きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.2.26 河津町・河津桜 |
2008.3.19(水)
確定申告の月ですね。昨年は退職して初めての年ということもあって、青色申告会に出向いて申告しました。今年は税金が掛かるような収入が無かったので、たぶん無申告で済むだろうと思って、出向くことはせずに電話で問い合わせてみました。私の質問に、青色申告会の係員は応対も爽やかに「たぶん無申告で済むでしょうが、一度は市役所の税務課で申告してください」とのこと。市役所に電話すると、やはり一度は月末まで来てくれとのこと。やれやれ。まあ国民の義務だからしょうがないかと、来週行くことにしました。行ってみての様子ですが、所得が無いことを一度認定してもらうと、あとは無申告でよさそうです。人生初の所得税〇が目の前にぶら下がっていて、嬉しいやら淋しいやらの複雑な心境です。
○羽生康二氏著『昭和詩史の試み』 |
2008.3.7 東京都新宿区 思想の科学社発売 2000円+税 |
<目次>
第T部 昭和詩史の試み
序 章 変革期の詩人たち――1920年代の詩の状況 2
第1章 短詩運動から新散文詩運動へ――北川冬彦が歩んだ道 15
第2章 『詩と詩論』と春山行夫――26
第3章 プロレタリア詩と中野重治 36
第4章 組織と人間――中野重治の場合 48
第5章 「覆された宝石」の詩人・西脇順三郎 57
第6章 村野四郎『体操詩集』の魅力 69
第7章 農民詩人・猪狩満直 80
第8章 『春への招待』の詩人・江間章子 90
第9章 田木繁と『機械詩集』 97
第10章 詩の俳優・小熊秀雄 108
第11章 「歌と逆に歌に」をめざした詩人・小野十三郎 128
第12章 山之口獏の詩 143
第13章 岡本潤と壷井繁治――戦争協力詩の問題をひきずりつづけた二人の詩人 159
第14章 モダニズムから出発した叙情詩人・三好達治 169
第15章 昭和詩と北川冬彦 183
第16章 戦争協力詩をどう考えるか 197
第U部 十五年戦争と詩人
第1章 時間と空間の詩人――大江満雄論 208
第2章 歌がよみがえるまで――伊藤信吉論 239
第3章 戦争協力詩を書かなかった詩人――秋山清論 267
第4章 『辻詩集』を読む 283
参考文献 294
あとがき 296
3
戦争協力詩問題の広がりと深さを知るにつれて、これは何十年も前に片づいた過去の問題とは言えない、という気持がしだいにわたしの中で強くなってきた。それまでは、この前の戦争のとき多くの知識人や文学者が戦争に協力したのは、時代が厳しすぎたため、かれらが経験不足だったためだから、状況が悪くなっても、前と同じような形で人々が体制側にまわることはないだろう、とわたしは漠然と考えていた。ところが、大国意識をふりまわしはじめたこの国の動向とそれに追随する人々の言動を見ていると、同じことがまた起きないとは言いきれない、と思うようになった。強制されたわけでもないのに国家体制にすり寄っていく学者たち、戦争放棄の9条を持つ憲法を悪しざまに言い、改憲をとなえる有識者たち。そういう人たちが、十五年戦争の時期に次々と国家体制に進んで協力した多数の人たちと重なって見えてきた。
それと同時に、それでは自分は国家体制に協力しないと言いきれるのか、世の中が少しずつ変わっていき徐々に追いつめられていったとき、戦争に向かう体制に協力しないですませられるか、という問いを自分自身に問わざるをえなくなってきた。そうなると、戦争協力詩の問題は、過去の問題ではなく、現在の問題である。壷井繁治や岡本潤の問題ではなく、萩原恭次郎や中野鈴子の問題ではなく、何よりもわたし自身の問題である。こうしてわたしは、詩の世界一般の動向(戦争協力詩、戦争責任の問題がクローズアップされたのは1950年代60年代だった)よりも何十年もおくれて、戦争協力詩の問題と向きあうようになった。
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この本は現在の私にとって非常にタイムリーでした。私事で恐縮ですが、日本ペンクラブの電子文藝館で高村光太郎を採り上げようと思っています。その際、人口に膾炙された『智恵子抄』あたりを単に紹介したりでは芸がありません。光太郎の戦争協力詩を併記することで、批評精神の旺盛なはずの詩人がなぜ戦争協力詩を書いたのかを読者に考えてもらえるのではないかと目論んでいます。いま資料調べの真っ最中ですが、そんな矢先に飛び込んできた本だったわけです。夢中になって拝読しました。
紹介したのは「第16章 戦争協力詩をどう考えるか」の中の、5節あるうちの第3節です。前出の私の目論見は、戦争協力詩は過去の問題ではなく現在の問題だというところまで行き着きたいと思っていますが、まさに「大国意識をふりまわしはじめたこの国の動向」を問題視している部分が重要だと思うのです。そして「何よりもわたし自身の問題である」ことを認識したいと考えています。
本著はその面でもお薦めです。他の章も著者が直接親交のあった詩人たちについて書かれており、現代詩史の貴重な1冊です。ぜひお買い求めになって読んでみてください。
○詩誌『軸』91号 |
2008.3.20 大阪市浪速区 500円 佐相憲一氏事務局代表・大阪詩人会議発行 |
