きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
tsuribashi
吊橋・長い道程




2007.12.26(水)


 終日、家に籠もって読書、読書。でも、いただいた本をなかなか読み終わりません。礼状も大幅に遅れています、すみません。



忍城春宣氏詩集『須走界隈 春の風』
subashiri kaiyai haru no kaze.JPG
2007.12.20 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2600円+税

<目次>
序 忍城春宣さんと須走界隈/周田幹雄 14
T 富士が立つまち
富士が立つまち 20             この〈まち〉に決めた日 22
須走雨 24                 眼鏡橋 26
大門跡 28                 須走関跡 30
須走道者関跡 32              須走富士見通り 34
投網富士 36                怒り富士 37
須走富士 38                富士登山 T 40
富士登山 U〈富士グランドキャニオン〉
.42
U 須走宿
朝粥
(あさがゆ)の宿 46.            岩魚の宿 48
家紋の宿 50                片泊り宿 52
添水
(そうず)の宿 54             月の宿 56
ムササビの啼く宿 58            鶺鴒
(せきれい)の宿 60
湯宿 62                  日帰り温泉〈天恵〉
.64
V 須走暖簾
(のれん)巡り
わさび沢小屋〈滝口わさび園〉 68      うどん蕎麦処〈東京屋〉
.70
高原レストラン〈コペンハーゲン〉 72    あさま食堂 74
そば処〈おらがの〉 76           浅間詣での立ち寄り処〈江戸前 松葉寿し〉
.78
蕎麦処〈はなめん棒〉 80          パブとスナック 和蘭陀屋
(おらんだや) 82
お菓子とケーキの店 勝永さん 84      お弁当 お食事の〈長楽〉
.86
お食事処〈一楽〉 88            パブスナック アダム 90
W 須走びと
須走家族 T 92              須走家族 U 94
須走びと T 96              須走びと U 98
村岡さんちの小父
(おじ)さん 99        新穀屋の若旦那 100
中嶋さんちのお爺さん 102
.         おじさんと喇叭(らっぱ)〈横井豆腐屋さん〉.104
小山田さんちの小父さん 106
.        待井さんのこと 108
キノコ博士の小父さん 110
.         オレンジショップ・土屋さん 112
東富士病院 114
.              林理髪店のお爺さん 116
X 須走界隈
防音工事 118
.               照明弾 120
猪 122
.                  須走暮景 124
須走車庫前 126
.              須走本通り 127
須走バス停留所 128
.            左義長さいと焼 130
須走夏祭り〈星祭り〉134
.          霧待ち港〈道の駅 須走〉.136
なかよし公園 138
.             須走水の広場 140
影富士のまち 141
.             赤毛の柴犬〈ゲン〉.142
須走猿 144
.                狸 145
キツネ 146
Y 冨士浅間神社界隈
冨士浅間神社界隈 150
.           門前に立って 152
浅間神社の神馬 154
.            風の丘 156
冨士浅間神社の山車
(だし) 159.        須走護国神社 160
風花 162
.                 月見坂 164
須走の恵比須・大黒天 166          冨士浅間神社のエゾヤマザクラ 168
冨士浅間神社のハルニレ 170
.        冨士浅間神社の根上ガリモミ 172
アイス・スケート場跡 173          須走蛍 I 174
須走蛍 U 176
.              須走運動場 178
滝の台 180
Z 須走史跡処
精進川の水車小屋跡 182
.          須走水力発電所跡 184
御殿場馬車鉄道跡〈馬車道〉
.186       一本欅(ケヤキ) 188
須走王子ケ池跡 190
.            三味線林の氷室跡〈一ノ澤天然氷製氷販売所跡〉.192
須走集会場 194
.              心太(ところてん) 196
みちわけの碑 198
.             仁藤春耕の〈みちしるべ〉.200
須走滝不動明王像 201
.           須走不動の滝跡 202
スタール博士墓碑 204
.           大柳 芭蕉句碑辺り 206
大日堂湧水池天然氷採取跡 208
.       大日堂〈野中神社〉.209
富士探鳥会跡 210
.             日野屋林探鳥会会場跡 212
(つぐみ) 213.               狩休(かりやす)跡 214
駒止めの松公園 216
.            滑子(なめこ)小屋 218
夕月公園 219
.               藤原光親卿〈あぜちさん〉.220
梨の平古戦場跡 222
.            立山権現さん 224
陣取塚 226
[ 須走文教通り
須走保育所〈ペンギンランド〉
.228      須走幼稚園 230
須走小学校 232
.              須走中学校 234
小鳥の音楽堂 236
.             寒天工場跡 238
伊奈神社 240
\ 富士登山道
登山道の月 244
.              親分富士 245
紅富台別荘地 246
.             柴犬〈チビ〉.247
猪神輿
(ししみこし) 248.            籠坂湧水 250
ふじあざみライン 252
.           小富士さん 254
須走高原 256
.               幻の滝 257
富士の牛額
(うしひたい) 258.          須走御胎内 259
] 須走山脈
(アルプス)
須走太刀山 T 262
.            須走太刀山 U 264
大尾根 266
.                若葉山 268
天神峠 270
.                矢筈山 272
「甲州三嶌越」籠坂峠 273          アザミ平 274
大洞山〈角取山
(つのとりやま).276       檜木山(ならきやま) 278
三国峠 280
.                明神山〈鉄砲木ノ頭(てっぽうぎのかしら).282
ブナ坂峠 284
解説 須走発ユートピアの構築/中村不二夫 286
編むにあたって  302



