きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.12.11 浜離宮・中島の御茶屋




2008.1.26(土)


 光文社から「ご案内書」なるものが届きました。以前、同社から単行本で出版された『犬にどこまで日本語が理解できるか』という本の文庫を2月20日付けで刊行するという案内書でした。第1刷として15,000部、定価は495円+税だそうです。
 同書は日本ペンクラブ編で、26名の執筆者の一人として私も書かせてもらっています。単行本でいわゆる印税が入って、次には文庫でまた印税が入るという、まことに結構なお話しで、作家というのは一度書くと、こうやって次々とお金が入ってくるのだと、素朴に驚いています。もちろん私にも分け前がガッポリと…。

 しかし、実は印税の半分は日本ペンクラブがピン撥ねします(^^; 残りの半分を26名で均等割りということですから、ガッポリというわけにはいきません。完売したとしても私の取り分は1万円そこそこ。まあ、現実はそんなもんでしょう。
 それでも、一度書いたものが次々と、という図式は変わりませんから、出版社での企画本というものがどういうものか実感させてもらっています。なにより掲載料を取られないのがよいですね。よろしかったら書店でお求めください。第10刷ぐらいまで行けば、10万円の儲け、楽しみだなあ(^^;



中島登氏訳詩集散文詩 銅版画』
   ヘンリー・ミラー著 ロジャー・ジャクソン編
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2007.12.20 東京都渋谷区 パンセ・ライブラリー刊 非売品

<目次>
『銅版画』 7
夜明けの旅人 8              バワリーの不死鳥 12
目覚め 16                 死ぬときには霊廟をえらベ 20
キルケー 24                人間のためにビールをつくれ 28
ダンス・ホール 32             掃き溜めのキリスト教 36
バイク・レース 40
訳注 44
 *
序 ロジャー・ジャクソン 53        解説 ロジャー・ジャクソン 71
復刻版覚書 79               エディションについて 81
参考書誌 83
 *
『銅版画』によせて ホキ徳田 85
訳者あとがき 89              装画 ヘンリー・ミラー水彩画「道化師B」(1973)



 人間のためにビールをつくれ
       (ホレース・トラウベル
への弁明)

人間のためにビールをつくれ。並々ならぬ人間の努力が、これまでずっとビー
ル製造にかかわってきた。なぜ、いま止めるのか。この世の中で、何よりも欲
しいものはビールだ。あの感嘆すべき仕事を遂行するためには、他のすべての
ことは、わきに除けておかねばならない。人間から一杯のビールを奪うという
ことは、極めて罪のない悪戯に思われる。だが、一杯のビールは、気紛れな運
命を決定づける。グラス一杯のビールのために、最も偉大な詩篇が、いくつも
書かずじまいになっていた。あのわずか一杯のビールが、まったくうろたえた
声で、きみたちに叫んでいる。たった一杯のビール。そのために、地獄に墜ち
た人たちもいる。……たった一杯のビール。マクベスが不眠に悩まされること
はなかったのだ!

ビールは一種の追憶であり、幻覚である。ビールはわれわれが手を伸ばして取
ろうとするが、捕えそこなう効果がある。ビールを作れ。のどの渇いた者が最
初に飲め。どうしても必要な人たちには、最初にビールが出されなければなら
ない。周知の通り、樹木は土の中でなければ育たないが、きみたちは人間が禁
酒時代の中で成長することを期待している。 きみたちは人間の美というもの
が、人間沙漠の何もない不毛の地から現れてくると思っている。

ビールは、ある人たちにとっては大いに役に立つ。とにかく、それを試してみ
よう。誰かがビールを飲み、それで失敗して苦しむならば、彼にもっとビール
を飲ませなさい。もし彼がまたしても失敗を繰り返すならば、彼にもっとビー
ルを飲ませなさい。彼が人生の失敗の言い訳を言わなくなるまで、惜しみなく
ビールを飲ませなさい。きみたちは、人間にはルールが必要だと思っている。
だが、人間に必要なのはビールなのだ。世界はきみたちのモラルなど必要とは
していない。ビールが必要なのだ。きみたちの講義や慈善などは要らない。人
間の魂は、受け入れがたいものによって育まれてきた。だが人間はビールを利
用することができた。われわれは憲法によって人間性を回復し、人間を守るこ
とができると考えてきた。法律をつくり、教義を打ち立てたので、人間は身動
きできなくなってしまった。われわれは慣習になぞって人間を作ってしまっ
た。人間を、しらふの、礼儀正しい人間にしてしまった。しかし人間は、相変
わらずビールを求めて呻いている。