<目次>
特別ゲスト 始発 大野直子 1
詩
おとなの学力 山本しげひろ 2 お守り−戦争展で− 瀬野とし 3
荒野で叫ぶ者の声 中井多賀宏 4 老女 みくもさちこ 5
秋のゆらぎ 和比古 6 出発 西田彩子 7
一歩ずつ 幽間無夢 8 時間泥棒 熊井三郎 8
新会員作品 六十一歳の誕生日に
田島廣子 9
詩
君のもとに…/優しい風 そよかぜ 10 おほさか暮色− 母 玉置恭介 11
梅の花 咲かず やまそみつお 12 林檎 佐古祐二 13
交替勤務 北村こう 14 祝婚歌/猫だましい 16
雪 椛島恭子 16 コラージュの宇宙 必守行男 17
初夢 浅田斗四路 18 嫌われ人日記 いしだひでこ 19
スポーツ考「腹を斬る」 竹島 修 20 夜明け前 脇 彬樹 21
エッセイ
『原圭治自選詩集』おぼえ書き 原 圭治 22 テロリストの夏 玉置恭介 26
短歌 短歌(四)煩悩 清沢桂太郎 27
詩
僕の愛した女性たち/東尋坊/四角い物体 畑中暁来雄 27
記憶/クローバー 迫田智代 30 四十年ぶりの再会 清沢桂太郎 31
存在(さびしさ)位相憲一 32
『軸』90号感想集 34
受贈誌・詩集等紹介 38
編集後記 40
お知らせ 『軸』92号原稿募集・カンパ募集
表紙絵 山中たけし
六十一歳の誕生日に/田島廣子
眼鏡 拡大鏡は
看護の仕事場にも一緒だ
今日は 年寄りばかりと違うんか
先生棺桶に片足つっ込んでいます
片足やないやろ
首までと違うんかあ
くそっ 煮えかえる腹わた
可愛い笑い顔をにこっとして
先生棺桶の董を閉められてカンカンとガンと
釘を打たれそうです
最高の皮肉を言えば心臓の高鳴り顔はほてる
それはまだないやろ 金医師は言った
子宮と卵巣胆嚢も摘出し切腹したような腹
五十歳で女も卒業して男と呼ばれ
ギンギラに燃ゆる太陽に噛み付けば
顔太腕は染み 胡麻粒は蟻達の群れ
嘘が言えず貧しい弱い立場の味方に生きた
身体をおしまずに働いた母のように看護し
何でも言いやすい上司と言われても時には
瞼のカーテンを閉めたい時もある
子供二男一女を生み 姑と三十年間同居 涙
看護業務四十年 まだ停年は迎えられず
ガタゴトガアーと洗濯機で回ったような人生
青空に干せばまだ着れそうな働けそうな今日
腹を空かし 歯でガツガツ噛めば
生きているぞ 生きている幸福に
涙がでそうになる時がある
新会員の作品だそうです。「六十一歳の誕生日に」これまでの半生を振り返った、という趣ですが、第4連の「青空に干せばまだ着れそうな働けそうな今日」という斬新な表現に驚かされました。その前の「ガタゴトガアーと洗濯機で回ったような人生」というフレーズも佳いのですが、「青空に干せば…」の方が数段上だと思います。「青空に干せばまだ着れそうな働けそうな」服=Aではなく「今日」を持ってきたところに、作者独自のポエジーがあると言えるでしょう。もちろん「誕生日」という今日≠ノも掛かっています。
編集後記で畑中暁来雄さんは「社会派」といわれる詩作品をいかに心情豊かに、詩的にまとめあげるかは、私たちの永遠の追究課題となるだろう≠ニ書いていますが、それは言葉を変えれば芸術性の追究ということにもなりましょう。その具現化をこの作品で見た思いをしています。「青空に干せば…」は詩史に遺したい名フレーズだと思いました。
○詩のパンフレット『憲法9条とともに』 |
2008.2.15 東京都豊島区 詩人会議発行 非売品 |
<目次>
出発/秋村 宏
憲法討論/瀬野とし 2 それでも花は狂い咲く/大河原巌 2
ケロイド/玉川侑香 3 わが人生本番−『きけ わだつみのこえ』を再々々読して/土井大助 3
一枚の背広/芝 憲子 4 すてきな9/小森香子 4
忘れもの/佐相憲一 5 9条グッズ/滝村路鹿 5
うつぶせ寝のすすめ/彼来れい子 6 平和を守り支える根/南浜伊作 6
ふたたび その教室から/沖長ルミ子 7 たっぺの子/赤木比佐江 8
誰もが思っている/白根厚子 8 私の訪中記/府川 清 9
希望さえあれば/志田昌教 9 改憲無用/木村 廣 10
ブーメラン/伊藤眞司 10 失くしたもの/野川ありき 11
日本国憲法の下で/杉山ひろし 11 憲法もざいく/中村花木 12
空/岩井 洋 12 殺さないで/杉本一男 13
うぶ声/森 智広 14 公の秩序/佐古祐二 14
仁王のえくぼ/刀根蛍之介 15 憲法の木/荒波 剛 15
日本国憲法
前文(部分)
第二章 戦争の放棄
出発/秋村 宏
人はいつも
夢をみる
未来へつづく歩みは
笑いを誘う
死は自然にやってくるのがいい
心よ
戦争はしない
軍隊をもたない
戦わない
その誓いを繰り返しつぶやこう
さあ
これからじゃないか
スタートする足に
重みをくわえるのは
巻頭詩と言いますか、扉に措かれた作品です。短い詩ですが内容は濃いと思います。「死は自然にやってくるのがいい」というフレーズにはドキリとさせられ、続くフレーズで「戦争」による死はダメなんだということが分かります。終盤の「スタートする足に/重みをくわえる」という詩語も佳いですね。「未来へつづく歩み」の第一歩を踏み出す「出発」。その緊張感と充実感が「重み」という一言に表現され切っていると思った佳品です。
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