きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.12.11 浜離宮・中島の御茶屋




2008.1.11(金)


 夕方から日本橋兜町の日本ペンクラブ事務所に行ってきました。ペンクラブHPのリニューアルをする必要があって、HPを運営している広報委員会と電子文藝館委員会の代表者、そして事務局との打ち合わせです。
 私の一番の主張は、HPの管理・運営は事務局が責任を持ってやっほしいというものでした。今までももちろん事務局が関与していたのですが、実際のアップロードなどは業者さん任せでした。これには私も一枚かんでいて、約10年前にHPの運営について相談を受けたときは、それもやむを得ないと考え、賛同していました。当時は事務局にHPの知識がある人がいなくて、過重な負担は掛けられないと思っていたのです。

 それから10年。現在は事務局にパソコンに詳しい人が2名も職員として加わって来ましたので、管理・運営が無理なくできるようになったのです。本来なら自前のサーバーを持ってもおかしくない組織ですが、ウィルス対策などを考慮すると、そこは断念。貸サーバーで我慢するとして、アップロードその他の作業も含めて事務局にやってもらうことで合意しました。
 そうは言っても事務局にあまり負担を掛けたくありませんから、HPの更新そのものは両委員会で行い、事務局にはFTPでアップロードしてもらうだけとしました。それでも本格的に事務局が管理してくれますから、ようやく本来の形になったなと思っています。

 リニューアルの期限は3月末。それまでに何をやるか、基本的な構想は打ち立てました。私の仕事も増えます。しかし、ここまで日本ペンクラブと関わってきたのですから、逃げるわけにはいかないでしょう。微力ながら最善を尽くします。皆さまには日本ペンクラブHPも、裏ではいろいろなことがあるのだなと思っていただき、そして足繁く訪れてくださると嬉しいですね。よろしくお願いいたします。



未津きみ氏詩集『幻の川 幻の樹』
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2007.12.15 青森県青森市 北の街社刊 1715円+税

<目次>
 T
幻の樹 10                 未来の川 14
幹をたたいて 20              その樹に会いにゆく 24
緑陰のベンチ 28              めでたい樹 32
十二本のヤス 38              いっぽんの冬木に 42
千年杉 48                 ひばの花 54
ポプラの並木道 58             公孫樹 64
男来て 70                 メシェという名の木 74
 U
その日の饗宴 82              具象の男 86
雪 92                   砂の聖書 96
(しば)れる 100.              櫛 106
アンデスの少女 110
.            甕 114
虫たちの声 118
.              その秋からその冬へ 122
高村山荘 126
 風 126
.       蝉の声 130.     鬼窟 132
うそ寒い日 138
.              佐野ブルー 142
船船 150
 海の柩 150
.     ジャンク 150.    丸木舟(カヌー) 152
麦焼酎 158
 V
そのはじまりへ 170
(デルタ) 174
 川合にて 174
.    三角州の花 176.   互いの系譜 181
 掌のなかの風景 184
. 夜更けの夢 187
未明までのこと 190
.            川を渡らなければ 196
夏至のころ 200
.              河口 204
身の丈の干満 210
.             異なる音 214
水の食卓 220
 独酌の男 220
.    一族再会 225.    帯の川 230
 夫婦
(つれあい) 232
ワディ 236
 涸れ河を抱いて
.236  砂漠のオフィーリア 240



 幻の樹

わたしのなかに育つ
一本の樹を植えたものは誰か

いまではわたしの背丈を越え
手もとどかない高い梢
見上げると
枝葉を両手でかざし
わたしをやさしく包んでくれる
幹に背をあずけると
天の深みから聞こえてくるどよめき

人はだれしも樹液というけれど
あれは天空を渡る風
あるいは風にそよぐ葉の擦れあう
響きの震音
(とれもろ)

樹は
わたしのなかで素直に育ち
日々の混迷を呑みくだしている

樹は
いつもざわめいている
絶えず何者かと闘い
葉を枯らす凋落のときも
必死に生きようとして

樹は
なにもしゃべらない
萎えているときはやさしさを
驕りのときはいましめをくれて

樹 というとき
四季を問わず
わたしのなかに大きな陰影
緑陰を広げてくれる

ときにふと
わたしのなかの大樹を見あげる
幻の樹を育てているのではないかと

 8年ぶりの第5詩集です。著者の中に横たわる川、直立する樹を育ててきた思いの1冊、と添えられた文にはありました。ここではその一方の樹を描いた詩であり巻頭作品の「幻の樹」を紹介してみましたが、樹のもつ形而上性に感銘を受けます。「樹は/なにもしゃべらない」が「萎えているときはやさしさを/驕りのときはいましめをくれ」ます。それはとりもなおさず「わたしのなか」で「幻の樹を育てている」からなのでしょう。樹の持つ逞しさとやさしさが著者の詩精神によく合っている作品だと思いました。



