きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.12.11 浜離宮・中島の御茶屋 |
2008.1.20(日)
先日、実家の父親の面倒を見てくれているヘルパーさんと面談したとき、父親が電話に出なくて困っているという話がありました。電話の音が聞こえないのです。私も同じ経験をしていますので、どうしょうかなと考えて、Faxを入れてみることにしました。父親がいつも居るコタツのすぐそばに電話があります。音が聞こえなくても紙が出てくれば分かるだろうという発想です。
で、さっそく行き着けのパソコンショップで買って、据え付けてみました。テスト送信してみましたら、当たり前ですけどOK。父親は不安そうでしたが、父親が送信するわけではありませんから、強引に納得させて、一件落着、、、かなあ。しばらく様子をみないと分かりません。
意志の疎通について考えてしまいます。耳が駄目なら眼、耳も眼も駄目なら…。脳梗塞後遺症の言語障害はあるものの、口は大丈夫です。その口も利けなくなったら…。ヘレン・ケラーの3重苦だわなぁ。ボディーランゲージも視野に入れておくようです。
老いるということはそうやって機能を少しずつ失くしていくことなのかもしれません。救いは、頭がはっきりしていること。電話も自分で掛けますし、お金の計算もやりますし、ついでに憎まれ口も叩く85歳です(^^; いずれ我が身と思って観察しています。
○詩誌『孔雀船』71号 |
2008.1.15 東京都国分寺市 孔雀船詩社・望月苑巳氏発行 700円 |
<目次>
*詩
秋・黒部峡谷/新川和江 6 薫製/冨上芳秀 8
シンプル・ライフ(2)/小紋華子 11 青光る/大塚欽一 14
夏つばき/日砂順二 16 磯遊びのスケッチ/日砂順二 18
ンゴゴ/岩佐なを 20 あるばかり/堀内統義 23
開戦前夜/望月苑巳 26 恋鎮め/望月苑巳 28
虫のかげ/谷元益男 30 駅から5分にあり/ 洋子 32
*連載 アパショナータ PARTU(35) 清水哲男〜悲哀の抽象化/藤田晴央 35
*孔雀船画廊(20) 岩佐なを 44 ・
*吃水線・孔雀船書架/竹内貴久雄 46
*リスニング・ルーム/竹内貴久雄 48
*試写室 潜水服は蝶の夢を見る/母べえ/エリザベスゴールデン・エイジ/胡同の理髪師/ヒトラーの贋札/奈緒子/結嬉しょうよ/レンブラントの夜警/赤神信&桜町耀・選+国弘よう子 50
*連載 絵に住む日々《第十七回》バウツという画家/小柳玲子 54
*詩
カラスとイチジク/尾世川正明 59 病院/間瀬義春 62
最後の日/間瀬義春 63 山羊のお墓または百葉箱/小林あき 64
侵入者/新倉葉音 67 遠い日/文屋 順 70
商店街は傾斜する/松井久子 72 雨のポカラ/藤田晴央 74
龍王のアラベスク/紫 圭子 77 古い羅針盤/朝倉四郎 80
冬の木立/脇川郁也 82 ペリカンの昔日/福間明子 85
*連載エッセイ 眠れぬ夜の百歌仙夢語り《第五十七夜》/望月苑巳 90
*航海ランプ 98
*執筆者住所録 97
商店街は傾斜する/松井久子
その商店街は全長約1km、通り抜けるの
に徒歩で約15分は掛かる。商店街の両端には
それぞれJRの駅と禅宗の寺がある。どちら
が始まりで、どちらが終わりなのかが、時々
論争になるが、それはどちらでもいいことだ。
商店街は緩やかなX字型に傾斜していて、
X字の底にあたる場所が中央部にある。その
場所にいるとなぜか人は放心状態になる。人
対人、人対自転車の衝突が多く、小ぜりあい
が絶えない。地元の警察も頭を悩まされてい
る。最近では犬同士の喧嘩も起き始め、警察
官は頭を抱えるばかりだ。
この商店街の特徴は同じ業種の店が集まっ
ていること。惣菜店、洋品店、雑貨店が並び、
居酒屋は寄り集っている。銭湯は、さすがに
並ばないが、20m置きに3軒は有る。立飲み
屋も数軒集っている。古本屋も数軒並んで商
いしている。これには何か理由があるらしい
が、定かではない。
夜9時になると居酒屋以外は全店が閉まる。
それ以降は、下り坂と上り坂の一本道になる。
風聞では、ある男が寺側からサッカーボー
ルを転がしたそうだ。どこまで辿り着くかを
見届けたかったのである。するとX字の底で
急に失速して見失った。ボールを探しに行っ
