きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.2.26 河津町・河津桜




2008.3.1(土)


 午後2時から日本詩人クラブの現代詩研究会が、東京大学駒場Tキャンパス18号館4Fコラボレーションルーム1、というなんとも長たらしい場所ですみません(^^; 行われました。講師は、前日本現代詩人会会長の安藤元雄氏。講演は「詩の言葉 歌の言葉」と題されたものでした。

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 新体詩抄、藤村、白秋の歌謡性を昭和期以後の詩、さらには戦後詩において断ち切らせたものは何だったのかを判りやすく解説いただきました。さらにその問題点と今後の詩の方向性がどこにあるのか、興味深い講演でした。会場には研究会としては多い、40人ほどが集まり、ほぼ満席状態でした。

 懇親会は、いつもの神泉の居酒屋「からから」。安藤さんとも少しお話しさせていただきました。H賞のことや、詩人クラブの法人化のことなど、堅い話が主でしたけど、意外と気さくな面もある詩人なのだと、ちょっと驚きました。見かけはとっつき難い感じなんですが、人は見かけで判断してはいけませんね。
 良い夜でした。遠くは滋賀県からもおいで下さり、ありがとうございました。



井村たづ子氏詩集『砂のくちばし』
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1991.8.20 東京都新宿区 土曜美術社刊 1650円+税

<目次>
 T
自動ドア 10     私、いません 12   踏切が立っていて 16
鳥 20        猟区 24       九月 28
排水口 32
 U
遭難 38       あなたの棲む町 42  春闇 44
噴水 48       風を掃くひと 50   旅立ち 54
 V
休日空間 58     高熱のとき 62    指 66
晩秋 68       消灯 72       君のこと 76
 あとがき 79



 自動ドア

出かけてしまいます
どこへでもなびく藻のような身体を携えて
美しく家々が立ち並ぶ街へ

街はやわらかい雲でできています
よく熟れた果実の匂いがして
毎日そこを歩きます

立ち止まれば必ず開くドアがあって
時に
はぐらかされて
たたずむことも

死の気配だけで開閉するドア
知っていますか?
古い病院の霊安室に続くドア
誰もいないのに花のように開いたり閉じたり

 上述の研究会で著者より頂戴した、第1詩集です。タイトルポエムの「砂のくちばし」という作品はありません。あとがきには、詩を書くということは瀕死の鳥が闇の出口を求めて、長い嘴で懸命に壁をつついている。朝日が射し込むと鳥は死に、壁には砂のように脆い嘴が影のように残っている≠アとと似ている、と出ていました。ここから採ったもののと思われます。
 ここでは巻頭の作品を紹介してみましたが、最終連の「死の気配だけで開閉するドア」というフレーズに新鮮さを感じます。著者20〜30代の作品を集めたもので、「どこへでもなびく藻のような身体を携えて」、「街はやわらかい雲でできています/よく熟れた果実の匂いがして」などのフレーズにも新しい詩の息吹を感じた詩集です。



詩誌『青芽』547号
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2008.3.5 北海道旭川市
青い芽文芸社・富田正一氏発行 700円

<目次>
作品――
富田正一 ふるさと/よくある話/夢を呼ぶ4 宮沢 一 犬猫(首輪/鈴) 6
佐藤 武 厳寒の夜/ナナカマド/灯油 7  村上抒子 今更だけど 8
本田初美 ジイさん 9           菅原みえ子 あまつぶ 10
森内 伝 繋ぐ 11             沓澤章俊 出発の音色 12
武田典子 茶道具一式 13          倉橋 収 ゆうゆうと幻歩行/幻思考・熱放射の盃 14
四釜正子 やわらかな風 15         現 天夫 師走の風/面子 16
浅田 隆 舌切りペット 18
◇書評――
『夕焼けの家』を読む 小柳玲子 19     『夕焼けの家』富田正一詩集を読む 松尾静明 21
◇詩見・時言・私見
文梨政幸 「詩見・私見」 25         本田初美 白言さんの詩 25
四釜正子 「青芽」詩話会に寄せて 27     能條伸樹 「詩」、「コラム」、そして私 27
菅原みえ子 リンタロウさん 28       沓澤章俊 硝子と私 30
浅田 隆 尊厳死の行方 31         佐藤 武 戦争の時代を越えて 32
村田耕作 北国の冬 33           荻野久子 時代は変った 34
倉橋 収 詩集「夕焼けの家」感想 34     佐藤 實 ペンネームについて 35
佐々木利夫 我流 36            富田正一 詩集「夕焼けの家」の顛末 36
作品――
荻野久子 南瓜/歯 38           佐藤潤子 寄り道 40
横田洋子 真冬 41             堂端英子 吊り橋 42
能條伸樹 雪しんしん 43          小森幸子 集合写真/裸電燈 44
小林 実 老いらしく 46          岩渕芳晴 渇いた果てに 47
仲筋哲夫 人間の罪業。 48         千秋 薫 そして朝は始まる 49
村田耕作 神の道/悪の根源/危機/血の文字 50 文梨政幸 記憶の根拠(椅子/余白/夕焼けのサイロ) 52

