きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.2.26 河津町・河津桜




2008.3.3(月)


 夕方から日本橋兜町の日本ペンクラブ会館に行きました。今月いっぱいで日本ペンクラブと電子文藝館のHPを管理・運営している会社が撤退するので、そのあとをどうするかという相談です。事務局と広報委員会、電子文藝館委員会の3者でリニューアルの協議を行いました。
 結論から言うと、その会社が撤退したあとには一部、別会社に入ってもらいますが、管理は事務局、運営は二つの委員会で、ということになりました。理事会の承認を得たあとで正式なものなりますけど、私たちが決めたことがひっくり返ることはありませんから、実質的な決定です。

 広報委員会は措いて、電子文藝館はちょっと複雑になります。今まで通り委員長に提出された作品を、委員長指示で私(副委員長)がまずワード形式でアップします(アップの具体策は、ネットの特性を考慮してここでは述べません)。それを委員が読んで校正し、訂正すべき箇所を委員長に報告し、委員長がさらに私に指示します。それを再度アップして、必要なら再々度アップ、再々々度アップと繰り返して完全原稿にします。それから加藤委員がHTML化して事務局に提出します。事務局はそれを文藝館HPにアップするという手順を決めました。

 やることは面倒なのですが、内容は単純です。校正を担当してもらう文藝館委員の皆さまには、従来の仮サイトのHTMLなりPDFなりを読んでもらっていたのがワードで読んでもらうことになる、という点が異なるだけです。も大きな混乱はないでしょう。
 最終的にHTML化して文藝館HPにアップすることは、実は加藤委員にとっても私にとっても、技術的には簡単なことです。しかし、それはあえて事務局で、と主張して、その意見が通りました。

 なぜ事務局かは、私なりに二つの説明をしました。ひとつは、日本ペンクラブのHPだから事務局が責任を持って関与してもらいたいということ。今までも形式的には事務局が関与していましたが、実質的には業者さん任せになっていました。事務局に技能者がいなかった、ということもありました。しかし今回、パソコンやネットに強い局員が2名も採用されましたので、その心配はなくなりました。あくまでも事務局のコントロールのもとに運営できる体勢が整ったのですから、責任の所在という面で関与してほしいと主張したわけです。

 もう一つは、組織としての面です。今は加藤委員や私のボランティアでなんとかなりますが、二人が仮に退会すると文藝館はどうしようもなくなります。個人の力だけに頼るのは組織としては問題です。事務局が入っていれば、万一、二人が急に抜けても後釜を探すことができますし、前出のようになれば事務局としても内容を把握しているわけですから、交代もスムーズに行くはずという目論みです。

 思い返せば10年前、私自身がHPの何たるかも知らずに加わった電子メディア委員会、そしてその後の電子文藝館の創設。怖いもの知らずだったなと思います。これでようやく組織的な運営になりそうです。ここまで引っぱってくれた秦理事と業者さんには、心から感謝しています。新しい時代に突入したわけで、まだまだ力不足は否めませんが、なんとかさらに増強された文藝館にしていきたいものだと思っています。文藝館読者の皆さまのご声援を期待しています。



詩誌『馴鹿』48号
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2008.2.29 栃木県宇都宮市
tonakai・我妻洋氏発行 500円

<目次>
*作品
冬のトマト…青柳晶子 1          刷新…齋藤新一 2
空間を歩く…入田一慧 5          短詩九編…和氣康之 11
測る…矢口志津江 15            秋/存在/短歌八首…大野 敏 17
一輪の花…和気勇雄 20           空の神様…村上周司 23
落ちる…我妻 洋 25
*橇−同人のエッセイ欄−
綿の花…青柳晶子 8            金子光晴未発表詩『詩集三人』の位置など…我妻 洋 9
後記                    表紙 青山幸夫



 冬のトマト/青柳晶子

暖かい家の静かな夕食
トマトと胡瓜・レタスのサラダ
シャキシャキ酸っぱいお決まりのメニュー
けれど旬でない野菜の味はいまひとつ
ビニールハウスの石油のにおいがする
罪の意識をばりばり噛みくだき
ツバルの人への思いを粉々にして飲み下す

子供だった頃 夏の日射しのしたで
まるかじりしたトマトの味
おなかの底へ泌みこむようだった
トマトも胡瓜も夏のエネルギーだった
どうして真冬にトマトを食べる?
冬のトマトをスライスすると
遠い氷海で雪魂がまたひとつ
ざばーんと海になだれ落ちる

    −ツバルは国名、海面上昇により国土が沈みかかっている−

 たしかに「旬でない野菜の味はいまひとつ」で「ビニールハウスの石油のにおいがする」のかもしれません。しかし、私たちは今のところ「罪の意識をばりばり噛みくだき/ツバルの人への思いを粉々にして飲み下す」ことしか出来ないように思います。もちろん旬のものしか食べないという選択も可能でしょうが、それを実行するには困難が伴うかもしれません。ここで大事なのは、たぶん、「冬のトマトをスライスすると/遠い氷海で雪魂がまたひとつ/ざばーんと海になだれ落ちる」のだという意識を常に持つことのように思います。その意識があれば、今すぐは無理としてもいずれ「旬でない野菜」から離れることもできましょう。そういう問題意識を提示した作品だと思いました。



詩とエッセイ『橋』123号
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2008.3.1 栃木県宇都宮市
橋の会・野澤俊雄氏発行  700円

