きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.2.26 河津町・河津桜




2008.3.25(火)


 特に予定のない日。終日いただいた本を読んで過ごしました。



季刊詩誌『新怪魚』106号
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2008.1.1 和歌山県和歌山市
くりすたきじ氏方・新怪魚の会発行 500円

<目次>
 五十嵐節子(2)夢芝居         岩城万里子(4)水の匂い
  岡本光明(6)時間(冬)        外山洋子(8)罪
 曽我部昭美(10)飛び立つ         寺中ゆり(11)ランボーの詩
(うた)
  水間敦隆(12)断崖の風 T       前河正子(14)九月の海辺
くりすたきじ(16)北の亡者 U       上田 清(18)遠い日
  山田 博(20)おしまいの し          (23)編集後記
 表紙イラスト/くりすたきじ



 罪/外山洋子

死んだ兵士に被せられていた毛布を
どうせ 焼くのだからと剥ぎ取り
売り捌いていたと言う

戦禍のなか 親もなく幼い弟妹をかかえて
生きのびなければならなかった

毛布を盗むため
真夜中、安置された浜辺を
疾走
()けぬけ
一睡もせず 足をガタガタ震わせて
紀ノ川の鉄橋を
這うようにして渡った
その途中 四人いた少女ばかりの
一番年少の少女
()が過って
枕木を踏み外し
真っ暗闇の川へ転落したが
どうすることもできず
泣きながら見捨てて
大阪の闇市へと向った

いまでもその夢にうなされると
目をしばたたかせて語ってくれた

戦禍のなか
少女であった彼女は
恋をしたり 身ぎれいにするどころか
おなかをすかせ 足に血をにじませ
人目を恐れながら 泣くまもなく
くたくたに疲れはて毛布を背負っていた

少女の売る毛布は
だれ疑う者もなく
よく売れたのだという

神様 どうか この少女をゆっくりと
休ませてやって下さい
きょう 彼女は七十七才八ケ月にて
しずかにみまかりました

 「七十七才八ケ月にて/しずかにみま」った「少女」の、敗戦直後の状況を「目をしばたたかせて語ってくれた」作品ですが、これを「罪」と言えるかどうかを、第3者は簡単に判断すべきではないでしょう。あくまでも「戦禍のなか/少女であった彼女」の判断に任せるしかないのでは、と思います。それにしても、生きるために「死んだ兵士に被せられていた毛布を」「剥ぎ取り」、「真っ暗闇の川へ転落した」「一番年少の少女」を「泣きながら見捨て」るしかなかった戦争というものを、罪のない子どもに「罪」を感じさせた当時の大人を考えさせられます。歴史的にも貴重な証言だと思った作品です。



詩誌『詩創』10号
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2008.3.31 鹿児島県指宿市 宇宿一成氏編集
鹿児島詩人会議・茂山忠成氏発行  350円

<目次>
詩作品
彷徨‥茂山忠茂 2             桜島晩秋素描‥茂山忠茂 4
石の歴史‥桑山靖子 6           川の伝説‥野村昭也 8
いじめは手傷‥野村昭也 11         登校拒否‥野村昭也 13
ちゅるん‥桐木平十詩子 14         自己診断‥松元三千男 16
もちつき‥松元三千男 17          居場所‥安樂律子 19
保険‥安樂律子 20             落日‥宇宿一成 22
面フクロウ‥宇宿一成 24          出立の朝‥妹背たかし 26
夢と現(うつつ)と記憶のなかで‥妹背たかし 27
がんばらなくていい‥妹背たかし 28     「もし。」‥植田文隆 29
知っているのに‥植田文隆 30
小詩集 神の方へ‥徳重敏寛 32
 あなたと共にある悦びを‥33         召し出し‥34
 ここは修道院‥36              その人自身となる‥38
 共に生きる‥39               人のために、人と共に‥40
 天の父よ‥41                イエスの同じ眼差しで‥42
 同胞‥44                  祈りの河‥45
野村昭也詩集「天窓を開け」評 番をする人、育む人‥宇宿一成 46
「詩人会議」四月号より転載 春‥宇宿一成 47 都会‥妹背たかし48
詩創9号読後感
詩にこもる力‥宇宿一成 49          おたよりから‥52
後記‥56                   受贈詩誌・詩集‥57



 ちゅるん/桐木平十詩子

「はぁい、おやつよぉ」
一オクターブくらい高いなと自分の声を恥じながら
ゼリーを一さじすくって息子にあげる
生まれて初めての食感はいかが?
小さな口が「O」の形に開き ゼリーがその
穴に流れ込む Oがすぼむ
黒いつやつやした瞳が潤んで
うっとりとした顔で(恍惚というのだろうか)
ゼリーの感触を閉じ込めるように私を見つめる
もう一度ゼリーを運ぶ
ちゅるん
私をじっと見ている もの言いたげな顔で
三度目 はこばれてくるゼリーを
今度は手足をバタバタして迎える
引き息でハハッ、ハハッと笑いながら
唇の輪でゼリーを受け取り うっとり にっこり
ちゅるん ちゅるん
思わず声に出しながらゼリーを口元にはこぶ
ハハツ、ハハッ、と応える息子
よだれも一緒に揺れている ゆらゆらと

