きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
tsuribashi
吊橋・長い道程




2007.12.11(火)


 所要で銀座に出たついでに、6丁目の「ギャルリー志門」に行ってみました。「詩人とアーティストのクリスマスミニアート展」の案内状をもらっていたからです。まだお会いしたことはありませんが、横山さんという方が代表で、10人ほどが絵や写真、詩を展示していました。いずれも小品でしたがなかなか味のある、ピリリとした作品ばかりでした。肩肘張らない、まさにミニアート展。こういう展示も良いものだなと思います。

 ものはついでで、ちょっと足を延ばして浜離宮に初めて行ってみました。行ってみて、ついでに廻れるほどの狭さではないということが判りまして、ほとんど駆け足状態。ここはお弁当でも持って、1日のんびり過ごす処ですね。

071211.JPG

 写真は、広大な日本庭園を取り囲む高層ビル群、と言ったところでしょうか。実際にはそれほどでもありませんけど、写真の切り取り方によってはそう感じてもらえるでしょう。真ん中の日本家屋は「中島の御茶屋」と言うそうです。もちろんここも素通り。延長118mの総檜造りという長い橋を渡って辿り着く、なかなか風情のある処です。
 今度はゆっくり、のんびりと訪れてみたいものです。



高橋次夫氏詩集『雪一尺』
yuki isshaku.JPG
2007.12.1 さいたま市桜区 竜骨の会刊
 1500円+税

<目次>
杭 8                   闇について(1) 11
闇について(2) 14
.             闇について(3) 17
闇 素描 20                梵鐘 22
空腹について 25              ふるさと 28
青い焔 31                 林檎 34
今わの際まで 37              道連れ 40
雨 43                   日が昏れるまでは 46
さざ波立つ皮膚 49             川岸に佇つ男 52
疵を残した石のような 55          折れたねこじゃらし 58
土の色 61                 明るいわけでもないのに 64
歩いて行く 67               わたしを何処につれてゆくの 70
城 73                   雪一尺 76
初出一覧 80
あとがき 82



 雪一尺

青白い閃光を散らし
架線を削り
最終の幹線列車は
の地へ奔り去った

凍てつく夜気に 孤り残された
わたしの靴先は裂け
森閑として明滅する 星の真下に
罅割れた素手を晒して昏倒する

水辺から立ち上がってくるはずの
ことばにも拒絶され
無辺の荒地に放置された
不透明な抜け殻

ダリの時計のように
歪み崩れてゆく時間が折り重なって
網膜が剥がれはじめる
風の層も薄れてゆく

このままでいい
夜は炭化してゆくばかりだから
褪めてゆく血の色に
呟きが涸れる

ただ
ひと掴みの願いを
最後の吐息にできるのならば
雪一尺を賜りたい この亡き骸のうえに

    北=はかば、墳域
    一尺 =約30センチメートル

 詩集としてはほぼ8年ぶりの第7詩集です。一昨年に散文詩のような小説『篠竹』を出していましたし、『竜骨』や『鮫』などの詩誌で継続して作品を拝見していましたから、詩集としてそれほど長いブランクがあるとは思いもしませんでした。こうやって、まとまって高橋次夫詩の世界に触れられるのは、やはり良いものです。
 ここではタイトルポエムを紹介してみました。2005年の『鮫』101号初出ということで思い出したのですが、最終連の「雪一尺を賜りたい この亡き骸のうえに」というフレーズは、五味川純平の小説(映画にもなっていますが)『人間の条件』のラストシーンを彷彿とさせます。多くの詩人の願望を代弁しているのかもしれません。「風の層も薄れてゆく」、「夜は炭化してゆくばかりだから」というフレーズにも魅了されています。特に後者は夜と炭の関係が秀逸です。たくさん勉強させていただいた詩集です。



住連木律氏詩集『鎖の戒律』
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2007.12.13 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊  2000円+税

<目次>
共振するには二つ要る
ついのねむり 10              誠にひとすじの木 12
見えないもの 16              共感する偽善者 18
夜の音 20                 困った王様 24
君の居る場所 28
今様コスモロジー
衛星写真 32                遺伝子の乗り物 34
からだの戒律 36              知の翼時空の船 38
知の翼時空の海賊船(書かれざるもの) 42
ちょっと恐いお話
かくれんぼ 46               七頭の子羊 48
屠殺日和 50                虫のお葬式 52
羽化
(メタモルフォーゼ) 54            閉じたテントで大サーカス 56
古くて新しい鎖
男神 60                  お祭り(飼い殺し) 64
静かな日々(みすヾへ すベての優しく悲しい母たちへ) 68
花衣
竜田姫 72                 盾 76
物語詩
水族館の夜 80
一年
(ひととせ) 年中行事編 睦月から水無月
睦月 お正月 93              如月 豆撒き 94
弥生 雛祭り 96              卯月 花まつり 97
皐月 武者人形 98
                   水無月 水田(みずた) 100
一年
(いちねん) デッサン編 一月から六月
一月 雪景色 104
.             二月 蕾梅(つぼみうめ) 108
三月 白い鳥 110
.             四月 桜川 112
五月 至福の庭(アタラクシア) 114     六月 紫陽花 116
あとがき 118



