きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.9.9 東京・浅草




2007.10.4(木)


 日本詩人クラブでは、明後日6日(土)に研究会、来週13日(土)に例会が、いずれも東大駒場で開かれます。しかし、どうも参加者が少ない予想です。そこで今日は会員・会友向けにメールを発信して参加を呼び掛けました。通常は書面で配布しています。今回の件もすでにお送りしてあります。配布にあたっては印刷して、三つ折りにして、封筒に入れて、宛名シールを貼って、封をして、と大変な労力です。印刷費・送料もかなりの金額になります。それに比べるとメールは費用もほとんど掛からず、配布も瞬間です。しかし最大のネックは会員・会友の全員がメール保持者ではないこと。やはり昔ながらの封書なり葉書が出番になるわけですね。その隙間を縫ってのメール送信ですから、ごく一部の人にしか今日のメールは行かないという問題もあります。それを措いての送信はデジタル格差の最たるもので、忸怩たるものがありました。今どき、電話を使わないという人はいないでしょうが、おそらく電話の初期も同じようなことがあったのでしょう。文明と格差について、ちょっとだけですが考えさせられた日です。



和氣康之氏詩集『よぶり火』
21世紀詩人叢書・第U期27
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2007.10.30 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊  2000円+税

<目次>
T よぶり火
あめふり花 8    ちゃんとやってるの 12
よぶり火 16     うしろのしょうめん 20
ゆめまくら 24    鯉こく 28
日照り雨 32     風の洞 36
ゆめぽさぽさ 40   風のとむらい 44
U てのなるほうへ
曼珠沙華 48     やぶ椿 52
アリジゴク 56    海月 58
河馬 62       激突 64
ハマボウフウ 66   てのなるほうへ 68
おせっかい 72
V そらの果て
すれちがう 76    沈黙 80
ささやき 84     黄色いボルボ 86
滝 90        琥珀のとき 94
渦 98        そらの果て 100
はじまりのひかり 104
あとがき 106



 よぶり火


細胞のひとつひとつに
ホタルが棲みついて
せつなく蒼く病んでいる

祭職子が流れてくると
細胞のひとつひとつが泡立ち
無数のホタルがかたまって
一匹の草魚になる
暗い葦むらの底で揺らめいている

すえくさい板戸
じっと覗く眼がある
瞬きをなくした少年の眼
ひときわ笛が烈しくなると
暗い水面がもりあがり
草魚の腹がうら返る

鱗の青光り
ぬらぬら絡みつく魚臭

箱階段を転げおち
夢中でペダルを踏む
虫が顔にあたる
赤い月が追いかけてくる
石ころにハンドルをとられ
土手を走り
線路をつっきり
逃げる逃げる
逃げて
行き止まりのま暗やみ

どろんと
タールを延べたような川面
おととい
若い女が引きあげられたところ
葦のやみ間から
ちろちろちろちろ
よぶり火がゆらめいて
今にも口のとがった蒼白い顔が現れそうだ
夜ぶりのかえり道は
狐がこっそりついて来るという

なま温かい風が首筋にからみ
少年は帰るところがわからない

 * よぶり火(夜振火)…カンテラや懐中電灯に集まってくる川魚をヤスで突く。夏夜の川漁。

 6年ぶりの第2詩集です。タイトルポエムを紹介してみましたが、実は第1詩集にも同名の作品があります。著者はそれを推敲して新しい作品に仕上げたと「あとがき」で述べています。前作と比べてみましたが表面的には大きく違っています。前作では母上の死後の三十三回忌を描いていて、今回はそうではありません。しかし、その底に流れる「少年は帰るところがわからない」という生への不安のようなものは同じと云えましょう。その上、前作より、より普遍性が増した作品になったと思います。

 本詩集では
「すれちがう」という作品をすでに紹介していました。原作は「すれちがう神」になっていて、本詩集では神とは書かれていません。本詩集の方が神を伏せたことで格段に良くなっていて、種明かしをするようで心苦しいのですが、ハイパーリンクを張っておきました。合わせて和氣康之詩の世界をご鑑賞いただければと思います。



森野満之氏詩集『梢の夢』
21世紀詩人叢書・第U期29
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2007.10.15 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊  2000円+税

