きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
tsuribashi
吊橋・長い道程




2007.12.10(月)


 自治会隣組のおじいさんの告別式は11時から。組内の私たちは10時に集合して、それぞれの役割を分担しました。私は昨夜の続きで地域分の香典記録を担当しました。昨夜の150人とは打って変わって、今日はたったの15人。拍子抜けしてしまいました。
 告別式・火葬のあとは菩提寺で埋葬。続いて忌中払いと、夕方4時には終了しました。2日に渡る通夜・告別式で、いささか疲れましたが、90歳で亡くなったおじいさんも少しは喜んでくれているのではないかと思って、慰めにしています。そのおじいさんの生涯で、私が関与したのは後半生のうちのわずか15年ほど。75歳までのことはまったく知りませんけど、残りの15年は良い印象ばかりです。晩節を汚す人が意外と多いなかで、貴重なことと云えましょう。そうありたいものです。



後藤美和子氏詩集『大地の黄身』
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2007.12.10 東京都豊島区 書肆山田刊 2200円+税

<目次>
1
椅子 10       空の背後へ 12    伝え 14
発火 16       白き舶来 18     旋回   22
腕と心 26      岬 30        名指すもの 54
2
何も持ったことのない 38          照射 42
人手 44       かの贈与 46     先立つ角 48
階段の下、石の下
.50  整合 52       百代の夜 54
千度 56
3
くす球 62      乾季 66       ムーンストーン 68
ロマンス 70     結婚 72       アルパカ 74
鉤 76        山へ 78       喜びの滝 82
零し 84       隙間 86
4
来訪 92       臍 96        甲冑の身に 100
馬借 104
.      ジョンカ 108.    ロマンス.2 112
結婚・夏 116     ほつれ糸 120



 ムーンストーン

喝采の中の石室
降りていった者たちの寄添う所
観衆の
星の眼下に
抱かれた手の中で

仰ぎ見る
正長石の柱頭
斜長石の天井

赤い行列が見える
先頭を
小さな生き物がゆく
小さな箱を持って
燃えるような輝きの

 4年ぶりの第2詩集です。紹介した作品は月の石≠フことで良いと思います。第1連はアポロの月面着陸と捉えて良いでしょう。最終連は「先頭を」「燃えるような輝きの」「小さな生き物がゆく」と読むのか、「先頭を」「燃えるような輝きの」「小さな箱を持って」「小さな生き物がゆく」と読むのか、どちらか判りません。両方に読むことを狙っているのかもしれません。いずれにしろ「燃えるような輝き」は「小さな生き物」か「小さな箱」に掛かっているのだろうと思います。
 詩集タイトルの「
大地の黄身」という詩語が含まれている巻頭作「椅子」は、すでに拙HPで紹介しています。これも佳い作品です。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせてご鑑賞ください。



季刊・詩とエッセイ『焔』77号
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2007.11.30 横浜市西区 福田正夫詩の会発行
1000円

<目次>

新聞/比較論…錦 連 4          詩人かぶれ…亀川省吾 6
迷彩…平出鏡子 7             住民運動…小長谷源治 8
ときめきの彼方に…伊東二美江 10      土の中から…山崎豊彦 11
新しい日常のために…保坂登志子 12     空/煩悶…古田康二 13
冬/黒鳥…工藤 茂 14           菅平の自然の中で…布野栄一16
待合室の長椅子…濱本久子 17        さもしい男…許 育誠 18
「若い女等身大」駅…宇田 禮 19      「うそをつかない」…新井翠翹 20
或る准看護士…地 隆 22         野蛮人…阿部忠俊 24
人さらい…福田美鈴 25           人生/空蝉…古田豊治 26
ふたこぶラクダ…金子秀夫 28        ふたたびこころよ…瀬戸口宣司 30
福田正夫の詩・「銀嶺」のために書いた詩…阿部忠俊 31
第二一回福田正夫賞発表 33
受賞の言葉…田中裕子
選評=選考委員 瀬戸口宣司 傳馬義澄 亀川省吾 古田豊冶 金子秀夫
受賞詩集「美しい黒」作品抄…田中裕子 39
散文
タコ壷・横穴・雀三百羽…錦 連 42     演歌思考…許 育誠 46
連載 吉田一穂さんのこと 2…福田美鈴 50
小特集−野島茂・山崎豊彦
きれぎれのこと−野島茂詩断片…金子秀夫
.53. 野島茂詩編感想…小長谷源治 58
日本語の伝統的美質の表現者…工藤 茂 60  山崎先輩のこと…阿部忠俊 62
滋味あふれる言葉…瀬戸口宣司 64
書評
阿部忠俊詩集「試誘」
阿部忠俊詩集「試誘(まどわし)」…布野栄一 66
書信紹介 久保忠夫 村山精二 神川正彦 野島茂 68
世界を読み解く知的ポエジー…古賀博文 71
金子秀夫著「福田正夫・ペンの農夫−詩作品鑑賞を中心に」
民衆の自由と希望の側にたつ詩魂…古賀博文 74
「生きる」ことを書く…金井雄二 76
発行に寄せる感慨…福田美鈴 78
詩集紹介 金子秀夫 82
あとがき 85      表紙 福田達夫   目次カット 湯沢悦木



