きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
吊橋・長い道程 |
2007.12.24(月)
クリスマス・イヴ。関係ありませーん(^^; ひたすら、いただいた本を拝読していました。
○野老比左子氏詩集『返本還源』 |
2007.12.10 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
第一章 返本還源
序詩 飛天 4
返本還源 10 伊吹野 12 夏の虹 14
天地乱調 16 ちかごろ 18 大萱にて 19
玉林院 20 閑隠席 21 バラを噛む 22
熱風神話 23 地球島 24 月夜と裸婦 25
八の舞楽船 26
三の舞楽 28
雲の鐘楼 30
詩人の愛 33 トンビと鉄瓶 36
第二章 意味の森
意味の森 40 虫の知らせ 父 42 虫の知らせ 母 44
虫の知らせ 団塊の青春 46 飛翔 50
火伏せの愛 52 羅生門 54 堕天使/虻 55
誕生 56 目をひらく空 58 霊鐘 60
気の里・石の霊 62 初体験 64 時の風景 狂った母さん 66
丸太棒にウナを打つ68 二の舞楽 72 雪の駅 74
地球讃歌 76 マエストロ 78 ルツの七夕 80
詩人の祈り 82 伯著大山/道程 85
エッセイ古都慕情 88
エッセイ陶郷日記 90
跋 中原道夫 94
あとがき 100
返本還源
――家に帰ろう――
家に帰ろう 春の風です
大雪もおさまって 穏やかな陽のひかり
若草の川辺をたどり
福寿草の花ひらく里へ
帰ろう なつかしい家に
帰ろう ふるさとの山へ
一頭の牛にまたがり尋ねきた廓庵の十牛
旅の果て 春の虹がたつ
憎しみも嫉妬もない 争いも失意もない
家に帰ろう 修羅の峠を超えて
あらそいの こぶしおさめて
戦場の兵士たち
帰ろう 安らかな庭へ
帰ろう いのちの源へ
いま 老いた少年
いながらに見る ふるさとの山
悠々の天をひらいて
黄金の笙をふく 飛天
空の青に よみがえる母
田園に たちかえる父
家に帰ろう 輪廻の虹をわたり
* 廓庵十牛図 禅の寺に伝来する廓庵禅師禅書
少年と牛と仏心の比喩 十一話に返本還源
「――家に帰ろう――」と副題のある第8詩集です。「返本還源」とは註釈にもありますように禅の言葉のようです。ここではタイトルポエムを紹介してみましたが、繰り返される「家に帰ろう」という言葉になぜか安心します。仕事に出ていても、旅先でも、私たちは潜在意識の中で「家に帰ろう」と思い続けているのかもしれません。この作品ではそれだけではなく「戦場の兵士たち」にまで言及しているのが光ります。「老いた少年」もいずれは帰る家があるからこそ、その人生を辿ってきたのでしょう。禅の奥深さまで伝わってくる作品でした。
○月刊詩誌『柵』253号 |
2007.12.20 大阪府箕面市 詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税 |
<目次>
現代詩展望 戦時記憶と戦後意識の超克 本年度詩書の収穫と展望…中村不二夫 80
沖縄文学ノート(2) コザの街…森徳治 84
流動する今日の世界の中で日本の詩とは37 西欧における「マイノリティ」・その視野と固執…水崎野里子 88
風見執 高階杞一 萱野笛子 今 入惇 米村 晋 中村洋子 92
現代情況論ノート(20) 脱げそうに弛ませたジーンズ…石原 武 94
詩作品□
進 一男 この道は 4 松田 悦子 沈黙の花 6
柳原 省三 島の家 8 山南 律子 霧の人 10
前田 孝一 老樹 12 今泉 協子 水引草 14
佐藤 勝太 珊瑚海の幻 16 江良亜来子 雲の間に間に 18
大貫 裕司 峠への道 20 小沢 千恵 人・ひと・ひとが 22
肌勢とみ子 スポンジ 24 宗 昇 蝶 26
名古きよえ 田舎の挨拶 28 中原 道夫 空 30
小城江壮智 崩壊 32 門林 岩雄 まごむすめに 34
丸山 全友 家庭 36 鈴木 一成 自戒の言葉 38
南 邦和 宇和島を歩く 40 織田美沙子 晩秋の月 43
若狭 雅裕 元旦 46 安森ソノ子 雲南省と京都 49
北村 愛子 喜寿のお祝いの日 52 忍城 春宣 暮れなずむ富士の高原 56
