きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.12.11 浜離宮・中島の御茶屋 |
2008.1.7(月)
終日、家で読書、HP更新の日でした。
○孟蘭子氏編『韓国現代随筆選集』 鴻農映二氏訳 |
2007.8.5 東京都豊島区 東京文芸館刊 2000円+税 |
<目次>
編者の言葉 地球村の澄んだ香りとして/孟蘭子…8
第一部 生の省察と英知
ヒゲ/孔徳龍…12 海/孫光成…17
回転ドアー/廉貞任…20 タンゴ、その官能の淋しさについて/孟蘭子…24
埃が本である/劉秉根…32 尻尾が欲しい/崔敏子…36
郵便局へ行くと/李恵淵…40 解憂所にて/李邦憲…44
第二部 失われた時間を求めて
世間の脱皮/金菊子…50 厄払いの楽は冬の風である/愈善鎭…55
母のパントマイム…金愛子…59 七月に似た男/金柳珍…63
はこえび/田 王文…67 遺影/朴景珠…72
移葬/鄭景姫…77 ある犬の母情/李浩K…82
第三部 烈風の中の自由を
以寒治寒/鄭 鏡…88 「それゆえ」と「しかし」/閔明子…92
視界の限界/洪恵娘…96 わたしの靴の表情/尹温江…100
松葉茶を飲んで/呉秉勲…104. 高麗柳/鄭成和…109
冬の樹/徐用順…113. 壁の扉/盧鉉姫…117
第四部 ある日の挿絵
明太の思い出/睦誠均…122. くんさっさっくん/任昶淳…127
肖像画/朴演求…131. 分家/姜撫G…135
精米所の風景/具 活…139. 後ろを振り返り/黄小芝…143
暖かな手/宋聖憲…146. 美しい痕跡/金容子…150
うちのお母ちゃんはバカ/崔順玉…155
第五部 郷愁と旅情
父の二股棒/金壽鳳…160. 梅が植えてくれた家訓/張伯逸…166
バス停素描/金星源…170. 幼い日の肖像/文恵英…174
赤い弁当箱/韓季珠…178. 翡翠の指輪/趙漢淑……182
スグレ/韓俊沫…187. その中に盛りたいものら/文允亭…191
第六部 わが愛する暮らし
チャンスンの嫁取り/金寅浩…196. 亀を放つの記/白妊鉉…200
薬を売らない薬剤師/金素耕…204. 長靴/崔 雲…207
五坪の遺産/尹淑敬…211. 髪とヒゲのためのメモ/崔順姫…215
どうしようもなく美しい言葉/廉煕順…221. ビクトル崔を思う/金潤貞…225
第七部 歳月、その裏側
忘れられない先生/李載姫…230. 捨てられた背負い子/申福姫…234
廃校に浮かぶ星/鄭木日…237. 無賃乗車/李煕子…242
軒灯の灯りをともし/梁山美景…247. 七十歳のお母さん/徐盛男…253
パールハーバー/呉景子…257. 百回の効きめ/金男順…263
ペリッネ/李重根…266
評説 隣国文学者の生の声を聞く/大嶋 仁…272
訳者あとがき 韓流を読み解くツールとして/鴻農映二…287
収録作家連絡先 291
薬を売らない薬剤師/金素耕(キムソギョン)
家に続く路地の角に薬局が一軒ある。数年のあいだに持主が三度も替ったが、いま看板を出している経営者は、結構長く続いている。どうしてか、最初と違って、店内の椅子には、町内の人たちが、いつも集まって座っている。通りすがりに覗くと、三十代中盤の純朴な印象の女主人が、お客たちと話す姿が見られる。薬局の規模も少しずつ大きくなっているようだ。
その場所に初めて薬局の看板を出したのは、中年の女性だった。一人暮らんの彼女は、かなり遅く店を開き、夕方にはさっさと店を閉めた。時々、立ちよると、着ているうわっぱりは、縫い目が好加減で、棚の中もきちんと整頓されておらずなにか落ち着かなかった。引越すつもりかと軽口を叩くと、ただ笑ってばかりいた。町内の人たちは、信頼がおけないのか、この店を過ぎて、しばらく下ったところの薬局に買いに行った。そうこうするうち、雰囲気の落ち着かなかった薬局は廃業した。
あまり間をおかず、新しい名前の薬局が開店した。主人は大学を出たばかりと思える姉妹だった。かれらはいつも白いうわっぱりをきちんとはおり、店内もきれいに整頓していた。ドアーを開けて入ると、いつもクラシックが静かに流れていた。ところが、そう日が経ちもしないのに、また廃業した。おそらく町内の者たちには、気軽に入ってゆけないムードだったらしい。廃業した薬局の看板の端が傾いたまま、季節が移り変わった。そんなある春の日、薬局の看板が新しくかかった。そして、程なく、店内に客足が伸びているようだった。店内の長い椅子は空いている日が少なかった。あるときは、関節炎で苦しむ棗の木の家の安老人が腰かけ、覗き込むたび、顔なじみの人が座っていた。
その薬局の女主人に、わたしが初めて会ったのは、ある夏の日だった。その日、市内からずっと頭が痛く、帰り道に立ち寄った。うれしく迎えてくれる彼女に、頭痛薬をくれというと、少し休んでいたら直ると、冷たい麦茶をコップに注いでくれた。そして、なるべく、薬は飲むなという。思ってもみなかった処方に、わたしは、しばらく、彼女の顔を眺めた。
薬局を出て、家に帰るのに、暑い中、一陣の夕立ちにあったように心身が爽快だった。その後、自然に彼女と心安い隣人となった。
出かけたり、散歩するとき、その薬局の前を通る。そのつど、ガラス窓を通して、近所の人と一緒の彼女を見かける。人々は、薬を買いに行くだけではなく、いやなこと、うれしいことを彼女に打ち明ける。かといって、彼女が専門のカウンセラーではない。ただ、隣人のことを自分のことのように、心を開いて聞いてやるのである。