 照明弾

重い闇を満載した 戦車が
須走街道を砂塵を巻いて切れ目なく
森の演習所に疾走していく
炊事で濡れた手を前垂れでふきふき
薄暗い家の中からとびでてきた主婦が
とば口に立ち 両手で耳を塞ぎながら
戦車に向かって大声で叫んでいる

信号機手前の歩道で
轟音のなかに立ちすくむわたしに
黄昏の冷たい風が容赦なく吹きつける
町外れの森の闇空高く
照明弾がいくつも浮かび
須走の町を監視しているようだ

連夜の陸上自衛隊の演習で
すっかり眼を腫らした寝不足富士が
可哀想だ あまりにも可哀想だ

 静岡県駿東郡小山町須走に住んで20年という著者は、一連の須走もの≠フ作品を発表し続けていますが、その集大成とも謂うべき詩集です。静岡県小山町は「富士スピードウェイ」や「冨士霊園」で全国的にも知られていると思いますけれど、隠れた存在として陸上自衛隊富士学校のある町でもあります。ちなみに私はこの町に小学校5年生から高校が終わるまで住んで、今でも実家があります。詩集の舞台となった須走は隣の地区になり、中学生の頃は自転車でよく遊びに行ったものです。ですから、出て来る地名の大半は知っている処で、懐かしく拝読しました。

 詩集中の
「怒り富士」 「須走富士」 「浅間詣での立ち寄り処〈江戸前 松葉寿し〉」 「風の丘」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきました。初出より一部改稿されている作品もありますが、忍城春宣詩の須走をご堪能いただければと思います。私も記憶を辿りながら、地図を見ながら1篇1篇を拝読しまして、街の案内書のような詩集でもあります。

 ここではそれらの、謂わば平和な詩とは違った作品を紹介してみました。前出のように、須走の一面は基地の街だ、ということです。鉄のキャタピラの「戦車」がコンクリートやアスファルトの一般道路を走行することは道路交通法で禁じられているはずですから、この戦車はおそらくゴムタイヤの装甲車ではないかと思います。しかしそれでも、私も何度も目撃していますけど「両手で耳を塞ぎ」たくなる「轟音」です。「須走の町を監視しているよう」な「照明弾」。「連夜の陸上自衛隊の演習で/すっかり眼を腫らした寝不足富士」。その霊峰富士が「あまりにも可哀想だ」という最終連に、著者の静かですが深い抗議を見る作品です。



柿本香苗氏詩集『きんいろの夜』
kiniro no yoru.JPG
2007.12.24 大阪市北区 編集工房ノア刊 1600円+税

<目次>
1 ぼくのいぬ
満員電車 10     じゅもん 12     秋の道 14
ユウちゃん 16    むしばはこりごり
.18. あるいていると 20
一番のきもち 22   かみしばいの時間
.24. ぼくの家 28
五月、ユウちゃんと
.30 凧 32        ぼくのいぬ 36
2 亀の春
亀の春 42      ありの春 44     あぶらむしの春 46
てんとうむしの春
.48. かたつむり 50    朝顔 52
せみ 1・2・3 54  クモ 57       ナメクジ 58
ミミズ 59      ふつうのらんちゅう
.60
3 ねがい
げたばこ 64     もし
.犬だったら 65  白いTシャツ 66
ためいき 67     ひとめぼれ 68    オルゴール 69
告白 70       顔 71        ファーストキス 72
線香花火 73     失恋 74       ブローチ 75
はるやすみ 76    片想い 77      フォークダンス 78
文化祭前日 79    想う 80       こいごころ 81
また失恋 82     ことば 83      卒業 84
さようならの時 85  ねがい 86
4 うれしいしっぽ
転校生の心意気 88  今日のじぶん 90   横顔 92
頭からゆげが出る
.94. 居留守の日 96    脳みそくん 98
ぽとん
.と 100    拝み洗い 102.    きんいろの夜 104
きもち 106
.     くよくよ 108.    あしあと 110
チューリップ 112
.  カタツムリ 114.   日本語 116
ちいさな 118
.    桜 120.       午後三時の図書館 122
うれしいしっぽ 124
  *
紙芝居の向こうにあるもの 島田陽子 128
あとがき 140
装幀・本文挿画 やべ みつのり