ゼリーをテーブルに置いて ちぎれんばかりに抱き締める
このまま お前をちゅるんと食べてしまいたい

 「生まれて初めて」「ゼリーを一さじすくって息子にあげ」たときの作品ですが、「ちゅるん」という擬態語がよく生きていると思います。「引き息でハハッ、ハハッと笑いながら」というフレーズには、よく見ているなと感心しました。母親だから当たり前と言ってしまえばそれまでですが、たしかに子どもの笑いって引き息なんですね。遠い昔の子育てを思い出しました。
 最終連の「このまま お前をちゅるんと食べてしまいたい」というフレーズもよく効いています。この母子の幸せがいつまでも続く世であってほしいと、願わずにはいられない作品です。



月刊詩誌『柵』256号
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2008.3.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 現在と過去の対話 広島「詩と平和」の集いについて…中村不二夫 70
沖縄文学ノート(5) 水平軸の発想と共同体意識…森 徳治 74
流動する今日の世界の中で日本の詩とは(40) 東大闘争四十周年「開かれた大学」への道…水崎野里子 78
風見鶏 中 正敏 牧野美佳 山本 衞 曽我部昭美 山岡和範 82
現代状況論ノート(23) 憎しみの地理…石原 武 84
詩作品口
山崎  森 河童ノート 4         柳原 省三 かまいたち 6
名古きよえ それから 8          平野 秀哉 いのち 学習放獣 10
忍城 春宣 須走素描 笹鳴き 12      肌勢とみ子 美しい場所 14
進  一男 胸の中 16           北野 明治 煙草 18
小沢 千恵 奥多摩湖 20          小城江壮智 宮遺跡 22
南  邦和 南大門炎上 24         松田 悦子 行政職参事を送る歌 26
中原 道夫 あたりまえ 28         山口 格郎 決して忘れない 30
織田美沙子 美しいフレーズ 32       北村 愛子 背すじののびる心がまえ 35
佐藤 勝太 太郎≠フ晩年 38       安森ソノ子 九十代と共に 40
八幡 堅造 車は身近な者に譲らない 42   月谷小夜子 ゴスペルをうたう女 44
宇井  一 閉じこもっていた自分に 46   西森美智子 水を 48
門林 岩雄 月夜 他 50          秋本カズ子 空へ 52
鈴木 一成 四行吟行 54          江良亜来子 露 56
三木 英治 <帽子・夏> 58         野毛比左子 返本還源を上梓して 60
若狭 雅裕 春の日 62           前田 孝一 離脱 64
今泉 協子 見舞 66            徐 柄 鎮 老松 68

世界文学の詩的悦楽−デイレッタント的随想(22) 北島の初期詩集から−抵抗の抒情…小川聖子 86
世界の裏窓から −カリブ篇(8) 来日したハイチ詩人…谷口ちかえ 90
現代ベトナムの詩 レ・パム・レ『風はどこから吹く』(11)…水崎野里子訳 94
コクトオ覚書 231 コクトオの詩想(断章/風聞)11…三木英治 96
中村不二夫『コラール』 詩における自己と他者の救済…星 善博 98
進一男『美しい人 その他』 ひたすらに歩きつづけて…森 徳治 100
野老比左子〈返本還源〉を読む…乾 宏 102
東日本・三冊の詩集 田中順三『あかねぞら』 房内はるみ『水のように母とあるいた』 和気康之『よぶり火』…中原道夫 104
西日本・三冊の詩集 中塚鞠子『約束の地』 中原澄子詩集 藤原由紀子『カバンが不安を呑み込んで』…佐藤勝太 108
受贈図書 114  受贈詩誌 111  柵通信 112  身辺雑記 115
表紙絵 野口晋/扉絵 申錫弼/カット 中島由夫・野口晋・申錫弼



 学習放獣/平野秀哉

クマを麻酔銃で捕まえる
気がついたクマを徹底的に虐めて山に返す
クマに「ニンゲンって嫌な奴 もう里へは
ゼッタイに来ないぞ!」と思わせる――
これを学習放獣という
いじめる人たちはものすごく動物好き
自分たちは嫌われてもクマを生かしたいのだ

「熊を放して戻って来たらどうするんだ」

‥そのときは殺すしかない‥‥

 おもしろいタイトルでしたので何のことかと思いましたら「気がついたクマを徹底的に虐めて山に返す」ことだったのですね。これは聞いたことがあります。そんなことをする「いじめる人たちはものすごく動物好き」なのだということは意外でしたが、案外そうなのかもしれません。しかし、最後の「‥そのときは殺すしかない‥‥」というフレーズにはドキリとさせられました。短い作品ですがクマと人間との共生の難しさという重いテーマを考えさせられた作品です。



   
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