きみたちの図書館を管理してくれ。刑法を守れ。精神病院を経営しろ。わたし
にはビールをくれ。ビールであるなら、どんなビールでもいい。ビールなしで
良い結果を得るより、どんな結末になろうともビールがあった方がいい。人間
にビールを飲む機会が与えられることをわたしは乞い願う。ビールを飲むこと
は男女のいちゃついた戯れでもなければ、時間の浪費でもない。それは冷静な
結論、土壌と種子の論理、推測と失策の平衡装置、特別な不法侵入と心の幻覚
症状の溶解化学である。
わたしにビールを飲ませてくれ。

                    ジューン・E・マンスフィールド
                    レムセン・ストリート91番地
                         ブルックリン

* ホレース・トラウベル(一八五八−一九一九)
 アメリカのジャーナリスト、社会主義者。一八九〇年より雑誌を刊行してマルクス主義の普及に尽力した。ホイットマンの親友で、彼の全集を共同刊行した。

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 アメリカの作家、ヘンリー・ミラー(1891〜1980)の最初の詩篇集の翻訳です。1925年頃に「銅版画」と名付けられて書かれた、1枚1枚の詩篇を、1993年に
ロジャー・ジャクソンが『銅版画』(復刻版)として出版したようです。その翻訳ということになりますが、「夜明けの旅人」だけがヘンリー・ミラーの署名入りで、他は全て同棲していたジューン・E・マンスフィールドの署名とのこと。これは当時ダンサーとして働いていた彼女の名の方が売れるだろうということだったようです。

 紹介した作品は禁酒法時代(1920〜1933)に書かれたもので、ビールは人間のためにあるとうたった傑作です。当局者の「きみたちは人間が禁酒時代の中で成長することを期待している。きみたちは人間の美というものが、人間沙漠の何もない不毛の地から現れてくると思っている」と痛烈に批判しているところが痛快です。同様に「世界はきみたちのモラルなど必要とはしていない。ビールが必要なのだ。きみたちの講義や慈善などは要らない」というフレーズはそのまま現代にも当てはまります。「ビールなしで良い結果を得るより、どんな結末になろうともビールがあった方がいい」、「それは冷静な結論、土壌と種子の論理、推測と失策の平衡装置、特別な不法侵入と心の幻覚症状の溶解化学である」という部分も酒呑みにはうれしい言葉です。私もゴシックの太字で「
わたしにビールを飲ませてくれ。」と叫びたいですね。



会報『石川醫報』1410号
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2008.1.1 石川県金沢市
石川県医師会発行  300円

<目次>
年頭所感
年頭所感…石川県医師会会長 小森 貴…3  年頭所感…日本医師会会長 唐澤人…4
子年の炉辺寸談
八十三年間の思ひ出…上棚金保…5      終戦の春、憲兵と関係した二事件…山田榮一…5
映画エキストラ出演…牛村 繁…6      ライフワーク…佐原吉博…7
学生の頃…吉村卓也…8           久し振りに登山を始めて…丘村 誠8
これまでをふり返って…伊興部尊和…9    レオナルド・ダ・ヴインチ展を見て…山本鉄郎…9
雑感…川浦幸光…10             今年もテニスにかける!…西 耕一…11
還暦…村田祐一…12             20年目の憂い…上野浩久…12
バド歴50年−いつまで続くか一…中文彦…14  3636と云う数字…高橋三郎…14
たった一冊の卒業アルバム…伊藤久子…15   おやじの背中…松原一夫…16
ORCAと
RS-baseについて…茶谷 隆…16  「転ばぬ先の杖」と云うけれど…山本 健…17
ピンピンコロリ…加藤佐敏…17        ネズミ男…内田 実…18
KMMR
理事会報告
第17回理事会…21              石川県医師会互助会理事会…36
第2回臨床検査センター部経営会議…37    国民医療を守る決起大会…39
鞍月からの情報発信
石川県医師会役員等の選挙について(予告)…41 白山ののいち医師会学術講演会…42
耳の日フェスタ2008…42           『看護師不足に抜本的対策を』−このままでは、医療崩壊に拍車−…中村彰…43
保険診療FAX何でも相談…46        ドクターバンク登録情報…47
石川各地から 2匹の犬…四十住伸一…48
メディカルインフォメーション 石川県感染症発生動向調査…49
1月の行事予定
編集後記