 満員電車

つり革にぶらさがった
くたびれた体を
ちいさな足がささえている
くつくつくつくつ
ペちゃくちゃくつくつ
満員電車の床の上
まあるいほっペのはなペちゃさん
つんととがったいばりんぼ
しかくいおしりのごついやつ
ピッカピッカのおしゃれさん
人と人とはしらんぷりだけど
くつはにぎやか
たのしそう

 第1詩集です。ご出版おめでとうございます。著者は詩と童謡誌『ぎんなん』の同人で、これまでも多くの作品を拝読してきましたが、こうやってまとまってみると、どの作品からも慈愛の眼が感じられます。ここでは巻頭作品を紹介してみましたが、幼子が満員電車の中で大人たちの靴を見ているような視線に驚かされます。靴の形容も「はなペちゃさん」「いばりんぼ」と新鮮ですね。
 拙HPではすでに
「ユウちゃん」 「頭からゆげが出る」 「午後三時の図書館」 「うれしいしっぽ」を紹介しています。ハイパーリンクを張っておきました。初出から改稿・改題された作品もありますが、柿本香苗詩の世界をお楽しみください。今後のご活躍を祈念しています。



詩誌『樹氷』155号
jyuhyo 155.JPG
2007.12.16 長野県長野市  非売品
中村信顕氏方樹氷社・有賀勇氏発行

<目次> 創刊55年記念アンソロジー
扉詩 桜井順子 晩秋譜 1
作品
有賀 勇 飛翔・十字路・紙魚・水境の夜明け 6
石井初男 虫・魂・生きる・捨てたはずの記憶 10
内川竜三 夕焼けの回想・おんぼろトラック・庭の住人・同期会にて 14
岸ミチコ 雨の中で・戦災・口紅・冬の朝顔・カラカラ 18
桜井順子 風景・風景U・浜辺の情景・レタスの花 22
清水義博 冬・春・夏・秋 26
中村信顕 賞味期限・十七年ゼミ・秋の栞・ある蝶の物語 30
中村信勝 或る日・晩景・霧・わが家の玄関内部 34
西沢泰子 広島をたずねる・攪乱する意識・薬茶・坂のある街 38
平野光子 白いねぎ・刻む・とうふ 42
細野 麗 三峰展望台物語 46
松岡道代 貝殻・自然が変わってゆく(風になってしまったひとへの報告)・白蛇・風と少女 50
松田富子 へンゼルのように・雨が上ったら・桜になりたい・ずむ ずむ ずむ 54
松村好助 一匹の蝶・墓地で・笑顔をつくっていく風景・人生について・眠るというかたち・一枚きりの空・溢れる時間の中で・揺れる日々 58
宮崎 亨 肉・カタツムリ・わたしのカミサマ・歌手F・Nに 62
山岸敬於 海の分子・ときめき・素通りできない人・家族・ポスト・旅のゆくえ・カップラーメンのために・空から・ひとり言 66
日本詩人クラブ・長野大会講演から 宮崎 亨 龍野咲人小講演のあとさき 70
同人のアンケート&エッセイ 74
有賀 勇 一枚の写真から 75
石井初男 日本語と詩について 76
内川竜三 二人の詩人中原 77
岸ミチコ 藤村の詩集 78
桜井順子 自己抑制・私の好きな(影響を受けた)詩人について 79
清水義博 金素雲の朝鮮詩集のこと 80
中村信顕 詩との出会い、人との出会い 81
西沢泰子 ザーマス族はにぎやかだ 82
平野光子 この人・この一篇 83
細野 麗 詩と私 84
松岡道代 家 85
松田富子 心を繋ぎ止めている言葉 86
松村好助 籠野咲人について 87
宮崎 亨 私の好きな詩人・現在の関心事 88
山岸敬於 国を背負って戦うこと 89
--------------------
樹氷の雫 90
受贈深謝 91
受贈図書管見 93
あとがき 95
同人名簿 96
表紙 清水義博



 刻む/平野光子

冷静にしてかつ
冷ややかに
キャベツを刻む夕ベがある
あるいは
1/2のキャベツに
右から左へと菜切り包丁を
動かすのだが
その短い距離の間に
万感の思いを込める夕ベがある
なにかにとりつかれた者のように
その数分だけが
女の泣き所であるかのように
球体をくづしてゆく
キャベツの千切りは
見事な美しさに仕上がった
包丁がかくも細かく速く動くのが
不思議な程だった
刻み終ったとき
遠く春雷が鳴っていた
そして私は食べた
バリバリと
バリバリとバリバリバリと
キャベツを食べた
まるで
攻撃的なウサギのように
           (「樹氷」134号)

 今号は創刊55年記念アンソロジーということで、過去の号の作品も多く載せられていました。そんな中から「刻む」を紹介してみましたが、「遠く春雷が鳴っていた」情景と「攻撃的なウサギのように」「キャベツを食べた」行為が作中人物の心境を見事に表出させた作品だと思います。「万感の思い」、「女の泣き所」などの詩語から、なにか嫌なことがあったように読み取ることができますけど、それを撥ね退ける勁さを感じさせます。「バリバリ」という擬音も効果的だと思いました。



   
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