 共感する偽善者

自分の傷にしか泣けない
つくづく私は偽善者だ

誰かの痛みに泣いてるようで
自分の為に泣いている

痛みがわかると言いながら
わかる痛みを泣いている
ほんとに私は偽善者だ

転ぶあなたに手を延べるのも
転ぶ自分が不憫だからで
転んだあなたを撫でさするのも
転んだ自分が痛いからだ

自分の知らない痛みには
いよいよざっくり心が裂ける
知ってる痛みを千倍にして
知ったつもりで泣くからだ

ええだから
すべての痛みを知ったところで
やっぱり私は偽善者だ

 昨年8月刊行の第1詩集『楔の音律』に引き続いての第2詩集です。リズム感のある詩風はそのまま踏襲されていました。紹介した作品は、まさに耳が痛いところを突かれましたね。「痛みがわかると言いながら」「共感」しているつもりの私もまた「偽善者」だと認めてしまいます。それにしても第5連の「知ってる痛みを千倍にして/知ったつもりで泣く」というのは凄いことです。私ならせいぜい2倍か3倍というところでしょうか。このデフォルメが詩だと思います。「共感」した作品です。



成耆兆氏詩集『忠正路の人々』
鴻農映二氏訳
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2007.9.10 東京都豊島区 東京文芸館刊 2000円

<目次>
序文
成耆兆…2
第1部 点描
正月…14       生…15        落葉・1…16
金魚鉢…17      鴎(かもめ) 18    冬の雨・1…19
一杯の酒…20     まつばぼたん…21   歌…22
倖せ…23       いとしさ・1…24    沐浴…25
日没…26       晩夏…27       鳥…28
空…29        昼の月…30      春…31
物語…32       落葉・3…33      落葉・4…34
落葉・5…36      言葉…37       冬の風…38
冬の雨・2…39     父親…40       赤いバラ…41
雪・2…42       雪・3…43
第2部 旅、または 別離
夜明け…46      ピクニック…47    ワシントンのダレス空港にて…48
赤の広場…50     迎日湾にて…52    017-363-3013…54
別れること・2…56   別れること・4…57   別れること・5…58
別れること・6…59   声…60        テレフォン・ナンバー…62
第3部 生老病死
熱帯夜…66      お茶を飲みながら…67 波涛・1…68
寝坊をして…69    喧嘩…70       犬の死…72
敗北…74       悔い…76       老年のなげき…78
忠正路の人々・1…80  忠正路の人々・3…82  沐浴…84
病院にて…86     くたびれた時間…88  不眠症…90
病い…91
第4部 再び生が…
恋…94        山になりたい…96   夜明けに聴く音楽…98
道…100
.       自由…102.      焼酒…104
ある人物…106
.      会いたい気持ち…107. 椿の花・2…108
対話・1…109
.     あたしん家…110.   星…112
タンポポの花…113
.  雪・1…114.      寂莫…115
凧上げ…116
.     夜空…117.      山から流れる水…118
地下鉄を降りて…120
. 漢江…122.      時計…124
ニューヨークの大惨事…126
.         星・1…128
音楽…129
訳者あとがき・鴻農映二…130



 忠正路の人々・1


毎日 苦痛がやってきても
われらは 楽しく 生きねばならない
井戸から水を汲むように
倖せを汲み上げ
明日の希望を胸に抱き
逆境が前途をさえぎろうとも
生の重さが肩を押さえつけても
忠正路の人々は
夢を見るように甘く 暮さねばならない。

  訳註。忠正路(チュンジョンノ)はソウル市西大門区内の地名。同名の駅には、地下鉄2号線と5号線が通じている。


 忠正路の人々・3

暗がりの中でも眠ったりせず
歳月が過ぎても老けはしなかった
命を烽火のように燃やして生きてきた
われらは苦しみを放り投げ
血脈をつなぐため 命を育ててきた
時には柔順に
時には 荒々しく さし迫る事態にも
永遠に 生きのびるため
惨たんたる 失敗も恥しくなかった
われらは 負けても あきらめはせず
勝っても 自慢しない 忠正路の人間たち
愛とまこと なびかせる風のように
胸に抱いて 倖せな 明日のため
帆を上げる忠正路の住民たち。