山口 格郎 金切り声 58 野老比左子 老いた発禁詩集 60
八幡 堅造 「これもまた善き哉」 62 宇井 一 ナイフ 64
西森美智子 うふふ 66 北野 明治 サンシャイン国際水族館 68
月谷小夜子 幸せ捜し 70 平野 秀哉 虎跳峡にて 72
山崎 森 バスセンターで 74 川内 久栄 「かげろうの羽」という呼び名にしたい 76
徐 柄 鎮 高瀬舟 78
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(19) フェデリコ・ガルシア=ロルカにについての断章1…小川聖子 96
世界の裏窓から−カリブ篇(5) カリブ海から地中海へ…谷口ちかえ 100
現代ベトナムの詩 レ・パム・レの詩 7…水埼野里子訳 104
コクトオ覚書228 コクトオの詩想(断章/風聞)8…三木英治 106
石の詩人の最終章 山崎森詩集『石の狂詩曲』…南 邦和 110
東日本・三冊の詩集 菊田 守『一本のつゆくさ』 黒田佳子『夜の鳥たち』 岡田喜代子『午前3時のりんご』…中原道夫 114
西日本・三冊の詩集 村田辰夫『詩賛 大津絵』 堤 愛子『吹き過ぎる風の中で』 坪井勝男『見えない潮』…佐藤勝太 118
受贈図書 124 受贈詩誌 121 柵通信 122 身辺雑記 125
表紙絵 野口晋/扉絵 中島由夫/カット 申錫弼・野口晋・中島由夫
家庭/丸山全友
夕日が山の端に沈もうとしている
今日一日収穫した籾を軽トラックに積んで
我が家にと続く坂道を登る
坂を登りきると我が家の
日本の煙突から煙が立上がっている
母が夕食の支度をしている
祖母が風呂を焚いている
帰ってもまだ乾燥機に籾を入れなければ今日の
事は終わらない
「仕事の方を先にすませ」
まだ田にいる父には怒られるが
「食事をしてからにせーや」
母の言葉には負けるだろう
ぼくは仕方なく田をしているだけなのに
あれほど美しく
世に感動を与え続けている夕日ですらも
帰る家もなければ
暖かく迎えてくれる者もいない
「ぼくは仕方なく田をしているだけなのに」帰る家がある。しかし「あれほど美しく/世に感動を与え続けている夕日ですらも/帰る家もなければ/暖かく迎えてくれる者もいない」と、その対比もおもしろいのですが、夕陽にまで配慮できる作者に感激します。夕陽は多く描かれてきましたけど、こういう心配りの詩は初めてではないでしょうか。5行目の「日本の煙突」は二本の煙突≠フ誤植かもしれませんが、仮にそうだとしてもこのままの方が良いように思います。夕陽といい日本といい、スケールの大きさを感じさせますから。
○個人詩紙『夜凍河』13号 |
2007.12
兵庫県西宮市 滝悦子氏発行 非売品 |
<目次>
DUST
TRIP W
TRIP W
霧は
裸の落葉樹から生まれていて
続いているような 行き止まりのような中を
歩きながら
私は方角を知っているのだと思う
樹皮を抜けてもどってきた霧が
再び水流となるところ
ロブノールのほとり
埴輪の感触を持つ私と
記憶回路からあふれた私が合流するところ
進むほどに聞こえる連続音は
今日が終わり明日が始まる合図ではなく
どこかで防御システムが作動し始めたのでもなく
水が昇ってゆく音だ
だから、さよなら
ゴドーさん
私は待ちきれずにこのまま行くよ
霧深い脊推の階層をめぐりめぐって降り立てば
クレルモンフェランの石の門に出る
閉じてゆく円環の
微動のようなところに触れながら
古い約束は継続されるのか
どこの、どのような私にリンクするのか
いつだって愉しみは多いほうがいいのだと思う
湿度が高いような
それも悪くはないような気分のまま
霧にまぎれて
その門をくぐる
タイトルの「TRIP」の意味は本来旅行≠ナすが、薬で朦朧となった状態も指していたと記憶しています。ここでは後者のイメージで拝読してみました。「閉じてゆく円環の」中を旅し、「裸の落葉樹から生まれ」た「霧にまぎれて/その門をくぐる」姿が浮かんできます。「いつだって愉しみは多いほうがいいのだと思」いながらも閉塞感のある現代を象徴しているのでしょうか、そんな風に読んだ作品です。
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