表紙のことば
 写真「アンナプルナW峰(7525米)」/(金沢)高橋三郎

 マッターホルンやモンブランを三十歳代に撮影したが、ヒマラヤの山を撮ることは夢にも考えていなかった。高三郎山の紀行文(本誌に掲載)を書いて、拙書を出版したことで、日本山岳会の会員になり、この晩餐会の席の話題はヒマラヤの山のことばかり。これを聞いて、ネパールに行きヒマラヤのエベレストをカメラに撮って、再びカトマンズに戻り、ポカラからサランコットの丘に登って、アンナプルナ連峰を写した。深田久弥の名著『ヒマラヤの高峰』(T〜X巻)にはアンナプルナとは「滋養物を供えた女神」とある。

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 ちょっと見難いかもしれませんが、表紙の写真の説明文です。「日本山岳会の会員」になって、「晩餐会の席の話題」に刺激されて撮影に行ったようですが、うまい具合に晴れたのでしょう。急峻な岩肌が青空に映える美しい写真です。「アンナプルナ」の意味も判りました。



会報『金沢市医師会だより』421号
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2008.1.1 石川県金沢市 金沢市医師会広報部発行
非売品

<目次>
年頭のご挨拶 1   新春随想 3     編集後記 23



 「石踊る風に盆」/高橋サブロー

       (T)
      ヒト里に せまった裏山
     鳥瞰図で 見下ろすように
      鳶が踊る 白雲の切れ間

     庭石は枯れ 山水に組まれ
    鳶の見下ろす春は未だねむり
     飼いネコは 鼠の捕獲忘れ

     ひとたび人里の離れた山奥
    水洗の盆石 凍てつくほどに
     霙降りしきる冬の日は寒く

     鵜の目鷹の目の視線が向く
    獲物は 鳥瞰する遥か彼方に
     鳥の眼力は千里の先見抜く

       (U)
 アイガー北壁 構える白い蜘蛛写す
白い筋ある巨石 枯れ山水の庭に据え
 二階の書斎の 窓から朝夕見下ろす

 古希の眼光は 鈍く闘争の気迫なく
回顧は出来ても未来に懸ける展望眠り
 心の癒し求め ヤスラギに落ち着く

 転居を契機に 庭石は机上の盆石に
仕事する合間に 眼前の小石を俯瞰し
 旋回繰り返し 飛行は鳶の気持ちに

 盆石の天辺近く 平坦な肩の部あり
人差し指を そこに 当て置くだけで
 肩の凝りは石へ 流れ暗示効果あり

       (V)
  これより小粒な 盆石に惚れ込む
  手の平に載る程の紀州産の古谷石
  靴まで履く小石 チロルの山歩む

  山麓に点在する集落に白雲を添え
  ドロミテの景観 手の中の盆石に
  浮き彫りの山並みに山肌まで見え

  背景は荒野のウエスタン風に似て
  マカロニ・ウエスタンと謂われる
  懐深くて 暖かさ広がるドロミテ

  似合わぬチロリアンハットは止め
  無情な評価を下したドロミテでは
  ハットもジーンズも日本製と諦め

       (W)
  法被着て街流す 綱み笠と股引き
  迷路反射に似る 四肢に示した姿
  越中おわらの風 手振りに脚裁き

 「新春随想」に載っていた作品です。医師会報に詩があるのは珍しいのかもしれません。作品の舞台は「アイガー北壁」から「ドロミテ」、そして「越中おわら」までと世界中に広がっています。それが「机上の盆石」へと収斂していて、作者の見識の広さと深さを表出させているように思います。「鳥瞰」という視点を常にお持ちなのかもしれません。「人差し指を そこに 当て置くだけで/肩の凝りは石へ 流れ暗示効果あり」というフレーズはおもしろいですね。お医者さんの言葉だけに説得力がありました。



   
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