きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.2.26 河津町・河津桜




2008.3.8(土)


 日本詩人クラブの3月理事会・例会が東大駒場キャンバスで開かれました。18号館で行われた理事会では、来月開催される日本詩人クラブ3賞贈呈式の細かな役割などが議論されましたが、トピックスは入会者でしょうね。詩人クラブの会計年度は4月1日から3月31日です。そのため新年度早々からの入会者は、この時期に多くなるのですが、今回は会員が9名、会友が3名の計12名に上りました。いずれも入会審査委員会の賛同を得て、理事会で承認されました。私が推薦した1名も無事に通って、胸をなでおろしています。

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 続いて学際交流ホールで開かれた例会では、2名の会員による朗読と小スピーチ。写真はその時のものです。引き続き第7回「詩界賞」受賞者の石原武さんによる講演「状況論」を拝聴しました。受賞作『遠い歌』をふまえて、日常にひそむ危機や炸裂する現実に対し詩の言葉がどのように向き合うか、その最近の取り組みの経過と成果などをお話しいただきました。イラク戦争捕虜虐待で悪名高い、グアンタナモ基地の話も出てきて、興味深かったです。

 例会には70名近い人にお集まりいただき、ファカルティハウス・セミナールームで行われた懇親会にも50名ほどの人が参加くださり、盛会でした。
 二次会は気の合った男と二人だけで呑んで、かなりグデングテンになりました。男同士だと思って、調子に乗って食べたニンニクが効いたかな(^^; 宇都宮のAさん、遅くまでありがとうございました!



詩誌『東国』137号
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2008.2.10 群馬県伊勢崎市
東国の会・小山和郎氏発行 500円

<目次>
●詩    聖痕 他一篇 2 佐伯圭     白いこども/辻薬局前の一行詩 10 金井裕美子
        ゆきかぜ 14 綾部健二              背番号19 17 奥重機
  春待ち願い/巡回バス 20 中澤睦士    追いかけて追いかけて/この魂 26 田口三舩
ルーシー・タパホンソ詩篇 29 青山みゆき訳          ショートゴロ 40 伊藤信一
        机上の葉 42 本郷武夫           ひんやりトマト 54 若宮ひとみ
         黒い私 58 堀江泰壽           バス・ストップ 60 福田誠
        袋田の滝 62 愛敬浩一             ますみかげ 64 江尻潔
        電気の話 65 大橋政人                 岬 68 野口直紀
           雉 70 三本木昇            いつもの…… 72 高田芙美
        プレイス 74 清水由実                 鍵 77 斎藤光子
        指紋呪文 80 柳沢幸雄              ササミキ 82 青木幹枝
   消・え・る/呪いU 84 山形照美                手紙 89 渡辺久仁子
      秘事のように 92 川島完
●針の穴
細見和之詩集『ホッチキス』44 愛敬浩一 右藤俊郎著『国木田独歩の短篇と生涯』45 愛敬浩一
   大掛史子詩集『桜鬼』46 川島完      菊田守詩集『一本のつゆくさ』47 川島完
田中順三詩集『あかねぞら』49 小山和郎        苅田日出美詩集『川猫』50 小山和郎
 関根由美子詩集『つり橋』51 小山和郎      黒田佳子詩集『夜の鳥たち』52 小山和郎
●会員名簿 95
●あとがき 96
●題字 山本聿水
●装画 森川e一



 ゆきかぜ/綾部健二

模型のスケールは三五〇分の一 組み立てた艦橋を接着
する 次第に一九四〇年竣工時のシルエットが姿を現わ
す 幾多の海戦から生還し 大戦後は復員輸送船として
一万三千名の人員輸送を担い その後は賠償に供されて
中華民国海軍の旗艦になるという数奇な運命を辿った甲
型駆逐艦『ゆきかぜ』

一九六八年夏 面接試験官の一人である総務部長は「君
は 我社ではどのような心構えで働いていきたいと考え
ていますか?」と 十七歳の僕に尋ねた 想定していた
質問だったが 緊張のために言葉足らずの答えになった
「 内向的な性格ですので バイプレイヤーのような立場
が自分にはふさわしい そう思っています」

太平洋における代表的な作戦のほとんどに参加し 常に
最前線で熾烈な戦いに明け暮れ 主力艦であった『大和』
『武蔵』『信濃』の最後を見届けた『ゆきかぜ』 もし
かすると 僕の父が二等機関士として乗り組んでいた輸
送船団を 僚艦と共に護衛していた時期もあったのでは
ないか 「三度の沈没を経験して その度に味方の駆逐
艦に助けられた」 彼は一九八一年夏に息を引き取るの
だが それ以上のことを語ることはなかった

二〇〇七年春 定年まで数年を残して 万年係長の僕は
航空宇宙関連メーカーであるF社を退職した 高度成長
時代からバブルとその崩壊を経て今日に至るまで 戦艦
あるいは航空母艦ともいうべき組織と役職者たちを 駆
逐艦のようにサポートしてきた一群 その中のひとりが
僕だったのだ

『ゆきかぜ』は 季(とき)の飛沫を散らしながら 波
間を全速前進していく こころの未知の部分から生まれ
 知らぬ間にかたちづくられたひとつのイメージ 僕は
職場から贈られる退職記念品として 美しい名前のこの
模型を希望した 旧い不満や失望の数々は過去に洗い流
し 埃を被った直観を磨き直し 僕だけの数奇な運命?
への取舵を 大胆に切っていくために