詩・エッセイ『天秤宮』27号
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2007.12.20 鹿児島県日置市
天秤宮社・宮内洋子氏発行  1000円

<目次>
■詩
獣といる…中村なづな 6          呼吸…池田順子 9
悲恋の碑…茂山忠茂 13           ヨシキリ/裁く…宇宿一成 16
二つの石…八瀬生見 24           素手/一場の夢…西園敏治 26
孤島/点/百年目の刑…宮内洋子 31
■風紋 空気
風船の中の空気…宇宿一成 39        息について…岡田惠子 40
空気…満園文夫 41             「カナリア」になれるか…茂山忠茂 42
障子の升目…宮内洋子 43          乾いた空気…八瀬生見 44
もしも…池田順子 46            空気を編み込む…木佐敬久 47
冬の朝…西園敏治 48            空気を読む…山下守之 49
故郷…養父克彦 50
■紀行文 黒い太陽…宮内洋子 52
■子供の詩について 具象・抽象・認識…茂山忠茂 60
■エッセイ 鴎外との日々 ]T 武士道に生きた谷さん…養父克彦 72
■表紙絵随想 孝行説話 ヒロインは裸婦…木佐敬久 84
*表紙絵 〜歌川国芳「唐土廿四孝 姜詩」〜 個人蔵
あとがき…102
写真…福田秀史 103
静物画…山之内タケ 71
◎執筆者住所…104



 二つの石/八瀬生見

雨にぬれたので泥はすこし落ちたが
黒い石が朝の道に二つある
さして小さくもないが
大きいともいえないのがふたつ
人になろうとした石と人がなってしまった石と

一つの石は人がなったのだ
あるときふと足を滑らせて崖から落ちて
どたりと倒れたらそのまま石になっていた
一つの石は人になりたくて
崖からどうにか転がって落ちてみたのだが
そのままだった

人のなった石はしばらくは
もはや手足も消えているのに
なんとかもとに戻ろうともがいたが
黒くなったからだから脂汗を流しても
ただ上をむいたままだった

人になりたかった石は
出てもいない手足を動かそうと試みたが
どうにもならなかった
とうぜん声が出るはずもなかった

こうして二つは石のままで今朝もいる
もはや石が二つあることも気づかれないままに

 「人になろうとした石と人がなってしまった石」というおもしろい発想の作品ですが、これはまさに詩でしか描けない世界でしょう。「あるときふと足を滑らせて崖から落ちて/どたりと倒れたらそのまま石になっていた」人、「崖からどうにか転がって落ちてみたのだが/そのままだった」石。この二つの石は、石になってしまった人、人になれなかった人(石)という意味で現代を象徴しているように思います。そして最終連の「こうして二つは石のままで今朝もいる/もはや石が二つあることも気づかれないままに」というフレーズは、もはや「気づかれ」もしない私たちの疎外感を現しているようにも思えるのです。作者の意図とは違うかもしれませんが、そんな読み方をしてみました。



個人詩誌PoToRi8号
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2007.12.22 和歌山県岩出市
ランニング社・武西良和氏発行 300円

<目次>
表紙の写真について 1
詩作品
山の駅 2      道 3        吊り輪 4
電車 5       一番電車 6     駅 7
カフェ 8      電車2 9      カフェ2 10
線路 11       駅2 12
ポトリ・エッセイ 13
ポトリの本棚 14
8号特集「駅・ステーション」 14
受贈詩集・詩誌等 15



 一番電車

一番電車が
レールの間に鉄の

をきしませながら
走っていく

町の家々を
縫い
合わせ電車は
鉄橋のほうへ走っていく

一番電車が
縫い合わせた町とは
どんな町だろう
町はその後に続く電車に何度も
縫い
合わされて
いくことだろう

昨日の終電車まで
縫い合わされていたが
夜の間に
縫い目
が解けていたのかもしれない

朝の鉄橋をわたる
電車の音は
縫い目の
修復
に時間がかかっているのか
音が重い

 今号の特集は「駅・ステーション」です。おもしろい詩語が多くて、どれを紹介したらよいか迷うほどですが、ここはやはり特集に関係する「一番電車」を紹介することにしました。電車が町を「縫い合わせ」るという発想に斬新さを感じます。一番電車から縫い合わせが始まって「夜の間に/縫い目/が解けてい」くというところに作者の並々ならぬ感受性を思います。最終連の「朝の鉄橋をわたる/電車の」「音が重い」というのも実感できますね。物理的には湿った空気の伝達速度が遅くなることだと思うのですが、これから縫い合わせをしなければならない電車の心理、これから職場に向かわなければならない人間の心理まで活写しているようで見事です。16頁という薄い冊子ですが、何度もひっくり返して拝読しました。



   
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