きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
tsuribashi
吊橋・長い道程




2007.12.25(火)


 しばらく出掛ける予定がないので、気晴らしに伊豆半島・石廊崎までドライブしてみました。前回行ったのは、たぶん30年ぐらい前だろうと思います。途中までの道はなんとなくうろ覚えでしたけど、灯台までの歩道はまったく記憶にありませんでした。30年も経てば忘れて当たり前でしょうね。

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 曇りがちで寒い日で、灯台の先は強風でした。灯台のすぐそばに小さな神社がありましたけど、これも記憶の外。小さな岬を巡る道もまったく覚えていませんでした。まるで初めて来た場所のようです。ん? ことによったら初めてだったのかな(^^; いやいや、そんなことはないでしょう。10代の頃から伊豆は大好きで、まだクルマが買えなかった頃、50ccのバイクでよく来たものです。その頃に訪れているはずですから、30年前ではなくて40年前かもしれません。

 当時はまだ土曜日が休みではありませんでした。それでも体力があり余っていて、土曜の夜なんか寝られません。夜10時頃、思い立って伊豆半島一周をやったものです、50ccのバイクで…。ただひたすらに走って、バス停のベンチで仮眠して、明け方に帰宅するなんてことを毎週のようにやっていました。今でもその癖は治っていないようで、クルマで夜中に走るというのは大好きです。

 そんな青春時代を想い返しながら強風の岬に佇んでいると、人生なんて夢のようだなとつくづく思います。何か意義のあることをやってきただろうか…。たぶん死の床のその日まで、そんな自問の繰り返しでしょう。それでも生かされているからには、何か意味があるのだろうなと思っています。それにしても、風が痛かった。



石村柳三氏詩集『晩秋雨』
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2007.12.22 東京都板橋区
コールサック社刊  2000円+税

<目次>
一章 晩秋雨
晩秋雨 10      雨の心理学 11    雨の黙語 12
時間に彫る 14    草むらの楽師たち
.16. ドームの河 18
風と光と桜 20    海の蝶たち 22    線香 24
心象の花 26     朝顔 28
.      〔お山参詣〕30
秋の梵鐘 33     秋色 34       りんごエレジー 35
寒椿 38       続 寒椿 40     竜飛岬燈台 42
風雪の聲 44     雪はわたしの眼にふる 46
二章 うちわ慕情
うちわ慕情 52    花火 54       身軽さの音 56
下駄の音 58     日常の音列の中で
.60. 峠の音色 62
空に彫る 64     風鈴 65       風雪の音色 66
徒歩の音 68     遠雷 71       車窓 74
人生のレール 76   されど石の沈黙 78  年輪 80
静止 82       風光 85       続 風光 86
石の沈黙 88     ある骨の音 90    身の刻印 92
母 93        波濤 94
三章 春の神がみ
春の神がみ 98    夏の神がみ 100
.   秋の神がみ 102
冬の神がみ 104
.   化城の世 106.    太陽と汗 108
仏陀を街へつれてゆこう 110
.        仏陀の声 112
バラモンの妻 114
.  眼 117.       いのち無心 120
《時間の中で問う》122
.その人は仏陀 123.  影 126
蝙蝠人間 128
.    思念のかたらい 130. 不軽菩薩の眼 132
滅びる 134
.     顛倒 136.      運命地図 138
足!? 140
.      仮面 142.      足の眼 145
四章 雨新者の墓
雨新者の墓 150
.   湛山翁の墓 153.   平和への年輪 156
雨雀の墓 158    《単独者》 161    墓前に想う 164
鳴海英吉の墓 166
.  お盆墓の話 169.   回帰 172
幻の川 174
.     墓のある風景 176.  墓はかたる 178
《生死》 180
.    眼底の墓 182
詩作品初出一覧目録 185
『石村柳三詩集 晩秋雨』跋文 桐谷征一 192
詩集『晩秋雨』〔あとがき〕 196



 晩秋雨

落葉と雨は
触れてふれられて
触れられてふれて
感応のしずけさにしっとり雨の音をけす
里や山の落葉にふる雨はどこかふとさびしい
それは雨心の
ひとに言えぬ秋のさびしさの泪
(なみだ)であるためか
ふかまった秋の雨の孤心をしってるためか

深遠のさびしさをしるひとよ
ときには
晩秋の染まった雨の色に
そのさびしさをつつんだ秋の愛の泪をながそう
雨のなかにあるひとときのやすらぎの
雨音のひめるリズムに
無意識のうちにもちつづける涅槃の音を聴こう
熟したみずからの季節
(とき)の雨を放射し
てんねんの滅する匂いをうむ晩秋雨に

