きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
080226.JPG
2008.2.26 河津町・河津桜




2008.3.9(日)


 午後から代々木上原にあるJASRACけやきホールに行ってきました。(社)日本歌曲振興会主催の「新作歌曲をあなたに・・・声」というコンサートの案内状をいただいていました。詩・作曲・声楽の3部門の会員がチームを組んで新作歌曲を発表するというもので、1999年から始まって、今回は第7回だそうです。

 作曲・声楽部門に知り合いはいませんが、詩部門では日本詩人クラブの会員が何人かいらっしゃいます。その関係で毎回のようにお誘いを受けています。詩はプリントが配布されますから、それを読みながら歌を聴くのですが、なかなか高いレベルだろうと思います。私は私なりにどれが良かったかメモりますけど、今回は日本詩人クラブの元会長・N氏の作品が抜群でした。「雪になって」と「鬼さん」の2曲が披露されて、いずれも詩と曲がよくマッチしていました。「雪になって」は天にいる父母の声が雪になって降ってくるという情感たっぷりの作品、「鬼さん」は缶けりの鬼が恋をするという楽しい曲です。N氏の詩は私も勉強させてもらっていますけど、作詞の分野でも大変なものだなと改めて感じました。



詩マガジン『PO』128号
po 128.JPG
2008.2.20 大阪市北区 竹林館発行 840円

<目次>
特集 旅
安水稔和 旅は異郷 つらくても苦しくても楽しくても嬉しくても…9
有馬 敲 ニューデリー旅宿…17       小川和彦 旅の日の私 思い立ったらプラハヘ…45
横田英子 旅−花を求めて−…51       梶谷忠大 芭蕉の旅に習わんとした若き子規の旅…55
藤原節子 離島の旅…61           寺沢京子 大切なことって何だろう…65
日野友子 毎日…67             蔭山辰子 センチメンタルジャーニー−スコトン岬眺想−…68
清沢桂太郎 北海道を旅する…70       中野忠和 コーヒーカップ…72
三方 克 時間の旅行者
(タイム・トラベラー)…73
詩作品
堀内幸枝 向こう向こうの村…74       曽我部昭美 いしづっつぁん(石鎚山)…76
豊原清明 おばあちゃんの詩…78       根本昌幸 宇宙人…80
松田理治 作者と読者…82          星乃絵里 リップクリームとイヤリング…83
日野友子 繭…84              神田好能 まちぼうけ…90
丈六友子 自然にアイロン/あしたの夕日…92 北山りら 花瓶のばら…95
中野忠和 ケーキ/傘/虫…96        北村こう 銀河孔雀とアマデウス/忘却の現世にて…106
佐古祐二 宣言…110             与那嶺千枝子 私のルーティーン…112
加納由将 町の風景…114           梶谷忠大 ことばの流れのほとり…124
長谷川嘉江 やさしさ/ネコ…126       清沢桂太郎 初老の断章/不条理を…128
野信也 あたまのいい人/よりそうように…140 藤谷恵一郎 シャボン玉…144
川中實人 いつか、海に還ろう…145      堀  諭 単細胞培養期…156
水口洋治 つつじ/ソフトクリーム…157    牛島富美二 ウィーンにて…160
左子真由美 Mon Dico
(私の辞書)・愛の動詞V…162

扉詩 待つ 神田好能…1
ピロティ 詩歌は神なりき 三島佑一…7
舞台・演劇・シアター 「ますらお」と「たおやめ」 河内厚郎…86
ギャラリー探訪 韓日現代美術同行展・grau gallary 川中實人…88
一冊の詩集 オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』山崎広光…102
一編の小説 原 宏一「床下仙人」を読んで 関 中子…104
韓国現代詩の今 趙鼎権・朴柱澤…116
エッセイ 清貧に甘んじる 神田好能…122
この詩大好き 金子みすゞ「二つの草」 北山りら…136
エッセイ 雑感−門外漢のたわごと 門脇吉隆…138
竹林館BOOKS 『原圭治自選詩集』市川宏三…152
ビデオ・映像・ぶっちぎり「パフューム−ある人殺しの物語−」 藤谷恵一郎…154
詩誌寸感 伝統と個と詩語と、現代詩はどこへ… 梶谷忠大…166
POランド 構成を考えて、効果的な表現を 佐古祐二…168
◎受領誌一覧…170
◎執筆者住所一覧…171
◎編集後記…172
◎お知らせ
 会員・誌友・定期購読者募集/投稿案内/ホームページ/「PO」例会/広告掲載案内/「PO」育成基金…173
 詩を朗読する詩人の会「風」例会…174
編集長 佐古祐二
編集部 左子真由美・寺沢京子・中野忠和・藤谷恵一郎・藤原節子・水口洋治



 毎日/日野友子

一日の山河は
途方もなく険しくて
自分を転がして越えて行くのがやっとのことだ

夕暮れ
木々が群青色の空に
黒々と姿を映しはじめる頃
ようやく 峠にたどり着いた旅人のように
気持ちが腰を下ろして
風を手繰り寄せようとする

街の明かりが肌に滲んでくる十月
明かりは いつも私を慰めてくれる

一日は長い旅
私は 出立し そして帰ってくる
ほんの少しずれた場所に
毎日

 「特集 旅」の中の1編です。旅は旅でも「一日は長い旅」と着想したところに作者の柔軟な思考を感じます。「帰ってくる」のも「ほんの少しずれた場所」であるというところも佳いですね。「毎日」、ちょっとずつズレた1日に帰ってくる、と採ってよいと思いますが、この僅かなズレを言うところに作者の非凡さをも感じます。第3連の「街の明かりが肌に滲んでくる十月」というフレーズとともに、詩を読む楽しさを味わわせていただきました。



