きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
tsuribashi
吊橋・長い道程




2007.12.20(木)


 夕方から新宿・天神町の日本詩人クラブ事務所で第3回「詩の学校」が開催されました。今日の講義は
「メキシコ現代詩に見る西欧文明批判」で、講師はメキシコ勤務の長かった細野豊さん。ノーベル文学賞受賞者で松尾芭蕉『奥の細道』スペイン語訳でも知られるのオクタビオ・パスを始め、パスの愛弟子アウレリオ・アシアイン、ポーランド王家の末裔で米国生まれメキシコ帰化のアンバル・パストなど、魅力あふれる詩人を擁するメキシコの西洋文明批判の歴史と現状が、たっぷり2時間、熱く語られました。

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 講義ではメキシコの詩人の様々な作品も紹介されましたが、中でも印象深かったのはアンバル・パストの「木こりたちのための夜想曲」です。私と同じ1949年生の女性で、男と女を書きながら人間社会の不条理を描いていると思いました。来年、彼女を招聘しようではないかという話も持ち上がっていて、うまくすれば本人に会えるかもしれません。
 写真は、身振りを交えて質問に答える講師。参加者は30名、狭い事務所が身動きできないほどでした。



詩誌『火皿』114号
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2007.11.30 広島市安佐南区
福谷昭二氏方・火皿詩話会発行 500円

<目次>
■ 詩作品
・停留所で…沢見礼子 2          ・砂の降る街…北村 均 4
・ひよこ…福島美香 6           ・堂々…荒木忠男 8
・音…川本洋子 10             ・蝉…川本洋子 11
・朝の爪…津田てるお 12          ・人体を漕ぐ…大山真善美 14
・分岐点…ロバート・フロスト 大山真善美訳 15 ・詩材ノート抄…福谷昭二 16
・備中吹屋…的場いく子 18         ・林…大原勝人 20
・六十二年目の夏…松井博文 22       ・ガイコクへ 行く…松本賀久子 24
・回天の島…長津功三良 26         ・行列…上田由美子 28
・鮭 −ふるさとT−…御庄博実 30
■ 荒木忠男詩集『夕日は沈んだ』中四国詩人賞受賞特集
・書簡 詩集『夕日は沈んだ』評…藤野邦夫 32
・書簡 詩集『夕日は沈んだ』評…諫川正臣 33
・荒木忠男詩集『夕日は沈んだ』中四国詩人賞 受賞を祝して…福谷昭二 34
■ 書評
・詩集 鳥海恵美子『すべての道は』…津田てるお 36
・うおずみ千尋詩集『牡丹雪幻想』…沢見礼子 37
■ エッセイ
・従兄の置き書き…上田由美子 38
■ 火皿関係行事
■ 編集後記
■ 表紙絵−「朝の影(ひかり)」作者=神尾達夫



 堂々/荒木忠男

わが家に帰るたびに見上げる
古びた門の表札
気になって仕方がない
なんとなく落ち着きがない

わが家の物は
ビニール製差し替え式の簡便なもの
他家の墨痕あざやかな表札にくらべ
とにかく貧相である

そこで思い切って
欅製のどっしりとした表札に改め
墨痕鮮やかにわが姓を書して掲げ上げた
まあ上手く書けたと内心思った
門の上框にとりつけられた表札を
離れて見上げた

字は相を表すという
表札は我を見下して
まあ そんなもんかと言わんばかり
なんとまあ蚯蚓の這ったような相である
書体が流れ字がちいさすぎたのだ

うむと
思い切って字を大きく書きかえた
これでどうだと
掲げてみると門はニヤリとした

この男には やはり
堂々は 無理か
頭を下げて 男は
肩をすくめ門をくぐる

 最終連がよく効いていますね。「堂々」というおもしろいタイトルでしたので、どんな作品かと思って興味津々で読み進めました。そして最終連でやっと「堂々」が出てきて、思わず私も「ニヤリ」。「男」はどうしても虚勢を張りたがるもの。そこをチクリと刺されました。「表札」に限らず思い当たることが多いだけに、つい身の回りを振り返ってしまいます。何気ない素材で、世の男性心理を突いた佳品だと思いました。



