きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
吊橋・長い道程 |
2007.12.12(水)
夕方から六本木の「ストライプハウス」で行われる「ポエトリーサーキット」に行くつもりでしたが、取りやめました。体調が悪くて、小田急線・都営大江戸線と乗り換えて行く元気がありませんでした。行く約束をした出演者が来る頃に会場に電話を入れたのですが、まだお見えになっていませんでした。やむなくギャラリーの女の人に伝言を頼みました。その人の「あら!残念ね、○○さんもがっかりするわよ!」の声に一瞬たじろぎましたけど、なんとかお願いしました。
体調が悪い原因は分かっています。昨夜、呑み過ぎたのです(^^; 久しぶりの二日酔い。夕方までフラフラしていました。今日があるのが分かっていながら、まだまだ自己管理ができていないなと反省しています。Fさん、申し訳ありませんでした。次の機会は行くからね!
○葛原りょう氏詩集『魂の場所』 |
<目次>
T章 魂の場所
魂の場所 10 静かの海 12
馬頭星雲 15 猿になる 18
ウエノヤマ 21 二ンゲンの牙 24
触診 26 餓鬼 28
不忍池 30 ゴッホに 33
火の粉 36 Life 39
河畔 43 虹 44
月廻り唄 46 注がれた月のある夜に 49
抜刀 52 メッセージがいっぱいで入りません 54
塗る 57
U章 サツキ
サツキ 62 drei 65
冷血譚 68 ミッドナイトロータリー 70
落日素描 73 リアル 76
風と巡礼 80 冬の挽歌 85
仔狐 86 ハトと青年 89
潮干狩り 92 ふとん 94
鳥――α(アルパ)の歌 96 行進 98
目薬 101. 夢――これも一つのレクイエム 104
いぶりがっこ 107. 五時の夕食 110
晩春霊歌 112. モーニングスター 115
V章 鉱石
風車 120. 鉱石 124
太陽待ち 129. 肩こり肩こり 154
マナーモード 138. シュレッダー 140
キックターン 142. ツレヅレ 145
二月の歩道 148. 涯(はたて) 151
ひぐらし 155. 夜のでんでん太鼓 158
呼吸、またはカノンのような 160. クチナシ 166
出口はどこだ 170. ノーモア ――ジャック・ゴーシュロンに 174
ある銀漢の下で 178. 巡業 182
星降る夜に 185
あとがき 188
魂の場所
膝頭で歩いていたのは
うす暗い校舎の階段
下校時のゆうぐれ
チャイムが小鳥の心を震わせ
下校をうながす放送が
今もいつまでもルフランする
どんな歩き方にも
それぞれの philosophy があって
それなりに刻印に励んでいる
だから抱きしめる
つま先の落葉にも敬意は 有る
そして
砂まみれの魂が 在る
未明の鴉 痩せた犬だけが知っている
そんな時触れ合えば
ざらざらと不快が咳払いをする
あっちへ行け
こっちへ来るな と
いつまでも そうして
膝頭に灯をともす
夢が迷わないように
29歳という若い詩人の、2年ぶりの第2詩集です。巻頭作品、かつタイトルポエムを紹介してみました。他の作品から子どもの頃にひどいいじめに遭ったことが判りますから、これはその当時のことと関係あるのかもしれません。「魂の場所」はどこにあるか。作品からは「膝頭」にも「つま先の落葉」にもあると受け止められます。しかもそれらは「砂まみれの魂」。この繊細な感受性には驚かされます。「philosophy」は哲学・原理・理論などと訳されていますが、ここでは哲学で良いでしょう。「どんな歩き方にも/それぞれの philosophy があって/それなりに刻印に励んでいる」というフレーズが著者の哲学≠ネのではないかと思います。「夢が迷わないように」今後も佳い作品を拝見できることを願っています。
○季刊『樂市』61号 |
2007.12.1 大阪府八尾市 樂市舎・三井葉子氏編集 952円+税 |
<目次>
●詩
冬/三井葉子…4 若狭 小浜公園展望台にて(二〇〇七・八・二六)/司 茜…6
横顔/小西照美…12 目がまわる/永井章子…14
