きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.10.15 箱根・湿生花園のコウホネ




2007.11.2(金)


 夕方から詩誌『焔』同人の阿部忠俊さんの詩集
『試惑(まどわし)と、黒田佳子さんの詩集『夜の鳥たち』の出版記念会が桜木町の三愛ヨコハマホテルでありました。お二人とも第1詩集です。ご出版おめでとうございました。どんな詩集かはハイパーリンクを張っておきましたので、ご覧になってみてください。

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 写真は著者のお一人、阿部忠俊さん。詩集は散文詩が主で、理系の人らしい探求の姿勢が新しく感じられる詩集です。黒田佳子さんは井上靖さんのお嬢さん。井上さんは生前、黒田さんの詩集出版を強く望んでいたそうです。井上靖生誕100年の今年、時間の処理に優れたスケールの大きな詩集が出版されて、泉下の井上さんも喜んでいることでしょう。
 来賓には静岡県長泉町にある井上靖文学館館長もおいでになり、50名近くの人で賑やかでした。私も祝辞を述べよとのことでしたから、つまらない話をさせていただきました。
 お二人の今後のご活躍を祈念しています。



会報『新しい風』8号
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2007.10.25 川崎市川崎区
金子秀夫氏代表・川崎詩人会発行 非売品

<目次>
画家菅野功さんを悼む/金子秀夫 1     詩 survival=残存2・ブリキの夢/宇田 禮 1
会員消息 1                2007 UPENDRA AND FRIENDS/福田美鈴 2
詩 ネパール・二〇〇六年四月/福田美鈴 2  '05年「エコール・ド・川崎展」記念講演(続)/針生一郎 3
記憶しよう!戦争の真実を!/梅田悦子 4  短歌 ウリアボジ 私の父/朴 貞花 4
だんご虫の唄/丸山あつし 4



 ネパール・二〇〇六年四月/福田美鈴

「王政に対する十九日間の
大きな抗議行動のあと
国民は勝利し
王は敗れました」

二〇〇六年四月
遂に国中に起きた
デモンストレーション

「国中で
人々が歩いています
デモ行進しています
海みたいです」

黙し
耐えた
長い年月

海の無い国ネパールで
人の海が高波をあげ
王政を
沖の彼方に敗退させた

 上述の出版記念会の会場で頂戴しました。紹介したのは、長年、ネパールの音楽家や詩人と交流の深い作者が「二〇〇六年四月」に起きた政変をうたった作品です。ネパールで王政が潰えたことは記憶に新しいところです。直接ネパールに行ったわけではなく、かの地の人々の情報が「 」内だと思います。「海の無い国ネパールで/人の海が高波をあげ」というフレーズから、他人事ではなく身内の事件として感じていることが読み取れます。ネパールの今後の安定を願ってやみません。



文芸誌『獣神』31号
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2007.10.24 埼玉県所沢市
伊藤雄一郎氏編集責任  1000円

<目次>
小説
石のある風景/澤田よし子 4        タンポポ…伊藤雄一郎 20
雪に座る/通 雅彦 37           愛しい人/野田悦基 61
短詩特集
一行詩「自選十句」/吉田健治 99
.      二行詩「四季の栞」/渡辺 洋 101
四行詩「トカゲの卵」ほか/大重徳洋 103
エッセイ
女王陛下の国の夏/高久清美 104
.      落ち着かない地球/ページ・剛子 113
アーユル・べ−ダ/竹沢一哉 119
.      銀次郎の日記/青江由紀夫 122
後書き 131
表紙●油彩画『夢のふち】より 大重徳洋   カット●白石陽子



 四行詩/大重徳洋

トカゲの卵
イチゴの畝の横穴はトカゲの巣だった
湯上がりの爪色をした楕円の卵が五つ
ひとつをつまみあげて もとにもどすと
トカゲはすぐさま奥へしまいこんだ

果報
捨てた台所の野菜くずの山から
蔓がのびて 花をつけて
ひと夏かけて実ったカボチャ
畑の隅で果報がひときわ光っている

閉店
恰幅よくけんかばやい客たち クワガタ カブトムシ
にぎやかだった林間の居酒屋「櫟」は
秋風とともに客足がばったりとだえた
キマダラヒカゲが店じまいの片づけをしている