<目次>
第一章 一個の無念
波 8        九十九里 12
悪い夢 16      行く末遥かなる囁き 20
一個の無念 24    概数 28
アメリカのげっぷ 30 愛の綱引き 34
外野手 38      にっぽんの但し書き 42
第二章 しっぽの言い分
女性の胸に 46    裸の女 50
古風な女 54     しっぽの言い分 58
梢の夢 62      欺瞞 66
水汲み 68      拒絶の意志 72
本来の場所 76    初老の男が若い女性に惚れられた理由 80
中伊豆 84
第三草 木
深い海 88      ヨウナシ霊験記 90
難病 94       木 98
道 100
.       下山 102
あとがき 104



 悪い夢

嫌いになった、というのなら致し方ありません
でも、はじめから愛情がなかった、とか
押し付けられてしぶしぶ承諾した、とか
いまさらそのようなことをおっしゃられても
それはあまりにも身勝手ではありませんか
あの頃はとても貧しくて
私は初めてのことに胸をときめかせていたけれど
あなたの心は恨みを残していたのですね
あれからずっと
私たちの関係はぎくしゃくしていましたが
あなたの思い通りにならなかったのは
みんな私のせいなのでしょうか
もう六十年以上も経ったのだから
実情にそぐわなくなった、と
そらぞらしいことをおっしゃるけれど
その実情とやらも、もとはといえば
あなたがつくってきたことではありませんか
私に変われと言われても
どこがどういけないのか分かりません
私と出会う前に戻りたいなんて
あなたはきっと悪い夢を見ているのですね

君が心に秋や来ぬらん
、と
古風に嘆いているのではありません
はじめから愛情などなかったのに
あるふりをしていたあなたが情けないのです
女心をもてあそばないで
本当のことをおっしゃってください
普通の国にあこがれるあなたは
七つの海を越えて
威光を放とうとなさるけれど
お金をちらつかせるだけでなく
力のあるところを見せつけたいなんて
野暮なことは言わないでください
強い顕示欲は
あなたの目指す美しい国にふさわしくありません
温情をなくしたあなたは
とにかく私が悪いというばかり
あなたが本当に欲しいものは
何ですか
私と別れなければ得られないものは
いったい何ですか

  * わが袖にまだき時雨の降りぬるは君が心に秋や来ぬらん(古今和歌集)

 女性から見た冷たい男への嘆き唄、とも採れますが、「もう六十年以上も経ったのだから」、「普通の国にあこがれるあなたは/七つの海を越えて/威光を放とうとなさるけれど」、そして「あなたの目指す美しい国」で判りました。これは憲法9条が時の総理大臣に抗議している作品なのです。憲法9条を護ろうという運動、あるいは憲法9条に護られているという意識は国民各層に広がってきていますが、このような作品でそれを表現したのは始めてではないでしょうか。反戦詩の進化した形だと思います。お見事!

 本詩集中の
「深い海」は拙HPですでに紹介していました。本詩集では散文詩になっていますが、原文は行分け詩でした。散文詩の方が良いと思います。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて森野満之詩の世界をお楽しみください。



詩誌『ONL』93号
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2007.9.30 高知県四万十市
山本衞氏発行  350円

<目次>
現代詩作品
柳原省三…山寺への道すがら 2       丸山全友…選別 4
水口里子…葡萄棚 5            土居廣之…その手で掴むもの 6
森崎昭生…トラウマ 7           西森 茂…地球上の人類への警告 8
土志田英介…引っぱるもの 10        福本明美…下宿のおばさん 12
宮崎真理子…終焉 13            河内良澄…カマスノスガタ 14
北代佳子…幸の花 15            岩合 秋…銀河鉄道 16
山本歳巳…ポッカリさん 18         山本 衞…河口に棲む/他 20
浜田 啓…夏の顔 31            大山喬二…橡の木の森へ/他 32
文月奈津…疑問 36             大森ちさと…孟宗竹 38
徳廣早苗…純愛の夏 39
寄稿評論 村上利雄…九十二号読後感想 24
随想作品
小松二三子…戦友 27            芝野晴男…まんのう 28
秋山田鶴子…喪失 29
評論 谷口平八郎…幸徳秋水事件と文学者たち(6) 26
後書き 40
執筆者名簿 41
表紙 田辺陶豊《鳥Y》