深草/渡部兼直…16 休日の午後・離岸流/谷口 謙…18
もう 秋/斉藤京子…20 字隠し/中神英子…22
ずれている/川見嘉代子…25 水鏡まで/小泉恭子…26
早春のヨリック村/福井千壽子…28 配役/加藤雅子…30
花/内田るみ…32 動物園通り/松井喜久子…34
また あした/太田和子…36 物語りの続き/福井栄美子…38
リボンを掛けて/小野原教子…40
●楽市楽座
言葉は服 服は言葉/小野原教子…42 随想(23)/木内 孝…43
●随筆
狂気の詩集−ヘルダリンの場合/萩原.隆…50. スイスの旅から/山田英子…56
風の碑/北原文雄…60
●編集後記…64
目がまわる/永井章子
主語を 私にして
しばらく歩いていくと
いつも道は行き止まりになる
そろそろ
私 以外の主語を
と思いながら
ほっておいたが もう
限界がきたのだろうか
私 という文字を見て
うえを見上げると
目がまわるようになった
わたし と平仮名にかえてみたが
やはり目がまわるので
医者に行くと
メニエル症候群だと言う
しかし
私 という言葉のほかは
天井がまわる なんて
奇妙なことはおこらない ので
おそらく誤診だろう
私が 私以外の主語で考える
となると
さあ 何だろう
見知っている人とか 知らない人とか
物とか 自然とか
はたまた 世相とか
目を凝らすと
私 の側を
これらのものが個々に 三々五々に
そして集団で
ぞくぞくと そくそくと
通り過ぎて行く
この中から どれを選ぶのか
膨大な賭けの中から
何を主語に・・・・
といつまでも決めることができない 私
がいて 又
目がまわる
詩の主題やモチーフはいろいろあって、いろいろな書き方がされていますが、圧倒的に多いのが「主語を 私にして」「わたし」を書くことだろうと思います。これが意外に難しい。私≠冷静に客観的に見るという訓練はされていませんから、過大評価したり必要以上に卑下したりします。そして「しばらく歩いていくと/いつも道は行き止まりにな」ってしまいます。そこを書いている珍しい作品だと思います。「目がまわる」という具体で描いたのも成功していますね。ただ、「私が 私以外の主語で考える」ことは、詩では無理かもしれないと思っています。おそらく小説が適しているでしょう。その訓練を経て詩に戻らなければ「私が 私以外の主語で考える」ことはできないのかもしれません。
○個人誌『一軒家』20号 |
2008.1.1 香川県木田郡三木町 丸山全友氏発行 非売品 |
<目次>
お客様の作品
表紙絵 小山みゆき
詩画
みち/沢野 啓 やわらかい夢/成見歳広
一軒家に寄せられた本より
『ことのは』/田村実香 『ふるさとは蒼かったのだ』/小島寿美子
書道 夢・つもりちがい10条/千葉喜三
随筆
松尾芭蕉の新春の句/田鳥信夫 1 流れ/宮脇欣子 4
病院風景・我が家の七夕飾り/星野歌子 5 抱夢園/荒木伸春 8
ミシン/篠永哲一 10 石切場の牛/丹治計二 12
ボケ夫婦/池田みち 13 不器用/小山智子 14
美しく生きる人/伊東美好 16 愛についての考索・徒然なるままに/戸田厚子 16
青春日記/角田 博 17 秋色暮色/吉原たまき 18
飛騨の歳時記/佐藤暁美 19 『二人の美空ひばり』/小倉はじめ 20
詩
愛するあなたのために/高松恵子 21 幸せ・復帰/高橋智恵子 22
移し/丹治計二 24 詩集/沢野 啓 24
脳外科病棟/星 清彦 25 子供の世界/戸田厚子 26
草の根の一本に/吉村悟一 26 父と母と私の日常/友里ゆり 27
故郷の幻影/窪田幸司 28 消去−リセット−/宇賀谷 妙 28
花の命/山上草花 29 赤トンボ・落ち葉降る/内藤ヒロ 30
手紙文/小山智子 32 続・1+1は2でないから 人間は面白い・神様なぜおしっこが出るの/高崎一郎 33
秋の足音が聞こえない/大山久子 34 除夜の背広/佐竹重生 35
水田/角田 博 35 ゆきふり・短日/佐藤暁美 36
ゆうぐれ/吉田博子 37 しがらみ/森ミズエ 37
幻の国ありき/小倉はじめ 38
童話