 或る准看護士/地 隆

明るく
笑顔を絶やさない
子だった

何事も真っ先に
とんできて
率先して
事にあたる子だった

だがよく観察していると
手は出しているけれど
力を入れていない
ただ触れているだけなのだ

私はベッドから車椅子に
移動するとき
腰を抱いて動かして
もらっていた

その役を
彼女がやった
いやな予感がした

案の定
彼女は私の腰に
手を触れているだけだった

私は渾身の力を振り絞って
自分の力で移動した
私の人生を
左右した一瞬だった

私は努力すれば
何事も出来る力が
まだ私に残っていることに
気づいた

そこから
私のリハビリは始まった

私にとって
彼女は恩人なのかも知れない

少しして
彼女は
精神を治してから
また働きましょうね
と言われたようだった

沈む夕日のように
病院を去って行った

私は彼女の
後ろ姿をただ見送る以外
出来ることはなかった

 この詩は私にも思い入れのある作品です。父親が脳梗塞で倒れたあと、言語障害が起きました。私は紙に五十音を書いて、それを指し示して意思表示をするように言いました。するとケアマネージャーの資格がある妹が制したのです。喋べろうとしているから喋らさなければいけない、と。まさに「人生を/左右した一瞬だった」のです。それからは「手は出しているけれど/力を入れていない」状態が現在まで続いて、言語障害は良化はしないものの悪化を防いでいるようです。作品の「明るく/笑顔を絶やさない/子」は「精神を治」さなければいけないようでしたけど、結果として「彼女は恩人」であったのでしょう。人間が本来持っている治癒力を考えさせられる作品です。



詩誌『りんごの木』17号
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2007.12.1 東京都目黒区
荒木寧子氏方「りんごの木」発行 500円

<目次>
扉詩 三朝/武田隆子
十五夜に/川又侑子 4           指遊び/高尾容子 6
かつて在った日は尽きることなく/田代芙美子 8
青い庭/さごうえみ 10           拭いてきれいに/青野 忍 12
春/横山富久子 14             催眠術/藤原有紀 16
白昼夢の企み/栗島佳織 18         本日はストライキ/宮島智子 22
年令/小野支津子 24            七十五歳の旭橋/東 延江 26
二月 その五/山本英子 28         炎上/峰岸了子 30
冬のまんだら/荒木寧子 32
表紙写真 大和田久



 本日はストライキ/宮島智子

朝が呼ぶ音

欠伸と水をやかんに注ぐ
目覚めのコーヒーに
上手も下手もない ひと皿
千切ったレタスとチーズのスライス
気に入りのチーズ切りの手が滑り
指先を削ぐ 流れる血
消えるコーヒーの匂いに


「派手にやりましたね」で
繃帯でおおげさに太る指
この指止まれの痛いたしい形
止まりにくるのは
赤とんぼに つむじ風
あの人の手は飛んでくるのか
疼きが饒舌にして
言葉が飛び入りする
「料理も掃除もしません」
指先と引き替えに生まれた時間
繃帯に反射する光を見つめながら
りんごを齧る

髭づらのセザンヌが止まりにきた

 「気に入りのチーズ切りの手が滑」って、「繃帯でおおげさに太る指」になってしまったから、「本日はストライキ」となったものですが、「この指止まれの痛いたしい形」に「止まりにくる」ものがおもしろい作品です。「赤とんぼに つむじ風」、そして「あの人の手」。最後は「髭づらのセザンヌ」でした。自分の指を茶化すことによって発想が広がったのだと思います。「指先と引き替えに生まれた時間」は痛々しいけど、ある面では大事な時間なのかもしれませんね。



詩誌『石の詩』69号
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2008.1.20 三重県伊勢市
渡辺正也氏方・石の詩会発行 1000円

<目次>
定休日…濱條智里 1            リンゴと落下…橋本和彦 2
かけざん/涙を飲む…真岡太朗 4      隻手/泥人…東 俊郎 5
記号譚 U…米倉雅久 6          魔女宣言 ]XXXV…濱條智里 8
永遠のコドモ会 ]…高澤静香 9      哀歌…加藤眞妙 10
ブランク…落合花子 11
三度のめしより(二十三) はかまには オチンチンを出す穴は 開いていないので…北川朱実 12
伊勢うどんと真珠…奥田守四郎 16      早すぎた落葉…浜口 拓 17
空蝉…澤山すみへ 18            防火用水…谷本州子 19
爪…西出新三郎 20             深夜の醤油ラーメン…北川朱実 21
椅子…渡辺正也 22
■石の詩会CORNER 23         題字・渡辺正也



 かけざん/真岡太朗

お母さんは
あたらしいお父さんと
アメリカでくらしています
ぼくは
家にいるお父さんが一ばんすきです
お父さんはぼくが一ばんすきです
それでぼく一ばんと一ばんをたしたら
二ばんになっちゃった
お父さんにきくと
一ばんと一ばんはかけざんするといい
そうするとガッチリした一ばんになる
といいました
どうしてかな
かけざんて
          (ある男児におくる)

 「あたらしいお父さんと/アメリカでくらしてい」る「お母さん」。残された「ぼく」と「家にいるお父さん」。二人で交わされる会話にちょっとしんみりさせられますが、この父親の「一ばんと一ばんはかけざんするといい/そうするとガッチリした一ばんになる」という言葉に励まされますね。人と人の関係は足し算ではなく掛け算だとはよく聞くことですけど、1+1は2であるのに、1×1は1。これでは何にもなりません。しかし、この掛け算を「ガッチリした一ばん」と言ったところに父親の矜恃を感じます。応援したくなる作品です。



   
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