ふかく
しずかに移ろう色をもやし
秋の雨とともに沈黙してゆく山よ里よ
その沈黙の流露のこころに
秋の雨はただただ無心に
裸になりたがっている木々を打ち草を打ち
落葉とのちりゆく遊戯の真実のやさしさを放つ

  秋雨や落葉を喰わえ土ねはん

 詩作30数年という著者の第1詩集です。ご出版おめでとうございます。この詩集では400編余の作品から80編を収録したそうです。先に詩論集『雨新者の詩想』を出版していることからも判りますように、宗教色の強い作品が多いのも特徴的な詩集です。ここではタイトルポエムで、かつ巻頭作品を紹介してみました。「晩秋の染まった雨の色に」「無意識のうちにもちつづける涅槃の音を聴こう」というところに著者の根源があるように思います。最後の句も佳いですね。落葉の降る雨の情景が浮かんできます。今後のご活躍を祈念しています。



詩と評論『日本未来派』216号
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2007.12.15 東京都練馬区
日本未来派・西岡光秋氏発行  1000円

<目次>
創刊六十周年記念号〈日本未来派創刊六十周年記念座談会〉
「日本未来派」の過去・現在・未来 西岡光秋/石原 武/内山登美子/川島 完/倉持三郎/山田 直/細野 豊(司会) 2
座談会で登場した作品抄 「思い出に残る先輩詩人たちの作品」 23
<日本未来派の詩人の詩碑巡り> いま、燦として残る先達の詩碑/植木肖太郎 82
<詩・エッセイ>
ベランダに坐って/青木洋子 34       お釈迦様になる蛙/青柳和枝 36
夏の日に/安岐英夫 38           何を……/後山光行 40
間の悪さ/天彦五男 42           窓/綾部清隆 44
へットハンティング/石井藤雄 46      熱気球を追った夏のソネット/石原 武 48
関係/伊集院昭子 50            雲上に生きる/磯貝景美江 52
終日のあとに/井上敬二 54         埃について/井上嘉明 56
雲上を泳いで/今村佳枝 58         ちょっとそこを行く君/岩井美佐子 60
神田「現代の」あけぼの/植木肖太郎 62   一九四五年八月、炎暑/内山登美子 64
殺那的/大河内美佐 66           アナンジュパスの午後に/太田昌孝 68
散る風情/小倉勢以 70           夢の複製/小野田潮 72
ことばの種/角谷昌子 74          モンゴルの馬と薔薇/金敷善由 76
九月のさるすべり/壁 淑子 78       中庭のブラームス/川島 完 80
<詩・エッセイ>
鳥/川村慶子 88              父たちの座標/菊地礼子 90
刀工/木津川昭夫 92            しろい ふうとう/くらもちさぶろう 94
隣りの嫁/五喜田正巳 96          記憶 U/小山和郎 98
夜間外来にて/斎藤 央 100
.        寸景(11)/坂本明子 102
碎の微笑/杉野穎二 104
.          ステロイドの歌/鈴木敏幸 106
しずくのようなもの/瀬戸口宣司 108
.    悔恨の夏/武田 健 110
時間と時計/高松文樹 112
.         ぼくの奥の細道/高部勝衛 114
八月/建入登美 116
.            百五十年のたわごと/千葉 龍 118
欠けた月/壺阪輝代 120
.          松賛林寺/中原道夫 122
泡のチカラ/中村直子 124
.         席/西岡光秋 126
セレモニー/西田彩子 128
.         玄関に脱ぎ置かれた履物たちの肖像/野上悦生 130
<詩・エッセイ>
沈潜/林 柚維 138
.            ありかをみせろ/平方秀夫 140
ニートの勧め/平野秀哉 142
.        優しく生きよう/福田美鈴 144
モンマルトル/藤田 博 146
.        孟蘭盆暦/藤森重紀 148
白の記憶/星 善博 150
.          記憶あるいは遠い情景/細野 豊 152
猫池の祭りばやし/前川賢治 154.      不意の訪問者/まき の のぶ 156
きっさてん/松山妙子 158.         眠らせられて/水島美津江 160
夢の居場所/水野ひかる 162.        町のなかの寺/南川隆堆 164
平常心/宮崎八代子 166.          タンスの底から/森 ちふく 168
間欠泉/山田 直 170.           眉山/山内宥厳 172
重くなった荷/柳田光紀 174.        風景/吉久隆弘 176
あの天の川は/若林克典 178
フラメンコと朗読の夕ベ――『ロルカと二七年世代の詩人たち』出版記念/細野 豊 137
書評
中原道夫詩集『人指し指』 野村路子 132   南川隆雄詩集『火喰鳥との遭遇』 吉田博哉 133
武田健詩集『漂着』 斎藤正敏 134      伊集院昭子詩集『忘れかけていた男』 鈴木豊志夫 135
水野ひかる『恋の前方後円墳』 古賀博文 136
「日本未来派」創刊六十周年記念会案内…203
日本末来派総目次(200〜215号)184 同人名簿204 現同人の写真209
短信往来33・137 投稿作品 小倉勢以・安岐英夫180 同人名簿206 投稿詩応募規定137 後記210
表紙・カット 河原宏治



