きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
tsuribashi
吊橋・長い道程




2007.12.5(水)


 昨夜は愛犬が発作を起こして、慌てました。生来の心臓病が寄る年波で悪化しているようです。しばらく抱いていて発作は治まりましたけど、これから先も続くだろうと覚悟しています。
 発作の前の状況を見ると、咳が続きます。その咳は、急に動いた直後によく起こるようです。急激な運動が心臓に負担をかけてしまうのでしょう。うちの犬は飼い主に似て、いつまでも若いつもりで身体を動かしてしまうのです。「お前はトシなんだからね、動作は年寄りらしくゆっくりとね」と言い聞かせているのですが、どこまで分かっているやら…。
 動物病院から勧められている心臓病処置を拒否している手前もあって、なにがなんでも長生きさせてやりたいものだと思っています。病院から宣告された、一両日にも死んでしまうかもしれないという状態は過ぎて、とりあえず1ヶ月はもちました。このあと1ヶ月、半年、そして1年と、1日でも長く生きてほしいものです。



北原千代氏詩集『スピリトゥス』
21世紀詩人叢書・第U期30
spiritus.JPG
2007.11.30 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊  2000円+税

<目次>
T
椎の実書店 8               鹿とわたし 10
煙突のある村 14              捧げもの 18
冬のバストロンボーン奏者に 22       リレーゾーン 26
U
会話する少年 30              まなざし 34
遊ぶ風 38                 青い器 40
ひらかなの町 44              母の祈り 48
水鳥 52
V
夜ごとの岸辺 58              拒絶 60
帽子屋の時間 62              夜の弟 66
レッスン 70                面会日 74
W
耕すひと 80                帰館
(カミング・ホーム) 84
39弦の調ベ 88               父の国へ 90
はじまりのために 94            招待状 96
あとがき 100



 椎の実書店

南に向いた
あけっぴろげの窓に
シクラメンの花鉢ひとつ
留守番に
冬の風鈴をやとっている

風が往き来する書棚の
透きとおった本たち
今しがたクレソンを茹でた
あおい湯気もそこにいる

「夕映えのころ もどります 店主」

毛糸の帽子、マフラー、コート、ブーツ
玄関脇の椎の木にあずけたまま
裸のたましいが
温い肉体だけを連れて

軒先で風鈴が
ひかりの粒子を鳴らしている

 2年ぶりの第2詩集です。詩集タイトルの「
スピリトゥス」という作品はなく、あとがきでは「書名の『スピリトゥス(spiritus)』は、風、息、生命、霊、かおり、精神などを表すラテン語で、英語の『スピリット』の語源にあたります」と書かれていました。詩集全体の精神を表すものと受け止められます。
 ここでは巻頭詩を紹介してみましたが「留守番に/冬の風鈴をやとっている」、その風鈴を鳴らす風もまさに
スピリトゥスで、雇い入れているという「店主もまた、宮澤賢治のようなスピリトゥスな人ということができるでしょう。「椎の実書店」の店主は、実は著者その人なのかもしれません。高い叙情性が秘められた、お薦めの好著です。



富田正一氏詩集『夕焼けの家』
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2007.12.22 北海道旭川市 青い芽文芸社刊 1800円

<目次>
T
朝のひととき 8              曲り角のレシピ 10
コスモス 12                いのち 14
オホーツクの浜辺で 16           見知らぬレディー 18
来客 20                  勘ちがい 22
タカイタカイ 24              振り向く 28
動物の話 32                イシ物語 36
U
制服のいらなくなった朝 42         ノイズの中に 44
詩を書いているのだって 48         詩話会で 50
夏のひと時 52               格差 56
爪 58                   気になる遺産 60
指定席 62                 肌寒い朝 66
光と陰 68
V
夕焼けの家 72               箱型算盤 74
蛍ではなく 76               手紙 78
最敬礼 82                 真実 84
風 86                   今夜もない 88
種子 90                  黄昏の指標 92
その日まで 94               森の舞う木の葉 98
あとがき 103



 夕焼けの家

父は 仕事を終えて帰って来ると
正 一合の酒を注いだ徳利を
石炭ストーブの上にのせる
好みの温度になったら
舌先で なめるように飲み
飲み切ると 一日が終わると言う
酒飲み至上のマナーだった

時々 買い置きがないことに
気づいた母は
ぼくに小瓶とお金をあずける
小学二年生は 父の笑顔を想像し
ゴードー一合 ゴードー一合
口づさみながら
酒店へ買いに行った記憶がある

夕焼けの中に
今はない昔の家が見える
菩提寺から抜け出た
父がそこにいて
微笑みながら飲んでいる
相変わらずの独酌だった

   ※ゴードー・焼酎の銘柄

 15年ぶりの第6詩集だそうです。ここではタイトルポエムを紹介してみました。私にも「酒店へ買いに行った記憶があ」りますけど、昔は1合の量り売りなんてのがあったんです。「父」は「酒飲み至上のマナー」をもっていた方のようで、その「父の笑顔を想像し」ながら酒屋に走る「小学二年生」の想い出が読者の胸にもストンと落ちる作品だと思います。「石炭ストーブ」のあった平和な「夕焼けの家」が、心を温めてくれる作品です。