 国際ペンクラブ韓国本部会長・名誉会長を歴任している韓国文壇大御所の邦訳第2詩集だそうです。ここではタイトルポエムを2編紹介してみました。韓国からの差出しに
SEOUL市西大門区忠正路とありましたから、著者がお住まいか事務所があるのかもしれません。そこに住む人々を描いた作品で、それはとりもなおさず著者の姿と重ねることができましょう。さらに「われらは 負けても あきらめはせず/勝っても 自慢しない 忠正路の人間たち」というフレーズからは、数少ない在日の友人たちの性向も垣間見え、一般的な韓国の人々の人間性でもあるように思います。隣国からの好著に感謝しています。



村椿四朗氏著『詩&思想』
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2007.11.3 東京都千代田区 菁柿堂刊
2000円+税

<目次>
序 マチウ書簡
宝石箱/6 丘のうえのコリョサラム/10
T 
book review
高橋渡詩集『野の歌』/16 『冬の旅』、『生者の棺』の意義/18 石井藤雄詩集『公害』/22 篠原星詩集『空中庭園』/24 中村不二夫詩集『使徒』/27 ドミーン詩集『樹はけれども咲く』/31 大塚欽一『美神に木乃伊られた詩人たち[T]』/33 『中原道夫詩集』を読む/36 韓億沫詩集『恨』/38 井上英明詩集『受胎告知』/40 アンソロジー『現代メキシコ詩集』/44
U 詩論
詩精神の自己実現/50 北原白秋の落書/53 詩精神/56 一九二〇年代という時代/58 辻元佳史詩集『ふぇみにすむ』論/61 戦後詩概念を超えて/68 関根弘から学ぶもの/78 詩運動の再検討/81 フェミニズム/84 戦後五〇年の根拠、または一八八八年の冬/87 短歌という装置/90 熊谷直好の音韻論/93 例会傍聴記/96 茨木のり子の尹東柱論/99 ヤコブソンの「詩学」/102 一九三〇年代の転換、サークル問題/105 作品はだれのものか/108 吉本隆明、その前/その後/111 大和田建樹の訳詩集『欧米名家詩集』/114 室生犀星の詩「小景異情」/118
V 詩人論
(ハン)と抵抗の詩人――歴史体験と詩的真実/124 贋詩人、あるいはテクスト/141
あとがき/157



 宝石箱

ジハードを戦ったムハンマド
乾燥した峠
乗合バスは走り
聖なる兄のあと 山をこえ
クルドの故郷は掟の村
冬道こえてゆく映画のムハンマド
国民国家の市街地にかくれ
フセイン消され いま
いま君はどうしているのか

黄土の女は いま
ソウルヘの道
貧困は背をおし山こえ
娘たちは夏の思い出に
薬指と小指 無邪気な少女は
鳳仙花であかく爪そめ
売られていった娘たち
キムジハ 峠をこえた女を
いま君はどうおもっているのか

八月の信州は暑く落葉松に
鴬なき甲州へ峠ごえ
あえぎ登りつづけ
シンよキムよイよ
きみたちは品川駅発祖国送還
雨降る日強制送還された
日本の詩人は音信不通の
わずか半世紀すぎると
記憶のなかの話だったのか

いま 引出しのなかの
記憶は
くつがえされた
記憶は
宝石箱にふたをする
鍵をかける
だれにもできやしない
くつがえされた
記憶を
         (07・2「社会文学通信」)

 主に『詩と思想』誌、
「社会文学通信」などに発表された書評、詩論、詩人論をまとめた著作で、非常に読み応えがありました。目次でも判りますように、論点は多岐に渡っていますので、一度読んだだけではもったいない本です。特に「U 詩論」の「辻元佳史詩集『ふぇみにすむ』論」、「茨木のり子の尹東柱論」、そして「V 詩人論」はお薦めです。詩とはかくあるものかと納得します。現在活躍中の詩人には必読と云えるでしょう。

 ここでは巻頭の詩作品を紹介してみました。特に註釈はいらないと思いますが、蛇足をつけ加えると第2連の「キムジハ」は『五賊』で有名な金芝河、第3連は中野重治の詩「雨の降る品川駅」から、タイトルと最終連は西脇順三郎の詩「天気」から採っていると思って間違いないでしょう。著者の多様性と姿勢が端的に表現されている詩だと思います。特に最終連を私は、「宝石箱にふたを」して「鍵をかける」けれども、「くつがえされた/記憶」に「鍵をかける」ことは「だれにもできやしない」と採っていて、現在の詩人が取るべき道を指し示したものだと解釈しています。詩と詩論の両立した著作を重ねてお薦めします。



   
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