恩返し/千葉喜三 39 鮎取り/星野歌子 41
テルテルぼうずとひなたくん/森ミズエ 42
俳句
徳増育男 44 奈良遊吟/吉村悟一 44
小倉はじめ 44 山上草花 45
川柳
川西一男 46 小山みゆき 46
短歌
社会生活/千葉喜三 47 藤井彌峰子 47
短編小説
花のある道/坂戸敏明 48 いたずら/中井久子 58
飛ぶ日/小山智子 64
全友の作品
短編小説 嫁ぐ 64
詩 入学式 71 選別 71 思い込み 71
変わる 71 涙 72 隙間風 72
形式 73 執着 73
身辺記 はっきり 74
草の根の一本に/吉村悟一
ぼくが五歳のころでした
親に手を引かれ戦禍の闇を逃げました
道端によその母さんと赤ちゃんが転がっていました
広島 長崎に原爆 そして戦争は終わりました
「戦争はしない 軍隊は持たない」とこの国は誓いました
ぼくが小学生のころでした
「よその国がいつ攻めてくるか分らない」と
この国は国を守る自衛隊をつくりました
若い人に迷彩服を着せ 鉄砲を握らせました
ジェット機が騒音をかき回し 戦艦が海を汚しました
それから幾時代かが過ぎました
いままでどこの国も この国を攻めてきませんでした
この国はいつの間にか税金をふんだんに使って
新しい兵器をどんどん整えました
自衛隊は軍隊と呼ばない強い軍隊になりました.
ぼくが六十代半ばのころでした
この国の軍隊と呼ばない軍隊は
鉄砲を持って戦争をしている国に出かけました
軍隊と呼ばないから鉄砲は使えません
はやく戦争できる国にしたいと頭をひねりました
それから幾年かが過ぎました
この国を戦争ができる国にするかしないで
国じゅうが大騒ぎになりました
「戦争はしないという誓い」は世界の鑑です
ぼくは草の根の一本になりました
日本の戦後史を「自衛隊」という一点で捉えた佳品だと思います。「親に手を引かれ戦禍の闇を逃げ」た経験、「道端によその母さんと赤ちゃんが転がってい」た体験が作者の基本姿勢となったのでしょう。「いままでどこの国も この国を攻めてきませんでした」、「『戦争はしないという誓い』は世界の鑑です」というフレーズの重さを感じます。「ぼくは草の根の一本になりました」という言葉を、私たちは真剣に受け止めなければならないと思っています。
○個人詩誌『魚信旗』42号 |
2007.12.15
埼玉県入間市 平野敏氏発行 非売品 |
<目次>
焦点 1 違反 2 工事 3
驚き 4 ミステリーバス 6 送り日 8
迎え日 9 後書きエッセー 10
焦点
自分へ帰るために書いている
無為な言葉で
やがて消えていく天空も家も書いている
わずかに私を動かす社会や糧は
書いても自由に動かないから
仕方なく従うだけの日日
天気だけがその日を左右して
霧の中へ放りこまれるか
千の夕日が私を溶かしてくださるか
湿地帯の中で言葉をさがしもとめる
ほんとうは言葉なんか無力だとわかっているのだが
生とのつきあいのために
人にわかりあえてもらうために
まだまだ必要なのだ
焦点はそこにあっても届きにくい深い泥濘(ぬかるみ)
天空も家も近いようで果てしなく遠い光源
それらしい気配に揺さぶられたり
幻と音に目も耳も驚かされたり
沈黙の言葉から血がにじんできたり
仏鈴(おりん)がかすかに響きわたって小さな仏が瞬いたり
焦点の近場は老境のように気ぜわしい
自分へ帰るためにそれらから遠ざかることも必要だ
遠い光になっている者たちのためにも
遅刻のわけなどかまわずに
ゆっくりと生の焦点をめぐってみる
「自分へ帰るために書いている」という第1行から惹き込まれました。「ほんとうは言葉なんか無力だとわかってい」ながら、結局、書くということはそういうことなのでしょう。「生とのつきあいのために/人にわかりあえてもらうために/まだまだ必要なのだ」というフレーズも素直に納得できます。書くことによって「遠い光になっている者たち」へ「遅刻のわけなど」弁明できるのかもしれません。「ゆっくりと生の焦点をめぐってみる」生涯を見習いたいものです。
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