 その手で掴むもの/土居廣之

新聞広告を持っていくと
ぷくぷくした手を
ゆっくり差しのべて
ぎゅっと掴む
ぎゅっ
ぎゅっと
何度も掴み
くしゃくしゃにした
「こんなことできるようになったぞ」
と得意げな顔をしている

この子が
様々な困難に遭遇し
辛い思いをするのは
悲しい
だから教えていきたい

その小さな手を
おもいっきり差しのべて
克服した時に
掴むもの

この世の中なかなかいいものだぞ

 「この子」はお孫さんなのでしょう。いろいろなことが出来るようになって「得意げな顔をしている」「この子」に、近い将来訪れるであろう「様々な困難」や「辛い思い」。それを排除するのではなく「教えていきたい」とするところに本当の愛情を感じます。最終連がこの詩のポイントですが、「この世の中なかなかいいものだぞ」と言い切れるところに作者の人間性の幅の広さも感じます。何気ない作品ですが、人間って信用できるぞと思わせる詩です。



季刊詩誌『天山牧歌』77号
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2007.10.1 北九州市八幡西区
秋吉久紀夫氏発行  非売品

<目次>
中東イスラム圏の詩(9) イランの詩 三篇 秋吉久紀夫訳
 血の痕…アリ・ムサウィ・カルマルチィ…2
 詞語…ナヅオニン・ネタム・シアシティ…4
 置き去りにした手荷物…ペホタド・ホチャド…5
(韓篇)琉球最初の殉教者…秋吉久紀夫…6
    八月一五日…稲田美穂…8
(エッセイ)着物とわたし…秋吉正子…9
イラン現代叙事詩「今日は、ヘドルパパ」(上)…11
 モハメド・フセイン・シャホリーヤル作 秋吉久紀夫訳
 一,モハメド・フセイン・シャホリーヤルの経歴
 二,本文1「稲妻がきらめき、雷が鳴り…」〜44
  「夜中、ターチーと一緒に河辺に行き…」まで
身辺往来・受贈書誌…23
編集後記…24



 琉球最初の殉教者/秋吉久紀夫

日本の最南端、八重山諸島の石垣島といえば、
思い出すのは、紺碧の波が強烈にぎらつく川平
(かびら)湾。
ガラス張りの船底から、海底を覗くと、
息づく色とりどりのサンゴ礁の狭間を、
出会ったことのない熱帯魚の群れが語りかけて来る。

「ねぇねぇ、あなた、知っているかしら、
石垣永将という人の名を。昔、八重山一の実力者で、
琉球最初のキリシタンとして処刑された人よ。
ほら、あそこがその人の先祖の住家のあった所なの。
分かったかしら、分かったら調べてみては」。

熱帯魚の切なる願いに唆されたわたしは、
柔和な現地のタクシー運転手の道案内で、
島の南のかれが火刑を執行された土地を発見した。
この島ただ一つの仏教寺院である桃林寺の近く、
石垣市新川
(あらかわ)五四番地、赤い琉球瓦を乗せた祠(ほこら)を……

向って右側の両手をひろげた幅の大きな石に、
「八重山キリシタン事件 殉教の地」と刻まれ、
「一六二四年、宮良親雲上
(みやらペーちん)永将は首謀者として
当地において焚刑に処せられ、財産は没収。子孫は
波照間島や与那国島、宮古島に流された…」とあった。

徳川家康のキリスト教禁教令が一六一三年だから、
それからまもなく琉球王国内でも弾圧がなされたのだ。
多くの観衆の眼が竹矢来の外から注がれる中で、
かれは顔を天に向け、辞世の歌を唱えたという。
「神は肉眼ではなく、心眼で見るものなのだ。…」と。(2007・9・27)

 注「神は肉眼でなく……」。大浜永亘著『嘉善姓一門と八重山歴史』一九八八年一〇月 先島文化研究所刊 p110。

 「熱帯魚の切なる願いに唆され」て「発見した」という「琉球最初のキリシタンとして処刑された人」の「火刑を執行された土地」。歴史の重みが伝わってくる作品です。「徳川家康のキリスト教禁教令」で処刑された人は多くあったでしょうが、確かに「琉球最初のキリシタンとして処刑された人」という観点は、日本史の中でも見過ごされているのかもしれません。それを提示した意義は大きいと云えましょう。「神は肉眼ではなく、心眼で見るものなのだ。…」。「石垣永将」の「辞世の歌」も心に残る作品です。



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