 埃について/井上嘉明

机の上を小虫が動くので 追うと
軽い足取りで逃げていく
ふわっと浮遊することもある
なんども繰り返し
やっと 埃の擬態だと気づいた

人間は呼吸しているだけで
埃を発するのだ
皮膚と衣服がこすれたり
本をめくるだけで
それはうまれる
ドアは開閉のたび
金具がきしむ音と同時に
埃を電波のように送っている

わたしが手で追ったのは
おのれの身体の一部だったのか
存在の種子を
懸命にさがしていたのだろうか
いちばん小さな埃は
一メートル落ちるのに
九時間もかかるというが
これにくらべると
人の一生は何と短いことだろう

生きていることの証しとして
きのうに続き わたしは
埃をまき散らす
生きることのかなしみを
確かめるために
所在なく見え隠れする埃を
追っている

 1947年6月に創刊された『日本未来派』は今年でちょうど60年。おめでとうございます。日本随一の長寿詩誌は私の年齢よりも上というのですから、その息の長さに改めて敬意を表します。今号は記念誌ということもあってか、詩作品の下にエッセイも添えられていました。それぞれの同人の詩とエッセイを合わせて拝読することができ、なかなか良い企画だと思いました。

 紹介した作品には私も思い入れがあります。電子機器分野での埃対策は悩みの種ですが、私も関連の仕事をしていましたからその苦労が判ります。「いちばん小さな埃は/一メートル落ちるのに/九時間もかか」りますので、毎日が埃との格闘でした。ここでは「これにくらべると/人の一生は何と短いことだろう」と、我々とは違う発想になっていて、そこに救いを感じます。短い人生の大半を費やして埃と格闘する精密機器とは一体なんなんだろうと考えてしまいますね。「生きていることの証しとして」「埃をまき散らす」人間が、その埃に振り回されるアイロニーは、現代社会の矛盾そのものなのかもしれません。作者の意図とは離れてしまいますが、そんなことを考えさせられた作品です。



季刊詩誌『現代詩図鑑』第5巻4号
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2007.12.1 東京都大田区 ダニエル社発行 600円

<目次>
露地に入る/春木節子…4          山越/森川雅美…7
白い空の中を/福田武人…12         赤い葉/高澤靜香…15
はせる匂い/白井明大…18          女だけのやまいをうけとめること/山之内まつ子…21
Salon 8/竹内敏喜…24           世の常又は詩の方法/國井克彦…28
通称ナメクジホテル/佐藤すぎ子…31     朝・サーカス/高木 護…35
流行性腸炎/岡島弘子…38          ガリラヤをゆく/高橋渉二…42
ミルク色のカップ/枝川里恵…46       雅楽/倉田良成…49
バスの窓から/松越文雄…52         史/岩本 勇…55
白い/かわじまさよ…59           歩く/大木重雄…62
声/佐藤真里子…65             緑の影/眞神 博…69
モアイ/北川朱実…72            、のさく頃/海埜今日子…77
表紙絵…来原貴美『聖母子』



 サーカス/高木 護

猛獣使いは鞭を振り上げる
トラは火の輪をくぐる
見物人たちは拍手する
猛獣使いはトラに何をいったのか
トラはよろこび吼える
ここでは餌でしかない見物人たち 拍手する

 今号では一番短い詩ですが、おもしろいですね。「猛獣使いはトラに何をいったの」でしょうか? 文面からはほら、「餌」がいっぱいあるよ!≠ニ読み取れます。あるいはもっと露骨にほら、あそこのおいしそうな女の子を後であげるからね!≠ニも言ったのでしょうか。「トラはよろこび吼える」さまが見えるようです。
 高木さんの作品はいつも意外性があって楽しめるのですが、でもよく考えてみると怖い詩です。虎を資本主義と喩えると、この詩は違った意味になるかもしれません。作者の意図とは外れましょうが、そんなことまで感じさせる作品だと思いました。



   
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