薬を売ろうと力まない薬剤師。彼女は、薬だけで人を直すのではなく、心でも人々を直している。だから、その店は日に日に繁昌しゆくようだ。
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現代韓国の随筆集というものを初めて見たように思います。7部に分けられた58編のエッセイは2000年以降のものばかりだそうで、まさに今ここの韓国という文章に出会えて、新鮮に感じました。
その中から「薬を売らない薬剤師」という不思議なタイトルのエッセイを紹介してみましたが、納得できる内容です。孟母三遷の教えではありませんけど、3回目の女主人は、私の数少ない韓国の知人たちを思い出させてくれます。軒を連ねてドラッグストアーの立ち並ぶ東京では、とうてい考えられないお店ですね。東京に限らず、私の住む田舎町でもこんな主人に出会ったことはありません。まさに「暑い中、一陣の夕立ちにあったように心身が爽快」になる話だと思いました。
○隔月刊詩誌 『サロン・デ・ポエート』271号 |
2007.12.25 名古屋市名東区 中部詩人サロン編集・伊藤康子氏方発行 300円 |
<目次>
作品
人見知り…小林 聖…4 柿…みくちけんすけ…5
練炭火鉢…横井光枝…6 秋の最終章を訪ねて…荒井幸子…7
誕生日…阿部堅磐…8 老いた発禁詩集−百歳の詩人に−…野老比左子…10
リサイクル…足立すみ子…12 年の始めに…伊藤康子…13
頭脳の壁…及川 純…14
散文
帰郷(一)三条…阿部堅磐…15 帰郷(二)弥彦…阿部堅磐…16
詩集「一本のつゆくさ」を読む…阿部堅磐…17 詩集「人指し指」を読む…阿部竪磐…18
同人閑話…諸家…19 詩話会レポート…21
受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記
表紙・目次カット…高橋芳美
人見知り/小林 聖
とおかんや
田の神 山へ帰る頃
爺が 左のほっペを突つくと
父に抱かれたユノは
ぐるり回って そっぽを向く
そっぽに回った爺が
右のほっペを突つくと
父の胸を軸に ぐるり
知らんぷり
何度も 何度も
でんでん太鼓の玉のように
大きな梨ほどの頭に
内と外ができつつある
否を示すのに
向きを変えるしかなく
拒まれ 拒まれ
爺の目は泳ぐばかり
とおかんや 童ら 藁束
地面を叩き 回っている
巻頭作品を紹介してみましたが、常識外れなことに「とおかんや」の意味が判りませんでした。広辞苑にも載っていませんでしたので、ネットで調べてみると、「十日夜」と書くそうです。十五夜、十三夜と同じ流れで、陰暦一〇月一〇日の夜のことを指すとのことでした。また、関東・中部地方でその日に行われる刈り上げの行事のことも言い、田の神が山に帰る日とされ、案山子上げをしたり、子どもが藁束で地面をたたいて回ったりするもするそうです。従って第1連と最終連はそのことを言っていると判りました。
作品はその日の「ユノ」を描いているわけですけど、伝統行事を背景とした「爺」、「父」、孫、3代の幸せが滲み出ているように思います。特に「ユノ」の「否を示すのに/向きを変えるしかな」いあどけなさが印象深いですし、「そっぽに回」るという表現もおもしろいですね。この平和がいつまでも続いてほしいものだと思いながら拝読しました。
○大畑善夫氏詩画集『失くしもの』 |
2008.1.7 埼玉県蓮田市 私家版 非売品 |
<目次>
生誕(絵 積田鉄治) 4 緑陰 5
お地蔵様と雀 6 あの世のドア 8
雨降りやまず 10 気配 11
異次元入り口 12 死後の楽しさ 14
死後の健康法 16 「千の風」(絵
高須賀儀吾) 18
誰かが見ている 19 何故か幸せ(彫刻
服部幸夫) 20
百人より一人がいい 22 一人だから出来ること 23
お星様にはならない 24 各種モニューメント 25
猿の先祖は人間だった 28 多額納税者 29
慈母観音 30 水子地蔵寺 31
古希 我思う 36 神様のパートタイム 38
こけし 40
その後のリル 津軽のリル 津軽弁翻訳 菊池等 41
関西のリル 京都のリル 熊本のリル
コセンダングサ 新・波の会のどなたかが作曲中 44
兎を殺す子供たち 作曲 金藤豊 イラスト O.M 大畑美穂 45
後書き1 表紙のこと 47
後書き2 協讃の方のご紹介 48
猿の先祖は人間です
ダーウインは間違っていました
お猿さんの先祖が人間だったのです
発見したのはダーウインのお孫さんです
群れを作ってボスをつくること
親分になりたがること
集団でリンチをすること
マウンテング
毛繕い
みな人間の真似なのです
群れから離れたところで
俳句を作っている猿がいました
「よい ご趣味ですね」と声をかけると
「赤面の至り」と頭をかきました
今回は友人・知人の絵画をお借りしたという手づくりの詩画集です。全ての頁に絵や写真があって、頁をめくるたびに楽しくなる本です。ここでは「猿の先祖は人間です」を紹介してみましたが、この逆転の発想も愉快ですね。猿真似≠ネどと失礼なことを言えなくなってしまいます。最終連の「赤面の至り」は、猿殿の赤い顔を指しているわけですけど、ここは思わず笑ってしまいました。
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