108
タバコ屋のびん 112
. ホタル 114



 あかねぞら

長い自分の影をふんで
突きあたりの
寺の高い塀のところまできた
前こごみになって歩いているから
腰が痛む

「何だその恰好は」
立ち止まってふり返ると
西に延びる家並の路地に
友人は夕日を背にして
すらりと立っていた

「亡くなった君らは年を取らないが
 生きているとこうなるのさ」

私はパーキンソン病と診断されて
動くのが容易でなくなったのだ

「俺の分まで長生きしろよ」
友人は冷気を帯びた早春の風となって
吹きすぎていった

秩父の山なみに
落日は見るまにのみ込まれてゆき
焼えるように赤い色彩が
西空にひろがっていった

 おだやかな気持にさせてくれる詩集です。著者はそろそろ喜寿を迎えようという詩人ですが、失礼な言い方を許してもらえるならば、トシをとることも悪くはないなと感じています。
 ここではタイトルポエムを紹介してみました。「亡くなった君ら」と語り合うことは、この詩集の大きな特徴で、ここにもそれは見えています。やがて私たちの誰もが向かう「西空」が「あかねぞら」となる日、この詩集のおだやかさに包まれていたいものです。
 本詩集中の
「ふたり」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、もう1編、田中順三詩の世界を味わってみてください。



米川征氏詩集『腑』
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2007.11.20 東京都葛飾区
ジャンクション・ハーベスト刊 1800円

<目次>
腑 8        モップ 12      白い道 16
ノラさんに会った 20  食品スーパーにて 24  恵比寿 28
その後 32      午前三時ごろ 36   禍 40
映画とか 44     枠と内外 48     青空 52
岸辺 60       旧道 64       下郷へ 68
虫の季節 72     潮の音 76      涼風 80
浮き立つ 84     ある朝 88



 モップ

モップはもとは純白だったけれど
汚れて灰色になっている

そのモップをぼくが解き放つことにしたのは
長年勤務していた職場からぼくがふと解き放たれたからで

ぼくも記念に何かをぼくの手で解き放ってみたい
と思ったからだ

で、解いてみたのだけれど
で、どうするの? モップはぼくに解かれたままだ



机の上から物を取り去ると
意外なほど傷も凹みもなくきれいな状態にもどった

その机にネームがあることは
それまで知らなかった

見えないところに名刺大の銀の紙が貼られていて
それに記されていたのだ

で、剥がしたのだけれど
ネームはぴっと消えてしまった

 日常の中でフッとした瞬間に立ち上がってくるポエジー。それを著者の鋭い感覚で掬い上げた、そんな詩集のように思います。紹介した「モップ」にもそれは現われていて、「長年勤務していた職場からぼくがふと解き放たれたから」「ぼくも記念に何かをぼくの手で解き放ってみたい/と思っ」て、「そのモップをぼくが解き放つことにした」というのは、なかなか発想できないことです。後半の「ネーム」も退職絡みのエピソードと採ってよいでしょう。「ネームはぴっと消えてしまった」と見るところに著者の感性の個性を思います。

 「青空」は総タイトルで、中に「病棟」「自転車」「ひととき」「眠る」「木のものがたり」の5編が収められています。そのうちの
「木のものがたり」はすでに拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて米川征詩をご鑑賞ください。



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