◇セピア色に染まる森内伝詩集との出会い 倉橋 収 57
◇連載 青芽群像再見 第七回 冬城展生 59
    青芽60年こぼれ話(四) 富田正一 63
告知 37・66                青芽プロムナード 54
寄贈新刊詩集紹介 54            寄贈誌深謝 66
目でみるメモワール 67           既刊図書 71
編集後記 72
表紙題字 富田いづみ/表紙画 文梨政幸/扉・写真 富田正一



 あまつぶ/菅原みえ子

はるか の はるか また はるか
幼な児 独り 眠ります

  ぽ
            ぴ

あまつぶ こそり 忍びます
やがて その ネ は お床を くるみ

ぴ     ぽ
        ぽ       ぴ

透けた まあるい なみだ つぶ
少女が 独り やって くる
なわとび しながら 駈けて くる

お床の まんま さらわれて
ぴたり ふたりは
夢を 跳ぶ

 ピッタ オ ピッタ エ ピッタ トン
 エ ピッタ オ ピッタ トンナ タラ

幼な児は 呪文 つぶ やく よぶ わらう
少女は みつめる うなずく ささやく

はる めいて はなびら はもん はらり
ほの ぐらい ほほえみ ほのお ほわり

ゆめの はなばな あおく ひかり
ゆめの しずく ぴった したたり

幼な児は 額に あま つぶ のせて
眠っています
ひめ やかな なみだの わを
ふたり 跳んでいます

   トンナ タラ エ ピッタ タラ
    トンナ タラ オ ピッタ タラ

 *epitta(みんな)
  opitta(残らず)
  ton・natara(光っている) −アイヌ語−

 汎用性のある横書きで紹介しなければならないのが残念です。縦書きですと「ぽ」や「ぴ」が本当に「あまつぶ」のように見えます。ぜひご自分のパソコンに取り込んで、ワードか一太郎の日本語ソフトで縦書きにしてみてください。
 もちろん横書きでも作品の本質を損ねることはありません。「幼な児」と「少女」の間合いがやさしく縮まって、アイヌ語の語感と微妙なハーモニーを奏でます。それにしてもアイヌ語とは本当に柔らかな言葉だと言えましょう。北海道にお住まいの詩人にしか書けない佳品だと思いました。



詩誌『流』28号
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2008.3.3 川崎市宮前区  非売品
西村啓子氏編集・宮前詩の会発行

<目次>
詩作品
福島 純子 樹は森に植えて 裁縫箱を手にして それぞれのワイングラス 2
山崎 夏代 鬼の末裔 8
山本 聖子 ハイ・ジャンパーの夜 過去未来 しばらく留守にします 14
麻生 直子 珠州から禄剛崎に 20
島田万里子 アベさんとの夜 柘榴 麩菓子 24
杉森 ミチ 足音 街路樹 木の音 30
竹野 京子 アリと余裕 玉ねぎ ロボット鹿鳴館時代 36
中田 紀子 昼下がり 頼まれたボタンをつける オカアタンオカエリ 42
西村 啓子 殺意 キーを捜せ 馬鹿正直が地球を救うか 48
ばばゆきこ それぞれの 降ってくる 眠り 64
林  洋子 埋もれる猿ケ森ヒバ埋没林 数馬のあら樫 60
エッセイ
山田  直 世界文学としての現代詩 −中田紀子詩集『一日だけのマーガレット』 64
麻生 直子 樹木たちとの会話 −林洋子詩集『西新宿の欅』によせて 66
山本 聖子 奔流 −現代詩の行方9 行間ほどの深遠 68
林  洋子 西村啓子 最近の詩集から 70
西村 啓子 最近の詩誌から 72
会員住所録 編集後記



 キーを捜せ/西村啓子

いつからこんな店があったのだろうか
なにか必要なものがあるかもしれない
ちょっと入ってみる
入り口そばのワゴンのなかに レギンス スパッツ
手にとってみると レースやリボンのついたもの ラメいり
若い人がスカートのしたに穿いているアレ
高価ではないが防寒用にするには不向きな値段だ
気づくと入り口が閉まりかけ ガタッと停止した
自動ドアだったとは知らなかった
だれもいない店の奥にはいるのがためらわれ
あたりの洋品に目をやると
スモックのようなブラウスや ビラビラしたスカート
とてもきれいだが 必要なものではない
帰ろうとすると
ガラスがはめ殺しになっていて
入ってきた場所がわからない
きっと解除するキーがあるはずだ
触ったのはレギンスだけだが
歩いたときスカートの裾に触れたものがあるかもしれない
突き出した下腹でよく触ることもある
エンター バック ダブルクリック
あちこち試してみるが
こういうことをすると
混乱してますます解除できなくなっていくものだ
大声を出して店の人を呼ぼうと思うが
どんなのがでてくるのかもわからない
まして出たきりひっこまなかったらどうしよう
恐怖にかられ 商品の間をぐるぐる歩き
入り口らしき一枚ガラスを押したり引いたり叩いたり
指で探って隙間をこじ開けようとしたり

いつのまにか自分を消すキーを押したらしい

 インターネットの仮想商店を描いた作品だと思いますが、現実の「店」とタブルイメージになっていて、見事です。「歩いたときスカートの裾に触れたものがあるかもしれない/突き出した下腹でよく触ることもある」と、自分を茶化して表現しているところも好感を持ちますね。最後の1行、「いつのまにか自分を消すキーを押したらしい」も決まっています。21世紀という現代でなければ書き得ない秀作だと思いました。



   
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