<目次>
作品T
◇湯豆腐 國井世津子 4          ◇時間・他 高島小夜子 6
◇メロディー 冨澤宏子 8         ◇時 瀧 葉子 10
◇三十五年来の友人 若色昌幸 12      ◇雪虫・他 都留さちこ 14
◇植物四題 蓑和田初江 16         ◇鐘 壷中天地 18
◇庖丁 相馬梅子 20
石魚放言
山里 蓑和田初江 22            歩くこと 斎藤さち子 23
評論 生きる勇気と智恵を貰った映画達−懐かしの映画追想記− 宇賀神 忍 24
作品U
◇狐塚 草薙 定 32            ◇大王松 斎藤さち子 34
◇裸足の子供 酒井 厚 36         ◇終章・他 和田 清 38
◇疲労する時間 山形照美 40        ◇セピアの道 大木てるよ 42
◇生きている今は 江連やす子 44      ◇翼 そのあいか 46
◇御前崎 戸井みちお 48          ◇燭台 野澤俊雄 50
橋短信 風声 野澤俊雄 52
書評  野澤俊雄 ◇斎藤さち子詩集『間』しもつけの心出版社 53
受贈本・詩誌−覧 53
編集後記 55                題字 中津原範之  カット 瀧 葉子



 湯豆腐/國井世津子

土鍋を真ん中に
向かい合って座る連れと
五十年
時を刻んで 寡黙のなかに伝わる
湯気の向こうの顔に
「死ぬまで一緒かなあ」
賽の目の豆腐が揺れる

ゆらゆらと浮かぶ湯豆腐が
夜を灯している

お互い
あるがままに
心眼を開き・心耳を傾け
崩れる湯豆腐に
歳月を引き 細い明かりの
昭和の夜を投影している

湯気はのぼり
静かに失われていく時間−
「いまだこの世に何も残せそうにもないが−」

体がほのかに温まってくる

 一緒に「五十年/時を刻ん」だ夫婦の、ある日の夕食風景でしょうが、「崩れる湯豆腐に/歳月を引き」、「湯気はのぼり/静かに失われていく時間−」というフレーズに、その50年が反映しているように思います。振り返れば「お互い/あるがままに/心眼を開き・心耳を傾け」た時期もあったのでしょう。「いまだこの世に何も残せそうにもないが−」とは言いながら「体がほのかに温まってくる」という最終連に夫婦の有り様を考えさせられた作品です。



隔月刊詩誌
『サロン・デ・ポエート』
272号
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2008.2.25 名古屋市名東区
中部詩人サロン編集・伊藤康子氏発行 300円

<目次>
作品
北冥へ 序章…みくちけんすけ…4
いま 私の前で…高橋芳美…5        モンキーパーク…小林 聖…6
誰か私を撃って…横井光枝…7        会津・飯盛山…阿部堅磐…8
さようなら 私の青い鳥…野老比左子…10   抽象 第六番 ジョージア・オキーフの絵画によせて…足立すみ子…11
初詣…荒井幸子…12             水族館…伊藤康子…13
散文
詩集「コラール」を読む…阿部竪磐…14
鈴木哲雄詩集「神様だって」を読む…阿部堅磐…15
詩歌鑑賞ノート 下村和子の詩−詩集「隠国青風」より−…阿部竪磐…16
同人閑話…諸家…18
詩話会レポート…20
受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記     表紙・目次カット…高橋芳美



 会津・飯盛山/阿部堅磐

石段を上り切ると
ちょっとした広場
黄葉がハラリと落ちる
左手に並んでいる十九基
白虎隊隊士の墓
墓は鶴ヵ城の方を向いている

ガイドは語る
――戦場から水路を伝って逃れてきた隊士た
ちは城にて一戦しようと、この山から城を見
ると、城が燃えており、今はこれまでと自刃
し果てたのです。実は燃えていたのは城下で
あり城ではなかったのですが。

その自刃の場は
今は緑の草地になっている
先に見学して来た
鶴ヵ城内の絵のパネルの数々
隊長篠田儀三郎以下隊士の
面々をおぼろに私は思い浮かべる
齢十五歳から十七歳の若者たち

広場の右手に建つ
イタリアはローマ市民から
贈られた記念の碑
彼の国の人たちは
その忠烈ぶりに
感じ入ったのであろう

藩校日新館の若き烈士たちよ
あなた方は凄い人たちだ
徳川親藩に見る会津魂

少し下ったところに
十九士の霊神たちを
祀る古いお堂が建っている

堂内を飾っている
壮烈かつ紅顔の剣士たちの人形に
夕光
(ゆうかげ)がほんのり映っている
前を勢い良く流れるその水路を
眺めながら私は
しばらく感懐に浸る

山下の土産物売場
その二階のステージ
白い面
(おもて)の女剣士
剣舞白虎隊≠ェ披露される
私は盃を飲み干し
壮重なメロデーに唱和する
秋が終ろうとしている

 いきなりの私事で申し訳ありません。私の父方の先祖は、會津支藩の平藩・馬廻役という下級武士でした。父親の実家に行くと床の間には鎧冑、長押には槍、食事は箱膳というのが50年前の状態でした。會津藩は會津の殿様≠フ藩として慕われていました。
 もちろん私も何度か「会津・飯盛山」には行っています。作品に描かれた状況は手に取るように判ります。一口に「会津・飯盛山」と言っても相当広いのですが、作品はそこを要領よくまとめていると思いました。そして最終連の「秋が終ろうとしている」というフレーズが佳いですね。旅人として會津の人たちの精神に接しようという気持が込められているように感じます。



   
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