きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
tsuribashi
吊橋・長い道程




2007.12.19(水)


 予定のない日。ひたすら読書、読書でした。



奥津さちよ氏詩集『窓の外を』
mado no sotowo.JPG
2007.12.20 大阪市北区 編集工房ノア刊 2000円+税

<目次>
窓の外を 6     予感 8       竜骨 10
背後に 12      午後 16       受信 20
港から 24      テレビ番組ERU≠ノ 28
長距離バス 32    来る 36       足跡 38
証言 T 40     証言 U 44     顎 48
彼方へ 50      電話 52       六月 56
揺れて揺れて 60   避行 64       噴火して 68
絨毯 72       晩秋 74       リスト 76
十一月 80      署名 82       空 84
ふりかえった眺め 88  青天の… 90     西陽の家 94
秋がきて 96     虜囚の窓 100
.    地上 104
  *
英訳詩抄十八篇 138
. あとがき 140
カバー装画 清宮質文 装幀 森本良成



 来る

雨が来ると
百年のむかしから
子供たちがいっせいに出て来て
ビニールカッパを売る
そして いつか自転車を買う
その自転車にひとを乗せお金をためて
バイクを買う

そうか 単純なこと
貧しいけれど
いつでも たし算なんだね
大きな旗がひるがえる広場
これからの一日

そうか
涙は悔いは恥ずかしさは消えない
あの日の傷もたし算して
ポケットに持ち歩けばいいのだ

 32編の日本語の詩と、その中から18編を抜粋して英訳してある詩集です。9年ぶりの第5詩集のようです。ここでは「来る」を紹介してみましたが、舞台は東南アジアのある国と考えてよさそうです。「単純なこと」ですが「いつでも たし算」の国民性が窺える作品です。そこから己に振り返り、「あの日の傷もたし算して」としたところに詩人の姿勢を見ることができます。
 本詩集中の
「背後に」は、すでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張りましたので、合わせてご鑑賞ください。



隔月刊誌『新・原詩人』15号
shin gen shijin 15.JPG
2007.12 東京都多摩市 江原茂雄氏方事務局
200円

<目次>
《この詩[》アクアク/チコ 1       読者の声 2
書くことがすきだった/西 杉夫 3     詞 心の砦/重信房子 3
短歌 サルバドール/大田敦子 3      子供たちの「次郎さん」が大麻を!?/山田塊也 3
蛍と鹿/伊藤眞司 4            汗の量/まつうらまさお 4
秋空/神 信子 4             原爆直下の工場/津田 進 4
国家&国旗/水上 洋 4          一叩人/ヽ史 5
教科書/大橋晴夫 5            せんりゅう/瑠璃 5
廃歌 雨の日は悪いお天気/あらいともこ 5  狂歌/乱 鬼龍 5
水鏡/江 素瑛 6             事務局より 6



 教科書/大橋晴夫

まけるとスミをぬられる
それだけのことだったのです
それは羽根つきのルールだったのです

命の次に大切にしてきた教科書
空襲のたびに
ラジオと教科書だけはと
持って歩いた教科書だったけれど
戦争にまけたからスミをぬりなさいと
先生はおっしゃったのです

スミをぬることは
風習となってしまいました
印刷する前にスミがぬられて
教科書には
肝腎なことが書かれてはいないのです

      (「遊撃」より)

 敗戦直後に皇国史観の教科書に墨を塗ったことは有名な事実ですけど、「それは羽根つきのルールだったのです」としたところには笑えました。「まけるとスミをぬられる/それだけのことだったのです」と今さらながらに思います。
 最終連の「(現在の)教科書には/肝腎なことが書かれてはいないのです」も見事です。一連の歴史教科書検定のドタバタを揶揄しているようです。歴史は、国家に頼らず自ら学んでいくしかないのかもしれません。



『千葉県詩人クラブ会報』
200号・記念号
chibaken shijin club kaiho 200.JPG
2007.12.15 千葉県茂原市 斎藤正敏氏発行
  非売品

<目次>
'07ちば 秋の詩祭 1            文芸講演(中村洋子氏「詩との出会い」)記録/野村 俊 2
文芸講演 堀口大學の詩のエロス/八木中栄 3 第20回詩画展・第16回詩書展 4
千葉県詩集第40集感想文T 5        クラブの回想と今後の方向/前田孝一 6
クラブ四十年の追憶/高安義郎 8      『会員アンケート』結果 10
東日本ゼミナール・千葉開催について 11    '07文学散歩報告/庄司 進・高安ミツ子 12
星清彦詩集『砂糖湯の思い出』/中谷順子 13  会員の近刊詩集から61 13
受贈御礼 13                新会員紹介 14
編集後記 14



 帰るということ/星 清彦

帰るということ
今 帰るということ
帰ること
それは 喜び
それは 安らぎ
それは くつろぎ

今 帰るということ
帰る場所があるということ
それはあなたが存在しているということ
帰る場所があるということ
それはあなたが生きているという証

帰る 帰ること
帰る場所があること
それはしくじっても しくじっても
又 取り返すことができるということ
帰る場所は 暖かいということ
帰る場所は 暖かくなければいけないということ
大切なことは
帰ることができるということは
素晴らしいことだということを
今 思い出すこと
「ただいま」
と云えることと
「おかえり」
と云ってもらえることの
とても とても
素晴らしいことだということに
今 気が付くこと

 今号は200号記念として特別寄稿があり、会員アンケートがありで、いつにも増して充実した内容となっていました。紹介した詩は「会員の近刊詩集から61」の中の作品で、拙HPでも紹介させていただいた星清彦さんの詩集『砂糖湯の思い出』に収録されているものです。改めて拝読すると、「それはしくじっても しくじっても/又 取り返すことができるということ」、「素晴らしいことだということに/今 気が付くこと」など、生きていく上で大事なフレーズだなと思います。やさしい語り口の中にも本質をちゃんと云い得ている作品です。



   
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