個人誌『猟』3号
ryo 3.JPG
2008.3.20 東京都八王子市
乾夏生氏発行  400円

<目次>
小説 沈む村で/乾 夏生 1
編集後記 24



 沈む村で/乾 夏生

  冬

 吹き溜った落葉を浸して、澄んだ水が流れていた。里山から下るそういう細い流れを、村ではザクと呼んでいる。
 父親はザクに踏み入った。屈み込んで、流れの中の石を剥がした。水底で沢蟹の黒い甲羅が動くのが見えた。父親はそれを掴んで、バケツに放り込んだ。バケツの底で小さな音が転がった。
 ザクの両岸は畑で、山裾の雑木林につながっている。子供は畑の縁にしゃがんで、父親が沢蟹を獲るのを見ていた。自分でも蟹を獲りたかったが、子供がはいているのは祖父の編んだわら草履だ。ザクに入ればたちまち足が濡れてしまう。
 父親はゴムの長靴をはいていた。あちこちが白っぽくすり減った長靴を、父親はリュックサックから最初に取り出した。その長靴と朽葉色の軍隊毛布と何升かの米――それが父親が戦争から持ち帰ったすべてだった。
 戦争が終わって三年も経って、父親は突然帰って来た。眠ってばかりいる。その日も、午後になってようやく起きだした。登――と子供を呼んだ。五歳の子供は、聞こえなかったふりをした。父親が戦争に行ってから、子供は生まれたのである。父親はもう一度子供を呼んだ。そして、沢蟹を獲りに行く、と言ったのだ。寒中の沢蟹を、村では醤油で炒って食べる。この時季の蟹は餌を食べず、身がきれいだというのだった。
「いるかあ、蟹は……」
 丸太を三本渡した橋のたもとに、やにっぽい眼をしておトモお婆が立っていた。炭背負いに行く途中らしく、空の背負子
(しょいこ)を背負っていた。里山で焼いた炭を部落の倉庫に背負い下ろす日傭取(ひようと)りで、おトモお姿は暮らしている。息子は二人とも戦死して、部落外れの一軒家に一人で住んでいる。
「おめえは、帰れて良かったなあ」
 おトモお婆が言ったが、父親は水を探り続けていた。
「この子とは、初めて会ったあだんべ」
 父親は黙っていた。
「なんだか、おめえには似てねえ子だなあ」
 父親の手が止まった。その時、遠雷のように発破の音が響いて来て、子供の体を鈍く揺すった。村の入り口でダム工事が再開され、しきりに発破の音が聞こえて来るのだ。それにつられたように風が起こり、雑木林の枯木がどよめいた。

--------------------

 作者21歳のときに書かれた69枚の作品で、今回改稿したものだそうです。「冬」「夏」「秋」「また冬」「春」の章立てになっていて、ここでは冒頭の「冬」を紹介してみました。敗戦後の1950年ごろが舞台と思われます。小学校5年生の主人公「登」の村は、やがてダムの底に沈むことになっています。ガキ大将を中心とした子どもの世界、父親の意外な秘密…。それらもやがてダムの底に…。敗戦直後の世相を背景とした人間のドラマと云えるでしょう。機会のある方は是非お読みください。一気に読ませる作品です。



『千葉県詩人クラブ会報』201号
chibaken shijin club kaiho 201.JPG
2008.3.10 千葉県茂原市 斎藤正敏氏発行 非売品

<目次>
平成20年度総会のお知らせ 1
会員の近刊詩集から64 古寺蛙鳴詩集『私の耳は海』1
平成20・21年度理事候補選挙 2
千葉県詩集第40集感想文U 3
大いなる邂逅の中で歩む−荒井愛子詩集『イエスをめぐる女たち』中村洋子 4
会員の近刊詩集から62 荒井愛子詩集『イエスをめぐる女たち』4
会員の近刊詩集から63 石村柳三詩集『晩秋雨』4
東日本ゼミナール・千葉 プログラム 5
石村柳三詩集『晩秋雨』−黙
(もだ)せるものの声 池山吉彬 5
古寺蛙鳴詩集『私の耳は海』−波の音がいつも聞こえる−に寄せて 高安義郎 6
会員詩集一覧 6
詩 茨木のり子/三方 克 7        ヒトラー/三方 克 7
  通り過ぎた風/松田悦子 7       桜鬼
(はなおに)U/大掛史子 7
新会員紹介 8    会員活動 8     受贈御礼 8
編集後記 8



 茨木のり子/三方 克

韓国の詩は実の詩
日本の詩は虚の詩
そうかなあ
日本にもたくさん実の詩があるよ
労働者の詩人 農民詩人
無名の市民の詩人
彼らの心は実であります
青いユニホームを着て居酒屋をうずめ
ニッポン ニッポンとどなったりはしない
でも あたしって虚?それとも実?
肉体がなくても生きてるあたしって−
紫式部もダンテも生きてるよ
実があるから虚があり
虚があるから実があるんだ
せめていやなことはいやといおうよ
虚実の本音を鳴らそうよ
             「詩誌PO124」より。

 詩のコーナーに載っていた作品です。初出は大阪の詩誌『PO』124号とのことで調べてみましたら、特集「茨木のり子」の中に収められていることが分かりました。茨木のり子さんが語った、という風に採ってよいかと思います。韓国と日本の詩の違いについて識者≠轤オい人の言説をやんわりと批判したもので、茨木さんの言葉を借りたというおもしろい設定です。亡くなった茨木さんに語らせる「肉体がなくても生きてるあたし」というフレーズが効いていると思いました。



   
前の頁  次の頁

   back(3月の部屋へ戻る)

   
home