夏の終わり
空箱にふえていく昆虫の死骸
チョウ セミ カブトムシ タマムシ
畑を舞い 林を飛びかい 夏を生きた虫たちが
拾われて 箱のなかで秋を迎える

 4編の4行詩がそれぞれに面白いと思いました。<トカゲの卵>では「すぐさま奥へしまいこんだ」ところに、とかげの慌てぶりを感じます。<果報>では果報は寝て待て≠まさに地で行っているようです。<閉店>は、虫たちは真剣なんでしょうが「居酒屋『櫟』」が笑えますね。<夏の終わり>の「拾われて 箱のなかで秋を迎える」虫の哀れも生命について考えさせられます。いずれも小動物、野菜、虫たちなど、小さなものへの作者の慈愛を感じました。

 小説では伊藤雄一郎氏の「タンポポ」に着目しました。「朋子」のもとに末期癌で転がり込んで来た男の最期の願いは、昔その男と同棲していた女の墓への、代理の墓参り。その女は末期癌ですでに死亡している模様。しかし訪れた墓地に墓はなく、タンポポが咲いていた…。女性の底抜けの優しさ、人間の生き方について考えさせられる作品です。



隔月刊詩誌
『サロン・デ・ポエート』270号
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2007.11.25 名古屋市名東区
中部詩人サロン編集・伊藤康子氏発行  300円

<目次>
作品
暮鴉…みくちけんすけ…4          追悼…足立すみ子…5
伯耆大山…野老比左子…6          傾聴…小林 聖…8
最初の記憶…荒井幸子…9          鎌倉ハイキング…阿部堅磐…10
黙々と歩く…伊藤康子…12          町村合併…稲葉忠行…13
空に散る夢のかけら…及川 純…14      老境いまだ果てず…黒神真司…15
散文
韓国と日本の子どもの詩「こだま」を読む…阿部堅磐…16
日本現代詩歌文学館…野老比左子…17
詩歌鑑賞ノート・下村和子の詩(一)…阿部堅磐…18
同人閑話…諸家…22
詩話会レポート…24
受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記
表紙・目次カット…甲斐久子



 追悼/足立すみ子

「某年某日
私は天へと旅立ちました」
日付けだけが
手書きされたメッセージ

「ちょっとそこまで出掛けて来るわ」
いつもと変らぬ足取りで
立ち去る後姿が
次第に遠ざかり
彼方に消える
居なくなった人達の居る
向う岸へと
橋を渡って行くのだろう
物事の不条理に
屈せぬパワーを
必要とされる方が
おられたのに違いない
しゃれたバッグを片手に
振り向きもせず帰って行った

自制の殻に怒りを閉じ込め
うそぶいて歩く私の道は
まだ先へと続いている
大切な人においてきばりをくわされ
べそをかく幼子のように
途方にくれてしゃがみ込む私

気が付くと
故郷
(ふるさと)の夕日の匂いが
見えないナノムの粒を
パラリパラリ振りまいていた

 亡くなったご本人によって「日付けだけが/手書きされたメッセージ」が遺されていたという作品ですが、故人の達観さが「いつもと変らぬ足取りで/立ち去る後姿」、「振り向きもせず帰って行った」などのフレーズに表れていると思います。
 最終連も佳いですね。「ナノム」は、長さの単位のナノメートルと分子のモリキュラを組み合わせた造語で、あるメーカーの商標名のようです。
1ナノメートルは10億分の1メートル。それほど細かい、「見えないナノムの粒を」「故郷の夕日の匂いが」「振りまいていた」というのですから、この「匂い」とはどんなものなのでしょう。ちょっと想像がつきませんけど、詩の表現としてはおもしろく、優れたものだと思いました。



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