アンソロジー『詩めーる旭川』5集
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2007.11.5 北海道旭川市 旭川詩人クラブ発行 500円

<目次>

アメリカキササゲ…東 延江 4       ズミ…東 延江 5
芋虫…出雲章子 6             雪虫よ…荻野久子 8
時間は追い掛けてこそ…小林 実 10     或る果実の嘆き…小森幸子 12
カンガルー療法…四釜正子 14        峠越え…立岩恵子 16
惜しまれた人生…土橋和子 18        偉人…土橋和子 19
その日まで…富田正一 20          風化…文梨政幸 22
樹影…森内 伝 24             夕焼け…森山幸代 26
風は止っていない…森山幸代 27       夏の終わり…山口敬子 28
エッセー
分からない詩…文梨政幸 30         殻をやぶる…四釜正子 30
空気のような 水のような…富田正一 31   小さな森…東 延江 31
水溜りに思う…荻野久子 32         窓辺にて…山口敬子 32
広告のこと…松本昭夫 33          夫と百寿大学に行く…小森幸子 33
読経…立石恵子 34             仏法僧の鳴かない夏…出雲章子 34
医師の苦労…土橋和子 35          遠くからとの出会い…森内 伝 35
ヘブン・ブルー…森山幸代 36        時間に追い掛けられて…小林 実 36

第20回旭川詩人クラブ詩画展 37       会員名簿 41
あとがき 42                (題字・カット 森内 伝)



 カンガルー療法/四釜正子

低体重児(未熟児)にまれに
胃の病気がみられる

保育器でずっと寝ていて
ピロリ菌とかストレスもないのに
何故だろう

十ヶ月胎内で育つのが通常で
いつも母親の心音を聞いていた

それが突然できなくなり
無意識の孤独感になっていたのである

一番の治療は
母親の肌に
赤ちゃんをのせて
心音を聞かせ
やさしく話かけてあげること
何度か繰返すうちに
いつしか治る

これがカンガルー療法

やはり整った保育器も
母の胎内に優るものはないのだと
自然の摂理を強く感じた

 「カンガルー療法」という言葉を初めて見ましたので、ネットで調べてみましたら、最近流行の言葉のようです。ネットでの内容もやはり「母親の肌に/赤ちゃんをのせて/心音を聞かせ/やさしく話かけてあげること」とありました。「整った保育器も/母の胎内に優るものはない」のですね。まさに「自然の摂理を強く感じた」作品です。



会報『「詩人の輪」通信』20号
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2007.11.30 東京都豊島区
九条の会・詩人の輪事務局発行  非売品

<目次>
詩 写真集・収容所/中村洋子
中正敏詩集『星ではない』について/多田統一
中原道夫詩集『人指し指』が示したもの/いだ・むつつぎ
輝け9条!詩人のつどい(パート5)開会あいさつ/大河原巌
輝け9条!詩人のつどい・in千葉 よびかけ人メッセージ
分野別9条の会からのメッセージ
「輝け9条!詩人のつどい」に参加して/磐城葦彦

憲法の生年と死歳/川原よしひさ       「やむを得ない」あるいは「しょうがない」/扶川 茂
九月の響き/出木みつる           好ましい時代/神田好能
特/岡たすく                詩二篇/鈴木和芳(遺稿)
堤防のない川/柳原省三

九条の会・詩人の輪」収入・支出内訳
賛同参加者・第15次分



 堤防のない川/柳原省三

昭和二十四年生まれのぼくが
小学生になった頃は
十年ひとむかし
敗戦も思い出になりかけていた
戦場帰りの近所のおっさんが
今度やったら絶対負けないと
子どもたちを集めて自慢話をする

ぼくは特攻隊の美しさに魅せられ
戦記もの漫画に熱中した
瀬戸内海の小島の農漁村から
市街地の親戚の婆さまの家に泊まり
古本屋を漁るのが楽しみであった
歌の好きな母にせがんで
知る限りの軍歌を教えてもらった
ぼくは時代遅れの軍国少年だった

ある一人の青年教師が
そんなぼくに非国民だと辛く当たった
ぼくは子どもながらもその教師を
民族の恥と軽蔑した
負けたとたんにコロリと寝返る
人の心が嫌いであった

あれから五十年の月日が流れた
「非国民」も「民族の恥」も遠くなり
平和への願いはけだるさの中にある

もし
憲法が変わったら
ぼくらは堤防のない川だ

 私も作者と同じ「昭和二十四年生まれ」ですので、「小学生になった頃」の「十年ひとむかし/敗戦も思い出になりかけていた」頃を覚えています。やはり「戦記もの漫画に熱中した」時代がありました。そこから現在を照射すると、確かに「平和への願いはけだるさの中にある」という思いに駆られます。
 ここでは憲法第9条を「堤防」として捉えているわけですが、見事な表現だと思います。「堤防のない川」に晒されるかどうかは、私たち一人ひとりに懸かっているわけですから、目をそらすことはできませんね。



   
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