隔月刊会誌Scramble91号
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2007.12.16 群馬県高崎市
高崎現代詩の会・平方秀夫氏発行  非売品

<おもな記事>
○新鮮なる気づき…清水由実 1
○私の好きな詩 島崎藤村 詩「思い出」ほか…今井道朗 2
○会員の詩…3 渡辺慧介/横山愼一/清水由実/遠藤草人/金井裕美子/吉田幸恵/芝 基紘
○高崎現代詩の会朗読会…7
○群馬県文学賞受賞作品「秋の約束」武井幸子 8
○編集後記…8



 秋の約束/武井幸子

庭の隅のあちこちに
落葉の吹き寄せ
小鳥が騒がしく赤い実をついばんでいる

遠い日
この縁側で 遊びから帰った子が
どこかで見つけてきた心配に
すり寄って来て言う

−おかあさん 死ぬのなら
 あたしの死ぬ一時間前に死んで

反古にするに違いない
約束を うなずいてみる

胸の底の水面に小さい漣が立ち
水輪が広がっていく
神様しか知らないことを
嘘をついて

澄んだ目に
吸い寄せられて
溺れそうな晩秋の日のこと

 紹介した詩は第45回群馬県文学賞受賞作品だそうです。どこかで見たことのある詩だなと思って調べましたら、この5月に刊行された作者の第2詩集『花時計』に載っていました。「−おかあさん 死ぬのなら/あたしの死ぬ一時間前に死んで」というフレーズが印象深かったんですね。
 改めて拝読すると、そのフレーズもさることながら「どこかで見つけてきた心配に/すり寄って来て言う」というフレーズも良いし、季が「晩秋」というのも作品によく合っています。群馬県文学賞受賞作品だけのことはあると思いました。



『梅澤鳳舞作品集』25、26
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2007.12.8 埼玉県越谷市 梅澤鳳舞資料館発行
非売品

<目次>
梅澤鳳舞作品集25 うめきち音楽詩集 7
梅澤鳳舞作品集26 うめきち行動日記 79
梅澤鳳舞略歴 234



 序詩

 風漂/梅澤鳳舞

一千万人の俳人のなかにて
埋没してゐる
二十人の歌人のなかでは
突出してゐるかもしれぬ
百万人の詩人のなかで
漂ふ風に吹かれている
それが現在の余の状況に
あると思へるが
九千億冊の図書のなかの
自著八冊が
いかなる地位に存するのかは
余には判らぬ
余は独りにて子も居らず
千六百冊の余の書籍は
余の分身である
おそらくは三百年後には
紙は朽ち果て
そして人間も地球上に
生存してゐるかも
それすら余には想像がつかぬ
八百余年前の筆で書かれた古蹟が
古書としてこの世に
存在してゐることを思へば
余の著書が二百年後には
数冊残り
図書館に保存されうれば
余は満足に思ふ
実際にはそれすらも無いであらう
自分では己れを巨大な存在と思ヘども
六十数億人のなかでは
挨のごときものであらうし
死してのち三十年も経れば
すがたかたちは無く
名前も図書も
一切ないのが大方であらう
生存中はすべての個人個人が
懸命になってゐる
そのやうなことであらう
が、小さき夢を抱くところに
魂がある
世には立派な人大人物が
数知れぬ
そのなかにあっては余など
埃のごとき存在であらう
余は財をすべて作品に替え
他に与へ
少々の知名度を得た
…………
また雪が降りはじめぬ

 表紙の一面は「うめきち音楽詩集」であり、他面は「うめきち行動日記」となっている、おもしろい装幀です。音楽詩集はその名の通り曲が付けられることを前提とした作品集で、行動日記は1992年10月から2007年10月までの、様々なイベントに参加したことが箇条書きで記されています。
 ここでは「序詩」を紹介してみましたが、後半の「生存中はすべての個人個人が/懸命になってゐる/そのやうなことであらう/が、小さき夢を抱くところに/魂がある」というフレーズに惹かれます。小さな夢が魂なのだという言葉に励まされました。



   
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