 職場における自分の位置(地位)というのは微妙なもので、誰もが社長になれるわけではありませんから、自分の能力と適性を早く見抜いた者が成功者だと私は思っています。職場の、特に日本の職場組織は、実は軍隊組織です。徹底した縦の命令系統と適度な横の連携を見ると、その共通性は驚くばかりです。「主力艦であった『大和』『武蔵』『信濃』」ばかりでは戦争は出来ません。「甲型駆逐艦『ゆきかぜ』」のような存在があって初めて組織力が発揮されます。

 紹介した作品は、その軍隊と会社組織との共通点を「戦艦あるいは航空母艦ともいうべき組織と役職者たちを 駆逐艦のようにサポートしてきた一群 その中のひとりが僕だったのだ」と看破して、見事です。それは「知らぬ間にかたちづくられたひとつのイメージ」かもしれませんが、「万年係長」も組織上は必要不可欠の存在だったと言えるでしょう。作者と私はほぼ同年代、「高度成長時代からバブルとその崩壊を経て今日に至るまで」同じような立場で会社人生にけじめをつけて、好きな詩作に打ち込む同志として声援しています。



詩誌『撃竹』67号
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2008.2.1 岐阜県養老郡養老町
冨長覚梁氏発行  非売品

<目次>
水仙…中谷順子 2             あれから…中谷順子 4
傾斜する村…頼圭二郎 6          冬の湖まで…北畑光男 8
虚無という猫が走る…石井真也子 11     冬の薔薇…斎藤 央 14
ハタノ君…斎藤 央 16           暗黙のうちに…若原 清 18
タマシイ…堀 昌義 20           乙女の祈り…掘 昌義 22
黒い太陽…前原正治 24           言葉…前原正治 26
二月の川…冨長覚梁 27           うるわしき死…冨長覚梁 28
無明の湖…冨長覚梁 30
撃竹春秋…32



 水仙/中谷順子

一輪では 駄目ですのね
私という非衝撃的な存在は。

泣いたあとの笑いのように
今日も
水仙の花が咲いている。

    ☆

詩人は損をしたっていいんですよ
損をするのが詩人ですから。

損をするのがいいんですよ
詩人は報われない存在ですから
訳も分からない情熱は
得をする方にはもともと向いてないのですもの

    ☆

文句をいいましょう
明日のことに煩いましょう。

身の上を思ってグジグジ悩みましょう。
道なんていうへんてこなものに取り付かれましょう
壁に頭をぶつけて苦しみましょう
自分の不甲斐なさにオイオイに泣きましょう
人間なんですから。

    ☆

泣いたあとの笑いのように
今日も
水仙の花が咲いている。

 「詩人」について、特に第4連が言い得て妙です。たしかに「詩人は報われない存在」であり、「訳も分からない情熱は/得をする方にはもともと向いてない」でしょうね。この「訳も分からない情熱」という詩語が詩人の本質を一言で謂っているように思います。最終連の「水仙の花」の位置づけも見事だと思いました。



詩と評論『操車場』10号
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2008.4.1 川崎市川崎区 田川紀久雄氏発行 500円

<目次>
■詩作品
影のサーカス −28 坂井信夫 1
アンチョビ 高橋 馨 2          あなたは永遠を腕に提げているということ 野間明子 4
父と 長谷川 忍 6            瞽女3 田川紀久雄 8
■エッセイ
新・裏町文庫閑話 井原 修 10       H氏からの手紙 12
詩人の聲(天童大人氏) 田川紀久雄 14    ホタルレポート顛末記 坂井のぶ子 15
末期癌日記二月 田川紀久雄 16
■後記・住所録 29



 あなたは永遠を腕に提げているということ/野間明子

捜さないでください
昨日の夜明けを
日の玉は約束の徴のように
灰紫の雲の間を押し出されていきましたね
屋上の冷たさに歯を揺らしながらあなたは
自分に課せられた命題を呑み下していました
本当にそうであったか確かめたくても
捜すのは無駄なこと
二度と太陽はあなたを召命するために昇ってきません

求めないでください
明日の夕暮
月見草の花が音立てて開く山際の道を
懐しいひとと腕をからませ帰ってくることを
煉瓦塀の奥の窓に橙色に灯が点り
水が流れる音 冬瓜の匂い
それはあなたの幼い日の記憶です
明日たとえ
同じ情景のなかを二人歩いてみても
あなたはあの日の風音に心を澄ましつづけ
ついに一日をとり逃がすことに気づかない
明日も
明後日も

疑わないでください
だから
今日のこの真昼間
うすら寒い空気のなかを病院へ通う道
歩道があって 途切れて また続いて
やせてねじ曲がったオリーブの木が何本か白っぽい葉を裏返しています
うすら寒い明るみに包まれてふとあなたは知る
これからこうして生きていくのだと

とりたてて起伏も展開もない生活道路
まさか啓示とも思われないのですが
疑わないでください
この薄い明るみ 鈍やかな肌ざわり
今日あなたは
永遠を手にしているのです

 「捜さないでください/昨日の夜明けを」、「求めないでください/明日の夕暮」を、そして「疑わないでください」。ここにはあらゆる些細なものへの懐疑を捨て、「明日」というあいまいな希望を捨てることを求めた、勁い意思を感じることができます。そして最終連では「今日あなたは/永遠を手にしているのです」と結ばれています。「今日」という「永遠を腕に提げている」ということでしょう。「とりたてて起伏も展開もない生活」の中で、「今日」という日の大事さをうたった作品だと思いました。



   
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