たのだが、結局見付からなかった。男は銭湯
で逆上せるほど湯に浸かり、その後は立飲み
屋で看板まで飲み続けたと聞く。
「緩やかなX字型に傾斜してい」る不思議な「商店街」。どこにでもありそうで、どこにもない商店街は日本の象徴のように受けとめられます。経済の「X字の底」で「放心状態になる」人々。さらに「X字の底で/急に失速して」して売れなくなってしまう商品。余裕を失くして街は「人/対人、人対自転車の衝突が多く、小ぜりあい/が絶えない」。「最近では犬同士の喧嘩も起き始め」てしまう…。せめて「銭湯/で逆上せるほど湯に浸かり、その後は立飲み/屋で看板まで飲み続け」るしかない私たち。作者の意図とは違うかもしれませんが、そんな読み方をしてみました。いろいろな見方ができる、おもしろい作品だと思います。
○隔月刊詩誌『RIVIERE』96号 |
2008.1.15 堺市南区 横田英子氏発行 500円 |
<目次>
釣瓶のうた 横田英子 (4) 水が跳ねる 泉本真里 (6)
晩霜の失意 釣部与志 (8) いちじく 永井ますみ (10)
あの人は私をみないで 山下俊子 (12) 楽の音/今宵 藤本 肇(14)
夏 後 恵子(16) ぼろぼろになって 松本 映(18)
愛と希望の国『少年』 河井 洋 (20)
同人の出版(戸田和樹) 横田英子 (23)
RlVIERE/せせらぎ 横田英子/石村勇二/河井洋/永井ますみ (24)〜(27)
蹴っぱれ、イッちゃん(1) 清水一郎 (28) 君は蒼い空に舞った 蘆野つづみ (30)
育てていって 平野裕子 (32) 証言 戸田和樹 (34)
仏間 内藤文雄 (36) 短詩集3 安心院祐一 (38)
初冬の出来事 ますおかやよい (40) 妻がいない日 石村勇二 (42)
受贈詩誌一覧 (44)
同人住所録 (45)
編集ノート 石村勇二 表紙の写真・横田英子/詩・石村勇二
つるべ
釣瓶のうた/横田英子
柿の実が
二、三個 取り残されている
木の傍に 古井戸
墓所のはずれの
井戸には 釣瓶
滑車から伸びた綱が
ふいと揺れる
夕陽の加減で
黒いシルエットになって
浮かびあがり
またオレンジ色にきらめく
そのときの風で
滑車が回り出す
井戸に垂直に落ちていく
私の好奇心
水の呼び声が
遥かで
汲み上げられない
深い底から
空への絶叫
日常のありふれた構図
落とせば上ってくる
上げれば降りていく
スイッチを押すと
上がってくるエレベーターも
現代の釣瓶
人を満載して高く上る
降りてくる空白の箱に
隙間風が貼りついていたりする
人の手でゆっくり汲みあげる釣瓶
澄んだ水で
心を洗う
「古井戸」の「釣瓶」と「エレベーター」を対比させたところがおもしろいと思いました。原理は一緒で「日常のありふれた構図」なんですが、その違いに思いを馳せます。違いはあるものの、しかし「風で/滑車が回り出す」釣瓶と、「空白の箱に/隙間風が貼りついていたりする」ことは一緒なんだと、この作品は教えてくれているように思います。最終連も佳いですね。井戸の「澄んだ水」は確かに「心を洗」ってくれるようです。
○安川登紀子氏詩集『インク』 |
1988.10.30 東京都文京区 詩学社刊 1500円 |
<目次>
片恋 8 部屋 12 ざくろ 14
しゃれこうべ 18 運命 20 あなた 22
手 24 一人 26 死病 28
無題 30 戦地は外 32 夏(クーラーのない病院にて) 34
死 36 壁線 38 香気の中で 40
眼の中で 42 年輪 44 老人の雨 46
至福 48 微笑 50 夜明けの月 52
カラス 54 モナリザ 56 インク 60
あとがき 62
装丁 十河雅典
死
それは
明るく
ポツンと
そこに在る。
日当たりの良い からっぽの 病室に
残された カレンダー。
著者の第1詩集を頂戴しました。ありがとうございます。紹介した作品は「病室」での死を扱ったものですが、「明るく」と「日当たりの良い」という言葉が死の対極として置かれ、見事です。「からっぽ」を死と同義語に使っているのも成功していると思います。「日当たりの良い からっぽの 病室に」「明るく/ポツンと」「残された カレンダー」。虚しさが表出した作品だと思いました。
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